あまり聞いてはいけない内容だったか、そう思っているのだろうか、古手梨花は終始無言だった。こういった時に気の利いたことを言えない冬夜ではあるが、どうにかしたいという気持ちはあった。
それと同時に、なぜ自分の身の上話が気になったのかという疑問も湧く。
「梨花ちゃん、部活ではいつもどんなことをしてるんだい?」
「え?」
「部活だよ。面白そうな部活じゃないか。前原君が時々凄い恰好で帰宅しているのも部活が関係しているんだろう?」
部活の詳細については前原君に聞いてはいるものの、こういった時は楽しい話に変更した方が良いと思った。楽しい話というものは心を豊かにするものである。
梨花ちゃんはポツリポツリと話し始めるが、相槌を打つにつれて饒舌に話をし始める。部活が好きというよりも、そのメンバーが好きなのだろう。どういった勝負で誰々が罰ゲームを受けたという話が多い。そういった人間関係を築けるのも雛見沢分校のような小中学生が入り乱れた教室だからこそ出来るのだと感じた。
そこから部活メンバーの話をし始める。
「圭一とレナは今は宝探しをしにいっているのです」
「宝探し?」
宝探しと聞いて真っ先に思いついたのが化石探しであった。なぜ化石探しが一番に出たのか分からないが、ロマンだよね。
「・・・ダム現場で可愛い物を探しているのですよ」
なるほど、ダム現場は今やゴミの投棄場所である。数多くのゴミの山の中で面白い物を探しているのだろう。あそこも危険な場所ではあるが、知恵先生に報告するべきなのだろうか。遊び場を無くすことは出来る限り止めたいのだが・・・。
しかし、梨花ちゃんの顔が優れない。今さっきまで部活の楽しい話をしていたというのに、顔に影が覆っていた。何か気になることでも・・・。ハッ、まさか!前原君のことが好きで、竜宮さんと二人きりなことに嫉妬でもしているというのだろうか。確かに前原君はイケメンの部類に入るだろうし、梨花ちゃんも気になるのは仕方ないだろう。
「何か困った事とかあったら言うんだよ」
「みぃ・・・」
思わず言ってしまった。いや恋の相談をされても今まで恋愛をしたことがない(というよりも記憶が無い)人間がまともなことを言えるのか分からない。ただ、こういう恋愛感情というものが、時に関係を壊しかねないものであるということは察することができた。大人になれば笑い話で済むのだが、当事者の精神状態は緊急事態を通り越すだろう。
「考えておくのですよ」
無難に言われたが、これも先生と生徒間の大事なコミュニケーションである。断られるよりか幾分マシなように思えた。
「確か梨花ちゃんは北条さんと一緒に暮らしてるんだろう?今度我が家に来てくれ。簡単なものしか出ないけど、おもてなしするよ」
そういえば、古手梨花と北条沙都子は両親が不在のために一緒に生活をしているというのを入江先生から聞いたことがある。通常は冬夜のように後見人が面倒を見るのだが、少々特殊な事例であるらしい。小学高学年とはいえ、子どもだけの生活は大変だろう。ばあちゃんも二人なら時々なら歓迎もしてくれるだろうし、食事ぐらいは奢ってあげたかった。
「ありがとうなのです」
何かが嬉しかったのか、梨花ちゃんは満面の笑みで応えてくれるのだった。
日が暮れてから、初めての村内会議に参加した。梨花ちゃんは結局北条さんと夜ご飯の準備をするために帰宅をした。よくよく思うと古手神社から我が家は反対方向である。興味本位であるとはいえ、わざわざ反対方向まで行こうとするのだろうか。それとも若さゆえにそういったことも気にならないのだろうか。俺は毎日休み時間にグラウンドへ遊びに行く生徒を見て戦々恐々としている。
「そんじゃあ、本日は夜遅くに集まってもろて有難うございます。村長の公由です。わざわざ平日に時間をとってもらいましてありがとうございます」
公由喜一郎、雛見沢の村長である彼が一番に話をした。彼の横にはお魎さん代理の園崎魅音、古手梨花がいる。他にも顔見知りのお年寄り連中がいる中、警察の熊谷さんもいた。大石さんの代理だろうか。他にも入江診療所の入江先生と、校長先生もいた。
「今日は初参加の地田君も来てもらっとる。みんなも知ってる顔だと思うが、いつもお店と打ち合わせをしてもらってる雛見沢の顔役でもある。よろしく頼むよ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
いきなり名前を言われるとは思わなかったが、無難に話を合わせる。そしてすぐに本題へと移った。
「今回の綿流しも多くの出店があり、前年度よりも多くの方が来られる予定ですんで、役員の皆様も気合を入れていきましょう」
話を半分ぐらい聞き流しながら周囲を見てみる。誰もが真剣に話を聞いていた。まるで『オヤシロ様の祟り』を気にしていないかのような面持ちである。いや、考えたくないのだろう。今年も犠牲者が出るのではないか、そう思ってはいるものの現実から目を逸らしているのだろう。
「それじゃあ魅音ちゃんから何か言いたいことはあるかな?」
「・・・。園崎家代理次期当主の園崎魅音です。本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」
魅音ちゃんが話をする。それは学校にいる彼女とは違い、また厳格な雰囲気を纏わせていた。これがもう一つの顔なのだろう。
「例年通り今年は『オヤシロ様の祟り』が無いよう、皆様も重々オヤシロ様のお心を惑わせないよう精進してください。警察の方々も警備に当たってくれますので、観光に来られた方も、帰省された方も安心できるように運営をしていきましょう」
当たり障りのない話のように思える。神様の罰が当たらないように生活をしようということなのだろうが、周囲の老人方は顔を強張らせる。どうやら雛見沢や警察方は一連の雛見沢連続殺人事件は園崎家が関与していると思っているらしい。それを思うと、『下手な真似をしたら今回のターゲットはお前になるぞ」と勘違いする人も出るだろう。
「そうだね。今回こそは被害者を出してはいけない。今回の警備はどうなるんですか?」
「はい。今回の警備は通常よりも多く配置します。私服警備も増やします」
少々気まずい雰囲気が流れたため軌道修正をした。しかし増やしてもなぁ。
「祭り周辺だけでなく、人通りの多い道とか、そういったところにも人員を配置することはできないですか?」
「それも念頭に置いてはいますが、何分人手不足なもので」
冬夜が気にしていたのは警備の状態であった。確かに警察方面も力を入れて警備をしてくれているのは知ってはいたものの、毎年の綿流しに犠牲者が出ているというのに人員増強をしていない現状に不安を持っていた。仕方がない。どうやら雛見沢の青年団も警備に当たるということだったので、おとなしく引き下がることにした。
少し肩を落とした冬夜を古手梨花が陰鬱な面持ちで眺めていたことを冬夜本人は気づいていなかった。