あれから動きがあったのはすぐの事だった。竜宮さんが前原君に率いられて学校から出てきたのだ。そうか決着が着いたのか。
彼がどのようにして彼女を正気に戻させたのかは分からない。竜宮さんはついさきほどまでの病的な目ではなく、すがすがしい顔をしていた。雛見沢症候群の症状がどのようにして緩和していくのか分からないものの、今の彼女は間違いなく症状に侵されたようには見えない。
「はじめて・・・」
「え?」
「初めて乗り越えたわ。運命に・・・」
二人が学校から出ると同時に梨花ちゃんは呟く。そうか、彼女が体験しているのは爆死か焼死だった。いつも学校内で死んでしまう彼女にとって、今の光景は新鮮で衝撃的なものだったのだろう。目には涙を浮かべている。
まだ問題は山積みだ。この後梨花ちゃんが綿流しの後に殺されてしまうという運命がある。それを乗り越えるためには、まだまだ準備が足りない。
「冬夜さん、すみませんでした」
「大石さん・・・」
「竜宮レナの凶行に惑わされてしまいました。警察として情けないばかりです」
大石は続けて言う。
「昨晩、園崎家から話を伺い竜宮さんの所持している手帳について多くの物品を押収しました。その際に古手さんの事も少なからず聞いております」
「そうでしたか」
「この事件以降古手神社付近には私服警官を常駐することとなっています。あぁ、熊ちゃん。前原さんと竜宮さんの保護をしてください」
「了解っす」
熊谷さんは二人を保護する。竜宮さんはパトカーに連行されていった。その際に竜宮さんが冬夜に向かって一礼をする。その一礼だけで彼女が精神的に安定していることは十分に伝わった。
彼女はどのような形で償っていくのかが心配だ。今雛見沢症候群を治そうとしている医者はいない。冬夜は法律やらについては知らないため、この先の竜宮レナの処遇に大変心配してしまった。
あの後、ケガをしている人は冬夜のみという判断となった。竜宮さんと戦った前原君と梨花ちゃんは無傷。他の生徒は手足に縛られた跡が少しだけあるが時間も経たずに見えなくなるとのこと。治療のために病院へ連行されかけたのだが、園崎家本家で治療するということで興宮に行かなくてもよくなった。惨劇の一つ目は乗り越えた。あとは最後まで走り切るしかない。
綿流し当日。あの立て籠もり事件が発生したが祭りは通常通り開催という流れになった。昨日の今日で開催するか悩んでいたらしいが、悲しい事件を忘れるために、新しく出発するために綿流しを始めると。
梨花ちゃんは巫女服姿で綿流しをする。部活メンバーは竜宮さんがいない状況でもなるべく元気に楽しみたいということで、祭りには参加することになった。今も竜宮さんは警察に保護されているが、どうやら園崎家の弁護士が動いているようだ。
「冬夜、どうなのです?」
「ん?似合っているね」
梨花ちゃんが話しかけてくる。綿流しの時にしか見せない巫女服姿。その姿はまるであの時のカケラの世界で見た少女を思い出させた。
「・・・」
「冬夜さんまだ体調悪いんですか?」
「え、いや。大丈夫だよ」
何を彼女たちは心配しているのだろうか。安心してほしい、俺は順調さ。そう話すも部活メンバー全員が怪訝な顔をする。
「でも先生、巫女服好きですから。梨花ちゃんの巫女服姿を見て反応無いなんて・・・」
「あ、あ~。そ、そうだね。大丈夫。感慨深いものだと思ってね」
あぁいけない。これは怪しまれても仕方がないことだった。しかし巫女服で興奮するのをまるで設定みたいに言われても困るのだが。最後まで梨花ちゃんが怪訝な顔をし、その顔を見ないようにする冬夜。その状況に部活メンバーは何か良からぬことが有るのかと怪しげに見るのだった。
綿流しは通常通りに進んだ。いつもと違ったのは、綿流しの風景を撮っていた富竹さんがいないことと、それを楽しそうに見ている鷹野さんがいないことだ。彼ら3人が死亡するか行方不明になるか。この状況下で守り切れるだろうか。
綿流しが終わり、その晩のこと。冬夜と古手梨花、北条沙都子は園崎家へ向かった。どこか沙都子ちゃんは緊張した面持ちである。園崎お魎の存在が怖いのだろうか。まぁ園崎家と北条家は確執があるのは間違いない。まさか北条家を園崎家の敷居に跨がせるとは思えない。
しかし、その緊張とは裏腹に園崎家は暖かく迎えてくれる。
「警察の方は敷地の外にいるとはね」
「その代わり園崎家は少人数になってしまったんです。すみません」
「いや、十分助かる。ありがとう」
園崎家の敷地外には私服警官が常駐している。大石さんは竜宮さんの対処に追われているが、熊谷さんが対応してくれることになった。敷地内には物騒な顔をしたスーツの人が何人かいる。彼ら全員で梨花ちゃんを守ってくれるということだ。
すぐに地下施設へ入る前に一度客間に案内される。
「婆っちゃは安全のために興宮に避難してます。随分駄々をこねられましたけど」
「魅音ちゃんも避難してほしいんだけど」
「婆っちゃから次期当主としての役目を果たすように言われてます。私も覚悟は決めてます!」
彼女がどこまで戦力になるか分からないが、魅音ちゃんが参戦するというのであれば梨花ちゃんと行動を共にしてほしい。冬夜はまだ身体が万全ではない。冬夜を置いて逃げてもらえば、まだ生き残れる確率が上がるだろう。
「そんなことよりも冬夜、そろそろ話してほしいのです」
「・・・何を?」
「あなた、今はどっちなのですか?」
ついに言われた。いずれ言われるだろうことを。