〇ノベル海賊船ボーフォス号甲板
後に、『水の都の決戦』と言われる戦いの本番はノベルの怒涛のニトロ洪水から始まった。
ノベルはバットバットの能力者である敵が避ける隙もなく洪水で包み込み、そして起爆した。
それは遥か離れたウォーターセブンにまで見える大爆発だった。
先程の洪水とそれの爆発、この爆発と続きウォーターセブンの市民達に気づかれた。
ノベル達全員が、当初の作戦が完全に失敗したことを悟った。
だが、バットバットの能力は触れられたら即死とも言える能力だとノベル達は知っていた。
なお、この爆発にノベルの海賊船ボーフォス号には傷一つない。
特殊な金属をコーティングしニトニトの爆破の影響を防いでいる。
部下達は防護服を着てニトニトの能力を防いでいるが、本人以外が着ようとすると中のニトニトの起爆剤が爆破するように細工されている。
故にノベルが持つ最大火力を先手でぶつけた。
…武装色で固められたニトログリセリンの大爆発は武装色で防いでもなお爆破ダメージが貫通するものだった。
「や、やりましたね!」
ノベルの部下がノベルにそう言った。見聞色で敵の声が消えたので一撃で消し飛んだと思った。
作戦の失敗を悔やむよりもノベルを励まそうと彼なりに必死だった。
だが、
「馬鹿野郎!この程度であの敵が死ぬわきゃなぇ!!」
ノベルはこの爆発でも死んでいないことを即座に理解し、部下を叱責した。
部下よりも数段上の見聞色の覇気で男の行動を読み取っていた。
「そこだ!撃て!!」
側近がノベルの声よりも先に持っていたボウガンで闇に隠れた場所を射撃する。
彼もまた敵の動きに気が付いていた。どう防いだかは不明だがまだ生きている。
ノベルがニトロ洪水を再装填する時間を稼ぐ為だ。
側近の行動の意味がわかる部下達もそれに急いで続く。
ボーフォス号の至る所に隠れていた部下達が暴風雨の如くボウガンの矢を放った。
しかし、
「頑張って隠したのにバレるとは。…海賊がボウガンとは珍しい」
男は敢えて立ち止まって矢を眺めてそう言った。
直撃するはずの矢は男のいたはずの空間だけ勢いが止まった。
…部下達がそれを認識した瞬間、ノベル達に突如暴風が襲い掛かった。
気が付けば、武装色を込めたボウガンの矢のうち当たるはずだった矢だけがへし折れていた。
…男もまたもや消えた。暴風に乗って消えたのか、今の暴風に気を取られて見失ったか。
「…気化熱だねぇ。火と氷を同時に操れるのかい」
ノベルは敵の技の本質を見抜いた。敵は気化熱、否、空気を爆破している。
最初、ニトロに包まれた瞬間に空気を凍らせ、それを一気に解凍し、ニトロの爆破前に空気を爆破した。
それでニトニトの物量と爆発力を相殺した。
男は自身の能力を把握されていること、それを逆手に取ってそれ以外の技を使っていることを悟った。
「武装色を極めれば火自体は起こせますかい。凍らせるのはなんですかいね?」
側近が思わず溢す。氷の原理はわからないが理論上はニトニトの実を相殺できなくはない。
ノベルと同様にバットバットの実幻獣種という凶悪な能力という前提に思考を逸らされた。
バットバットの実の長所である引き起こせる闇。
ノベルはそれが意味をなさなくなるように膨大な物量で先手をとった。側近もそれが最適解だと思っていた。
だが、罠だった。ノベルは敵の策に嵌ってしまった。
そして、
「悪魔の実の能力では…な、バ!」
仲間の一人が『闇』に刈られた。それを見て他の仲間も防御態勢を取る。
見覚えのある敵の能力による奇襲と同じだった。古参達は自身の影に注意を向けた。
だが、それも罠だった。
「違う!これはソ…」
気が付いた仲間が叫ぼうとするが即刈り取られた。何人もの部下が刈り取られていく。
ノベルはそれが能力の闇ではなく、純粋な体術であることを見て取った。
「余所見すんなぁ!気張れてめぇら!!」
ノベルはそう叫ぶと、すべてに武装色を纏ったニトニトの洪水を一気に放出した。
武装色化すれば起爆を任意にできる上に破られても敵に爆破ダメージ、体積が大きいので最悪でもノベルに軽いダメージが入るだけだ。
「はぁ、はぁ…」
ノベルは大技を連射して息を切らす。
技自体は何度でも打てるが、敵の翻弄により精神力が削られていた。
そんなノベルを見て部下達はまたしても罠に嵌ったことを悟った。
…そして、自分達がノベルの足を引っ張ってしまったことも。
敵が今度はバットバットの能力を使って来た。それで皆がその奇襲を警戒した。
