奮闘セヨ! 枯渇鎮守府!   作:ゼンギョドン

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夜のトイレが怖いのはみんな共通だと思う

 月光が鎮守府を包み込み、ぼんやりと影を浮かび上がらせる。

 真夜中のオンボロ鎮守府は静まり返り、昼間よりも廃墟感が増大していた。

 

 見慣れているはずの割れた窓や長い廊下に何故か恐怖心を抱く時間。

 それが夜だ。

 

 そんな鎮守府を巡回するのは提督の役目である。

 ちっぽけな軍事施設とはいえ、勤務しているのはおっさんと小さな女の子が4人のみなわけで。

 

 侵入してあんなことやこんなことをしようとしている変態がいるかもしれない。

 

 そんな事態に備えて、提督は右手に懐中電灯、ホルスターに拳銃を下げて鎮守府全体を1人で歩き回るのだ。

 

「……うし、あとは寮だけだな。早いこと終わらせて寝よう……」

 

 人に見られていないのをいいことに、提督は大欠伸しながら寮へと歩いていった。

 

 当然、中にいるのは駆逐艦娘が4人だけである。

 もう夜も遅いので、布団でのお喋りタイムはとっくに終わっている頃だろう。

 

 仮に起きていたとしても、提督が歩けば床が軋むのですぐに布団に潜り込むことだろう。

 

「……嫌だわこの雰囲気。何か出るんじゃねえか?」

 

 提督は敢えて床を軋ませながら、寮の廊下を歩いた。

 そのまま、4人が眠る部屋を通り過ぎようとしたところで……。

 

「司令官……」

 

「ぎゃう⁉︎ な、なんだ、暁かよ……」

 

 半開きの扉から寝間着姿の暁が顔を覗かせていた。

 

「……まさか、またか?」

 

 無言で頷く暁。

 提督は軽くため息をついた。

 

「いい加減、トイレくらい1人で行けるようになれよ」

 

「だって、夜の鎮守府は暗いじゃない。転んだりしたら大変だもの。司令官には、暁が転ばないようにエスコートして貰いたいの」

 

「自分で気をつけりゃいい話だろうが。つーか、一人前のレディじゃなかったのか? レディはトイレくらい1人で行くぞ?」

 

 暁がショックを受けたような顔になったのが、暗闇でもわかった。

 

「わ、わかったわよ! 1人で行く!」

 

 そうは言ったものの、部屋を出た暁の歩き方は小鹿のようにぎこちなく、戦闘時以上に周りを警戒していた。

 

 前後左右、キョロキョロしながら歩いていく。

 ちなみに暁達の部屋があるのは2階で、トイレは1階だ。

 

「……」

 

「……」

 

 壁を軽く叩く提督。

 その瞬間、暁がもの凄い勢いで振り返り、激しくキョロキョロし始めた。

 

 その顔は恐怖心に満ち満ちており、目には涙も浮かんでいた。

 

「……仕方ねえ。着いてってやるよ。1人で行けるようになってくれよ、一人前のレディ」

 

「う……」

 

 

 

 1階。トイレ前。

 

 提督は大欠伸しながら、暁がトイレから出てくるのを待った。

 

「……司令官、いるわよね?」

 

「いるよ」

 

「ほ、本当に? 本当の本当?」

 

「本当の本当の本当だ。俺のこと気にしてねえでさっさと出すもん出してこいよ……」

 

「れ、レディに対してそんなはしたない言い方は良くないわよ!」

 

「そいつは悪かった。1人でトイレ行けるようなレディにはこんなこと言わねえんだけどなぁ?」

 

 ちなみに、現在の提督はだいぶ不機嫌である。

 理由は簡単。

 眠いからだ。

 

 人は眠いとやたら攻撃的になる。

 提督も例外ではなく、いつも以上に当たりが強くなっていた。

 

「……」

 

 無言。

 静寂。

 

 波の音が僅かに聞こえてくるばかり。

 

 暁はぱったり喋らなくなり、提督は呆れ気味に扉の前に立った。

 

「急に静かになりやがって。まさか寝落ちしてねえよな、暁」

 

 ノックしようとドアに手を伸ばしたその時だった。

 

「ん?」

 

 提督の耳は、波の音に混じって寮の外にいる何者かの立てる物音を聞き取っていた。

 

 壁に何かを擦り付けるような、そんな音。

 

「誰だ?」

 

 侵入者か?

 だったら暁や響達が危ない。

 

 だとすると、今取るべき行動は……。

 

 提督は意を決して銃を手に取り、寮を飛び出した。

 

 

 

 ★★★

 

 

 

「司令官、いるのよね……?」

 

 途中で寝落ちしたものの、用を足し終えてトイレを出るだけとなった暁は、提督に向かって呼びかける。

 

 しかし、返事がない。

 

 暁の頬を、冷や汗が伝う。

 

「……え? 嘘……。司令官! ねえ、司令官ってば!」

 

 返事なし。

 暁の脳内に、最悪の考えが浮かんだ。

 

「もしかして、置いて行っちゃったの?」

 

 慌てて首を振って否定する。

 

「い、いや、司令官は暁を置いて行ったりしないわ……。そんなに薄情な人じゃないんだもの……。多分寝ちゃってるのよ。そうに決まってるわ」

 

 そっとドアを開けて、外の様子を確かめる。

 しかし、そこには闇に包まれた廊下があるばかりで、提督の姿はなかった。

 

 咄嗟にドアを閉め、暁はトイレの中で叫んだ。

 

「司令官のバカーッ!!」

 

 

 

 息を切らした提督が戻ってきたのは、それからしばらく後のことだった。

 

「くっそ……。すばしっこい野郎だったな。そもそもあれ人なのか?」

 

 ぶつぶつ言いながら寮に入り、トイレに向かう。

 

「すまん、暁。侵入者が……」

 

 何故かドアの前に響がいた。

 彼女の隣には暁もいる。

 何故か、2人して提督の方を冷たく見つめていた。

 

「……あれ、響? 何してんの?」

 

「暁を置いて行った薄情な司令官の代わりに待っていた」

 

「い、言い方キツくないすかね? いなくなったのには深いわけがあってだな……」

 

「……聞こう」

 

「侵入者がいたんだよ。恐ろしく素早くて小さかったから、多分人外の何かだ」

 

「……寝ぼけてるの?」

 

「寝ぼけてねえ!」




 その後、提督は暁にしっかりと謝罪したのだった。
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