もう限界なので休ませてください。。。 作:オティヌス
「やっぱ大崎姉妹って良いよなー」
退屈な授業を乗り越えて迎えた休み時間。
購買で買った焼きそばパンを教室の後ろの席で食べながら、中学からの腐れ縁の友人は染み染みとそう言った。
既にパンは1/3は胃の中に収まっており、持って後1分と言ったところだろうか。
サッカー部に所属しており、髪型もスポーツ刈りのその男は成長期に加えて運動部ということもあって燃費が悪かった。
「......いきなり何だよ」
「いや、大崎って可愛いよなぁって......マジでさ」
この男が突拍子もなく、突然そういうことをカミングアウトするのは昔からであるので、別段おかしいことはないのだが、やはりそんなことを言われると少し驚いてしまう。
「......天下の売れっ子アイドル様だからだろ」
「いやいやいや。分かってないなお前って奴は」
ボソリとその男の与太話に付き合うことにした彼は紙パックのオレンジジュースを飲みながらそう言葉を投げた。
それに対して男は焼きそばパンを平らげて、包み紙を丸めながらやれやれと呆れている。
「つーかさ、大崎姉妹がアイドルになる前から俺たちは知ってただろ? その時からあいつらは男子の中じゃめちゃくちゃ人気だっただろ。てかお前は中学の頃から好きだっただろうが」
「ちょっ、止めろよお前さ......!」
そしてさらなるカミングアウトをされた彼はそのスポーツ刈りの頭を反射的に叩こうとする。
しかし文化部で運動も苦手な彼の反射神経では男の反応速度に付いていけるわけもなく、その手は虚しく空振りしていた。
「......そういうところだぞ、お前。そうやってすぐ手が出るの」
「うるさいな、お前が変なこと言うからだろ」
華麗にその攻撃を回避した男は半目で彼を見ていたが、彼は行き場を失ったその手をそのままオレンジジュースへ持っていきストローから吸うも既に中身は空である。
「へいへい、そうですねー。つーか、俺は兎も角っていうか、本当に良いのか?」
「......どういう意味だよ、その質問は」
男は軽く溜め息を吐くと半目で彼を見る。
その表情はどこかその目線の先である彼を哀れに思っているように見えた。
「どういう意味って、お前さ。大崎に告白するって言って入学した時から言ってただろうが。どんだけ時間経ったと思ってんだか」
「......っっっ。マジで余計なこと、言うなって、言ってる、だろう、がっっ!」
彼の貧弱な打撃が男を襲うが、机越しで微妙に届かずにまた空回りしている。
その打撃を本当に哀れだと悲しんでいる男は紙パックのコーヒー牛乳を飲み、トンと机へ置いた。
何故、彼がこんなに暴れてしまっているかと言えば、ここは教室で少し離れたところに件の大崎姉妹の一人である大崎甘奈が居るからである。
彼女はクラスどころか学校の人気者で常に様々な人たちに囲まれており、笑顔を振りまいていた。
容姿は完璧なオシャレ美少女。
少しギャルっぽく近寄りがたいかと思えば誰にでも優しい性格で、その笑顔に何人の男たちが魅了されてきたことか。
「俺はこう見えて彼女居るから半ば冗談でこんなこと言えるけどさ、マジで早く行動しないと本当に手遅れなるぞ」
男には彼女がいた。
こう見えてサッカー部では副部長を勤めている彼は異性からも話しやすく面白いと評判であり、割りとモテていた。
そのため、他校のバドミントン部であるが中々可愛い彼女がいた(先日彼女の誕生日に夢の国へ行ってきた言っていた)。
勿論、大崎には到底及ばないのではあるがと、内心で男からそう話された彼はそんな風に思ってはいたが。
そう、そんな持っている側の人間であり、昔からの幼馴染であり、腐れ縁であり、一般的には陰キャと言える自分と関わりを持ってくれている男からの真剣な訴えに彼は自身のことを考えざるをえなかった。
