奮闘セヨ! 枯渇鎮守府!   作:ゼンギョドン

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遠征が失敗する理由は海賊だったりする

 今週の遠征当番は、暁と響だった。

 提督と雷と電、そして猫に見送られ、2人はいつも遠征に赴いている島に向かった。

 

 いつも通り、何の変わりもない日。

 

 しかし、ここからがいつもと違った。

 普段は成功しても少量の資源を持ち帰れるくらいだが、2人は偶然にも、いつもの倍近い資源を手に入れたのだ。

 

 島にこれ程の資源が眠っていることなど知りもしなかったが、暁と響はドラム缶に資源を詰め込めるだけ詰め込み、帰路に着いた。

 

 いつもは軽く感じていたドラム缶が、かなり重い。

 いつもより足も遅く感じる。

 

 それもこれも、資源が大量に手に入ったせいだ。

 

 暁は、響と共に引っ張るドラム缶を振り返り、資源の山を見つめながら心の奥底から湧いてくる満足感に浸っていた。

 

「るん、るん、る〜ん……」

 

「随分上機嫌だね、暁」

 

「当たり前でしょ? 大成功なんて珍しいもの」

 

「こんなに資源が手に入るのはいつぶりだろうね。司令官もきっと喜ぶ」

 

 そうね、と暁は返事しようとしたが、突然響が青い顔で振り返ったので、言葉を思わず飲み込んだ。

 

「……いや、司令官にこの資源を渡しちゃいけない気がする」

 

「何で?」

 

「『こんなに資源が手に入るとは! ヨシ、博打、行っとこう!』なんて言い出して、開発に全資源をぶち込みかねない……。レシピもろくに確認せず……」

 

「あー……」

 

 暁にもなんとなく想像がついた。

 

 彼女の脳内に思い浮かんだのは、持っている分の資源を全て工廠にぶち込み、完成したよくわからないものを抱えて戻ってくる提督の姿。

 

 響と同じように、血の気が引いた。

 

「司令官に無駄遣いされるくらいなら、猫ちゃんのお家を建てた方がいいわね!」

 

「だね。…………ん?」

 

 唐突に、響が前方を凝視した。

 

 きょとんと首を傾げる暁。

 

「どうかしたの?」

 

「何かが来る。あれは、船……?」

 

 暁も響と一緒に目を凝らす。

 

 響の言う通り、船が向かってくるのが見えた。

 おんぼろの小型船のようで、白波を立てながら進んでいる。

 

 かなりのスピードを出しており、最初は豆粒くらいだったのが、あっという間に全員の姿が見えるくらいにまで近づいてきている。

 

 さらに目を凝らして船を見つめる暁だったが──

 

「──! 逃げるよ、暁! 取り舵!」

 

「えっ⁉︎ 何、何⁉︎」

 

 突然響に手を引っ張られ、暁は慌てた。

 響はそのまま左方向に進路を変え、混乱しつつ暁も彼女に倣う。

 

 同じドラム缶を2人で引いている以上、一蓮托生。

 置いていかれるわけにはいかないのだ。

 

「説明してよ! 何なの!」

 

「船員が銃を向けようとしてた」

 

「は⁉︎」

 

「遠征帰りの艦娘を狙う海賊……。噂には聞いていたけど、まさか私達が狙われるとは……」

 

 真剣な面持ちで、響は言った。

 

 その言葉を聞いた瞬間、暁は何日か前に交わした提督との会話を思い出す。

 

 

 

提督「今度の遠征、お前らだったよな?」

 

暁「そうだけど?」

 

提督「いやな? 最近この辺で、海賊の目撃情報が増えてるんだよ。渋井の鎮守府も、遠征に向かわせた駆逐艦が襲われたりしたらしい」

 

暁「艦娘を狙う海賊なんて、随分と命知らずなのね」

 

