部活メンバー以外に頼れる人材がいるかというと、少々怪しい。まず頭に思い浮かべるのは大石さんだ。彼ならば話は聞くだろうし協力もしてくれるかもしれない。しかし、どう話をすれば信じてくれるか思いつかなかった。竜宮さんの保護を願い出る?いや、これは良くないだろう。そもそも彼女は今ダム現場にいるのだ。一人になりたいほどに追い詰められているというのに、事情を知らない大石さんや警察の人が訪れたらどうなるのか。あまり考えたくない。
部活メンバーであれば、雛見沢症候群について説明をしなくても今の竜宮さんの状況を理解してくれるだろう。もちろん、彼らを無駄に巻き込まないようにする必要もある。立て籠もりについて説明をしても協力してくれるかは分からないが。
「俺は君たちの状況を理解したいつもりだし、助けてあげたい。だけどね、最後まで覚悟を決める必要があるとは思わない?」
「それは何なのです?」
「間宮リナと北条鉄平についてだ」
一番冬夜にとって気がかりだったこと。それは例の死体の遺棄についてである。殺人を犯した竜宮さんを助けるために遺体遺棄をしたことは十分に理解している。それ以外の解決策というものも見つからないだろう。しかし、部活メンバー全員が罪を背負ったことに変わりはない。
罪とは一生消えないものである。それを全員が受け止めると決めているのであれば、竜宮さんの暴走を止めるように動く必要がある。一蓮托生という言葉があるが、まさしくそうだろう。もっとも運命共同体という言い方の方が正しいのかもしれない。一度罪を背負ったならば、最後まで責任を持つべきだ。
梨花ちゃんはその意図を汲んだのだろう。真剣な顔をしている。彼女ならばその真意を理解するだろう。もちろん、部活メンバーが理解しないというわけではない。ただハッキリとさせたかった。
誰もいない教室で冬夜と古手梨花は苦悩する。
「明日の放課後、皆を教室に残してくれ。俺はこの後竜宮さんの所に行くよ」
「分かったわ」
「明後日は興宮のエンジェルモートに来てくれ。監督を呼ぶから」
「家に呼ぶのね」
本来であればもっと早い段階で入江京介を呼ぶつもりであった。彼とエンジェルモートで度々会っている。彼をエンジェルモートへ招待しても不審がられないだろう。ついでに彼が明後日休みというのも確認済みだ。もうそろそろ彼の正体を知るべきだろう。
さぁ、明日のために俺は竜宮さんを探すとしよう。
竜宮レナ、という人物の詳しいことは知らない。ただ、本名は竜宮礼奈というらしい。レナと皆に呼ばせていることから初めは愛称か何かだと思っていたのだが、どうやら深い理由があるようである。
もしかしたら知恵先生か大石さんならば事情を知っているかもしれない。しかし、それを詮索するほどの理由を冬夜は持っていないし、竜宮さんにとって土足で踏みにじるような行為であることに間違いない。
何がきっかけかは分からないが、ダム工事現場の不法投棄されているゴミ山で、彼女は宝探しをしているらしい。徳川埋蔵金でも狙っているのかと思っていたのだが、彼女はゴミの中に眠る「可愛い物」を探しているらしい。だいぶ珍しい性格をしている。
不法投棄のゴミ山にしか見えない場所で冬夜は歩く。適当に積まれたゴミのため足場が不安定で危ない。ちょっと油断したらゴミの中に埋もれてしまうかもしれない。
「はぁ、はぁ・・・」
慣れない道で思わず息が上がる。夏なのも原因があるのか暑いものだった。あぁ、もうそんな季節なのだ。
「先生、何しているんです?」
「うぉっ!?」
突然後ろから声をかけられた。驚いて変な声を出してしまう。冬夜は思い切り足を踏み外してしまい、胸の位置まで身体がすっぽりとゴミに埋まってしまった。
何とかして声のする方へ首を動かす。声の主から分かってはいたが、竜宮さんがそこにいた。手には鉈を持っている。
「今日は圭一君も来たし、お客さんが多いですね」
「そうだね、ところで助けてくれないかい?」
冬夜の声が虚しく響く。どうやら彼女は助けてくれないらしい。その手に持っている鉈を力強く握りしめていた。
「なんでここに?」
「そりゃ、学校休んでるからさ。一度竜宮さんの家にいったのに居ないときたら探すのが普通でしょ」
恥ずかしい体勢のままであるが、毅然と話す。彼女の様子はやはりどこかおかしい。首元には絆創膏が多く貼られており、血が滲んでいた。まさか富竹さんと同じように喉を掻きむしっているのだろうか。
「・・・」
「いつも宝さがしでここに遊びに来ているのは学校でも話してただろう?だから来てみた」
本当は梨花ちゃんに教えてもらったのだが、冬夜は素知らぬふりで嘘を吐く。
「連れ戻しに来たんですか?」
「家出したいときがあるだろう?ちゃんと帰る予定を立てているなら俺は連れ戻さない。それより熱は出てないの?」
「はい」
明らかに彼女は警戒していた。それもそうだろう、今の彼女は猜疑心に囚われているのだ。以前の園崎詩音さんのように、今の彼女は危険な状態なのだろう。それにしても前原君はしっかりと竜宮さんと話ができたのだろうか。まぁ今の彼ならば大丈夫だろう。
「先生は最近ここで住み始めたんですよね?」
「そうさ。一年半ぐらい前かな。真冬に鬼ヶ淵沼近くで拾われたんだ」
「・・・先生は何者なんですか?」
「それは俺も知りたいんだけどね」
記憶は断片的で、ループできる力を持つ。そんな自分の正体が何なのかと考えたことはある。しかし、結局は分からない。当たり前である。自分の記憶頼りなのだから。
「雛見沢の鬼ヶ淵沼。先生は『オヤシロ様の代弁者』として有名なんですよ?」
「そうらしいねぇ」
本題が見えてこない、何が言いたいのだろうか。ここで慌ててはいけない。なるべく話を聞いてゆっくりと内容を理解しなければならない。それにしてもお魎さんはなぜ『オヤシロ様の代弁者』とかいう謎の話を作っているのか。所詮ただの記憶喪失人間だというのに。
「先生は『オヤシロ様』がいるって思いますか?」
「・・・」
これはどう言うのが正解なのだろう。いると言えば迷信好きと思われるのか、いないと言えば信仰不足と見られてしまうのか。彼女の本質が見えない中で答えを出すべきか悩んだ。
『オヤシロ様』。鬼である神様として雛見沢で信仰を受けている存在だ。ふと鬼というワードに例の痴女巫女を思い出したのだが、さすがに痴女巫女が『オヤシロ様』とは思いたくない。あの腋出しファッションを神様がしているというのは解釈違いであった。大変けしからんです。