奮闘セヨ! 枯渇鎮守府!   作:ゼンギョドン

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 雷鳴が鳴り響き、執務室の4人の艦娘を照らし出す。

「……これって」

「大変なことになった」

「どうするのよ、これ……」

「はわわ……」

 床に倒れた"それ"を見下ろす4人は、その場に突っ立つことしかできなかった。


司令官の人形、壊しちゃった

 時は数時間前に遡る。

 

 今日も装備開発に資源を浪費し、4人の駆逐艦娘に叱られていた提督だったが、"偉い人"からの呼び出しが直後にあり、ある場所に向かうことになった。

 

 提督は執務室のロッカーから外出用の服を引っ張り出し、袖を通す。

 

「お子様は俺が帰ってくるまでいい子にしてろよ?」

 

「暁は一人前のレディなのよ? 言われなくても……って、お子様言うなーっ!」

 

 支度をしながらも、提督は暁を揶揄う。

 

「執務室の掃除だけはしっかりしておいてくれよ、一人前のレディさん。妹の面倒もちゃんと見る。いいな?」

 

「あのね、司令官。暁はもう子供じゃないのよ? 心配しなくても大丈夫よ」

 

「あー、それと。執務室の中にあるものをぶっ壊したりしたらただじゃおかんからな」

 

「はーい」

 

「鎮守府を綺麗にし終わったら、特別に夕食おかわりの権利をやる。労働の対価はこれで十分だろ?」

 

 暁の返事を待たずに、提督は執務室を出て行った。

 

 それから、暁は響、雷、電を集めて掃除を開始した。

 

 ゲーム時間を増やして貰えるということで、4人の気合いは普段の数倍近くあった。

 

 雑巾掛けから窓拭き、ゴミ捨てまで大急ぎでこなしていく。

 途中、電がホウキにつまづいてゴミ箱をひっくり返すというハプニングも起こったが、全員で協力して片付けた。

 

 提督の執務室は確実に綺麗になりつつあった。

 

「レディにかかればこんなものよ。司令官に褒めてもらわなきゃ」

 

「それにしても司令官、散らかしすぎ」

 

「大変だったのです……」

 

「そういえば、本棚の上のホコリって落としたっけ?」

 

「まだね。暁がやるわ」

 

 レディは率先して動いてこそよ、と暁は付け加えた。

 

 4人は執務室を出て倉庫に向かう。

 そこに脚立があるはずだ。

 

 古びた扉を開けると、さまざまなものが山積みになった光景が目に入る。

 資源を浪費しまくった提督が作り出したゴミ……ではなく遺物の数々だ。

 

 レア度の低い装備やガラクタ、作った意図が全くわからないものまで様々である。

 

「ホントにいっぱい作ったわね、司令官……」

 

「何かは役に立つはずなのです。多分……」

 

 その中に埋もれた脚立を引っ張り出すと、4人はそれを担いで執務室に戻った。

 

「この辺?」

 

「もう少し右ね。そう、完璧」

 

 設置された脚立を登った暁は、本棚の上に並べられた大量のフィギュアを目の当たりにした。

 

 提督の趣味なのか、可愛らしい女の子のものばかりである。

 

「司令官ったら……」

 

 半ば呆れていた暁だったが、あるものを見つけた瞬間目の色を変えた。

 

「こ、これって……!」

 

 驚きの声をあげてそれを手に取る暁。

 

「暁ちゃん、どうしたのです?」

 

「これ、暁にそっくりじゃない?」

 

 そう言って暁が下にいる3人に見せてきたフィギュアは、たしかに暁そっくりだった。

 というか、暁であった。

 

「暁だね」

 

「暁ね」

 

「暁ちゃんなのです」

 

「やっぱり。司令官ったら、こんなものまで飾って……。そんなに暁に憧れてたのね。ちょっと嬉しいわ」

 

 そう言って、フィギュアを元の位置に戻そうとする暁だったが……。

 

「あ」

 

 手が滑った。

 

 フィギュアは高所から落下し、床に激突する。

 下にいた響達に当たらなかったのは幸いだったが……。

 

 フィギュアの右腕は折れていた。

 

 外では雨が降り始め、4人の絶望感を煽るかの如く雷鳴が響いていた。

 

 

 

 そして、今に至る。

 

「どうしよう……! 司令官に怒られる!」

 

 あたふたしだす暁を、響が落ち着かせる。

 彼女の口調は、こんな時でも冷静だった。

 

「一旦落ち着いて」

 

「でも……! 執務室のものを壊したらただじゃおかないって司令官が言ってたのよ! どうしよう! このままじゃ解体されちゃう!」

 

「いくらなんでもそれは大袈裟。落ち着いて、切り抜ける方法を考えよう」

 

 響は、雷と電に顔を向ける。

 

「やっぱり直すしかないんじゃない?」

 

「でも、司令官さんが接着剤を切らしてるってこの前……」

 

「それでも、やれるだけのことはやってみよう」

 

 

 

 ワイワイと作業を続けて数十分。

 

 フィギュアの修理は終わった。

 が、完成したのは美少女フィギュアとはとても言い難いものだった。

 

 何故かわからないが、フィギュアは艦船模型に姿を変えて暁達の前に佇んでいた。

 

「暁(艦娘)が暁(駆逐艦)に……」

 

「余計に悪化してるのです!」

 

「も、もうお終いだわ……」

 

 ますます絶望する暁。

 雷と電も万策尽きたといった表情である。

 

 しかし、響は違った。

 膝から崩れ落ちた暁の肩に手を置き、言った。

 

「素直に謝ろう」

 

「へ?」

 

「謝れば、司令官も許してくれるはず」

 

「そうかなあ……?」

 

