奮闘セヨ! 枯渇鎮守府!   作:ゼンギョドン

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クールな響は語らない

 ある日、朝方。

 

 今日も今日とてやることがなく、雷は寮の近くをぶらぶらしていた。

 

 日差しを心地よく感じながら壁伝いに歩いていると、前の方に誰かいるのに気づいた。

 暁だ。

 

 忍者の真似事をしているかのように、こそこそと歩いている。

 

「何してるの?」

 

「ひゃうっ⁉︎」

 

 ビクッと肩を震わせる暁。

 

 何度も左右をキョロキョロした後、彼女は振り返った。

 

「なんだ、雷か……脅かさないでよね!」

 

「そっちが勝手に驚いただけじゃない」

 

「電は?」

 

「執務室よ。今週の秘書艦のお仕事」

 

「そう……じゃあ、行くわね」

 

 ほっと息を吐き、暁は雷に背を向ける。

 危うくそのまま見送りそうになるが、雷はハッと我にかえり、暁を追いかけた。

 

「それで、何してるの?」

 

「……調査よ」

 

「何の?」

 

「響よ。ほら、あれ」

 

 暁が指さす先には、長い銀髪を揺らしながら歩く響の姿があった。

 かなり距離があったが、右手に何かが入った袋を持っているのが確認できた。

 

 しかし、雷には何が何だかさっぱりわからなかった。

 状況を飲み込めないでいる雷に、暁は耳打ちする。

 

「気づかなかった? ここ最近、響の様子がおかしいのよ。声をかけても上の空だし、勝手にふらっといなくなるし。まるで、暁達に何か隠してるみたいに……」

 

 その瞬間、雷の脳内に今朝の食堂の出来事が蘇ってきた。

 

 

 

 今日の朝食は、バナナと渋井がくれた食パン。

 質素な食事ではあるが、5人揃ってワイワイ食べていたのだが……。

 

「……ご馳走様」

 

 そう言って席を立つ響。

 

 彼女が持ち上げた皿には、半分程残った食パンとバナナが乗ったままである。

 

 訝しげに、提督が尋ねた。

 

「ん? 残すのか?」

 

「うん。私は満腹だから」

 

「よし、なら俺に……」

 

「あげないよ」

 

 そのひと言で提督を撃沈させ、響は歩き出す。

 

 暁、雷、電は心配げに彼女の背を見つめる。

 

「響ちゃんがお残しするなんて、珍しいのです」

 

「もしかして、具合悪いの?」

 

「別に」

 

 それしか、響は言わなかった。

 

 

 

 

「確かに、ちょっと変だったかもね。珍しく朝ごはんも残してたし。それで尾行を?」

 

「そういうことよ。同型艦に隠し事なんて、レディのすることじゃないわ。必ず暴いてやるんだから」

 

 やる気満々、といった感じで、暁はふんすと鼻から息を吐いた。

 

 2人がそんなやり取りをしている間にも、響は歩いて行く。

 暁と雷は物陰に隠れながら後を追いかけた。

 

 距離を一定に保ちながら、気づけば響と暁達は工廠の近くまで歩いていた。

 すると、

 

「あ、響ちゃん」

 

 前から電が駆け寄ってくるのが見えた。

 暁と雷は、咄嗟に近くの茂みに身を隠し、響と電の会話に耳を傾けた。

 

「ちょうど良かったのです。司令官さんを見ませんでしたか?」

 

「見てないね。もしや、また逃げ出したの?」

 

「そうなのです。書類の整理整頓を面倒くさがって、窓から逃げてしまったのです。電はカンカンなのです!」

 

「早く見つかるといいね。じゃ」

 

「? 響ちゃんも何か探し物ですか?」

 

「……そんなところ」

 

 そう言って立ち去ろうとする響。

 

 しかし、電は逃さなかった。

 

「……ところで響ちゃん、その袋は何なのです?」

 

「……」

 

「響ちゃん。正直に言ってほしいのです。朝ごはんも残しちゃうし、何か変なのです」

 

 いつになく真剣な表情の電。

 

 心配しているのだろう。

 響が1人で何か抱え込んでいるのではないかと、心の底から彼女の身を案じているのだろう。

 

 だが……

 

「……ごめん」

 

「あっ! ちょっと待つのです!」

 

 電の制止を振り切り、響は駆け出した。

 

「逃げたー!」

 

「追いかけるわよ!」

 

 暁と雷も茂みを飛び出し、走って後を追いかけた。

 

 少しばかり走って、響は止まった。

 

 肩で息をしながら、暁と雷は顔を見合わせる。

 

「ここって……」

 

「倉庫ね」

 

 響は、倉庫の入り口前で立ち止まっていた。

 

 周囲を見渡し、誰もいないことを確認すると、響はホッと息をついた。

 そして、倉庫の扉に手を伸ばし……

 

「お、響。ちょうどいいところに」

 

 突然、提督が現れた。

 寝そべっていたのか、白い制服は土で汚れている。

 

 雷は咄嗟に、近くに電がいないか確認した。

 

 ……よかった、いない。

 

 一方、響はいつものように淡々と応じる。

 

「何だい、司令官?」

 

「電を見なかったか? 訳あって追われてるんだ」

 

「工廠の方にいたよ。カンカンに怒ってたね」

 

「オウ……どーしよ」

 

「自業自得だよ。執務室に戻ることを勧める」

 

「えー……」

 

 提督をジッと見つめたまま、響は動かない。

 

「……」

 

「……どったの?」

 

「執務室に戻ることを勧める」

 

「やだ! 電ちゃんコワイ!」

 

 雷達からは見えないが、きっと響はゴミを見るような目をしているのだろう。

 実際、提督は凄い顔でたじろいでいる。

 

