間宮さんの秘密 | 暁の瑞雲 #pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16930894
ある昼下がり
「まーみやさん、メンコくじ下さい」雷がニコニコしながら、甘味処 間宮併設の駄菓子屋に顔を出す。
その後ろに、一緒に来た電、暁、響がいて、ソワソワしながらこちらを見ている。
第六駆逐隊はいつも仲が良い。
そういえば、今日はお給金支給の日でしたね。
「はいはい。おいくつ?」
「一人ひとつ!」元気よく暁が答える。
私は棚から『メンコくじ』と書かれた箱を4人の前、カウンターに置く。
カウンター前には背の低い子たちも届くように踏み台が置いてある。
「これ、まだ当たりあるかい?」
帽子の鍔を触りながら響が上目遣いに尋ねる。
「ありますよ」
「やった。雪風はまだ引いてないみたいだ。私たちで当ててしまおう」
4人は当たりがある事を確認して順番に箱に手を入れ、くじを取り出す。
くじには番号がかかれており、1番が大当たりで直径20センチの丸メンコ、2番から5番が当たりで直径10センチの丸メンコ、その他の番号は、直径5センチの丸メンコだ。
「やった!3番だ!」響は当たり。
「あー、またダメだったー」
暁は14番、他の2人の番号も2桁のため、下位賞の絵柄違いのメンコだ。
「あとは珍しい絵柄が当たるといいわね」
暁から順に、一枚ずつ紙袋に入ったメンコを選んで、せーので開ける。
「三連装魚雷よ」と暁
「徹甲弾ね。持ってるわ」
雷は少し残念そうだ。
「し、しし、震電改!?」
「「「えーっ!」」」
電が珍しい絵柄を引き、皆が大声を上げる。
震電改は、まだ私も見たことがない。
「これ、赤城さんと加賀さんが欲しがってたやつかな?」
「うん、珍しいね。見たことない」
暁と響も目を丸くしている。
メンコには艦娘の装備柄がデザインされているのだが、極まれに珍しい絵柄が封入されている。
鎮守府では今、メンコが駆逐艦や、海防艦たちの間でブームになっており、戦艦や空母達にも自分たちのコレクションや、皆とコミュニケーションを取るために密かに収集している者もいるくらいだ。
「いいなあ」
電は持っていたメンコ帳に大切に仕舞い込む。
「これはメンコ遊びには使わない。宝物にするのよ」とご満悦である。
「あらあら、よかったわね。これ、おまけよ」
私は当たったお祝いも兼ねて、全員にきなこ棒を差し出した。
「間宮さん、ありがとう!」
「木陰で食べよう!」
きなこ棒を受け取り4人は弾むように駆け出して行った。
「間宮」
「あ、長門さん!」
第六駆逐隊の4人と入れ替わりで鎮守府の戦艦、長門さんが顔を出す。
「あー、その、なんだ。以前頼んでいたクジ付き『棒かすていら』は入荷したかな?」
「入荷していますよ」
2週間前に長門さんから頼まれていた『棒かすていら』は、駆逐艦や海防艦、特に海防艦達には大人気で入荷すると比較的早く売り切れてしまう。くじを引いて当たりが出たら一際大きな『棒かすていら』が貰える魅力ある品だ。
そのくじを含めて一式セットになっている。
「店頭在庫は大丈夫か?」
自分が買ってしまうと駄菓子屋に買いに来た子が買えなくなるかと長門さんは気にしてくれている。
「はい。お店に並べる分とは別に発注しましたから、安心して下さい」
「そうか!」
長門さんの顔がパッと明るくなる。
戦いになると勇ましいのに、こういう細やかな心遣いが出来るところが素敵です。
「ふふ」
思わず顔に出てしまう。
「な、何かおかしかったか?」
「いいえ、なんでも。長門さんが可愛いなと思って」
「ば、馬鹿をいうな」
長門さんは照れながらクジ付き『棒かすていら』一式抱えて帰っていきました。
なんでも海防艦に誕生日の子がいるらしく、パーティーで使うんだとか。
こういう時に駄菓子屋を併設して良かったと思います。
私は、艦隊の皆との暖かいやり取りが大好きで、充実した日々を過ごしていました。
ーーーー
ーーーー
時は遡る。
数年前、大本営の元帥から、とある鎮守府の提督に向けて命令が下る。
