奮闘セヨ! 枯渇鎮守府!   作:ゼンギョドン

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足りないものとはなんぞや

「暁や。俺は思うのだ」

 

 いつになく真剣な表情で、提督は言った。

 ただならぬ雰囲気に、執務室のテーブルの前に立つ暁の表情も固くなる。

 

「……急にどうしたの? 司令官らしくないわね……」

 

「暁。俺はしばらくこの鎮守府で過ごし、気づいてしまった。足りないんだよ。絶望的に足りないものがある」

 

「足りないもの?」

 

「そうだ。足りない。鎮守府にはずっと足りないものがある。何だと思う、暁」

 

「資源?」

 

 首を横に振る提督。

 

「違う。合ってるが違う」

 

「足りないのは司令官のせいなんだけどね」

 

「そいつはすまんな。そうじゃないんだよ。あれさえあれば資源の枯渇なんて全く気にならん」

 

「資源の不足も気にならなくなるもの? 何それ……?」

 

 首を傾げて唸る暁。

 しかし、どう頑張っても提督の言う足りないものは見えてこなかった。

 

「わからないわ。ヒント教えて、司令官」

 

「……ヒントなぁ。俺にはないし、お前らにもないものだ」

 

「暁にも司令官にもないもの?」

 

「そうだ。わかるか?」

 

 今度は暁が首を横に振る番だ。

 提督は軽くため息をつき、暁の胸元を見つめる。

 

「……ぺぇだ」

 

「は?」

 

「わからないのか! 大きなおっぺえだ! 絶望的に足りてないだろうが!」

 

「なっ……! はしたないこと言わないで!」

 

「ふっふっふ。男はな、定期的にはしたないことを考えないと枯れ果てる生き物なのだ。それはさておき、この鎮守府にはでかい胸がない。おっぱいが足りない。駆逐艦娘じゃどうしても足りない……」

 

 渾身の台パンが炸裂する。

 机上のコップが倒れ、書類がお湯で濡れた。

 

「俺はでかいのが好みなんだぁ! 既に枯れ果てたこの鎮守府には癒しが足りない! 揉ませてとは言わない! 見させてくれ! じっくりと! この眼で! 脳細胞ひとつひとつに焼きつかせたい!」

 

 暁はどでかいため息をついた。

 

「何事かと思ったら、いつもの司令官ね。真面目に考えて損したわ」

 

「そんなこと言うもんじゃないよ。この世は大艦巨乳主義だぜ?」

 

「知らないわよそんな主義!」

 

 すると、今まで机に突っ伏していた提督が顔を上げ、暁を睨んだ。

 その視線に、思わず暁は眉をひそめる。

 

「何を言っとるんだ。世の常識ぞ?」

 

「ほんとに?」

 

「俺が嘘をつくと思うか?」

 

「思う」

 

「めっちゃ傷ついた。いや、そんなことはどうでもいいんだ。暁、知りたくないか? 大艦巨乳主義が世界的なものかどうか」

 

 真剣な眼差しを向ける提督だったが、暁はぷいと顔を背ける。

 つま先は、出口の方に向いていた。

 

「興味ないわ。くだらないことで呼び出さないでよ。暁は忙しいの」

 

「ちょ! おい! 待て!」

 

 暁は提督の呼びかけに応じない。

 歯噛みする提督だったが、何か思いついたように勢いよく立ち上がる。

 

「でかい胸は、真のレディへの最短ルートでもある」

 

「……!」

 

 ゆっくりと振り返る暁。

 提督はしてやったりと言わんばかりの笑みを見せた。

 

「真の……レディ……?」

 

「YES、YES、YES。オーマイゴッド」

 

「ほ、ほーんの少しだけ興味が出てきたわ。聞かせて、司令官」

 

 提督は頷いて、再び椅子に腰を下ろす。

 

「先述の通り、大艦巨乳主義は世界的なものだ。世界各国の提督の共通認識でもある。貧乳派もいるらしいが今は置いておくぞ」

 

