もう限界なので休ませてください。。。 作:オティヌス
『illuminationsSTARS(イルミネーションスターズ)』。
283プロダクションが誇る3人組のアイドルユニットだ。
先日、彼女たちは大きなライブイベントを無事成功させ、SNSやテレビでも話題になっている今話題のアイドルでもある。
そんな彼女たちはライブ明けということもあり本日は休み。
3人でショッピングモールへ買い物に出かけていた。
「この花柄のスカート可愛いね」
ショッピングモールの中にある女性向けのアパレルショップ、その中で櫻木真乃は淡い花柄のマーメイドスカートを指して言った。
「そうだね、真乃ならこのカーディガンも合わせると良いんじゃないかな」
それに対し、反対側にあった白のカーディガンを手にとって風野灯織はそのスカートに合わせた。
「真乃はフェミニンなの似合うよね」
うんうんと灯織の言葉に納得するのは八宮めぐる。
普段はアイドル活動で世間を賑わせている3人であるが、れっきとした女子高生。
仕事を忘れてショッピングを楽しんでいるようだった。
「あ、これ......」
すると灯織がマネキンに着せてあったワンピースに目が行った。
濃い青のパフスリーブのロング丈のものだ。
確かにクールなイメージを持つ灯織に似合いそうではあった。
「このワンピースも可愛いね! 良いんじゃないかな!」
「うん、これとっても似合うよ灯織ちゃん」
2人からの評価は上々で購入することも良いのではないかと、灯織へ言う。
「はい、プロデューサーがこのワンピースをとても可愛いと言っていたので......」
灯織が以前、事務所でファッション雑誌を読んでいた時だ。
その時、プロデューサーは休憩していてソファに座っていたのだが、灯織は事務所に来て他に誰もいないことを確認してわざわざピタリと隣に座った。
勿論ソファはもう一つあった上、座るにしてもスペースを空けて座ればいいのである。
昨今世間を騒がしているトナラーというものに似ているが、プロデューサーと灯織の間には強い信頼関係があったため、その限りではない。
無論、このことを知るのは灯織とプロデューサーの2人だけである。
灯織が読んでいた雑誌が目に入ったのか、プロデューサーはこんなことを言った。
『このワンピース、灯織に似合いそうだね。とても可愛いと思うよ。まあ、元々灯織が可愛いっていうのもあるんだろうけどさ』
はははと笑うプロデューサー。
瞬間、灯織はそのワンピースが記載されているページにどこから出したのか赤ペンで5周くらいグルグルと大きな丸を描いていた。
灯織は後でこのワンピース絶対に購入しようと決意した瞬間であった。
「へ、へぇ〜。そうなんだ〜......」
「......プロデューサーさんが」
何故か流れる微妙な空気。
ただ服について話していただけというのに。
めぐると真乃の目線は件のワンピースに注がれている。
値段にして48,000円(税抜)。
3人はほぼ同時に財布を確認する。
いくらアイドルとして売れていても未成年なため、給料は親が管理している。
そのため一般的な女子高生よりほんの少し多めくらいの手持ちしかない。
そもそも余程お金を持っていない限り大人でも買うにはかなり躊躇する値段である。
ちなみに灯織はタイミング悪くこのワンピースを買うためにお金を貯めている最中であった。
考えこんでいる3人であったが、周囲の視線を集めていたことに気づくと慌ててお店を後にした。
3人に共通しているのは身バレしないように変装しているという点であるが、みんな容姿が整っている(283プロダクションのアイドルがそもそもそういった部分も審査対象に入っているため当然と言えば当然)ため、別の意味で注目を集めていた。
そんな彼女たちが次に向かったのは雑貨屋(F◯anc◯rancってなんか良い匂いするよね)であった。
「あ、これ......」
真乃が店内に入って早速目に入ったものがあった。
「犬の置物、だね」
