生まれてきた理由というものを考えたことは有るだろうか?おそらく、そのようなことを考えたことがある人は大変多いのではなかろうか。冬夜は思春期の記憶をそこまで思い出すことは出来ていない。しかし、自身ならば考えたことがあるだろうと自覚する。
何かを成すべきか?それとも単純に歯車として生きるのか?何もできず死んでいくのか?もっと多くの可能性が有るはずの人生。それを考えずにはいられない時期というものが、いつかやってくるのである。
いや、説教臭い事を言いたいのではなく。まさしく、冬夜は今その場面に居合わせているのだろう。
「だいぶ遅かったわね。デートだったら振られていたわよ?」
「それって富竹さんには言ってないよね?あの人の事だからすごい落ち込むんじゃないかい?」
山の中。頭上は樹に覆われているというのに、それを感じさせないほどの大雨が降り注いでいた。どちらもずぶ濡れ。
鷹野は手に拳銃を構え、冬夜にいつでも引き金を引けるようにしている。
「これじゃ明日は風邪をひくなぁ」
「そうねぇ・・・」
まるで今の状況を理解できていないかのように話す二人。いや、三人。
「素敵な巫女服のお嬢さん。貴女も風邪をひいてしまうよ?」
「・・・」
「彼女ったら、あまり話さないの。私が一方的に話してそれで終わり」
角巫女は不適に笑う。普段の冬夜であれば恐怖を抱く状況なのだが、今の冬夜は何も思わなかった。その代わり、その笑みを見て思うことは有る。
「なぜ人は生きるんだと思う?」
「どうしたの?哲学者にでもなるつもり?」
「記憶を失ってから、ずっと考えていたことだった。今思うと、それは当然のことだったのかもしれない」
鷹野は首を傾げる。今の状況に耐えきれず自分語りでもしようというのだろうか。
「取り戻した記憶も、大事な核が無い。まるで見せたくないかのようにしているかのように思えた。そう、例えば『なぜ雛見沢へ流れ着いたのか』、『なぜぽっかりと穴が開いたかのような喪失感が有るのか』、『なぜ直感的に自身の成すべきことが分かる』のか」
「・・・」
まるで仕掛けられてきた舞台のように、冬夜は今まで何も疑問を感じることが無かった。ループをするのも、雛見沢にいる自分も。全て記憶喪失が関係しているからというこじつけのようなモノで誤魔化していた。
「鷹野さん。あなたには無いのか?今の奇妙さに」
「分かりたくは無いわね」
「俺たちは踊らされているんだ。そこの角巫女と、オヤシロ様に」
「黙りなさい!私は成し遂げなければならない!たとえ踊らされようと、それが私とおじいちゃんの生きた証になるのよ!」
冬夜は一つ深い息を吐き、手に持つ刀身を眺めた。この山の中で日の光も当たらない状況で、なおも光り輝く刀身は不気味であった。
「鷹野さんの苦しみは、俺が癒すわけじゃない。それは別の人がしっかりとしてくれるさ」
「・・・」
「角巫女、いや、ハイリューンの一族とでも言うべきなのか?まぁ良いか。角巫女、言い残す事は無いのか?」
冬夜はじっくりと角巫女を見る。今まで不適な笑みを浮かべていたというのに、今は打って変わって悲しい表情をしていた。演者が三人しかいないこの山で、冬夜は思う。
「今この場に、皆が居なくて良かったと、心の底から思うよ」
「そうね」
「鷹野さんには迷惑をかけてしまったらしい。もう俺たちみたいな邪魔者は居なくなる。その時は鷹野さんは鷹野さんらしい事をしてほしい」
「いやよ」
鷹野は拳銃を持つ手に力を込める。いつでも撃てるように構えているのだろう。
「あなたが居ない世界は、皆暗い人生そのものだった。あなたには分かる?この重責が。全てを視せられて、その上で演じていることを」
「・・・」
「今、あなたに死なれると困るのよ。私の計画が、私とおじいちゃんの生きていた証が消えてなくなるの」
じゃあなぜ拳銃を冬夜に向けているのだろうか。行動と言葉に大きな乖離が有る。それは冬夜だけでなく鷹野も理解していることだろう。己の矛盾が、隣の巫女に踊らされているということに。
「俺が死ねば、その隣の巫女も死ぬ。そうだろう?ハイリューンの巫女さん」
「うむ」
角巫女は大きく頷いた。その時に呟くように言った言葉は、まるで少女とは思えない低すぎる声。
「あんたが俺をループさせていた。祠のご神体も、そうなんだろう?」
「うむ」
肯定した。彼女はなぜ敵側についているのか、その理由を問うというのは野暮なのだろう。それ以上の追及をすることをしなかった。問題なのは鷹野三四の存在だ。
「所詮、俺たちがいなくても・・・。この世界は梨花ちゃん達の勝利で終わる。本来の道を進み始めるだけだ」
「それが神の望む道であろうと、あなたがいたという事実は残り続ける。死ぬことが正しい道じゃないわ」
「今まで雛見沢を滅ぼしてきた人が、生き死にを言うなんて思わなかった」
冬夜はもう一度刀身を見る。今まで『魂』が何か理解をすることができなかったが、今なら分かる。この刀身を見た時に理解をしたのだ。
抜き身の刀身であったために、怪我をしないよう慎重に持っていたが、それも関係ない。冬夜は刀身を強く握りしめる。鋭すぎる刀身が冬夜の掌を傷つけて血が出始めた。
パァン!
冬夜は撃たれたということは理解できたが、どこを狙って撃ったのかは分からなかった。鷹野さんの様子は焦燥しているように思える。
「この至近距離で外すなんてね。この一発で止められなければ、もう私には打つ手は無い」
外したというよりも、外されたという方が正しいのかもしれない。冬夜は銃については詳しくはないが、冬夜と鷹野さんの距離は2,3mほどの距離しかない。頭とか足を狙えば、もしかしたら外す可能性もあるのかもしれないが、胴体ならば外さないだろう。
もうこれ以上は時間をかける必要もない。冬夜は力を込めて、自身の身体に刀身を突き立てた。
圭一君たちの雄姿は、ぜひ『ひぐらしの鳴く頃に』を見てください。