「......分かってるよ、そんなの」
しかし出てくる言葉はそれだけであった。
彼は小学生のときから大崎という少女に惚れていた。
小学4年生のある放課後。
宿題を忘れ、居残りでそれを終わらせて帰ろうとした時だ。
一人大崎は彼女の教室で何かを探していた。
必死に何かを探している彼女の姿を見て、ただ単純に困っているのだと思い、声をかけることにした彼。
今とは違い、小学生のときの彼はあらゆる意味で強かったのだ。
彼女は彼に声を掛けられると、事情を話してくれた。
どうやら大事にしていたキーホルダーをどこかに落としてしまったとのことで彼女は泣きそうに見えた。
そこから30分程教室や別の部屋を探し、彼女の落としたとされるキーホルダーを遂に発見することができた。
それを彼女に報告した時は少し泣きながらに喜んでいた。
その時だ。
彼女に一目惚れしてしまったのは。
彼にとってその短くも彼女と二人きりで過ごした時間は、今後過ごしていくであろう人生の中で深く記憶に刻まれた。
もっともその日以降彼女を意識しすぎて高校生になった今でも話しかけることすら出来なくなってしまったのであるが。
それが彼の甘くも苦い、今まで続く初恋のエピソードである。
「......あのな、大崎はアイドルになったんだぞ。ライバルは学校の奴らだけじゃないんだ。芸能人とかスタッフとか、前よりもお前の告白成功率は下がってるんだぞ」
そんな強敵達相手に今のお前がどうにか出来るのかと、男は言う。
それは彼の心に酷く突き刺さっていたが、そんなことは言われるまでもなく分かっている。
今の自分がキラキラした芸能界の人間の足元にも及ばないことも。
以前から言われていたのだ。
さっさと告白しないと手遅れになると。
それはこういうことなんだと、最近理解することができた。
「......良いんだよ、もう。無理だってわかってるから」
「......お前、マジでそれ言ってんのかよ」
そんな腑抜けた彼の言葉に男は呆れつつも、その瞳を見て何かを悟ったのかそれ以上何も言わなくなってしまった。
その後、次の授業は何だったかや最近始めたアプリゲームのリセマラでTier1のやつが当たったなど他愛もない話をして昼休みは終わった。
彼の目線の先には時折、楽しそうに笑う大崎が映っていたが。
「......あーあ。マジでこれめんどくさいな」
放課後の教室で彼は忘れていた英語の宿題に手を付けていた。
あの英語教師曰く、終わるまで帰宅するなとのことでこれは監禁になるのではないかと思っていた。
教室には放課後ではあるものの、まだ生徒は何人も残っており、皆お喋りに講じている。
そんな彼らを傍目に一人黙々と課題に手を付けていた彼はほんの少しの敗北が襲っていた。
「甘奈ちゃん、珍しいね。今日はお仕事お休み?」
「うん、そうなの。あ、でも事務所にはこの後行かないと行けないんだけどね」
そして教室で一際目立つ一輪の花。
大崎甘奈であった。
「そうなんだー。あれそうすると甜花ちゃんは?」
「甜花ちゃんは別のお仕事があったから先に事務所にいるんじゃないかな」
なるほど、だからあの大崎甘奈とは真逆の人種であり、彼女が一番お世話を焼いている人物であり、この時間になるといつも側にいる大崎甜花(姉)はいないのか。
大崎甜花とは彼女の双子の姉であり、甘奈と合わせてこの高校の2大人気と言っても過言ではない人物だ。
性格は甘奈と違い、どちらかと言えば彼のような陰キャよりと言えるものであまり男子達と会話をしているところは見たことがない。
女子とでさえそこまで会話をしているかと言えばそうでもなく、傍らにいる甘奈を介してのものを時偶見かける程度である。
しかし、コミュ障と言ってもいいのかもしれないがそれでもその容姿と甘奈の姉であるという点で彼女はある種特殊なポジションを確立していた。