「君の鎮守府の艦隊で、次の作戦海域における先陣を切ってもらいたい。ついては艦娘の士気高揚を図るために給糧艦、間宮を同行させるように」
「間宮をですか? 彼女は戦闘艦ではありません」
「今回は遠方への出撃になる。彼女の力が必要と判断した。随行させて艦隊士気を維持するとともに、戦闘においても出来る限りの努力をさせよ」
「しかし! 彼女は私の……。それに……。元帥もご存知でしょう! 今、彼女は戦闘どころではない事を!」
提督は指示には従えないと思いつつも、私と公どちらを選ぶかといえば立場上、公を選ばなければならない立場だ。
それに、間宮の存在は、艦隊全体の士気にかかるのは間違いない。
しばらく元帥と話し合い、その数日後に「分かりました……」
提督は、間宮を艦隊に組み込む事を決めたのだった。
「給糧艦、間宮、出撃いたします!」
それが、間宮を見た最後となった。
艦隊は、決戦の海上に向かう途中に敵潜水艦隊の襲撃を受け、そして間宮は沈んだ。
間宮の轟沈は艦隊の士気に大きく影響し、なんとか作戦は完遂出来たものの、提督は見ていられないほど意気消沈、その時の連合艦隊旗艦だった長門は、責任を取る形で鎮守府を去った。
その後も空き店舗となった間宮が寂れていくのと同じように、鎮守府を去るものが後を立たなかった。
間宮の存在は提督はもちろんのこと、鎮守府にとっても想像以上に大きかったのだ。
そして……。
その鎮守府は事実上消滅した。
それ以降も、間宮が出撃せざるを得ない遠方海域作戦が何度か繰り広げられたのだが、今の元帥になってから、戦闘艦ではない間宮をはじめとする艦娘達の出撃は御法度となった。
ーーーー
ーーーー
ーーーー
「間宮さん」
「あら、提督。どうなさったのですか?」
まだ二十代後半だが、作戦立案、戦闘中の采配、どれをとっても他の追従を許さないほどに優秀な提督が、実は甘味が大好きで、ちょくちょく顔を出してくれるのはあまり公にはしていない。
提督曰く、軟弱にみられたくない。との事らしい。そんなものなんでしょうか?
「いつものを頼む」
「はい、いつものですね」
提督が好きなぜんざい。
間宮で一番大きな器で出す。
「ふふっ」
普段の仕事ぶりや、作戦中の漢の顔からは考えられないほど、夢中で甘味を食べる提督の姿が、まるで子供のようにもみえて思わず笑みが溢れてしまう。
「なんだい?間宮さん。何かいい事でもあったのかい?」
「はい。内緒ですけど」
「そうか、内緒か」
こんな時間が二人の間をゆっくり流れる。
今は、会えない時にも、お互いが互いの事を思い浮かべるほどには親密になりつつあった。
ーーーー
ーーーー
「間宮の働きぶりはどうかね?」
元帥への定期報告で質問を受ける。
「はい。他の艦娘とのコミュニケーションも良好、常に前向きで、いつも素晴らしい甘味を提供してくれます。また、彼女のアイデアで始めた駄菓子屋も艦娘の士気高揚に大きな効果を認めます」
「そうか、そうか、何よりだ」
元帥は満足そうに頷く。
非戦闘艦の運用について理解がある元帥らしい。もちろん提督も異論はない。
「では、また」
元帥との通話を切る。
明日から、大規模作戦が始まる。
艦隊の皆を早めに休ませて出撃に備えよう。
ーーーー
ーーーー
ーーーー
ー 翌朝
「では、連合艦隊旗艦、長門出撃する」
敬礼とともに踵を返し鎮守府から大規模艦隊が出撃する。
もちろん鎮守府の防衛に必要な艦隊は残してある。
「皆、行かれましたか」
「ああ」
提督は作戦が始まると、司令室に篭りきりになる。
その前にぜんざいを召し上がるのが常だった。
「出来ていますよ」
「ありがとう、間宮さん」
今日は漢の顔だ。
私は声はかけない。
彼も無言だ。
「ご馳走さま」
私は立ち去る提督に声をかける。
「頑張って下さい。ご武運を」
提督は無言で頷くと「彼女達が凱旋したら、ご馳走してあげて欲しい」と十分すぎる程の代金を残し、足早に司令室に向かわれた。
ほどなくして、警報が鳴り響く。
ー 深海棲艦の鎮守府奇襲攻撃
鎮守府施設まで影響を及ぼす戦闘が始まった。