 が、提督の顔は一瞬で元に戻った。

 いや、元に戻ったどころか、厳格な軍人の顔になっていた。

 

「それより、さっきから倉庫をチラチラ見てるが、中に何かあるのか?」

 

「…………何もないよ」

 

「ふーん……」

 

 提督と響の視線がぶつかり合う。

 

 まさに一触即発。

 雷と暁は思わず息をのんでいた。

 

 と、その時。

 

「あ! UFO!」

 

 そう叫び、何もない海を指さす提督。

 

 あまりにも突然のことに、響は反射的にその方を振り向いていた。

 

 ……ちなみに、暁と雷もひっかかっていた。

 

「よし!」

 

 倉庫に突入しようとする提督だったが……

 

「あばすッ⁉︎」

 

 近くに転がっていた角材を手にした響に後頭部を思い切り殴られ、その場に倒れ伏した。

 

「「司令かぁーーーん⁉︎」」

 

 暁と雷が茂みの中であたふたしている中、響は角材を放り投げて倉庫の中に入って行った。

 

 扉が閉まった瞬間、2人は茂みを飛び出して提督に駆け寄った。

 

 雷は慌てつつも脈を取り、生存を確認する。

 

「よかった、生きてる…….」

 

「でも、これで確定したわ。響には、こうまでして隠したい何かがあるのよ」

 

 魔王城を前にした勇者のような表情を浮かべる暁。

 確かに雷にも、赤煉瓦の倉庫がミノタウロスの迷宮のように見えてしょうがなかった。

 

 そっと扉に忍び寄る暁。

 

「開けるわよ?」

 

「うん……」

 

 雷が頷きを返した瞬間、暁は勢いよく倉庫の扉を開け放った。

 

 そこで2人が目にしたのは、ガラクタに寄りかかって目をしばたいている響の姿だった。

 

「…………暁⁉︎ それに、雷⁉︎」

 

 いつになく慌てた様子の響の膝の上には、灰色の毛の塊が乗っていた。

 

 よく見ると三角の耳がついており、細いヒゲや尻尾も生えている。

 口に食パンを加えた、小さな子猫だった。

 

 呆然とする暁達に、響はあちこちに視線を彷徨わせながら、必死に言葉を絞り出す。

 

「これは、その……」

 

「ニャー」

 

「猫? 猫さん? 何で?」

 

「隠し事って、もしかしてこれのこと?」

 

「えっと、その………………うん」

 

 観念したように、響は赤面しつつ頷いた。

 

「……実はこの前、倉庫の中にいるのを見つけたんだ。お腹が減ってるみたいだったから、朝ごはんを分けてあげようと思って……。隠してたのは……ほら、もし司令官にバレたら捨ててこいって言われるかもしれないからさ……」

 

「ニャー」

 

 子猫が鳴いた。

 暁はすっかり目を奪われている。

 

「そういうことだったのね……」

 

「なーるほど。この前の夜に現れた不審者も多分そいつだな」

 

「「「⁉︎」」」

 

 突然割り込んできた男の声に、艦娘達は一斉に振り返る。

 

 暁と雷の背後に、提督が仁王立ちしていた。

 

「し、司令官……」

 

「響の様子がおかしいと思ってたが、まさか猫とはな……」

 

 普段の響のように、淡々と言葉を吐く提督。

 そこから何か冷たいものを感じたのか、響は子猫を抱き寄せる。

 

 次の言葉を吐こうとする提督だったが……。

 

「待って司令官! あの猫さん、私達で飼いたいわ!」

 

「?」

 

 雷と暁が、響と子猫を庇うようにして、提督の前に立ちはだかった。

 

「面倒は私達でしっかり見るから!」

 

「あ、暁も雷に賛成よ! だからお願い、司令官! 捨てるなんて言わないで!」

 

「雷……暁…………」

 

 響が背後で呟くのが、雷には聞こえていた。

 

 しばらく無言の睨み合いが続いたが、やがて提督が沈黙を破った。

 

「……俺は犬と猫、どっち派だと思う? ペットとして飼いたがっているのはどっちだと思う?」

 

「「「……?」」」

 

「断然猫だ」

 

 提督は雷達に背を向ける。

 

「飼ってもいいぞ。俺も可能な限り手伝ってやるから。ただし、うちは色々カツカツなのを忘れないように」

 

 そう言い残して、彼は去って行った。

 

 途端に、倉庫は静まり返る。

 

 雷は振り向いて響に話しかけようとしたが、それより早く響の方から声をかけてきた。

 響は子猫を抱いて、少し恥じらいを乗せた上目遣いで雷と暁を見つめている。

 

「雷、暁……その……さっきはありがとう」

 

「いいのよ。姉妹を庇うのは当たり前のことでしょ。それより、私もパンをあげてみたいわ!」

 

「あ、ずるい! 暁が1番最初にやるの!」

 

 

 

 静まり返ったかと思えば、一瞬にして騒がしくなる倉庫。

 姉と妹に猫ごともみくちゃにされるが、響は笑顔だった。

 

 暁に響、電、そして提督。

 

 みんなが響のことを心配し、気遣ってくれた。

 それだけでも、響はバイカル湖のように深い感謝を、皆に抱くのであった。

 

「……みんな、スパスィーバ」




提督「さーて、これからまた騒がしくなるな。キャットフードも買わないとなぁ……」

電「やっと見つけたのです、司令官さん」

提督「…………電ちゃん、顔怖いよ? その暗黒微笑やめて⁉︎」

電「さあ、早く執務室に戻るのです。一緒にお仕事するのです」

提督「イヤーッ助けてーッ! 猫ちゃんでもいいからァァァァン!」
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