この際、誰が俺の遺体を隠したのかということは置いておこう。今の問題はそれではないのだ。
「俺、その後は二人を、魅音とレナを・・・」
「それ以降は二人にしっかりと話さないとね」
「はい・・・」
彼の独白は理解できたし、前原君が魅音ちゃんと竜宮さんを殺めてしまったことについては、冬夜は一から十まで聞くべきではないと思った。その話は明日にでも学校で魅音ちゃんに話をする内容なのだ。
「俺、今なら分かるんです。今のレナはあの時の俺なんだって」
「誰もが信じられない、ということかな」
「そうです。信じられないし信じようともしない。でも、一人でいるのが怖いんです」
そこまで理解できているのならば、彼が雛見沢症候群に再び罹ることはないだろう。今の彼は一つ大人になったということだ。彼ならば大丈夫であるという自信がある。なおさら、このループで終わらせる必要がある。
「竜宮さんの事の気持ちが分かるなら、どうすれば良いか分かるね?」
「はい。俺が説得します」
いや、雛見沢症候群の病気なのだから説得は難しいかもしれないけれど。まぁ、何か大事になる前に止めるとしよう。今の彼を止められる人間などいないのだ。
ここで思うのは、どうやって説得するかということと、今梨花ちゃんの事を話すべきかということだ。説得については後程聞くが、梨花ちゃんのことは・・・。
現状、今は彼の頭を混乱させたくない、そう結論に至った。であれば、竜宮さんの件が決着してからにしよう。梨花ちゃんにも話をし直す必要があった。
「先生も何か困っていることがあるんですか?」
「・・・そうだね。竜宮さんの事が終わったら相談に乗ってもらおうかな」
彼はまだ中学生である。巻き込みたくない、という気持ちはあれど、今の彼は間違いなく大人の男の顔をしていた。彼のような男気は必要なのかもしれない。
その後、想定よりも話し込んでいたらしく、竜宮さんのいるであろうダム現場には行くことができなくなった。あそこは想像以上に不法投棄されたゴミが多い。夜中に足を踏み外して誰にも発見されませんでした、ではいけないのだ。それに今の彼女であれば闇討ちをしてくる可能性も有る。夜中は危険だ。
学校は通常通りに時間が流れている。これから数日後には立て籠りが起きるとは思えないほどに平和だった。昼休みの時間、前原君が意を決したようにして、部活メンバーを呼び出していた。頑張れ前原君。
「地田さん、昼休みですけどグラウンドの整備を確認しませんか?」
「良いですねぇ、行きましょうか」
知恵先生からの昼休みデートを受け入れて、冬夜もグラウンドを見に行く傍ら彼の勇姿を見届けようとした。しかし、冬夜は見抜いていた。竜宮さんが欠席をしているなかで、知恵先生は他の子も何か悩みを抱えているのではないかと不安なのだ。彼女は色々な理由を付けて、生徒たちの近くで問題が起きていないかの観察をよくしていた。
すぐに出発をして、部活メンバーを発見する。おうおう、前原君男泣きしてるよ。
「前原君?大丈夫ですか?」
先生として、知恵先生は泣いている前原君に話しかけた。知恵先生も気が気じゃないだろう。竜宮さんの件に加えて前原君も心身ともに疲れているのではないかと思っても仕方がない。
「せ、先生。大丈夫です」
「でも、泣いているじゃないですか」
「知恵先生。前原君なら大丈夫ですよ」
「しかし・・・」
「部活メンバーがいますから」
それでも知恵先生は心配そうに前原君を見ていた。しかし、それもすぐに終わる。部活メンバーの顔を見たからだ。
彼女たち部活メンバーの顔は、悩みを聞くかのように深刻な顔をしている。部長の魅音ちゃんに至っては、責任感ある立場として、時折見せる大人の表情を出していた。
あれ?梨花ちゃん。なんで俺を睨むの?