そこに男の莫大な覇王色を増幅させて一時的に仲間達の見聞色を見えなくさせた。
怯んだ隙に六式?の高速移動でヒット&アウェイで刈り取っていく。
敵は策を以て新世界の豪傑であるはずの自分達を再起不能にしていた。
部下がノベルの足を引っ張った。『そう思ってしまった』。
「…半数刈られたかい。死ぬ程ではないかい」
側近が部下達の安否を確認して言った。
前半の楽園ならば一人いただけで無双の豪傑が、半数を一人にやられていた。
「恐らく凍らせる方は能力じゃないね。…無事なのは良いが死んでいない?」
ノベルが側近の言葉に安堵の声を出すが、あの能力で死んでいないというのが気になった。
そこに男が現れた。船のマストの上部にいつの間にか佇んでいた。
ノベルは敵目掛けてニトロの洪水を浴びせかけた。
男は洪水がぶつかる直前にマストから飛び降りた。
「流動する武装色を纏ったニトログリセリンと武装色のボウガンで援護射撃」
男が分析した情報を淡々と話す。男は最初にやったようにニトロの洪水を気化爆発で防ぎ、自分の空間を作り出す。
側近は敵がマストから降り立った瞬間を狙いボウガンの矢を男に撃つ。
しかし、男が親指を弾くとその矢は衝撃音を立ててそのまま落ちた。
側近に続いて意識のある部下達がボウガンの矢を浴びせかける。
男はそれを見ても平然とノベルの方へ歩き出す。
「仮に味方が爆破に巻き込まれても問題ない技術力」
ボウガンの矢が当たる瞬間に加速した男はニトロの洪水をわざと爆破させて失墜させる。
武装色を纏ったボウガンの矢が爆発に巻き込まれてへし折れ、撒き散らされる。
「味方の被害を出さずに、逆に味方の救護もできる」
たった一人の敵は爆風を薙ぎ払い、演劇の発表を終えたように礼をする。
闇に浮かぶ儚さをも感じられる美貌が、ただの礼を神秘的に感じさせるほど美しかった。
「…敢えて仲間を救助させて手の内を探ると。…中々賢いかい」
側近は精一杯の皮肉を男に吐き捨てる。
そして、分析された以上は自分達がノベルの足手まといになると判断した。
口上を述べつつ、部下達にノベルが何も気にしないで戦えるように合図を出す。
「…だけど、あたしゃらには何一つ有効打になっていないよ」
ノベルは部下達が下がるのを確認してそう言い切った。
国を滅ぼせる力をたった一人に向ける。
ノベルはもはや勝ち負けではなく、部下共々生き残る為に目の前の男に全力で挑むことにした。
「…参ります」
男はノベルの気迫に答えるように身構えた。
そして、自分の目的の為の条件が整ったのを確認した。部下達がいると男の方が詰んでいた。
…男がこの海賊団に見た願いが潰えてしまう。それは結果的に自分の望むものではない。
だが、自分の好きなようにやらせて貰うと宣言した以上は負けるわけにはいかなかった。
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〇???
「…終わったかい?」
敵である男に最も知りたくないことを尋ねる。
…だが、そんな彼に取って想定外過ぎる光景が目の前にあった。
「ええ、私の勝ちです」
絶句する彼を見て目的を完遂したことを悟った。海軍ではない男はこの場での完全勝利を宣言した。
・ノベル
敵の能力の脅威を嫌と言う程知っているので、それをかき消す膨大なエネルギーを何度も消費してしまった。
男がそもそも能力を使う必要がない戦法が取れると悟ると今度は能力に頼り出す。
部下の援護が敵には通じない。それ故に最大戦力である自分が全力で当たる以外に部下達が助かる術無しと判断した。
相手の手札を知っているのに、自身の手札が割れてしまったので勝つのではなく殺す戦法を選択した。
…実はそこまで男の思う通りになってしまっていた。
・側近
ノベルと一番付き合いの長い部下。『~かい』という口癖は実はわざと。
空気を和ませる為と潜入等の時に特定されないため。
邪魔になると確信したのでノベルの想いを組み部下を避難させた。
…実はそこまで(以下略
・謎の男
海軍所属ではない。故に同胞のような彼らに思うところがあった模様。
能力を使いこなすのは良いが多用した前任者とも言える能力者にイラついたが、結果的に目くらましになったので何とも言えない気分になった。
男的には更生の見込みのない犯罪者なら兎も角、気軽に使うものではないと思っている。
三年間、海を守り続け海賊達と戦い続けた結果、あるストックが異常に貯まった。
実はしばらく前からその余った能力の活用法を思いついていた。