「いやーごめんね。なんか甘奈ちゃんと甜花ちゃんいつも一緒にお仕事行ってるイメージだからつい」
根掘り葉掘り聞くようで申し訳ないと、割合甘奈と話しているクラスメイトの女子はそう言った。
確かに芸能界の仕事だから言えないこともあるだろうから、その辺り気を使わなければいけないのだろう。
甘奈は全然気にしてないよーといつもの可愛らしい笑顔でそう言うと、課題に追われる彼の心は少しだけ潤った。
「......そうだ、甘奈ー。最近あの人見かけないけど、どうしたのー?」
髪を金髪に染めた明らかギャルなクラスメイトは少しニヤニヤしながらそう問いかけた。
あの人、という単語に彼は少し不穏な空気を感じていた。
「あ、そうだよ。甘奈ちゃん。あのイケメン。前は学校近くまで車で迎えに来てくれてたよねー」
もう一人のかなり小柄な黒髪姫カットのクラスメイトはスマートフォンを弄りながらそのギャルに続いた。
イケメンというさらに追加されたその単語に彼の課題を進める手は止まってしまっていた。
______学校まで車で迎えに来てくれるイケメン? 誰だよ、それ。俺知らないんだけど。
「うん、前に見かけたけど、本当にカッコいい人だったわー。オトナの男って感じで。てかあの人って芸能人とかじゃないよね?」
「てかてか、もしかして甘奈ちゃんの彼氏ー? 良いな〜。あたしの彼氏ガキっぽくてさ〜」
甘奈の友人達はそうやってやいのやいの話しているが、彼の心境は嵐の如く荒れていた。
芸能人レベルの容姿のイケメンがなんで甘奈の迎えに来るのだろうか。
もしかして、本当に付き合っているからそういう風に迎えにきていたのか。
いやそもそも未成年と交際するような大人がかっこいいいのか。
そんなのただのクズではないか。
いやそれよりもそんなのスキャンダルだろ、アイドル生命的に終わりだろうが。
「ぷ、プロデューサーさんのこと......? 違うよ、プロデューサーさんは私をプロデュースをしてくれてる人で、芸能人じゃないよ。でも、そうだよね、プロデューサーさん、かっこいいいよね......えへへ」
______なんでそんなに嬉しそうなんだよ。褒められたのは自分じゃないだろ。
「あれ〜? 彼氏は否定しないの甘奈〜」
「え、マジで!? 本当に付き合ってんの?」
「......ははは、付き合ってないよー。プロデューサーさん、とっても大人だし......それにいつも私だけじゃなくて同じ事務所の子たちの面倒も見ているから」
______なんで残念そうな顔をするんだよ。まるで本当は付き合いたいみたいなそんな顔だろそれ。
「え〜でもでも〜。あの人めちゃくちゃモテそうだよ〜。早く行かないと取られちゃうんじゃないの?」
「マジそれ。相手が大人なら尚更こっちからガンガン行かないと無理じゃね?」
このクラスメイト達は頭が悪いのではないか。
アイドルである甘奈にそんなことを勧めやがって。
そもそもそのプロデューサーという男が本当にまともな人間なのかも分からないのに。
何なら甘奈はそれに騙されている可能性だってあるのだ。
芸能界は所謂そういう胸糞の悪いことだって横行している可能性だってあるのに、誰が甘奈を守るのか。
本当に友達ならそんなこと勧めることは絶対にしないはずなのに。
「......やっぱり、そう、思っちゃう、よね......」
______だから何だよその表情は。
そんな顔、今までしたことなかっただろ。
「ああいうマジで出来るタイプの男は知らないところで声かけられまくりだよ絶対。彼女になる人苦労するよ〜」
「でもでも、そういうのひっくるめて好きになっちゃったんなら仕方ないよね。お姉ちゃんの彼氏さんも凄いモテるからそこは大変って言ってたよ。あいつは確かにかっこいいいけど本当に良いところは外面じゃなくて中身なんだよってすんごい惚気けてきたけどねー」
お前の姉の惚気は至極どうでもいい。
