もう限界なので休ませてください。。。   作:オティヌス

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愚憐無限残業編

 

 

 最近、みんなの様子おかしくね?

 

 

 そうプロデューサーが思ったのは、22時を過ぎた誰もいない事務所でのことだった。

 

 

 いつものように次の企画について纏めながら、持ち込んでいたタブレットでY◯uTubeで実況配信やNet◯lixで映画を見ていた。

 企画に関しては最近動画配信が流行っているのでその方向性で考えている。

 既に事務所のみんなには様々な配信媒体で配信活動を行ってもらっているのでさらに別のものを、だ。 

 例えば甜花によるゲーム実況や霧子の絵本朗読配信などがあるが、どれも登録者数や視聴回数も順調に伸びており収益化もしている。

 収益化自体はついで程度の感覚だが、これによって283プロダクションのアイドル自体に繋げてもらえば構わない。 

 それに時代はどんどん進んでいくので何が次のトレンドになるかは分からない。

 手札は多ければ多い程役に立つ。

 そんなことを考えつつ、企画書を作成し、2時間前に既に完成はしていた。

 ちなみにこの仕事は2ヶ月後に取り掛かっても問題ないものである。

 こんな時間まで遅くなったのは動画を見るのに珍しく夢中になっていたからだ。

 プロデューサーはふとスマートフォンを見て、CHAINがとんでもないことになっていることに気づいた。

 

 

『新着メッセージがあります』

 

『新着メッセージがあります』

 

『新着メッセージがあります』

 

『新着メッセージがあります』

 

『新着メッセージがあります』

 

『新着メッセージがあります』

 

『新着メッセージがあります』

 

 

 彼のスマートフォンの待機画面がそれで覆い尽くされていた。

 いや、各アイドルからのCHAINが重なればたまにこうなることもありはしたが、それはたまに起きることであるので多少は驚きもする。

 これによりそう言えばとプロデューサーは思い返していたのだ。

 事務所に所属しているアイドルたちが、言い方は変ではあるが普段と何かが違う。

 例えば特にプロデューサーへ当たりの強い円香の口調は以前よりもかなり優しくなっていた。

  

 

『......コーヒーです。どうぞ』

 

『ありがとう、円香』

 

『いえ、私も、飲もうと思っただけです......その、どうですか?』

 

『うん? どう______ああ、いつも通りとても美味しいよ』

 

『そう、ですか............良かったです......あの』

 

『うん』

 

『私は、それなりに、あなたにとって美味しいコーヒーを淹れられます。だから......何でも無いです。失礼します』

 

 

 これは優しいのか、うん凄い優しいよ(当社比)。

 そんな会話があったのはつい先日、彼が旅行を決意してから一ヶ月程経ったときのことだ。

 何故か最近、みんなの仕事に対するモチベーションが凄まじいことになっていた。

 気迫が凄いというか、近づくだけ周りを切り裂くというか威圧感が凄すぎて新人の子が怖がっているとか。

 スタッフからは283さん凄いですねと言われる程だ。

 円香を筆頭にこのような症状のアイドルがたくさんいる。

 この状況、プロデューサーとしてどうするか大変悩むものでもあった。

 

 

 そもそも原因が分からないのにどうすれば良いんだよ!

 

 

 プロデューサーの心からの叫びであった。

 今まで原因の予測や解明は彼女たちとコミュニケーションを重ね、観察をすればそれなりに理解できるものであったのだが今回ばかりはお手上げであり、糸口が見つからない。

 プロデューサー自身、こんな謎の状態の彼女たちへどう声をかければいいのか分からなくなっていた。

 それにであるが、アイドル間で何かこそこそ話をしている様子も見かけるようになり、彼に気づくと途端に散開する。

 どうやら何か隠し事をされているようだ。

 プロデューサーにバレたら不味いこと。

 その時、プロデューサーにある1つの考えが過ぎった。

 

 

______もしかして嫌われた?

 

 

 マジかとプロデューサーは頭を抱える。

 可能性としてなくはないのだ。

 彼女たちの大半は未成年。

 26歳とは言えアラサーの彼に対し、嫌な感情を抱いてもおかしくはない。

 何か変なことを言ってしまったのか、それとも距離感を間違えたのか。

 考えても何も分からなかった。

 大概のことはそれなりに器用にこなしてきた彼であったが直面する困難なこの状況に困惑していた。

 いや答えをすぐ出してしまうのはよくない。

 まだその確信たる証拠がないのだ。

 早とちりして、選択を間違えてしまえば取り返しがつかなくなってしまうことだってある。

 プロデューサーはオフィスチェアに思い切り寄りかかり天井を向いて意味もなく呻く。

 

 

