まさか襲われるわけがない。そう思っていた事もあった。むしろ余裕ぶっていたのだ。
「どこに行った?」
「俺はこの山道を確認する、鳳05は周辺警戒に戻れ」
古手神社より少し山奥に入った場所。祭具殿へ近づき目的の『魂』を見つけようとした矢先のこと、おそらく山狗部隊と思われる人物が巡回していることに気づいた。
冬夜は慌てて林の中に逃げ込む。人影ではなく足音に気づいたと思われる山狗部隊の二人が冬夜を追い詰めようとしていた。
「どうせ一般人だろう?鷹野三佐は何をそこまで・・・」
「さぁな。だが要注意人物に変わりない。自宅周辺の警戒をしないというのも変な話だが・・・」
二人が会話をしているのが聞こえるほどに近い距離。冬夜は身を伏せて姿を隠していた。絶対バレてるとしか思えないし、そもそも冬夜は隠密が得意とか経験とかは無い。つまり・・・。
「(あえてか?何のために?)」
ここで考えられる事は何だろうか。冬夜は静かに考える。一つ目は、ここが罠だということ。祭具殿周辺に罠が仕掛けられていて一網打尽にしたいのだろうか。二つ目は、ブラフ。この祭具殿に『魂』が有ると匂わせるために山狗部隊を仕込んでいる。三つ目は、一般人を追いかけるのが面倒くさいというものだ。
正直あの鷹野三四という人物であれば一つ目も二つ目も考えられることである。そもそも『魂』が持ち運べるタイプの物であれば鷹野が肌身離さず持っている可能性も有る。いや、待てよ?そういえば、なぜ日記が富竹が監禁されていた場所に有ったのだろう?あれもブラフか?
余計な考えが頭にちらつく。残り時間は短いというのに、いちいち考えてしまうのは悪い癖だろう。冬夜は眉間に皺を寄せて考えている間に、山狗部隊の二人は林の中から離れて山道へ戻っていった。怪しいが、今回ばかりは仕方がない。まず祭具殿へ行こう。
祭具殿はあれから呆気なく到着できた。誰にも出会わず、祭具殿周辺にも人の気配はない。もし本当に『魂』があるのならば、敵の刺客がいてもおかしくないというのに。もはや空振りなのだろうか。
冬夜は恐る恐る祭具殿に近づく。祭具殿は梨花ちゃんの意向によって簡単な錠になっている。雛見沢にとって大事な聖域であるが、今回は大変ありがたい。無理矢理こじ開ける事ができるだろう。
「・・・ん?」
鍵が取り外されていた。いやいや、これは怪しいだろう。どうぞ入ってくださいと言っているようなものじゃないか。・・・よし、入るか。
祭具殿に入ったことは今まで無い。ここがどのような場所なのか分からない冬夜は、初めて祭具殿の様相に驚いた。まるで拷問道具のような物が多数ある。雛見沢の昔の文化がそこにあるのだと分かる。
しかし、直感的に『魂』らしき物が見つからない。確かに祭具殿内の道具は怪しさ満点であるが、それは一つの文化として受け止められる範囲だ。子ども達が見るとショッキングかもしれない。
そのまま祭具殿の奥まで行くと、一つの銅像が有った。人型の銅像は、大きな威圧感を醸し出している。
「オヤシロ様、か?」
角は無いが、まるでご神体のように祭具殿の奥に置かれた銅像は、なぜか冬夜の目を離さない。まさか、これが『魂』というのだろうか。
「違うな」
直感的に分かる。なぜ分かるのか、それを言葉にして現すことはできない。しかし、この銅像には懐かしさというものしか感じなかった。威圧感の中にある母性のような雰囲気が恐怖を抱かせる。
冬夜はオヤシロ様のご神体をペタペタ触る。首元を触った時、妙な違和感があった。
「ふん!」
力を込めると、頭と胴体が外れる。まるで仕込まれたかのように身体が動いた。気味が悪いが、これは正しい行為なのだと分かる。どうやら、ご神体の胴体の中身は空洞となっているらしい。胴体の中に輝く物体が有った。
「刀・・・の先っぽ?」
残念ながら冬夜にはそれを言い当てるほどの語彙力が無かった。しかし、冬夜の言っていることも間違いではないのだろう。まるで刀身の先端が、15cmほどの長さで胴体の中に落ちていたのだ。他に刀のような物は見つからない。まるで刀が欠けた後、このご神体に入れられたのだろうか。
「・・・・・・」
冬夜は押し黙る。その刀からは、冬夜の今までの行為を見透かしているかのように光り輝いている。これで『魂』を切れと言うのか。そういうことなんだな。
決して言葉には出さない。己のしようとしていることが、直感的に理解できたからだ。これからすべきことを。これから行う馬鹿みたいなことを。
「もうそろそろ、終盤だろうな」
冬夜は祭具殿を出る。いつの間にかあんなに鬱陶しいほどの太陽は雲に隠れている。ポツリポツリと雨が降ってきていた。冬夜は梨花ちゃん達がいるであろう、山へと向かう。冬夜はトラップにかからないように慎重に行動を始めた。
一方冬夜の言うように、古手梨花達もついに山狗部隊を壊滅させていた。小此木も倒し、残すは鷹野三四だけである。
古手梨花は複雑な心境であった。嬉しくあったのは、入江も、富竹も、大石も。信頼して動いてくれたことである。嬉しい誤算だったのは、赤坂も来てくれたことだろうか。赤坂は今は大石と共に行動をしてくれている。覚えてくれていたこと、何よりも最後の最後で助けてくれる赤坂という存在は、古手梨花を大きく奮い立たせた。
部活メンバーも同様である。全員が惨劇に負けず、強い精神を持って生きている。今まで雛見沢症候群に負けていた彼らが、疑心暗鬼になることなく古手梨花に協力していた。
残念だったことは、冬夜。彼が今も全く記憶を取り戻すことが無いということ。48時間作戦を行うまでのギリギリの間、なるべく冬夜に語り掛けていた古手梨花だが、一つも思い出すことはなかった。
前回のループで力を使い果たしてしまったのだろうか。それは古手梨花の心情を暗くさせてしまう要因であったが、残り少ないループである彼女には、どうすることもできない。最後に彼を巻き込ませないで良かったと、そう心の中で切り替えることにした。
そのような紆余曲折はあったものの、今、ついに古手梨花は山狗部隊を壊滅させたのだ。鷹野三四は高笑いをして林の中に逃げ込む。最後の最後まで彼女は諦めないつもりなのだろう。何がそこまで彼女を狂わせたのかは分からない。しかし、もう終わりなのだ。彼女を止めたら、この惨劇も終わる。
一つ前のページにある矛盾点を修正しました。冬夜は銃撃戦の事を知らないので・・・。修正遅れてすみませんでした。(R4.12.21)