「世界各国の提督が?」

 

「そのとーり。かの有名な南郷平九郎提督やドイツのエーベルハルトも大艦巨乳主義者だ」

 

「え? それ本当?」

 

「本当」

 

 電話機をいじりながら、提督は言った。

 

 南郷平九郎。

 かつてロシアとの共同演習で完勝し、深海棲艦の大艦隊をほぼ無傷で壊滅させた伝説の提督である。

 噂では戦闘中の艦娘の中に混ざっているなんて言われている。

 

 寡黙な人物らしく、提督やその友人である渋井も彼の声を聞いたことがないという。

 

 エーベルハルトはドイツの提督で、戦艦娘であるBismarckとケッコンカッコカリしたことで知られている。

 艦娘へのセクハラや上官にも非常に馴れ馴れしく接するなど、あまりいい噂は流れていないものの、その指揮能力の高さは確かなものであり、幾多の戦いを勝利に導いてきた。

 

 エーベルハルトについてはなんとなく察していたものの、南郷に関しては暁も知らなかった。

 というか、想像もできない。

 

「……なんというか、イメージが崩れちゃったわね」

 

「そう言うな。個人の趣味嗜好を尊重してこその多様性だ。と、いうわけで。現在ドイツのエーベルハルト氏と連絡がついております」

 

「!」

 

 提督が受話器を持ち上げる。

 陽気な声が執務室に響き渡ったのはその直後である。

 

『Guten Tag! 俺は今日もご機嫌だ!』

 

「うっす、エベさん」

 

『Wie geht es euch, Jungs? おんぼろ鎮守府のKind(お子様)によろしく伝えといてくれ!』

 

「……なんて?」

 

「お子様によろしくだってよ」

 

「むっ……」

 

「おいやめろエーベルハルト。暁が怒る」

 

「し、失礼な人……! レディに対する言動じゃないわ!」

 

 暁の顔は真っ赤である。

 当然そんなことは知らないドイツの提督は、おしゃべりを続ける。

 

『それで何の用だ? 俺は今日も今日とて、しつこく絡んでくる武装親衛隊の連中を追っ払うのに時間を取られてるんだぜ。話すなら早いこと口を開きな』

 

「やっぱ世界は大艦巨乳主義だよなって聴きたかった」

 

『Ja, natürlich! 何を当たり前のことを!』

 

 彼の口調に熱が籠る。

 

『デカければデカいほどいいんだ! 戦艦はみんなでけえから配備するしかねえわな! 最高だぜぇ』

 

「だろ! そうだろ!」

 

 暁に向けてニヤニヤ笑いを浮かべる提督。

 暁はぷいと顔を逸らした。

 

『燃費が悪かろうが関係ねえ! 癒し! マジ癒し! 実のところ、Bismarckちゃんとケッコンカッコカリしたのはぺぇが大きかったからってのも理由のひとつだ。これはあいつにも他の連中にも内緒にしてくれよ? 総統の言葉を借りるぜ、Bismarckちゃんのおっぱいぷる〜んぷるn』

 

 直後、受話器からは耳をつんざく爆発音が轟いた。

 提督は思わず受話器を投げ捨て、暁も耳を塞ぐ。

 

「……逆鱗に触れたな」

 

「無事かしら、あの人……」

 

「あの手の馬鹿は結構しぶといからな。心配せんでも大丈夫だ。多分……」

 

「司令官、ああならないように趣味嗜好を振りかざすのは程々にした方がいいんじゃない?」

 

「肝に銘じます」

 

 恐らく38cm連装砲で木っ端微塵にされたであろうエーベルハルトに黙祷する提督。

 暁は今日何度目かわからないため息をつくのだった。




電「1週間後、エーベルハルトさんはドイツの海軍基地から遥か遠くの海上を彷徨っていたところを発見されたそうです。無事でよかったのです」
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