死んだ。そのことを理解したのは冬夜が今いる場所がどこなのか分かったからである。今いる場所はカケラの世界。まるで宇宙空間のようなだだっ広い空間にいた。
あの時隣に有った砂の山は無くなっている。まるでそれが大事な物で、失ってしまうことに悲しみを覚えたことに冬夜は違和感を抱いた。
「私は貴方が嫌いです。リューンの意思を継いだ者よ」
「また会ったね、痴女巫女さんよ」
目の前にいる少女は、まるで神のような強い圧迫感を出していた。明らかに人間の出せる威圧ではない。そこにあるのは異次元の存在であることは誰もが分かることである。しかし、冬夜には関係ない。痴女の服装をしている。つまりは変態だということだ。
「俺がループできていたのは、なぜなのか。随分考えたけど結論は出ることが無かった。オヤシロ様は何か知っているということで良いのかな?」
「あなたの記憶のカケラにある祠。あれは我々の同胞が住む土地だったのでしょう。まるでこびりついた錆のように、薄れた意思だけは残り続けた」
その例えは少々汚いので嫌なのだが。
「細かい経緯までは分かりません。しかし、貴方の命に刻み込まれたリューンの意思がループへ至る道へと繋がりました」
「・・・」
「私のような力も無い状態でのループ。すぐに消え去る程度の力ですし、欠陥も多い。それは貴方がループをした時に記憶の引継ぎができないというのも理由の一つになるでしょう」
あの祠にあそこまでの力が有るというのは知らなかった。記憶の断片にある祠は、寂れてみすぼらしかった。
「本来であれば、梨花はあと数回で惨劇を乗り越えることができるはずでした」
「???」
「現実世界にいる私ならいざ知らず、このカケラの世界にいる私であれば大まかな流れを掴むことができるのです」
冬夜は周囲のカケラ達を見る。この膨大な数の流れを大まかとはいえ理解できるというのは人間技ではないだろう。しかし、ここまでカケラを凝視するのは初めてである。あの時は巫女服に気を取られていたが・・・。
「これ、カケラの中に梨花ちゃんがいるな」
「そうです」
カケラの中に、まるでテレビのように雛見沢が見えた。これはまさか、と思いもう一つのカケラを凝視する。そこにも雛見沢があった。
つまり、このカケラの中にある雛見沢は梨花ちゃんが体験していく世界そのものだということだ。それを直感的に気づいた。
「あなたさえいなければ。あなたさえいなければ梨花は黒幕を打倒できていた」
「鷹野三四を倒していたのか」
「異物であるあなたが惨劇に対して行動をすることで、梨花はあなたに頼るようになってしまった。それではあの強い意志を持つ女には負けてしまう」
「頼ることの何が悪いんだ」
「もうあなたはカケラの世界に、ループをすることはできない。この危険性が分かりますか?」
『オヤシロ様』が言った言葉が頭の中で反復する。もうループができない、そこではない。古手梨花が冬夜のいない世界でどのような立ち回りをするのか。それを知ってしまったからだ。
以前の世界では、古手梨花は冬夜よりも早くループをしていた。その間に冬夜と接触したものの、冬夜はループについては知らない状態。全く理解を示さないことで古手梨花は意気消沈していた。
「それにもう梨花のループは限界です。今の梨花では切り抜けることはできないでしょう」
「俺という存在は必要なかったと・・・」
「そうです」
本来であれば冬夜を除いた状態で古手梨花は惨劇を乗り越えることができた。その中に異物が紛れ込むことで、冬夜の存在が惨劇を乗り越える必要な駒となってしまったのだ。
しかし、その必要な駒はループすることができない。これでは・・・。
「あの鷹野の隣にいたのは、リューンの民では無いようです。本来脅威を振るうような存在ではありませんでした」
『オヤシロ様』は目を閉じる。その簡単な挙動でも神秘的に思える。決して巫女服のせいではない。話は戻るが、その角持ちの女性も冬夜と同じようにイレギュラーの存在なのだろう。
「その女性をどうにかしないといけないのか?」
「そうですね。どうやら鷹野に力を貸しているようです。ループの力までは使っていない様子ですが・・・。あの存在は驚異的でしょう」
あの存在が何かまでは分からなさそうだ。あの大人痴女巫女も同様にループの力を持っているらしい。
「もう俺はループできないんだろう?今更それを言われても梨花ちゃんを助けることはできない・・・」
「本来なら、そうでした」
「???」
『オヤシロ様』は冬夜から視線を外し、隣を見る。以前そこには砂の山が有った場所だった。
「詳しくは話しません。しかし、今の貴方なら綿流し前日近くでループができるでしょう」
「もうできないはずなのに?」
「そうです。詳しくは話しません。それが
「そうか」
冬夜は『オヤシロ様』の視線が外れ、以前有った砂の山に目を向けたことで、約束の相手が誰だったかは分かった。しかしどのような人間であったかは分からない。そもそも砂の山がどのような存在だったのかは分からない。しかし、今はその約束のおかげでループができるようだ。
「俺は何をすればいい?」
「あの角持ちを倒しなさい。あれは普通に倒せる相手ではありません。それをどうにかしてください」
「どうにか?」
「あれは普通の人間のような存在ではありません。おそらく雛見沢のどこかに魂の代わりになるものがあるでしょう」
人外判定の相手にどう戦えば良いか分からないが、どうやらそれしかないらしい。しかし腋を出している痴女のような姿をしているが、巫女服の相手である。俺が本気を出せるかどうか分からない。い、いや。私情は捨てるんだ。
「それで『オヤシロ様』。その服装はいったい・・・。通常の巫女服とは違うでしょう?」
「大事な人から貰ったものです」
「あ、すみません」
さすがに誰かに貰った物を痴女扱いするのは申し訳ないだろう。腋を出しているのには性癖を感じる所はあるが。
「その巫女好きな所も、その性格も魂も。まるであの人のようです」
「・・・」
「違う世界の存在のはずなのに。まるで似たような魂を持つ貴方が憎い。私もまだまだです」
目の前にいる少女の本質は理解できなかったが、少女の見せる表情が本当に憎い相手を見るような目つきでないことは理解できた。自身のするべきことを理解し、その上で少女を見る。大変美しい女性であることに間違いない。見た目は梨花ちゃんと同じ小学生なので興味は湧かない。嘘、興味は湧くけど手は出さない。
「なんで呆れた顔をするんです?」
「その巫女服好きもそっくりで・・・」
待てよ?『オヤシロ様』は結構昔から存在していたことになる。ならばこの少女は合法で巫女服を勧めることができるかもしれない。今の腋出し状態ではなく、もっと清楚で美しい見た目を提供したい。
しかし冬夜は己の好みを他人に強要するほどの精神は持ち得ていなかった。それならば諦めるしかない。いずれか巫女服の清楚さを全面的に出していきたいものである。