赤坂さんからの話を受け止めることがなかなかできない状態であったが、それでも停滞していた状態が少しばかり動いたことは変わらない。
次は誰と行動をするのかと思えば、どうやら南井さんと行動をするらしい。
「・・・」
「・・・」
会ってからというもの、南井さんはバツが悪いような顔をして黙っていた。何か彼女の中で冬夜に対する負い目があるのだろうか。
「その、この前は叩いてすみませんでした」
「は、はぁ・・・」
まさか平手打ちの事を言っているのだろうか。冬夜も突然の平手打ちに驚いたものの、あれは叩かれても仕方ないことであったと思っていた。謝られるようなことではない。
「それでも、すみませんでした」
おそらく正義感の強い人なんだろうな、それに他者だけでなく自分にも厳しいタイプと見た。大石さんとは違うタイプの警察官であることは分かる。
「もう大丈夫ですよ。気にしないでください」
前の冬夜なら弱みに付け込んで巫女服を着させようとするかもしれなかった。しかし、今秘蔵の巫女服は全て雛見沢の自室に置いてある。もう取りに行くことはできないだろう。まったくもって残念である。
そんな巫女服が似合いそうな彼女は、やはり気落ちをしていた。ふむ、どうしたものか。
「それじゃ、何か奢ってください。ほら、そこのバーガー店とか」
冬夜が指をさしたのは、有名なチェーン店。バーガーとポテトが美味しいお店だ。それで良いのなら、ということで南井さんは少しだけ笑みを溢した。
結果から言うと、南井さんという人物は大変な大食いである。バーガーのセットを頼んだ冬夜の横で、大量のバーガーを頼む姿を見て、もしかしてあの大量のバーガーを二人で分けるのかと戦々恐々としたのだが。南井さんは自分で頼んだ商品をすぐに平らげてしまった。あの食べっぷりは見事なものである。さて、南井さんも落ち着いた様子だったので聞いてみることにしよう。
「それで、今回はどうします?」
「今回は不審死を遂げた一人、鷹野三四について調べます」
それは有難い。鷹野三四の山火事の時間帯で気になる所が多い。犯人の直接の証拠が見つかれば良いのだが・・・。
「鷹野三四の検死の結果ですが、どうやら改竄された可能性があります」
「改竄?警察関係者が、ですよね?」
南井さんが言うには、検死の時間帯とズレが発生しているらしい。つまり、鷹野三四は綿流しに参加しているというのに、その日には死亡していることになっているのだ。
死んでいるはずの人間が綿流しの祭にいる。その内容は明らかにおかしい内容であった。
「綿流しの日に俺は鷹野さんに会ってます」
「えぇ、ということは間違いなく検死の結果が間違っているということです」
しかし、改竄か。ふと思い至ったのが北条悟史の件である。園崎家が調べた時には警察が怪しいと考えていたのだったか。藪蛇か。
正直に言うと、この南井さんがなぜ冬夜の味方をしているのか分からなかった。こういった正義感の強い人間ならば、そもそも一般人を捜査に入れないだろう。しかし、その理由を聞いて良いのか分からなかった。少し聞くのが恐いというのもあったが。
検死をしたという人物に直接会うのは拙い。まず間違いなく『黒』なのだから。それであれば足に頼るしかない。
「検死のメンバーに一人だけ新人がいます。この新人は私と知己なので聞いてみましょう」
なるほど。こういった顔の広さには大変助かるものである。知り合いが危険人物の可能性があるのだが、その時にはどうすれば良いのか分からない。
最近分からないことが多すぎて頭が痛い。それに寒気もする。嫌な気分だ。
南井さんと一緒に現場付近の捜査をすることで、まずは第一発見者の話を聞くことになったのだが、残念ながら有力な情報は見つからなかった。そりゃそうである。山火事を発見して警察に報告をしただけなのだから。
やはり一番大きな問題は検視結果か。
ぺたぺた
来た。やつの足音だ。あの公由家から後を付けてくる人物がいる。今は火災現場付近で、捜査の状況を確認していた時だった。この後を付けてくる人物。どうやら生きた人間ではないらしい。まず足音はぺたぺたと素足のような音。そして振り返ると・・・。
「・・・」
誰もいない。ダメだ。これはもう限界が来ているということなのだろう。自分の死期が近づいている証拠なのかもしれない。少し気落ちしかけてしまったので、思わず南井さんに話しかけてしまった。
「南井さんが警察になった理由ってなんですか?」
「え?」
「ほら、最近女性の仕事進出もよくある話ですけど。警察を目指そうとしたのって、何かあるのかなって?」
少し前の日本であれば、女性が仕事をするという事が珍しかったらしい。今のご時世で女性の社会進出が大きく飛躍したというのは知っていた。やはり公務員を目指したかったとかだろうか?いや、正義感の強い彼女の事だ。何かしらの理由があるのだろう。
「あ~・・・」
南井さんはどこか言い辛そうな感じだ。もしや聞いてはいけないことだったか。これは申し訳ないことをした。そう思い謝ろうとしたのだが。
「私の父は警察官だったんです」
ほぉ。父親に憧れたのだろうか。それは父親も大変嬉しいことだろう。自分の父親はどうだっただろうか。
「父は放火に遭って死んでしまいました」
「・・・すみません」
「良いんです。もう昔の話ですから」
そういう彼女は昔の話と言っているが、その目は違った。確かに歳月は経っているのだろうが、彼女にとっては『今』のことなのだろう。
彼女もまた、色々な経緯があって警察になったのだろう。果たして彼女は折り合いのつくような結果を出せるのだろうか。今冬夜の詰まらない意地を彼女に押し付けてしまっていいのか不安だった。
「こんな捜査。良かったんですか?」
「えぇ。私はガス災害が人災とは思えませんが。目の前に困っている人がいれば助けるのは警察だけでなく人として当たり前のことだと思うんです」
「・・・」
「それに、警察だった父も同じように行動していたと思います」
冬夜は少し息を吸った。彼女の言いたいことは十分に理解できる。この行動こそ彼女の正義感が表れている証拠だ。
しかし、そこで思い出したのは赤坂さんの言葉だった。
『自身を許す』
赤坂さんは冬夜に対して許すように言った。それはもしかしたら南井さんにも言うべき言葉なのではないだろうか。彼女の詳しい事情などは知らない。しかし、彼女の言葉から聞くに父親の存在が呪縛のように絡まっているのだろう。
それは客観的ではなく自分にも言えたことなのだろうが。少しだけ、本当に少しだけであるがやるせない気持ちになってしまった。