 最近めちゃくちゃ忙しかったのに次はこれか。

 

 

 彼はその体勢のまま顔を覆った。

 そう、最近の彼はいつにも増して忙しかったのだ。

 まず起きたのは283プロダクションのアイドルを多数起用してくれている番組のスタッフが半年後に別番組の担当に変わるということが起きた。

 言わずとも分かってくれるというわけではないが、こちらの意向は大抵汲んでくれる仕事相手としてとてもやりやすい人物だったのだ。

 後任者が癖のある人物で、新人の女性キャストにセクハラ紛いのこと、番組起用を盾にそういうこと求めてくるそんなクズみたいな人間だった。

 既に283プロダクションは規模として大きなものになったため、番組起用を盾になどということはないだろうが、セクハラのターゲットにされるのだけは阻止をしなくてはならない。

 そもそも芸能界に夢を求めて入ってきた子たちにそんな目に合わせるわけにはいかない。

 故にプロデューサーは前任者から聞いたそのクズへの後任者変更を白紙にすべく、何ならそれ以上の報いを受けてもらうため裏で動いていたのだ。

 まずそのために彼は深い付き合いのスポンサーの元へ話をつけることになった。

 冬優子が専属モデルをやっている化粧品会社、そこの若き女社長は敏腕と呼ぶのに相応しく開業して数年で従業員数500人を超すまでに育て上げた。

 知名度も高くなってきており、10代のティーンエージャーに人気のコスメブランドになっている。

 専属モデルの依頼が来た際に女社長自ら出向いてくれて話をしたのだが、とても話の分かる人でクライアントとしてかなり仕事のしやすい人物であり、好印象だった。

 プロデューサーが考えた策というのは半年後に変わる番組のスポンサーになってもらうというものだった。

 実を言えば彼女の父親はその番組のテレビ局のお偉いさんであまり公にはしてないものの業界では周知の事実だった。

 お偉いさんは相当の親バカであり、娘がスポンサーとなる番組にはかなり目をかけることになる。

 さらに言えば会社のコンセプトが若い女の子向けの化粧品を提供しているというのもあり、尚更お偉いさんは娘のために不祥事を恐れるだろう。

 それ故に彼女に番組のスポンサーになってもらえればスタッフ編成に変更、出来なかったとしても例のクズの横暴を不可能にすることができる。

 だから後は彼女に如何にスポンサーになってもらうか、であった。

 勿論、メリットはある。

 だが一時間番組でゴールデンタイムのCM、さらにはCMの撮影費用その他諸々込みでもかなりのお金がかかってくる。

 さらに一介のプロデューサーがどうしてこんな頼みをしてくるのかという疑問も抱かせてしまい、不審がられてしまうのは仕方のないことだった。

 理由は正直に話をした。

 同情はしてくれた。

 だがだからといってその頼みを受けられるかはと、彼女は複雑な表情をしていた。

 故に彼は、自身が思う情熱を含め彼女へぶつけたのだ。

 

 

『私は、理不尽な要求をされる彼女たちを守りたい。ですが一人ではやれることに限度があります。それにあなたが会社を作った理由は”全ての女の子たちを笑顔にする”でしたよね?』

 

『お願いです、どうか力を貸してください。あなたの力が必要なんです。女の子たちを笑顔にするためにも』

 

『ここで協力しなければあなたの理念に反することになるんです』

 

『だからこそ283プロダクションと御社の、今より先深い関係を、私は望んでいます』

 

 

 彼は全力で思いをぶつけた。

 勿論、これは感情に訴えかけるという仕事においてはある意味紙一重のものだ。

 感情は勿論大事であるが、会社を運営するにあたって一番重要なのは利益だからだ。

 ______だが紙一重なのだ。

 時に感情は利益を上回ることだってある。

 それに女性は男性と比較して感情を優先する傾向にある。

 新進気鋭の今ノリに乗ってコネクションを求めている彼女であれば尚更だ。

 

 

『______分かりました、283さんのその頼み、お受けいたします』

 

 

 彼女はその頼みを飲んでくれた。

 ある種計画通りであった。

 彼はその返答にとても喜ぶと、彼女へこちらが提供するメリットを話した。

 弊社アイドルの番組やライブ等のメイク担当は御社のメイクアップアーティストに全てお任せすること、というものである。

 勿論社長の許可は既に取っている。

 元々メイクさんに関しては専属というものがなかった283プロダクションであったが、規模が大きくなって今回を期に全員に専属をつけることにしたのだ。

 

 

 まあ、元々予定はされていたのだが。

 

 