「ありがとう、魅音」
前原君は魅音ちゃんに抱きつく。どうやら既に話は終わっていたらしい。うむ、これが青春!素晴らしいぞ!
最近は陰鬱な話しかなかったものだから、こういう青春は大変有難いものだった。この勢いのままハッピーエンドへ持っていきたい。
「ちょ、け、圭ちゃん!?」
魅音ちゃんは案の定慌てている。やっぱり前回の監禁されていた時に言っていたことは間違いなのだろう。そう、魅音ちゃんが俺のことを好きだということについてだ。
ニタニタと見ていたのだが、梨花ちゃんからの再度の睨みと魅音ちゃんの次の行動でそれは止まる。
魅音ちゃんは前原君を軽く引き剥がしたのだ。まるで武道の達人かの如くスルリと抜け出す。
「と、冬夜さん!これは違うんです!」
「青春だねぇ」
「ち、違うんですって!」
あー、あー、聞こえません。そもそも大人と中学生という年の隔たりは大きいものである。え?巫女服着てたら話は変わるけどね。さすがに超が付くほどの鈍感というわけではないので、この反応は十分に理解できた。でも、さすがに前原君が可哀想である。
───────っ痛い!
「え、梨花ちゃん!?痛いよ!?」
いつの間にか梨花ちゃんが冬夜に近づいてゲシゲシと足を蹴っていた。それは冬夜の魅音に対する態度への抗議なのか、憎しみが込められているように思える。
「ま、まぁ、前原君。しっかり話が出来たってことで良い?」
「はい!ありがとうございます!」
ゲシゲシと蹴る梨花ちゃんと沙都子ちゃん。あれ?一人増えたな。おやおや、沙都子ちゃんもなぜ蹴るんだい?そろそろ青痣ができてしまうじゃないか。
「
「なぜか無性に腹が立ちますの」
乙女心は複雑怪奇なのだろう。もういっそのこと、このまま蹴られていたほうが良さそうである。冬夜は半ば諦めて逃げるように退散したのだった。
「それで?話すことがあるでしょう?」
「はい、ごもっともで」
授業終わりの放課後。早速ダム現場へ向かおうとした矢先に梨花ちゃんに呼び止められた。前原君のことについてだろう。
「いつ圭一が記憶があることを知ったの?」
「昨日の放課後、彼の家に寄ってね。その時に」
「そう、それなら仕方がないわね」
じゃあ今も俺の足を踏むのは仕方がないことなのだろうか?いや、待てよ?彼女の巫女服姿で踏まれるのはご褒美というもの。足袋で踏んでくれませんか?まぁ全然痛くないし、踏むといっても多少手加減しているのであろう重さは全く感じない。
「・・・」
どこか呆れた目をしている。もしや声に出てただろうか。その呆れた眼差しは、痴女巫女に似ている。もう一回痴女巫女様とお話をしてセクハラしてぇなぁ。おっといけない。そろそろ本題へ移ろう。
「前原君にも、梨花ちゃんを助けてもらうようにしていきたい。竜宮さんの件が終わってからだけどね」
「そうね、まずはそれを終わらせてからよ」
「いっそのこと、部活メンバーに立て籠りについて言うべきか悩んでるんだよね」
「信じてもらえるかしら?いきなりレナが人質をとって爆死しようとしてるだなんて」
いやぁ、彼らなら信じてくれそうな気がする。そんな自信があった。
「考えて見てくれ。前回俺の家に泊まる際、沙都子ちゃんは信じてくれたじゃないか」
「それは貴方が鉄平の魔の手から救ったからじゃない」
果たしてそうだろうか?彼女なら真剣に話を聞いてくれるだろう。正直に言えば、あまり生徒たちを巻き込みたくないのだが、事前に状況を伝えることで、身を守り、被害を抑えることができるかもしれない。今回ばかりは四の五の言っていられないのだ。