その日の朝、鎮守府にはコーンコーンという音が鳴り響いていた。
眠っていた暁達を起床させたのもその音であり、全員がまだ全開にならない瞳を擦った。
「……何の音?」
「わからない。でも、多分司令官だと思う」
響が真っ先にベッドから降りた。
今にも壊れそうな粗末なベッドである。
「司令官さん、早起きなのです……」
「こんな朝早くから何してるのかしら?」
「もしかして、新しい装備の開発とか?」
「建造をしてるかもしれないのです」
互いに推察を始めた雷と電に、暁は言った。
「こうしちゃいられないわ! 2人とも、早く着替えて。見に行くわよ」
★★★
4人が寮の外に出てみると、提督が寮の壁を金槌で叩いていた。
よく見ると、寮の壁には穴が空いており、提督はそこを塞ぐように木材を打ち付けていたのだ。
提督は4人に気がつくと、「よう」と声をかけた。
「起こしちまったか? すまんすまん」
「そんなことより司令官、何やってるの?」
「これか? 修理だよ。ほら、この鎮守府は古い海軍の施設をそのまま利用してるだろ? そこら中老朽化してボロボロだから、そろそろ本気で修理しないと全部の建物が倒壊しちまう」
「それはわかったけど……」
「……この木材のことを聞きたいのか? 暁よ」
こくりと頷く。
提督は軽くため息をついた。
「すまん。さっき街に出て木材大量に買った。でも言い訳させてくれ! こうしないと鎮守府が崩壊してしまうんだよ!」
「はわわ……。大変なのです……」
「言われてみれば、この寮もかなりボロボロね……」
納得したような様子を見せる電と雷。
しかし、暁はまだ不満だった。
「大工さんを雇った方がよかったんじゃ……」
「高いんだよ! おっそろしく高い金ふんだくってくるんだよ……。自分で必要最低限の場所だけ修理した方が安く済む!」
提督の表情はまさに必死である。
これには4人とも、何も言えなかった。
「お? そうだ、4人とも。せっかく早起きしたんだったら手伝ってくれないか? まだまだ修理せにゃならんところがたくさんあるんだよ」
提督は人数分の金槌と釘の入った箱を差し出す。
「やっていいの?」
「面白そう」
「電もやりたいのです!」
瞳をキラキラさせる4人に、提督は言った。
「うむ、何事も経験だ。んじゃ、レンガの建物の一階を頼む」
「了解! どんどん私に頼っていいのよ!」
自信ありげにどんと胸を叩く雷。
「よし、作戦開始! ぬかるなよ!」
提督の一声で、全員が一斉に駆け出した。
…………かと思ったら、電がこけた。
★★★
「うぅ……転んじゃったのです……」
目の端に涙を浮かべてベンチに座る電の頭を、雷が優しく撫でてやっている。
電の頭には大きなこぶができており、暁と響も心配そうに見つめていた。
「でかい怪我じゃなくてよかったぜ、全く」
腕を組みながら提督は言った。
「まあ、無茶はすんなよ」
「はいなのです……」
提督が立ち去った後も、電はベンチに座ったまましゅんとしていた。
「元気出して、電。転ぶことくらい誰でもあるわよ」
「雷ちゃん……」
「ほら、早く修理を終わらせてご飯にしましょ」
「大丈夫。行こう」
姉達に優しく声をかけられ、電は涙を拭って立ち上がった。
暁がふふっと笑い、作戦開始を告げる。
「よし、やるわよ! 今度こそ作戦開始!」
★★★
こうして、鎮守府修理大作戦が始動した。
みんなで試行錯誤を重ねながら、鎮守府の壊れた箇所を修理していく。
「暁ちゃん、ここを押さえてほしいのです」
「しょうがないわね。この一人前のレディに任せなさい」
「次はこっちを頼む」
「大丈夫よ、私がやるわ。響は別の箇所をお願い」
「ちょっと響! 指怪我したの⁉︎」
「стоит беспокоиться(心配ない)」
「電、救急キット取ってきて!」
「は、はいなのです!」
トラブルは多少起きたものの、穴が空いている箇所を見つけては木材を打ち付け、壊れかけているところも自分達なりに補強する。
作戦は順調に進んだ。
不慣れな作業ながらも、暁達の表情は明るく、心の底から楽しんでいるようだった。
そして……。
「終わったーっ!」
1階の修理が完了した。
「そろそろ木材がなくなりそうね」
雷の言う通り、残りの木材は残り僅かとなった。
「司令官に貰いに行きましょう」
「そうね。響、電。行くわよ」
とことこ駆け出す4人。
暁を先頭に廊下を駆け抜け、玄関の扉を開いたところで、中に入ろうとしていた提督と激突した。
「きゃあ!」
「おぉう⁉︎」
暁を庇うようにして尻餅をつく提督。
「あっ。司令官!」
「いててて……。その様子じゃ、あらかた修理を終えたみたいだな。お疲れさん」
「それより、木材がなくなっちゃったのよ。司令官、まだ余ってない?」
「ねえな。ちょうど今切らした」
「「「「えー?」」」」
がくりと肩を落とす4人。
提督はにまっと笑う。
「次に修理することがあったら頼むわ。そんじゃ、頑張ってくれた駆逐艦諸君、ご飯にするとしよう!」
途端にぱっと顔を輝かせ、4人は食堂へ駆けていった。
「うおぉーい!」
提督は絶叫していた。
食事を終えた後、急に寒気がしたのでトイレに行ったのだが……。
「誰だ! トイレのドアを封鎖した奴はぁ!」
ボロボロの男子トイレのドアには3枚ほど板が打ち付けられ、開かなくなっていた。