 結果的にウィンウィンになったのだ。

 問題はないだろう。

 次は彼が別で構成作家も担当していたラジオ番組が半年後に終了することになったということだったが、まあこれは別にそこまで問題ではなかった。

 元々、まだ283プロダクションが売れていなかった頃、アイドルを出す条件にやっていた仕事だ。

 その番組の担当スタッフが構成をどうしようと悩んでいたときだ。

 彼は文章を書くのが昔から得意ということもあり、控えめではあったもののアドバイスをしたところ、良いじゃんという流れになり、そのまま構成に就任。

 なんともラッキーだったと当時のプロデューサー談。

 今のスタッフとも惜しまれつつも和やかにやり取りをした。

 

 

『あと少しになっちゃいましたけど、283さんには凄い勉強させてもらいました。本当に、ありがとうございますっ!』

 

『ははは、あと半年になりますがよろしくお願いしますね』

 

 

 まだ半年程あるというのに少し涙ぐんでいるスタッフはとても熱い男であった。

 苦笑しつつも嬉しいプロデューサーであった。

 そして後任の構成作家はプロデューサーの仕事の知り合いということもあり、引き続き資料を作成しつつ、さらにはこんな感じにやると良いよというやり取りをメールや電話でしていた。

 そんな後任の構成作家とは気安いやり取りをするようになり、前にこんなことを聞かれた。

 

 

『283さんそういえばあの企画どうなんですか? あと恋人はできました?』

 

 

 あの企画というのはプロデューサーが進めていたライブイベントのもので、恋人に関しては毎回聞かれていることだった。

 面倒くさいなと多少思いもしたが、プロデューサーはそれに対し軽く返答した。

 

 

『はい、とても順調ですよ。恋人は、そうですね。この仕事が恋人みたいなものです』

 

 

 これはいつもの返答なのだが、後任の構成作家はとても笑っていた。

 そんなに面白いことなのだろうかと、プロデューサーは首を傾げそうになる。

 そういえばこんなやり取りもしたなと彼は思い出した。

 

 

『283さん、あの番組の構成作家交代するんでしょ。お疲れ様。いつまでだっけ?』

 

『はい、俺もあと半年なんで、引き続きの準備は進めてますよ』

 

『へぇ、そうなのか。残念だよ......そういえば君って本当に用意周到だよね。だってまだ半年もあるのにさ』

 

『少しづづ進めれば後になって苦労することないですし、修正も効きやすいんですよ。まあ癖なんですかね』

 

 

 知り合いのベテランスタッフとの会話である。

 彼も283プロダクションに良くしてくれるスタッフの一人であった。

 もう1つ起きた問題、これがある意味で一番厄介であったかもしれない。

 それはプロデューサーへ美人局を利用した悪徳取材だ。

 これは非常に面倒だったとプロデューサーは思い返す。

 283プロダクションが売れてくれば、それに合わせてスキャンダルを求めてくるのが、マスコミというものだ。

 しかもターゲットはアイドルではなくプロデューサーという、どういう目の付け方なのだろうか。

 最初、彼は彼女の取材を美人局だと、悪徳取材とは思ってもいなかった。

 しかし取材を重ねるにつれてそれが分かってきた。

 取材を担当した記者は4歳歳下の女性で容姿はかなり整っている方だ。

 最初はビジネススーツだった彼女は段々とカジュアルな服装になり、露出部分が増えてきた。

 距離感もどんどん近づいてきて、ボディタッチも多くなっていた。

 2回目くらいから何となく分かってはいたが、だとしてもあからさまであった。

 まさか自分にこんな風に惚れるような異性なんているわけないと、そう思ったからだ。

 

 

『私、プロデューサーさんのこと、好きになっちゃいそうです。ダメ、ですか?』

 

 

 そして5回目の取材で、ついにこんなことまで言われてしまった。

 普通の男ならそのまま引っかかってもおかしくはない。

 だがプロデューサーは普通とは違かった。

 

 

『あなたの気持ちは大変ありがたいです______でもご自身の身体を大事にしてください』

 

 

 そう言われた彼女の顔はひどく驚いていた。

 断られるなんて思ってもいなかったそんな表情だ。

 

 

『こういうこと慣れて、いませんよね? 手、震えてますよ』

 

 

 彼女の手が震えていることを彼は見逃さなかった。

 そもそもこういう発言は昼間の路上ではなく夜の個室のバーなどでアルコールと一緒にやるべきだ。

 その方が間違いなく効果的だからである。

 それをしないのはこういったことに慣れていないということだろう。

 さらに言うとすれば______

 

 

『これを仕掛けるタイミングが読み切れていませんね。些か早すぎると思いました______あなたがこうしている理由、話してくれませんか?』

 

 