それよりも件のプロデューサーという男について俺は知りたいのだ。
「そう、なんだ......そうだよね。プロデューサーさんやっぱりモテるよね......分かってたけど」
重く溜め息を吐く甘奈に周りのクラスメイトはきゃーホの字だホの字だーと騒ぎ立てる。
今この教室には課題をしている彼に甘奈と二人のクラスメイト、他数人の女子のグループがいるくらいだ。
もしこの教室に男子が居たのなら彼みたいに彼女たちの会話に耳を集中させていただろう。
______本気でそんなよく分からない男に惚れてるのかよ。
彼の心はドス黒い何かに染まっていた。
いや空洞の黒というべきか。
______俺の方が甘奈のことを昔から知っているのに。
「プロデューサーさん、最近とっても忙しくてね、送迎もあんまり出来なくなっちゃって。でもプロデューサーさんは本当にごめんなって申し訳なさそうに言ってくれて、私も気にしないで大丈夫だよって言ったんだけど、もし何かあったらすぐ言ってくれよって言ってくれて、それでプロデューサーさんが......」
そして始まったのはあの甘奈からは信じられない程の惚気話であった。
大崎甘奈はめちゃくちゃモテるのだ。
同級生、上級生、下級生関係なくモテる。
しかし今の今まで誰かと付き合っているという情報は一切なかった。
それ故に彼女がアイドルになると聞いたときもある種安心感はあったのだ。
甘奈はそんな簡単に誰かと付き合ったりしないと。
だが実際はどうか。
彼女はプロデューサーという年上のまだ会った時間で言えばきっと一年程度(アイドルになってからの時間を踏まえれば)で、浅い関係だ。
しかも甘奈はまだ未成年だ。
そういうのはまだ早い。
「きゃーそうなんだー! 超イケメンじゃん!」
「てかてか甘奈ちゃんとこういう話できてマジで嬉しいー!」
______こいつら全員マジでことのヤバさを理解できてないの本当に頭悪いな。
女子というのは他人の色恋沙汰が大好物なのだ。
そこに女子高生というステータスが付与されればそれは尚更のものとなる。
しかもそれが高校一番モテて、色恋と縁もなく、今を輝くアイドルの少女となれば関係者であれば誰だって気になるものだろう。
「......あっ、ごめん。電話だ」
するとスマートフォンを取り出したのが甘奈であった。
画面に表示された名前を確認したのか、彼女の表情は一変して目がキラキラと輝いているように見えた。
「も・し・か・し・て〜。愛しのプロデューサーさん?」
「ええ、マジで〜?」
そしてそんな甘奈の様子を微笑ましげに見る友達2人は早く出てあげなよと、促している。
「ちょっと、電話してくるね」
気のせいか早足で甘奈は教室を出ていく。
その後姿を手を振って送る友達2人はニヤニヤしていた。
「いやー甘奈もついに恋、ですかー」
「寧ろ遅かったような気もするけどねー。でも幸せそうであたし的には無問題って感じー」
甘奈が席を外した後も彼女たちは会話を続けている。
どうやら茶化しや冷やかしではなく、本当に甘奈のことを喜んでいるようだった。
「てか、ねえお前さあ。さっきっから何こっちジロジロ見てるわけ?」
そして甘奈の友達二人のうちの片割れ、金髪のギャルはギロリと視線を課題に手がつかなくなっていた彼に向いた。
「甘奈は優しいから何にも言わないけどさ、マジで見すぎだよー。もしかして自覚ないの?」
小柄な黒髪姫カットの女子は冷めた表情で彼を睨んでいた。
「は、はぁ? い、意味分かんないだけど......」
「いやさっきから甘奈のことずっと見てたよね。ジーッと、さ。甘奈マジで困ってたからね」
「み、見てねーし......」
「見てたよねーずーっと。途中であたしたちが席を移動して間に入ったの分からなかったのかな?」
確かに話してるときに謎に席移動はしていたが、ずっと見ていたなんてことはない。
彼はそう思っていた。