提督「それがなぁ、ああいう商売やってる奴らは狡賢いんだよ。ま、とにかく気をつけろ。何かあったらすぐ鎮守府に連絡するように」

 

 

 

「どうしよう! 司令官に連絡しないと……!」

 

 狼狽する暁に対し、響の口調はいつも通り静かだった。

 しかし彼女の表情は険しく、珍しく焦りが見えている。

 

「鎮守府に救難信号は送った。けど、すぐには来れないと思う」

 

「そんな……!」

 

 直後、爆音が海上に鳴り響き、暁のすぐ横に水柱が上がった。

 間を空けることなく、機関銃の連続射撃が開始される。

 

 2人が振り返ると、海賊船は後方で回頭し、船首をこちらに向けようとしていた。

 

「今は逃げるしかない……!」

 

「そうね……! 最大戦速!」

 

 出せる最大のスピードで、暁と響は逃げた。

 

 しかし、重いドラム缶を引いているため、速力が出ない。

 

 海賊船との距離が、どんどん縮まっていく。

 

 船の先端付近に立つ髭面の男が、唾を飛ばしながら喚いた。

 

「ガキども、よく聞け! 命が惜しかったら資源を置いて行けェ! 泣く子も黙る海賊村上たぁ、ワシのことよ!」

 

「あんたのことなんか知らないわよッ!」

 

「大人しく憲兵に投降したらどう?」

 

「怖いもの知らずのガキどもだぜ! 柴、もっと飛ばせ! ワシらの恐ろしさを思い知らせてやろう!」

 

 海賊船がさらにスピードを上げる。

 

 その間も銃撃は続き、何発かは暁達のすぐそばを掠めていった。

 

「響!」

 

「大丈夫……!」

 

 言葉で互いの無事を確認し合う。

 

 それから、暁はしつこく追ってくる海賊船を振り返り、叫んだ。

 

「もうっ! 早くどっか行きなさいよ!」

 

 一方、海賊村上もイラついているようで、機関銃に当たり散らしていた。

 

「ええい、ポンコツが! 何故当たらん! くそ、こうなったら!」

 

 村上は銃座から飛び降り、筒状になった右手を暁らに向ける。

 

 それが小口径の砲であることは、暁にも理解できた。

 

「こいつがワシのとっておき、右腕砲じゃ! この最強の武装からついた異名は、"ライトハンド・カノン"よ! 生意気抜かす口を、こいつで吹っ飛ばしてやるわ!」

 

「避けてッ!」

 

「わあッ⁉︎」

 

 咄嗟に右方向へ舵を切る暁。

 

 その直後、再び爆音が響き渡り、先程まで暁のいた位置に砲弾が落ち、大きな水柱が立ち上った。

 水柱はすぐに、塩辛い雨へと変わる。

 

 その雨を浴びた瞬間、暁の体は勝手に動いていた。

 

 自分を狙って砲弾。

 跳ね上がった海水の味。

 

 深海棲艦と繰り広げた海戦の記憶が、自然と暁に行動を起こさせていた。

 

「このっ……!」

 

 振り向きざまに、主砲を海賊船に向ける暁。

 

 だが、砲口から砲弾が飛び出ることはなかった。

 

 相手が、深海棲艦ではないことに気がついたからだ。

 

 今自分が捉えているのは、守るべき人間。

 その艦娘としての縛りのような意識が、暁に引き金を引かせなかった。

 

「……」

 

「暁!」

 

 呆然としている暁の腕を、響が掴む。

 

「向こうに岩場がある。一旦そこに避難しよう!」

 

「…………」

 

 2人の前方には、遠征先からは外れている小島がある。

 ごつごつとした岩場が多く、岸近くの海面からは尖った背の高い岩が大量に突き出ている。

 

 2人は全速力でその島を目指す。

 海賊船も追いかけてきたが、岩場に乗り上げることを警戒してか、徐々にスピードを落とし、やがて止まった。

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