 気づけば彼女はぽそりぽそりと経緯を話し始めた。

 要約すれば田舎から上京し意気揚々と入社したものの、中々大きなニュースを掴めず、上司に怒られる毎日。

 彼女の精神はおかしくなり、自分の身体を使えばという考えに至ったらしく、そのターゲットに選ばれたのが283プロダクションのプロデューサーだったというわけだ。

 彼女の目からは涙が流れていた。

 そんな彼女にプロデューサーは1つの提案をした。

 

 

『......転職してみませんか。知り合いの記者が勤めている会社があります』

 

 

 善村さんって言うんですけど、そう言って名刺を渡した。

 283プロダクションに対して、とても良い記事を書いてくれる記者なのだが、以前に記者を募集しているという話をしていたのを思い出していた。

 

 

『私からの紹介と言ってくれて結構です』

 

 

 涙ながらにありがとうございますという彼女に、プロデューサーは笑顔でそう答えた。

 別にここまでしなくたって良いのだ。

 プロダクションを出禁にすればいいし、彼女の会社に抗議だってすればいい、それをしないのは自分より歳下の女性が変なことをしようとしているのを見過ごせなかったのだ。

 故に彼は彼女を助けようとしていた。

 胸くそ悪いのだけはごめんであったからだ。

 そんなこんなでこの件は解決した。

 他にも色々あったのだが、特筆すべきはこれくらいだろう。

 あとは最近会社のマニュアル作成で退職願・退職届の記入方法を作ったのと過激なファンからの手紙で指を怪我しかくらいか。

 怪我はどうでもいいが、マニュアルというのは作っておいて損はないのだ。

 例として手書きをしてみたが、自分の名前であったことに加えてマニュアルなのだから手書きである必要なかったため、すぐに捨てることになった。

 だが退職届だけどこかにいってしまい未だに見つかっていない。

 まあ自身が捨てたたのを忘れただけだろう。

 

 

 本当に全く微塵も欠片も身に覚えがない。

 

 

 彼は本気で頭を悩ませる。

 こんなにまで分からないとはと、最近の忙しさに加えてのこの事態にプロデューサーの胃が痛くなっていた。

 すると彼のスマートフォンがまた振動した。

 放置してしまっていたので流石にと彼はCHAINを開く。

 

 

甘奈『プロデューサーさん、お仕事根を詰めすぎないようにしてね。あと引き出しの中にホットアイマスクあるから使ってね』

 

灯織『お仕事遅くまでされているんですか。もしお部屋のお掃除が滞っているのだとしたら、今度お掃除に行ってもいいでしょうか』

 

恋鐘『お疲れ様。プロデューサー、明日お弁当ば作って持ってくばい。好きなおかずば教えてくれん?』

 

樹里『おいざんぎょうしないで、さっさとかえれよな』

 

愛依『お疲れ様〜。あんまし頑張り過ぎると大変だよ。疲れたらわたしに言って。愚痴だってなんだってプロデューサーのことならなんでも聞くからさ』

 

にちか『プロデューサーさんのことだからまだ事務所にいるんだと思いますけど、丁度良いところで帰るんですよ! 本気で言ってますからね! でないと今から事務所に行きますからね!』

 

雛菜『明日の朝、ぎゅーってしにいくからちゃんと受け止めね? 頭も撫でてね? ハグするとしあわせーになるんだってー』

 

 

 などなど、彼のCHAINは283プロダクションのアイドルからのもので埋め尽くされていた。

 果たしてこれは嫌われているのだろうか。

 プロデューサーを心配してくれる優しいメッセージばかりだ。

 彼はまた分からなくなった。

 彼女たちの真意が掴めない。

 そう思っていたときだった。

 

 

はづき『プロデューサーさん、お仕事お疲れ様です。私が言うのも変ですけれど、どうか無理はしないでくださいね。そのとても心配なので......』

 

 

 283プロダクションの事務員であるはづきからもCHAINが来る。

 本当に変だとはプロデューサーは笑いはしなかった。

 これにより彼のCHAINは上から283プロダクションの女性陣で完全に埋め尽くされた。

 

 

「取り敢えず、全員に返信しないとな」

 

 

 彼女たちの様子に関してはまた別のタイミングで考えよう。

 それに彼女たちとの距離感も少し考え直さないといけないかもとしれないと。

 プロデューサーはその思考を頭の片隅に置いて、メッセージの内容を考えつつ、スマートフォンと向き合った。

 

 

 この仕事の疲労は数カ月後の旅行で癒やすのだと、そう心の中で決心しながら。




答え合わせ。
プロデューサーは裏表のない素敵なパーフェクトコミュニケイターです。


ちなみに女社長とメンタルを病んだ女性記者は勿論プロデューサーへの好感度は高くなっています。
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