こちらの戦力は、深海棲艦の規模を上回るものの、鎮守府の壊滅を目的に編成されたと思われる敵艦隊の艦載機群の撃墜は一筋なわではいかず、鎮守府施設は次々と被弾していく。
「皆が楽しみにしている甘味処 間宮を守らなきゃ!」
私は恐らく上手く扱えない艤装を装備し、対空戦闘に参加する。
必死に応戦していると、提督が寄越したのだろう鎮守府に残っていた防空能力の高い五十鈴、皐月、吹雪が駆けてくるのが見えた。
「これでもう大丈夫」
そう思った瞬間、後方から近づいてきた艦載機の機銃掃射を受けた。
ー 微かに残る意識の中、
「何故だ?高速修復材が効かない!」
「間宮さん、死んじゃダメだ!」
「間宮さんを病院へ搬送して下さい!」
最後に明石が叫ぶのがうっすらと聞こえた瞬間、私の意識はふっつりと途切れた。
ーーーー
ーーーー
「では、間宮さんは艦娘ではないと?」
「はい、厳密に言えば、人と艦娘との間に生まれた混血です」
明石の病院へ搬送するように、との言葉は、この事を想定しての事だった。
「高速修復材が効かないとなると艦娘以外、人間としか考えられません。しかし、高速修復材により出血の程度が弱まったことから、もしかすると、と思い血液検査をしてみたんです」
「なるほど」
「黙っていてごめんなさい。私から話します」
ー 間宮は語り出す。
数年前、沈んだ間宮は自分の母だと。
そして、今の元帥こそが自分の父だという事を。
艦娘と人の間には子は生まれないというのが通例だったが、二人の間には今の間宮が生まれた。
当時の提督、つまり今の元帥は愛する妻、間宮を大規模作戦には参加させたくなかった。
可愛い娘が生まれたばかりだったのだ。
しかし、深海棲艦との戦いの最中、自分達だけが幸せの中にいていいのか?士気高揚に自分の力を発揮出来る今こそ、艦娘としての矜恃を果たすべきではないのか……。
二人で何度も話し合い決めたのだ。出撃することを。
だが、それは最悪の結果をもたらした。
母である間宮は、その日、雷撃の先にいた第六駆逐隊を庇って雷撃を受けたのだ。
自分の娘と重なって見えたのだろう、彼女達を守るために。
だから父は、同じ悲劇を生まないために、戦闘艦ではない艦娘の出撃をさせないために、血反吐を吐く努力をして元帥になったのだ。
間宮は物心がついてから、その話を父から聞いていた。
そして、自分の意思で決めたのだ。母がやり続けたかった事をやりたいと。
初めは反対した父だったが、間宮の熱意に負け、鎮守府に着任させる事にした。もちろん最も優秀で、艦娘を大切に扱う提督が指揮をとる鎮守府にだが。
「それが、提督です」
「そうだったのか。駆逐艦や海防艦に暖かく接してくれて、可愛がってくれたのは……」
「それは、母の遺志もありますが、鎮守府に着任して思いました。甘味にかける情熱以上に私は子供が好きなんです」
「ああ、分かるよ。彼女らを見つめる君の眼差しはいつも愛に溢れているから」恋や愛など普段口にしない提督は少し照れながら話す。
「だから、提督、これからも鎮守府において下さいますか?」
「ああ、だが、まずは君の父、元帥に君を怪我させたことの謝罪と許しを得ることが出来たら、だが」
「それは、先程提督がお見えになる前に許可を得ました」
悪戯が見つかった子供のように間宮が笑う。
「なんだって?」提督はしてやられたと言わんばかりに間宮を見つめる。
「今後ともよろしくお願いしますね」間宮が微笑み返す。
すると……。
病室のドアが開き、第六駆逐隊が息を切らして入ってくる。
「間宮さん大丈夫なの?」
「レディーはこんな時でも泣かないんだから」
「無事で良かったよ」
「間宮さん!宝物の震電改のメンコ、あげるから元気になって!」
口々に一斉に喋り出す第六駆逐隊。皆、半泣きだ。
母が命を賭して守った第六駆逐隊と同じ子達ではないが、世代を、時代を超えた絆が確かにそこにあった。
「ふふ、貴女達、こっちにきて」
4人を両手一杯広げて、優しく抱きとめる間宮に提督は声をかける。
「間宮さん、これからもよろしく頼む」
帽子を深く被り退室する提督の眦に、涙が浮かんでいるのを見ながら間宮は思う。
お母さん、これからも間宮の名に恥じないように、わたし、頑張ります。
fin