「......ねえ、それ私達もずっと気になってたの」
すると横から入ってきたのは教室にいた女子グループの一人であった。
「あんたマジで自覚ないんだったらやばいと思うよ」
「大崎さんを見る目、本当に怖かったよ。瞬き一つしないっていうか」
他のグループメンバーにもそう言われ、どうやらこの教室には彼の味方はいないようだった。
「お前、どうせ甘奈のこと好きなんだろ。でもさ、そういうのマジやめな。本気でキモいから」
「うん。まだ甘奈に告白して玉砕するまでだったら良いよ。でも自分の好きな相手が困ることとか嫌なことはしないのが普通でしょ?」
「は、はぁ!? べ、別に、好きじゃねーよ!」
「うっさ。そういうの小学生みたいだからやめろし。バレバレだろ」
「てかー大きな声出すのは本当にやめて。女の子ってそういうの本当に怖いって感じるんだよ」
「い、意味わかん______」
そして彼は気づいた。
周囲の視線に。
先程の女子グループとその他数人の女子たちは彼を心底ドン引きした表情で見ていたのだ。
その瞳には恐怖や嫌悪、軽蔑など様々なものが含まれているように見えた。
「な、何なんだよ!!」
「だからさ、そうやってすぐ大きな声出すのやめろって言ってんじゃん」
「......ちょっとやばいかも。甘奈のバッグ持って合流しちゃおう」
最初に指摘した彼女達も心底軽蔑した表情で彼を見ていた。
プラスの感情などそこには一切なかった。
「お前らあいつのこと全然分かってない癖に!!」
そう言って彼は課題を放り投げて気づいたら教室から出ていた。
______甘奈はそんなこと言わないのに。他の女はマジで糞だ!
彼はしゃがみ込むそうになるの抑えて走り、1階へ向かう階段の踊り場に足を踏み入れる瞬間、その足は止まった。
「えへへ、もうっ、プロデューサーさん。調子良いんだから〜」
その声は甘奈ものだった。
電話の相手は件のプロデューサーという男。
彼女の表情は今まで一度も見たことがない笑顔であり、その声もとても甘いもので彼の心をかき乱した。
「甘奈ね、今日英語の課題出したら文章の訳し方が一番良いですねって褒められたんだ〜」
_____甘、奈? そんな一人称であいつが話しているところなんて一度も見たことがない。
「え、プロデューサーさんも褒めてくれるの? えへへ〜......じゃあ、今度で時間ある時で良いから、またあのカフェに連れてってくれる......? その、2人きり、で......」
頬を赤く染めて恐る恐る告げる彼女の姿。
それは誰が見ても間違いなく、文句の言いようがない程に。
______恋に落ちてるじゃないかよ、こんなの!!!!
「え、ほんと? 連れてってくれるの? えへへ、甘奈との約束だよ。プロデューサーさん」
彼の心はズタズタに引き裂かれて、今にも消えてしまいそうだった。
自分が惚れた女の恋する表情に、心臓は潰れ、脳は焼き尽くされそうだ。
彼は今、完全に思考停止状態で只々そのやり取りを聞くことしか出来なかった。
「......うん、うん。じゃあ、また事務所でね。バイバイ、プロデューサーさん」
そう言って電話を切った彼女は足取り軽く教室へ戻っていく。
そんな彼女に彼は話しかけることは出来なかった。
彼女もすれ違う彼を一瞬だけ見るとすぐに目を逸らし、歩いていく。
彼はもう灰燼と化していた。
心が。
「______もう、終わったわ。何もかも。あーあ、糞みてーだわマジで」
そして彼はそれ以降、二度と学校へ来ることはなかった。
一人空いた教室の席。
誰も気に留めもしなく、気づけばまるで最初からいなかったかのように高校生活という時間は過ぎていく。
以上が大崎甘奈に狂わされた一人の哀れな男の話。
誰しもがなりうる悲しい話。
これはこの広い世界のその一端である。
甘奈に限った話じゃなくアイドルの同級生って色んな意味で辛そう。