 雷と電が頷く。

 

「響の言う通りよ。正直に言えば司令官は怒らないわ」

 

「電も一緒なのです。だから泣かないで欲しいのです、暁ちゃん」

 

「な、泣いてなんか……。暁はレディよ! レディは人前で泣かないの!」

 

 目元を拭って、暁は勢いよく立ち上がる。

 

「わかった。司令官に謝る。変に隠したりはしないわ」

 

 

 

「うーっす、ただいまー。雨に降られちまったぜ……」

 

 提督が執務室に戻ると、暁達が整列して待っていた。

 全員、真剣な表情である。

 

「……どったの?」

 

「司令官、あのね……」

 

 何か言いたそうに口籠る暁。

 雷に軽く背中を叩かれると、覚悟を決めたように提督を見上げてきた。

 

「司令官、ごめんなさい!」

 

 勢いよく頭を下げる暁。

 

「急に何だ? まさか、執務室のものぶっ壊したのか?」

 

「実はそうなの。この、暁みたいなフィギュアを落としちゃって……」

 

 そう言って差し出されたのはフィギュアではなく、駆逐艦の模型だった。

 雷と電が言う。

 

「みんなで頑張って直そうとしたんだけど……」

 

「こうなっちゃったのです……」

 

「何をどうやったらこうなるんだ!」

 

 思わずツッコミを入れる提督に、響に雷、電も頭を下げる。

 

「Мне жаль(ごめんなさい)」

 

「フィギュアがこうなったのは私達の責任でもあるわ。だから、暁をあまり責めないでほしいの!」

 

「司令官さん、本当にごめんなさい!」

 

 4人から一斉に謝罪を受け、しばし困惑する提督だったが……。

 

「わかった。お前らの真剣さに免じて許してやる」

 

 同時に顔を上げる4人。

 

「だが、流石にお咎めなしとはいかんな。夕飯はいつも通り1食まで。いいな?」

 

「……わかった。ありがとう、司令官……」

 

「次からは気をつけるんだぞ?」

 

 暁の頭を、提督は撫でてやった。

 いつもは嫌がるはずの暁だったが、今回は俯いたまま何も言わなかった。

 

「それから、響に雷に電。お前らの優しさはマジで誇っていい。これからもその絆を大切にな」

 

 4人は顔を見合わせる。

 そして、もう一度頭を下げた。

 

「もうよせよ。それより、夕飯の支度だ! 今日は誰が最初に手を洗って座れるかなーッ⁉︎」

 

「こ、今度こそ暁が1番よ! レディの力、見てなさい!」

 

「みんなには負けない」

 

「私も負けないわ!」

 

「電も頑張るのです!」

 

 こうして、再び鎮守府はワイワイ騒がしくなるのだった。




 夕食を終え、艦娘達が眠った後。
 執務室で、提督は呼び出しの件を思い出していた。

 港に停泊する巨大な戦艦。

 過去の戦争で英国が使用したネルソン級によく似た艦であった。
 やはり軍艦の迫力には圧倒される。

 大きなテーブルが置かれた応接室にてその人物は待っており、提督が入ってくるなり鋭い視線を向けてきた。

「いきなり何の用ですか、大越中将?」

「いや、久々にお茶でもしようと思ってな。貴様も飲め」

 大越鷹山海軍中将。
 髭は綺麗に剃られており、若干禿げつつある白髪が特徴である。

 大艦巨砲主義を掲げ、従来の艦船による交戦を叫ぶ"大越派"のリーダー。
 艦娘に対しては否定的で、提督が"枯渇鎮守府"に異動になった原因でもある。

 提督はしかめ面のまま椅子に座り、差し出されたカップを受け取る。

「それで、考え直す気になったかね?」

「いや。俺の思いは変わらないですよ。俺はあの鎮守府で暁に響、雷、電と暮らすんで。お構いなく」

 大越はシワだらけな顔面に笑みを貼り付ける。

「よく嫌にならんな。あのような鎮守府に弱い女子が4人。横須賀の悪魔も堕ちたものだな」

「悪魔も歳とりゃ落ち着くんですよ」

 ずいっと身を乗り出してくる大越。
 提督は黙ってカップに口をつける。

「横須賀の悪魔よ、ワシは常に人類のことを考えておるのだ。いずれ、人類には自らの力で立ち向かわねばならぬ時が来る。いつまでも少女の力には頼ってはいられない。
 そもそも、この状況を異常だとは思わんのか? どこからやってきたのかわからぬ敵にどこからやってきたのかわからぬ女を使って立ち向かう。本来なら、海軍がやらねばならぬのだ。深海棲艦を撃破できる軍艦を造り、退ける。人類の未来のためにはそれしかないのだ」

「……あんた、今までの海戦を見てきたんですか? 従来の艦船はことごとく沈められてる。艦娘が必要なんですよ」

「必要なのは研究と優秀な指揮官だ。深海棲艦を調べ上げ、弱点を見つける。そして、対応できる軍艦を作る。それを指揮する提督がいれば完璧だ」

「果たして何年かかることやら」

「少なくとも、優秀な指揮官はワシの目の前にいる」

「だから、それについては考え直す気はないですよ。俺は艦娘を信じる。人類のために艦娘と共存する。それだけです」

 大越は鼻で笑い、テーブルに肘をついた。

「横須賀の悪魔よ、1年前から何も変わっておらんな。ワシをぶん殴ったあの日から」

「……もう聞き飽きましたよ、そのセリフは」

 提督はカップをテーブルに置き、椅子から立ち上がる。

 不敵な笑みを浮かべ続ける中将に、冷たい視線を送った。

「俺は艦娘を信用する。あいつらが戦うための支えになる。それだけです」
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