私にはずっと、他人とは違う景色が見えている。
今まさに目の前にあるものの他に、どこか遠い所のことが瞬きの間に様々移り変わりながら見えるのだ。それが未来のことであるということだけは感覚的に分かっていて、しかし、いつ頃の何処のことなのかは分からない。知っている何かが見えるか、聞こえる会話から推測するしかないのだが、田舎住まいの貧しい少女には難しい話だった。物心が付いた頃は皆同じように見えているものだと思っていたため、叔母をはじめとする周囲の大人には随分と気味悪がられたものだ。
そんな風に、周囲に上手く馴染めぬまま私は成長していき、けれど夢物語のような何れ現実になるものばかり見つめていたから、人類に対する希望だけは大きくなる一方だった。やっと人が空を飛び始めた頃に、私はいずれ月に至ることを知っていた。その感動を共有できないことが悲しくなかったといえば嘘になるけれど、能力を疎んだことはない。これは数少ない私が確かに親から貰ったもののはずで、何より、この景色を愛していた。本当は醜いところも悲惨なところも見えていたけれど、美しいものを見ていたかったから意図的にそちらにばかり意識を向けた。それにやはり、ひとの残酷さを知ってなお、その美しさが翳ることはないのだと私は思う。
総じて、人間が好きなのだ。だから見たいものを必死に掻き集めた。そうやって、わたしは形作られたのだ。
何度結っても跳ね出る赤毛に薄いそばかす、大きな金の瞳と八重歯がチャームポイントの、良く言っても垢抜けない少女の範疇にしかない外見。そこに普通の人とは少しズレた価値観と思考と未来由来の知識を詰め込んだのが私という人物だ。
つまり、何が言いたいのかというと、この家出は私にとって決して簡単なものではなかったのである。それでも止まることは出来ない、考えもしなかった。
ずっと、私の見たものが信じてもらえなくたって良かった。ただ、素晴らしい未来が先に広がっていると知っている、それだけで良かった。しかし、今回ばかりはそう思えない。私以外の誰かに知っていて欲しいのだ。そしてあわよくばこの喜びを分かち合い、さらに叶うのならあの輝かしい未来を私の代わりに見届けてもらいたい。見届けてくれると言ってくれるひとに出会うことが出来れば、他には何もいらないと心底思った。私の人生を賭けた望みなのである。
嗚呼でも、やはりもう一つだけ我儘を。
見届けてもらうなら、あの景色の中で一際楽しそうにしていた、あのひとに。何れ来る未来を存分に謳歌するあの吸血鬼に――。
ここまで拙作にお付き合いくださりありがとうございました!