さぁ、やることは決まったが、それをするには下準備が必要になる。冬夜は急いで準備に移ることにした。
まずは『彼』に話を聞いてみるべきだろう。
「な、なんですか?」
冬夜が訪れたのは前原屋敷。そう、前原君に話を聞くことである。彼が竜宮さんの言うことを聞くということであれば、それは大きなきっかけがあったのかもしれない。
そもそも、以前の雛見沢症候群に罹患した前原君と園崎詩音さんの二人は、人の話を聞いたり頼ったりということをしなかった。
それは疑心暗鬼からくるものなのだろう、ならば竜宮さんはどうなのか?誰もが信じられない状況下で前原君を頼るということが、まず怪しいわけだ。
「いや、竜宮さんが熱を出て休んだからさ、お見舞いに行ったんだけど、どうやら居ないようでね。部活メンバーなら何か知っているのかなって」
もちろん、変に見られてはいけないために一度竜宮家に訪れたのだが、竜宮父が出るだけだった。
竜宮父曰く、友達の家に泊まっているとのこと。少々疑う気持ちというか、もう少ししっかりとしてほしいのだが、彼にとやかく言うつもりはない。美人局の被害に遭った後なのだ、傷心しているのだろう。でも子どもの様子ぐらいは把握してもらいたいもんだ。
前原君は冬夜の話を理解したらしい。前原君は自分の家にはいないということを教えてくれた。
しかし、どこか様子がおかしい。これはあれだろうか。間宮リナと北条鉄平の死体遺棄について調べられているのか不安なのだろうか?こういうのは、変に含んだ物言いをしてはいけないことを、反面教師である大石さんから学んでいた。
「前原君、何か困ったことでもあるのかい?いつもより暗いじゃないか」
「・・・」
「言いにくいことなら仕方がないか。俺もそういう時期があったもんさ」
「え?」
「なんだい?あぁ、記憶喪失のことなら少しだけ思い出してるんだ」
完全には思い出していないし、断片的でもある。こういうのは一気に思い出すものかと思っていたのだが、どうやら違うらしい。まぁ、どうすれば思い出せるのかということも理解はさすがにしている。
「おめでとうございます!」
「ははは、ありがとう」
こうやって喜んでくれる人が身近にいるというのも有難いものである。
「・・・」
しかし喜んでくれたのも束の間。すぐに前原君は気重な顔をした。彼は顔に出やすいタイプだと理解はしていたが、これでは相談に乗ってくださいと言っているようなものである。ここは思い切って話をするべきだろう。
「悩んでいるのは、もしかして竜宮さんのこと?」
「え!?・・・はい」
やはりそうだ。彼もまだ中学生。その肩に乗っているものは大変重いものだろう。梨花ちゃんは冷静な顔をしていたが、心の底では辛かったのかもしれない。もう少し相談に乗るべきか。
玄関で話をするのも良くないと思ったのだろう。前原君はリビングまで招待してくれた。前原屋敷に入るのは二度目。一度目は例のおはぎ事件になるので正直に言えば良い思い出ではない。
今回が相談に乗るという内容でよかった。彼も雛見沢症候群になっていたら、もう問題だらけで手に負えなかったかもしれない。
「俺、さっきレナに会ったんです」
「そうなんだ。体調はどうだった?」
前原君は首を横に振った。そうか。彼の良くないという判断は精神面のことだろう。竜宮さんは熱など出ていないだろうし。誰でも気づくほどに竜宮さんは冷静な状況ではないのかもしれない。
「先生、すみませんでした!」
「えぇ!?」
突然の謝罪に驚いてしまった。まさか遺棄について言うのだろうか。それは特に問題はないのだが、竜宮さんにこの事がバレたら雛見沢症候群が悪化してしまうだろう。
「先生、俺は・・・俺は・・・」
しかし、ここで話を遮って良いのだろうか。今彼は大きな節目を迎えようとしているのだ。言いたくないこと、言いにくいこと。それを誰かに伝えるという事の難しさというのを冬夜は理解している。それゆえに、彼が一人前の大人へ成長しようとしているのを邪魔したくなかった。
冬夜は黙って話を聞くように構えた。少しばかり緊張が走る。
「俺、今日先生に会って思い出したんです」
「・・・」
おや?竜宮さんの話ではなさそうな気配である。俺の知らない間に何かやらかしてしまったのだろうか。
「お、俺・・・。魅音とレナからおはぎを貰って、それを・・・それを・・・」
「おはぎを、どうしたのかな?」
冬夜の心臓がバクバクと鳴っているのが分かる。まさかの話であったのだ。彼の言っていることは、おそらく彼が雛見沢症候群になってしまった時のことだ。
「おはぎを投げました。針が入っていると思って・・・」
「そうか。そうなんだね」
「今みたいに、先生が来てくれて、それで一緒に確認してくれるんですけど、全然針が見つからなくて・・・。そして先生が」
冬夜は以前として話を聞く。冬夜は一つの結論に至っていた。これは奇跡なのだろうと。古手梨花と地田冬夜のみしか有り得ない記憶だというのに、例外を見せられている。冬夜は未だに緊張が背中に貼りついたかのようになっていた。
「先生がタバスコだと言って、俺最後まで違うって言って信じなかったんです。結局俺その後・・・」
そして前原君は黙ってしまった。よほどの事で言えないのだろうか。確か梨花ちゃんが言うには前原君はその後竜宮さんと魅音ちゃんを襲ったのだったか。人を殺したというのは普通言えないことだろう。大人しく彼が喋るまで根気よく黙っていた。
「先生をバットで殴って、殺しました!」
前原君は震える声でそう言った。目には涙が溢れており、彼の背負っている罪悪感と言うのが見て取れる。いや、待て待て。俺を殺した?
「梨花ちゃんと先生が喋っているのを見て、あの時の俺どうにかしてて、思わず・・・」
なるほど。最初のループをする原因だったのは彼だったということだ。お前だったのか。いままで黒幕が殺したのかと思っていたというのに、まさかの話に少しだけ頭の中で整理がつかなかった。
「その後俺、レナと魅音を・・・」
じゃあ俺が行方不明扱いになったのは何故なのだろうか。バットで殴殺して死体を隠した?本当にそうなのだろうか。
「俺を殺して、その死体はどうしたの?」
「分かりません。俺、自分のしたことに驚いてその場から逃げたんです。そうしたら先生が消えたって話が出て・・・」
つまり、彼は俺の死体を隠していないということである。ダメだ、頭が混乱してきた。