「ポメラニアンだ〜、可愛い〜」
そこにあったのは陶器製のポメラニアンの小さなインテリアだ。
丸いつぶらな瞳が3人を見つめていた。
「プロデューサーさん、犬の中でポメラニアンが一番好きなんだって」
以前、仕事終わりにプロデューサーと真乃で公園に寄り道したことがあった。
そこにポメラニアンを連れて優しそうなおばあさんが居り、真乃自身可愛いなと思いつつ、その横を通り過ぎようとした所、そのポメラニアンがプロデューサーの足元に寄ってきたのだ。
ポメラニアンはプロデューサーに抱っこしてと言わんばかりに、尻尾を振っており、おばあさんがリードを引っ張っても動かなかった。
そんな中、プロデューサーは笑顔で大丈夫ですよと言ってポメラニアンを撫で始めた。
優しい顔でポメラニアンを撫でる姿を見て少しうらやましいと思った真乃。
その時ポメラニアンが犬の中で一番好きなんだと語るプロデューサー。
おばあさんは家族以外には懐かないのに珍しいと、そう言っているのを聞いて再度ポメラニアンを見る。
ポメラニアン(3歳の女の子で名前はマロン)はお腹を見せるようにしてプロデューサーへ甘えていた。
一切マロンは真乃に見向きもしなかった。
その時、ポメラニアンが真乃に対して勝ち誇った顔していたのは恐らく気のせいだろう。
鳥類を始めとした動物全般好きな真乃であったが、本当に少しだけイラッとしていた。
そしておばあさんが流石に我が子の暴走を止めようしたのか、こんなことを言った。
『こらマロンちゃん。お兄さんとお姉さんのデートの邪魔になるから帰るわよ』
瞬間、真乃はマロンへ抱いたほんの少しの苛立ちが消え去るのが分かった。
ありがとう、おばあさん。
ありがとう、マロン。
真乃は嬉しかったのだ。
2人でいるところを見られ、それを傍から見たらデート中だと思われたことを。
ちなみに真乃はプロデューサーの隣を歩いていたのだが、拳一個分も無いほどの距離であった。
『ははは、カップルに間違われちゃったな。ごめんな彼氏役としては役者不足かもしれない。まあ、こちらとしては光栄極まりないって感じだけど』
そう彼は続けた。
その言葉に真乃はほわほわしていた。
脳内にセロトニンが分泌され、今ならライブを5日間程ぶっ続けでもやり切れるそんな気がする。
ふひゅひゅっと笑みが零れそうになっていた。
「ふ、ふ〜ん。そうなんだ......」
「......プレゼントに」
またもや流れる微妙な空気。
3人の思考は統一されていた。
プロデューサーへプレゼントしようと。
しかも残り1つのみ。
さらに言えばこの置物の値段。
値段にして12,000円(税抜)。
手乗りサイズなのにこの値段は流石老舗高級ブランドであった。
3人の手持ちは以下略。
周りの視線も以下略。
店を後にすると、今度は香水店へ向かうことになった。
「あ、これ......」
そして店内を見て回っていると、めぐるの目にあるものが入った。
「いい香り......」
「金木犀だね」
琥珀色の容器、そこに入っているのは金木犀の香水だった。
ガラス製の容器にあしらわれた金木犀の花のデザインが目を奪う。
「プロデューサー、金木犀の香りが好きなんだって」
以前、休日に街を歩いているとたまたまプロデューサーと遭遇した時があった。
彼は仕事中ではあったものの丁度お昼の時間だったため、休憩を兼ねて一緒に昼食を食べに近くの喫茶店に2人で入った。
ごくごく普通のチェーン店の喫茶店で、プロデューサーはナポリタン、めぐるはグラタンを注文した。
味も本当に普通ではあったものの、めぐるにとってプロデューサーと一緒の空間でお喋り出来るだけでお釣りが出るレベルである。
和やかなお喋りの時間。
彼の最近あった話し等を聞きながら、自身の学校であった話しや家族、友達の話しなどに花を咲かせる。
ちなみにめぐるは彼がお手洗いで席を立った時に、食べ終わった皿に置かれたフォークを口に一瞬加えて元に戻すということをやっていた。
