結局のところ、冬夜という個人だけで知ることのできる情報は限りなく少なかった。立入禁止エリアは残念なことに未だ警備として自衛隊らしき人たちがいることで侵入することはできない。
やはり、個人で出来る事は限られているのか。そんな絶望が冬夜の肩を重くする。何か打開策を設けなければ何も進展しない。
一人で回ることも大変だと感じ始めたころ、大石さんたち警察から打診があった。今回の協力者である大石さんと赤坂さん、南井さんの三人と定期的に一緒に行動をするというものだ。警察が隣にいるだけで、行動の範囲が増えるのは大変ありがたい。その打診に賛成した。
まずはじめに行動をともにするのは、赤坂さんからだ。彼は梨花ちゃんに数年前に協力をしてほしいと言われるほどの人物。どんな人か、その本質は分からないものの、梨花ちゃんが信用していた人物なら大丈夫だろう。
「今回行くのは元雛見沢の方です」
「良いんです?私警察官じゃないですけど」
「えぇ、今回は警察ではなく取材班として参加します。ガス災害が起こる前の豊かな自然を残すカメラマンという設定です」
なるほど、設定は大事だろう。突然警察が訪問して拒否されるよりかは良い方針かもしれない。
「それで、どうお話を?」
「元雛見沢住民である地田さんを紹介して、昔話をしてもらいます。私は雛見沢症候群という症状が出ていないかを確認したいのですが、どうでしょう」
「いいですね。これ以上被害者を増やしたくはないですし、いきなり色々聞いても不安がられるでしょうから」
地道な捜査が必要になる。元雛見沢住民が何か情報を持っているのか分からないが、何もしないよりかはマシだ。そもそも、一人でやれることに限界を感じていたころなので、こういった申し出がありがたかった。
さすがに人に会うので、少しみすぼらしい見た目を改善させた。第一印象は見た目から入るものである。青年らしい見た目へ戻した。
赤坂さんと共に向かった先の一軒家には、表札に『公由』と書かれている。公由で元雛見沢住民という事は・・・。
「御三家の親族ですか」
「えぇ、公由喜一郎氏の親族になります。家にいれば良いのですが・・・」
冬夜はインターホンを押した。しかし、何も反応がない。今は夕方なので誰かしら家にいると思ったのだが、どうやら違ったらしい。
さてどうしたものか、と考えていた時、一人の女の子に話しかけられた。
「あの・・・家に何か用があるんですか?」
「え?」
目の前の女の子はツインテールにまとめた高校生ぐらいの年頃だろうか。かわいらしい女の子であった。
「公由さん方にお話がしたくて来たんですけど。すみませんが、お家の方ですか?」
「はい、そうです・・・」
この女の子はどこか気弱な言い方をする。もしかしたら人と話すのが苦手なのかもしれない。
「雛見沢の自然について取材をしたいんです。昔の景色を残したくて」
「しゅ、取材ですか?雛見沢の・・・」
雛見沢という単語に強く反応した。しかも嫌な方向での反応の気がする。もしかしたら雛見沢が嫌いだったりするのだろうか。
「この前のガス災害で雛見沢は立入禁止になってしまいました。そのために綺麗な自然を聞いて記録に残したいんです」
「そうですか。でも、よく知ってるおばあちゃんは最近、ちょっと・・・」
どこか言い辛そうな雰囲気を出す女の子。まさか雛見沢症候群にでもなったというのか。今家の人の話は避けるべきだろう。変な誤解を与えたくない。今は赤坂さんが主に話を進めてくれていたので、そろそろ何か言わなければ。
「私も雛見沢の住民です」
「え?そうなんですか?」
「地元の良さを風化させないように協力をしているんです。君のように若い人の視点も必要だと思ってます。記憶にあるような簡単な話でも良いのですが・・・」
「うーん、あまり力になれるか分からないですけど、良いですよ」
ありがたいことに、一発目の家から話を聞くことができた。女の子は公由夏美という名前を言うらしい。やはり御三家の親族だということはすぐに分かった。話を聞くために近くの喫茶店で和やかに努めながら色々な世間話をしていく。残念なことに有力な情報を得ることはできなさそうだった。そりゃただの女の子。梨花ちゃんのような訳ありの子でない限りは有力な手掛かりは見つからないものだろう。単純な世間話をしていく中で、そろそろ少しだけ気になるところを探ってみるべきか。
「お祖母ちゃん、最近体調がよくないとかかい?」
「え?」
「お家の前で言ってたけど、少し話しづらそうだったから。病気とかなら取材はできないかなって」
そういうと公由夏美は首を横に振った。どうやら病気ではないらしい。他に深刻な理由があるらしかった。
「言い辛いなら話さなくていいよ。でも困っていることがあるなら相談してね」
「・・・」
「ガス災害の事で、色んな人が悲しんでるとは聞いてるんだ。話して楽になることもあれば、解決策が浮かぶ可能性も有る。もちろん、俺たち以外の人に相談しても良いんだ」
公由夏美は困った顔をする。気弱な彼女であるが、その本質は優しさにあるのだろう。誰かを困らせたくないという気持ちが溢れているように思える。
「ただ、一人で抱えないように。意外と助けてくれる人はいるもんだから」
「分かりました・・・」
少し押し付けすぎてしまったか。気が急いてしまったかもしれない。赤坂さんは聞き込み調査で慣れているのか、色々な世間話をしていく。その中には綿流しについてや、家族に関するものも含まれていた。あまり彼女は細かく話をしないものの、全くというわけではない。もっと押せば色々な話を聞けるだろうが、それは雛見沢症候群の発症に繋がる可能性がある。それだけは避けなければならない。
進展はなかったものの、念のために連絡先を教えることはできた。それだけでも一人で行動していたらできなかったことだ。少しだけ嬉しかったこともあるが、なにより女の子一人で帰らせるのもよくないとも思い公由夏美を家まで送ることにした。そう、そこまでは良かったのだ。
公由家は、先ほど訪問した時とは違い、壁や塀に大量のお札が貼られていたのだ。
「・・・!」
「これは・・・」
赤坂さんと冬夜は何も語ることができなかった。何が起きているというのだろうか。お札に書かれている文字を見てみると、『オヤシロ様』という文字が見られる。まさか、これが儀式の一部だとでもいうのだろうか。我が家にはそんなものはなかったのだが。