ひぐらしのなく頃に 巻込編   作:ポロロン

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本心という形容できないものを言葉に出す難しさよ

まるで別人が憑依したかのような雰囲気を醸し出す少女に、冬夜は薄ら寒いものを感じる。

 

「その、その言葉を聞く限りだと、梨花ちゃんは上手くいかないと思っているということで良いのかな」

 

 絞り出すように声を出す。今の心境は怒られた子どもだ。何か失敗をしでかした後の説教のようで少し居心地が悪い。

 

「そう言ったつもりなのだけれど」

 

 続けざまに少女は言った。少女が想定している状況では、今の状況を改善することはできないということらしい。

 

「俺が梨花ちゃんに質問をしたときは、どうすれば良いのか分からないと言っていたけど、その言葉を含めた上で失敗すると言うんだね」

 

 少し言葉尻が強かっただろうか。詰問をするようで嫌になるが、今の疑問を解消できなければならないように思えた。それは好奇心というよりも焦燥感からくるものである。早く答えを聞かなければならないという謎の焦燥感であった。

 

「確かに今の圭一は学校を休んではいない。このケースのまま圭一が疑心暗鬼に陥る状況というのを見たことがないわ」

 

 少女は唐突に本題らしき内容を話し始める。前原君は確かに学校を休んでいない。至って健康そうに思えた。何かが梨花ちゃんにとって危機感を抱くようなことがあるとでも言うのだろうか。

 

「それでも、今の圭一は無理をしている。疑心暗鬼と仲間への信頼が板挟みとなって、それが更に不安へと繋がるの。こんなに早い段階で魅音がおはぎを渡しに行くだなんてことも今まで無かったけれど、どうせ今回の世界も悲劇で終わるわ」

「・・・」

「そもそもあなた自体がイレギュラー。静観はしていたけれど、どうせ今回も袋小路のまま」

 

 さて、俺は今目の前にいる少女の言っている内容の半分ほどが理解できていない。今冬夜の脳内に駆け巡っているのは、真剣さ4割、早すぎる厨二病6割という状況だった。どこか嘲笑気味の少女を見て会話を試みる。

 

「言っていることの半分は理解できていないけど、梨花ちゃんの内容を察すると諦めているわけだ」

 

 自分で言って、改めて自覚した。どこか諦めている節が見受けられるのだ。なぜ諦めるのだろうか。人が諦める時というのは、知識と経験からくるものだ。結果を知っているから諦める。経験して失敗したから諦める。そういうことがあるからこそ人は諦めることができるのだ。

 冬夜が諦めるという言葉を使ったのが気に入らないのか、少女は不貞腐れたような顔をする。それはまるで図星を隠しているように思えた。

 ここで思ったのが、自身の身の振り方である。この少女の話を聞くか、しょせん子どもの戯言だと一蹴するかである。それならば話を聞きたい。

 

「じゃあ、そんなイレギュラーの人間に教えてくれるかな。梨花ちゃんの考えていること」

 

 まずは対話である。こんな夜に話すことなのか分からないが、この今を逃すと二度とチャンスは訪れないと思えた。この少女のもう一つの顔を恐らく誰も知らないのではないだろうか。この少女の顔を知れば、誰もが村のアイドルなどと言わず魔女か何かだと言うだろう。

 

「・・・」

 

 話して欲しいと言えば少女は黙秘をしてしまった。これではアベコベである。求めれば逃げられ、求めなければ寄ってくる。それがもどかしかった。

 

「嫌なら言わなくても構わない。それなら俺は明日にでも魅音ちゃんと竜宮さんと共に前原君とお話をするだけだ。君の言う通り失敗になるかもしれないけれど」

 

 それを言うと彼女が言い始めた。エンジェルモートにいる状態の冬夜であればふざけ倒していた可能性がある。魅音ちゃんの話の後で良かったと場違いにも感じた。

 

「本来であれば、圭一は『オヤシロ様の祟り』を教えてくれない皆に対して疑心暗鬼になる。そして、大石が横入れを入れたせいでそれが加速する。ここまでは既に起きていること」