乙女心なのかもしれないが関係性が構築されていない場合は真似をしないように(単純に行儀が悪いとも言うが)。
お手洗いから戻ってきたプロデューサーに何食わぬ顔で接するめぐるは心が強かった。
そしてお会計を済ませ、店を出るとプロデューサーは次の現場ということで駅に向かうことになったが、めぐるも駅まで一緒に行く流れになったのは言うまでもない。
仕事に送る、彼女、奥さんの疑似体験が出来るからである。
そんなことを考えながら駅まで向かっていると、プロデューサーがふと足を止めた。
どうしたのと聞くと、彼はある方向へ指を指した。
そこには小さな黄色い花である金木犀が咲いていた。
『俺さ、金木犀の花っていうか、この香りが好きなんだよね』
そう告げるプロデューサーの横顔が少し寂しく見えてしまったのは気のせいだろうか。
めぐるの心は締め付けられる。
『昔住んでいた街を思い出してさ。小さい頃を思い出すんだよね』
ノスタルジックな気持ちになっちゃったとプロデューサーはめぐるへと笑いかける。
めぐるはその姿にときめいていた。
普段のカッコいい彼と今の少し弱ったように寂しそうにする彼、そのギャップに。
守ってあげたい、側にいてあげたいとそんな感情がめぐるの中で燃え上がっていた。
『でも金木犀って、イメージカラーとかじゃないけどちょっとめぐるに似てるよな。だからめぐるを見ると実は少し安心するんだよね』
変なこといってごめんなと謝る彼を横目にめぐるの情緒はぐちゃぐちゃになっていた。
金木犀が好き→金木犀を見ると昔を思い出す→金木犀とめぐるは似ている。
つまり彼はめぐるのことが好きということじゃないかと。
彼女の頭の中はお花畑になっていた(金木犀だけに)。
ちなみに後に金木犀の花言葉の意味を調べてさらにめぐるは悶えることとなった。
「そ、そうなんだ......」
「......これを付ければプロデューサーに」
またまたまたもや流れる微妙な空気。
値段にして16,000円(税抜)。
流石天下のC◯AN◯Lである。
3人の手持ちは以下略。
視線も以下略。
そんな彼女たちが決断したのは先程の雑貨屋へ戻り、ポメラニアンの置物をお金を出し合って購入することだった。
抜け駆けは何も生まない、3人は仲良しなのである。
共通してプロデューサーへの深い恩義があった。
そのため、イルミネーションスターズとしてのプレゼントとしてこの置物を贈ることにしたのだ。
そんな3人はホクホク顔で街へと繰り出すのだが、そこで見覚えのある後ろ姿を見つけた。
「......あれってプロデューサーさん?」
灯織がふとある方向を指す。
そこには何といつものスーツに身を包むプロデューサーがいたのだ。
それは間違いなくプロデューサーで、見間違えることは絶対になかった。
「ほんとだ。お仕事中だね」
「うん......でもあの人は」
めぐると真乃も仕事をするカッコいい彼の姿を確認するのだが、彼女たちはその時既にプロデューサーではなく別のことで頭がいっぱいになっていた。
綺麗な女性が彼のすぐ隣を歩いていたのだ。
2人が楽しそうに談笑しながら歩くその姿に彼女たちの心はざわついていた。
仕事中なのだから取引先の人の可能性は高い。
しかし、仕事相手としては距離が近く、彼女たちの疑念は深まっていく。
嫌な予感がした彼女たちはプロデューサーと謎の女性を追跡することにした。
決してバレないようにこっそりと。
2人は店に入るということはなく、ひたすら街を歩いていく。
どうやらこのまま駅へ向かっているようだった。
少しづづ、彼らと距離を詰めて、会話内容が聞こえる程までになったときだった。
「______私、プロデューサーさんのこと、好きになっちゃいそうです。
______ダメ、ですか?」
そう愛らしく告げる女性の言葉とプロデューサーのひどく驚く顔が3人の脳裏に刻まれた。
短く纏めた方が見やすくて良いや。
下準備がようやく終わったので次回からもお願いいたします。