〇ウォーターセブン近海 とある船にて
Dr.ランプの診療所から出た男は魚人達を任せた後、13人の少女達を船に乗せた。
普段なら男はプッチの町へそのまま帰港する。だが、今回は取引に応じた13人がいた。
海上で誰もいない水平線。男はその取引の内容を少女達へ同じ目線で話していた。
「守るべきことを三つだけ。それができなかったら、取引は無効だ」
男は威圧を放つ。…子どもであろうとも許さないというのが第三者からわかる程であった。
絶対に広めてはならない奥の手を、自らの強さの源泉とも言える力を使用する気でいた。
「…」
孤児達全員がその圧に必死に耐えていた。
最年長11歳ルビーから最年少5歳トレーネまで全員平等に同じ圧を受けていた。
これに耐えきれなければ皆と離れ離れになるとわかっていた。
全員が自身の全力で逃げたい願望を封じ込めていた。
少女達は歯を食いしばり血が、握った力が強すぎて手の骨にヒビが入っていた。
…良識のある大人ならば目を背けるか、慌てて駆け寄るであろう異様な光景だった。
「…うん。良い覚悟だ」
男は少女達が圧に耐えきったことを確認してから圧を解いた。
男からすればほんの少しの威圧でも大人の海賊が逃げ出すくらいには感じられたと知っている。
男はこの精神力ならば器として大丈夫だと確信した。
もし、これから行う行為の途中で根を挙げても逞しく育つだろうと確信した。
男は子ども達へ治療はまだしない。食いしばった血、骨のヒビを治しては意味が無いからだ。
「はぁ…はぁ…」
少女達は空気が軋んだような圧力から解放されて息を切らした。
…男への大人気ない、理不尽等の罵詈雑言すら出てこないくらいにはもう限界ギリギリであった。
これ以上失いたくない覚悟が13人全員にはあった。
だが、
「酷なことを言えばそれが最低条件だ」
男は少女達へ絶望を言い切った。
Dr.ランプという人間嫌いの医師が人間扱いしない自身を使った人体実験、その成果を少女達はこれから体験することになる。
「…それでもやる?」
男は少女達へ最後の言葉を投げかけた。
もし、ここで辞めても各地に散らばることにはなる。だが、全員で威圧に耐えきった記憶を男は消すことはしない。しかし、ここから先は別であった。
「…」
少女達はお互いに顔を見合わせる。
既に涙目の少女達だが、決して首を横には振らなかった。
「今更、引く選択肢はないわ」
少女達のリーダー、ルビーは男に宣言した。自分達は決して屈することはない。
「…後悔しないことを心から祈る」
男はルビーからトレーネまで最後見渡して言った。
男は手を広げ、指を三本少女達の前に突き出した。
3つの条件をクリアした時、男は心からの同胞として彼女達を迎えるだろうと確信した。
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〇美食の町プッチ近海 とある船の甲板にて
「これを、まだ、後…」
そう言って少女の一人が呟き、そして倒れた。
同様にバタバタと13人の一人、また一人と倒れていく。
男の試練の『最初』が終わった安堵から意識を手放した。
「まだ、一回目何だけど…」
男はそう言いつつも耐えきった少女達を称賛する。
覚悟ある大人でも第一の試練とも言える洗礼に耐えきれたのはそうはいない。
彼女達の仲間への想いは並みの大人を凌駕する。それを見れただけでも満足であった。
しかし、
「まだ、倒れないよ」
皆が倒れていく中で一人の少女が男へ言い返した。
「…君は臆病なのに強いね」
男は一人の少女と対等に向き合いそう言った。
少女の足は震え、顔が青色になっている。身体は震え今にも気絶しそうになる。
だが、今まで誰もが意識を失う男が行う初回の洗礼、それを完全に耐えきっていた。
「…やっぱり、意地悪なんだね」
そう言うと、最年少の少女トレーネは立ったまま気絶した。
「ああ、意地悪なんだよ。…俺は」
男はその日、自分の後継足りうる存在をようやく見つけた。
・13人の少女達
お菓子の人が出す3つの条件という名の試練(拷問)を受諾した。
最初の試練の後、自分達は今逃げ出して、独り立ちすることもできると確信した。
だが、男の取引に最後まで付き合う覚悟。
…洗脳か何かかとも思える悪辣な手法に何人もの女を泣かせてないかと思っている。
・トレーネ(5歳)
お菓子の人に自分の後継に相応しいと認められた可哀想な人間5歳。
男曰く「人間5歳族」。大人でも根を挙げる試練、その一番キツイ最初を耐えきった。
男もこの偉業には賞賛しかない様子。トレーネとしては男へ一矢報いたつもりでいるが、当の本人は歓喜している。
一番臆病だが、一番強かった女の子。
・お菓子の人
三つの条件で取引した男。稀に見込みのある行き場のない者に取引を持ちかける。
大概最初の威圧で心が折れる。その次の試練に耐えきれる者は滅多にいない。
だが、試練を乗り越えた者は誰一人として裏切ることはないメンタルになる。
…試練を乗り越えたほぼ全員が悪質な洗脳、DV、ドS等と男へ悪態を吐くようになる。
なお、過去に出てきた慈善団体代表のセフィ・ローズもその試練に耐えきった一人である。