 

 少女は話を続ける。

 

「そして、圭一は一度病欠で休みを取るわ。その時に魅音とレナが差し入れを圭一に渡すの。あなたが渡されたおはぎが。そしてすぐに圭一は行動を起こす」

「行動?」

「悟史のバットを手に素振りをし始めるわ。誰とも話をせず、まるで去年の悟史と同じように」

 

 一見、それは思春期特有の誰とも話したくない時期であるようにも思えたが、その後の悟史と同じようにという所が気になった。

 北条悟史。去年の『オヤシロ様の祟り』の犠牲者であり、現在失踪中の中学生である。正直なところ全く親交がなかったのだが、噂には聞いたことがある。確か、常にバットを手にしていた、だったか。

 

「そしてまた病欠で休みをとった圭一に、魅音とレナがお見舞いに行って・・・」

「行って?」

 

 そこから黙り込む少女。まるで言って良いのか分からないとでも言いたげな表情だった。ここまで聞いてしまったのだから、最後まで話して欲しいのだが。意を決したのか、続いて話をする。

 

「そして、圭一が魅音とレナを撲殺するわ」

「!?」

 

 その可愛らしい少女が言うには似つかわしくない言葉に耳を疑った。想像以上の話が出たため言葉を失う。撲殺をする?誰が?誰を?

 冬夜は少し考えこんだ。本来であれば、友達を殺人者として仕立て上げるのはいけないと叱るべきなのである。知恵先生なら間違いなく叱っていただろう。少しずつ少女の言っていたことを嚙み砕いて内容を頭に入れていく。

 

「あら、てっきり叱るかと思ったのだけれど」

 

 真っ先に叱らなかった冬夜を古手梨花は訝しんだ。怒られることが前提で話をしていたかのような口ぶりに、冬夜は口をへの字へ曲げる。

 

「梨花ちゃん。俺はね人生で決めていることがあるんだ」

「それは何かしら」

「俺が記憶喪失で鬼ヶ淵沼で保護をされたという話はしただろう?あの後、身分証明がすごく大変でね。どちらかと言うと記憶喪失だって伝えるのに苦労したんだ」

 

 警察に保護をされて、真っ先に疑われたのは犯罪を犯した人が逃亡中なのではないかということ。信じてくれるのに大変時間がかかったし、その間の留置所は凄く寒かった記憶がある。

 

「何とか警察の人に信じてもらって、その後の生活も大変だった。誰も素性の知れない人間を雇おうとはしてくれなかったし、あったとしても賃金が低くてまともな生活ができない状態でね。そんな中助けてくれたのは、園崎さんのお家だったんだ」

 

 何があって園崎家に目を付けられたのか分からない。接点など無かった、ただの男に手を差し伸べてくれたのが園崎家である。

 

「拾ってくれたというよりも、記憶喪失を信じます。そう言ってもらったのが凄く嬉しかったんだ。人とというのはね、梨花ちゃん。目の前に起きている現実をどこか他人事のように嘘だと言うんだ。それがとても怖いものだとは知らなかった」

 

 例えば、UFOを見たという人がいたとする。しかし、それを聞いた側はUFOを見たことが無い故に見た人の話を信用できないということである。記憶喪失の人を見たことがない第三者の人間からすると、嘘の方便であると自分の価値観で推し量ってしまうのである。

 

「だから俺はまず、話を聞いて信用したいんだ。それが荒唐無稽でも。それが嘘であったとしても。梨花ちゃんは、友達を貶める人ではない。そんな梨花ちゃんが真剣に話をして前原君が凶行に走るというのであれば信用しよう。そんな凶行を防ぐのも大人の役目だ」

 

 冬夜は本心を語った。冷静に話をしようと思えば思うほど、今の古手梨花の様子は真剣さそのものだ。どこか諦めも感じられる少女の面持ちの、本来の心までは捉えることができない。ただ、それでもその真剣さには同等の真剣さで応えるのが必要であると思ったのだ。

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