奮闘セヨ! 枯渇鎮守府!   作:ゼンギョドン

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 月曜日の献立、レトルトチャーハン。
 火曜日の献立、レトルト親子丼。
 水曜日の献立、レトルトグラタン。
 木曜日の献立、レトルト切り干し大根。
 金曜日の献立、レトルトカレー。
 土曜日の献立、レトルトひじき煮。
 日曜日の献立、レトルト中華丼。


たまにはレトルトも卒業したい

「もう我慢できないわ!」

 

 突然テーブルを叩いて立ち上がった暁に、妹達の視線が集中する。

 皿のタワーがぐらつき、さっと響が押さえた。

 

「毎日レトルト食品なんて、我慢できない!」

 

「この鎮守府に初めて来た日から何も変わってない」

 

「私達、何度も司令官に言ってきたけど……」

 

「『毎日美味いものを食わせてやる』って宣言したのに、何も変わってないのです」

 

 提督は確かに言った。

 彼女達と出会って間もない頃、レトルト食品で固められた献立表を見て異議を申し立ててきた4人に宣言したのだ。

 

『この鎮守府を豊かにして、毎日美味いものを食わせてやる。だから、それまで俺と一緒に辛抱しようぜ』

 

 結果、何も変わっていない。

 相変わらず出される食事はレトルトばかりだ。

 

 レトルトは安い。

 故に、提督は大量に買い込む。

 しかし、そればかり食っていると飽きる。

 

「っていうか、よく1年間近くも我慢できたわよね」

 

「でも、そろそろそれも限界に近いわ」

 

 そう、暁は限界だった。

 朝起きて、レトルト。

 夕食に、レトルト。

 翌日も、レトルト……。

 

「レトルトばかり食べるのはレディらしくないわ! 響、雷、電! 遠征に行くわよ!」

 

「え? たしか、遠征に行く日は明日だったはずなのです……」

 

「いいのよ。前回しってやつよ」

 

「“前倒し"じゃないの?」

 

「……」

 

 ともかく、レトルトに飽きているのは響達も同じであり、特に反対意見は出なかった。

 

「そうと決まれば、出発よ!」

 

「どこに?」

 

「それは……。今、考えるの!」

 

「でも、食べ物がたくさん手に入る遠征先なんてある?」

 

「「「「うーん……」」」」

 

 提督に貰った海図にはそんな場所は乗っていない。

 というのも、彼が作った海図は鎮守府周辺の海域を図面化しただけであり、遠くの海域に関しては何もわからないのだ。

 

 それでも、手がないわけではなかった。

 

「だったら、司令官の友達に聞くのはどう?」

 

 響の提案に、全員がハッとしたように顔を上げる。

 

「そうね。あの人なら何か知ってるはずだわ」

 

「早く聞きに行きましょ!」

 

「電話は私がかけるわ」

 

「ちょっと、それは暁の役目よ」

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 結局、受話器を取るのは暁ということになった。

 

 数回のコールの後に、女の声が応答する。

 

『"枯渇鎮守府"か。何の用だ?』

 

「な、長門さんでしたっけ……?」

 

『そうだが。うちの提督に用か?』

 

「はい……そうです」

 

『わかった』

 

 提督の親友である渋井隆道の秘書艦を務めるのは、戦艦娘の長門だ。

 

 戦闘の経験は豊富であり、渋井の鎮守府では最強を誇る。

 性格はまさに武人といった感じであり、声だけでも威圧感を放っている。

 

 ちなみに、提督も新人の頃は長門を怖がっていたらしい。

 

 やがて、交代したのか受話器からは男の声が聞こえてきた。

 

『よっ。どうした、戸部からのお使いか?』

 

 渋井だ。

 暁はほっとして、挨拶する。

 

「渋井さん、ごきげんようです」

 

『おう。んで、どうした? また資源の援助の話か?』

 

「いえ。実は……」

 

 暁は、渋井に要件を説明する。

 

『なるほどなるほど。つまり、提督がレトルトばっか食わせるから新しい食材が手に入る遠征先を教えてほしいと?』

 

「そうなるわね……じゃなくて、なりますね」

 

『何回も言うけど、もうちょい気楽に接してくれてもいいんだよ? まあ、それは置いといて。遠征先だったな? ちょっと待ってくれよ?』

 

 渋井がそう言った直後、受話器を離したのか小さな声で、

 

『江野島ぁ! 海図どこに置いたっけかぁ?』

 

 と聞こえてきた。

 

 その後はしばらく無言の時間が続き、後ろで見守る響達は沈黙が破られるのを今か今かと待っていた。

 

 そして……。

 

『お待たせ。あったぜ。しかも、そっちの鎮守府から近いぞ。ラッキーだったな』

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 というわけで、遠征開始である。

 

 渋井からの情報によれば、いつも遠征に行っている島の数十キロ先の沖に浮かぶ島に、食糧が大量に獲れる場所があるそうだ。

 

「ふふふ、これでレトルト地獄から脱出できるわ。みんな、気合い入れるわよ!」

 

 先頭を行く暁は、いつもより元気に見えた。

 

 電が雷に囁く。

 

「暁ちゃん、元気いっぱいなのです」

 

「そうね。あんなにやる気満々な暁は久しぶりに見るかも」

 

 途中、何度か船舶とすれ違った。

 輸送船や客船、軍艦まで様々である。

 

 船に乗る人々は決まって、第六駆逐隊の存在に気がつくと、甲板から手を振り、汽笛を鳴らした。

 

 暁達はしっかりそれに応えつつ、目的地に向かって航行を続けた。

 

 見渡す限りの海。

 他の艦娘も深海棲艦の姿もない。

 

 平和だ。

 

 そんな海を航行すること数時間。

 

「恐らく、あの島ね」

 

 4人の前には、巨大な島影が浮かび上がっていた。

 初めてくる場所なだけあって、4人の表情は緊張で硬くなっている。

 

「なんだか、不気味」

 

「ちょっと怖いのです……」

 

「大丈夫よ、電」

 

 不安げな表情の妹達を振り返り、暁は言った。

 

「怖がっちゃだめよ。レディは常に堂々としているもの。ここで怖気付いてるようじゃレディ失格よ」

 

「暁ちゃん……」

 

「さあ、行くわよ! みんな!」

 

 もう、引き返すことはできない。

 暁は覚悟を決め、真っ先に島へ向かって走り出していた。




「…………それで、その結果がこれだと」

 提督は半ば呆れ気味に4人が持ち帰ってきたものを見つめていた。
 島で回収できたのは、大量のバナナ。
 ドラム缶には溢れんばかりの黄色い果物が詰まっている。

 当然、勝手に遠征に行ったことは提督にバレてしまい、帰港した暁達を待っていたのはしかめ面の提督と彼によるお説教だった。

「まあ、レトルトばっか食わせてたのは謝るよ。でも、流石にこんなにバナナはいらんよ。放っておくと腐るし」

「じゃあ、どうするの?」

 と、響。
 提督はほとんど間を置かずに答えた。

「とりあえず半分は俺達で食おう。残りは渋井のヤローに送りつける。あいつが変なこと教えなきゃこんなことにはならなかったからな。あいつは俺と違って資源管理が上手いからなんとかなるだろ」

 しばらくの間、"枯渇鎮守府"の食事は全部バナナになった。
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