〇???遠海
ロジャー海賊団はとある理由でグランドラインを逆走していた。
何者にも捕らわれない自由な海賊、理由はただ一つ、グランドラインの真の最終地点に行きたいが為。
海軍中将ガープに追い回られようが、ロックス海賊団の大幹部と交戦しようが逆走を止めずに突き進む。
故に、『魔海』とその主と遭遇することも必然だった。
四年前から始まった伝説の守護者。『魔海を通る者は欲なきもの』と評される欲深き海賊の天敵。
絶望で満たされたこの世界のこの時代、前半の海では有り得ない程の強者が守る聖域だった。
必然で会合した二人の王は、目に見えぬ程に離れた位置からお互いのことを認識した。
お互い徐々に近づいていく。どこまでも真っすぐ、愚直なまでの直線の最短距離で近づく。
「これも必然か…」
魔海の主と言われる男は言葉を漏らす。
相手は後の海賊王、まだロックスも健在であるこの時代。知識ではそのまま通すべきだろう。
先日、CP0から来た仮面の男から交戦を避けるべき対象と伝えられていた。
男は情報に感謝を述べつつ厳守はしない。世界政府との距離を取る返答をした。
世界政府の事情は関与しない。だが、相手が格上であろうが、守るべき宝が後ろにあった。
「お前が噂の『魔海の主』か」
麦わら帽子を被った精悍な顔つきの男が顔を視認できる位置まで近づいて声をかけて来た。
麦わら帽子の男の名はゴール・D・ロジャー。後の海賊王その人であった。
「如何にも。そして、初めまして」
ロジャーの試すような威圧を躱して、男は軽口とともに自分も威圧で返す。
「…どうするレイリー?」
魔海の主の威圧から思わず自らの斧に手を回しそうになる男の名はギャバン。
後に伝説として語り継がれる海賊王クルー。仲間が構えそうになるのを諫めつつ副船長に尋ねた。
「噂に聞く程の獰猛さはないが…前半の海でこれ程とはな」
ロジャー海賊団副船長レイリーはギャバンに少し考えさせろと暗に言った。
だが、
「おい、お前。そんな風に引きこもってないで俺の仲間になれ!」
ロジャーがレイリーの考えも何も無視して勝手に『魔海の主』を勧誘し始めた。
「…それは断る。ここには私の宝がある」
魔海の主も思わず呆気に取られた。だが、律儀にその勧誘を拒否した。
「おい、ロジャー!」
レイリーは思わず叫んだ。海賊狩りしている男に海賊を勧めるなど正気を疑う。
…いつものことだった。レイリーはいきなり戦闘にならないことを意外に感じた。
「…そりゃあ、悪いことを言ったな」
ロジャーは拒否されたことよりも引き籠りと評したことを謝罪する。
そして、
「誘いは断るが…それは喧嘩を売ったと判断して良いよな?」
男はロジャーの謝罪は不要と売られた喧嘩を買う事にした。男は左手を海に沈めた。
「ああ、喧嘩か。いいぜ、やるか」
ロジャーは愛刀“エース”を引き抜いた。目の前の男はその価値のある奴だと認識した。
「あーあ…。おい、野郎ども!船長の喧嘩だ手を出すな!」
レイリーはロジャーの意図を組み二人に喧嘩をさせることにした。
しかし、この海でどうする気なのかとレイリーは思った。
レイリーの心配は不要だった。男もロジャーと喧嘩をするつもりだった。
誰もが沈黙したその瞬間、見渡す限りの海が凍った。
「はっ??」「海が」「凍った!?」
ロジャー海賊団のクルー達は思わず声を出して驚いた。この海で常識が通用することはない。
知っていてもなお、目の前の男がやったことに驚きを隠せない。
「喧嘩の足場には事欠かない。いいな、気に入ったぜ」
ロジャーは自らの船から飛び降りて足場を確認してそう言った。
ロジャーは男の喧嘩に横やりは無粋という男の熱い想いが聞こえた。
レイリーは離れているとはいえ、戦闘の規模を確信して船員に声掛けをしていく。
ロジャーは船から離れ真っ直ぐに魔海の主へと疾走していく。
常人には見えない速度で愛刀エースを横なぎに構えつつ突き進む。
「これで海軍も何も来ない。さあ、始めようか」
男はそう言って周囲の邪魔が入らない喧嘩を始めることを宣言した。
男はロジャーと同様に駆け出した。…最初の一歩で自らの作った氷の足場が粉々に吹き飛んだ。
その瞬間、二つの意志がバリバリと空気に音を立てていく。
それは覇王の素質を持つ者の中でも指で数えられる奥の手であった。
お互いが会合したその瞬間、触れていないはずの二人が止まった。
一人は愛刀を横なぎに、一人は全力で拳を振り下ろして。そして、天地が二つに割れた。
凍ったはずの海が噴き出し、氷は粉々に砕け散る。
足場も砕け散り、二人は近くの氷に飛び乗った。
「船!!船!!」
ロジャーのクルー達は慌てて、衝撃に巻き込まれた船を抑え込む。
二人の本気の一撃は、船は無事でも転覆しかねない激突だった。
「…船」
男はロジャークルーの声を聞き思わず呟いた。
「わはははは!!馬鹿じゃねぇのかお前!!」
男の呟きを聞き、ロジャーは大爆笑した。魔海の主の船はひっくり返っていた。
随分、丈夫に作ってあるのか男の船も無事のようだ。
だが、足場を凍らせても砕け散ったら意味がない。馬鹿じゃないのかと大笑いする。
「うるさい!…『菓弾』」
男はロジャーの爆笑にイラっときた。
自分の足場を凍らせつつ、ロジャーの不安定な足場に目掛けて親指を弾いた。
見えない空気の弾丸がロジャーの足場の氷塊を真っ二つにする。
「あ、…野郎!!」
ロジャーは慌てて足場を捨てた。
ロジャーもお返しと男に向かって飛び掛かり愛刀を振りかざす。
「『神避』」
赤黒く目に見える広範囲に及ぶ飛ぶ斬撃を男に向かって飛ばす。
範囲攻撃となり、男にも足場を無くすことを強要した。
「糞!…『上華』」
男は足場を失ったので飛び上がった。
再度攻撃されても良いように空中で気配を分散し分身を縦横無尽に飛び回る。
「…そこだ!」
ロジャーは聞こえた男に向かって刀で追撃した。
正直、完全にはわからないので大体勘である。
「見事!…見破られたのは初めてだ」
男はロジャーが完全に見切ったと思い、賞賛の言葉を送った。
追撃をギリギリ交わしたが、正直危うかった。
今のは男が戦った最上位であるノベルすら見切れなかった技であった。
「当たり前だ!俺を誰だと思ってやがる!」
ロジャーは男の称賛に当然と言わんばかりに返した。
内心は勘で攻撃し、更に交わされたので悔しくて堪らない。
何より、
「…まだ、あんな。とっておきが」
ロジャーは男に確認した。
目の前の男が全力ではあるが、奥の手を隠していると悟っていた。
「…お前もだろうに」
男はロジャーが本気ではあるが、まだまだ戦えることを悟ってそう返した。
自分の友とは関係ない喧嘩である。ロジャーの全力でなければ出すのは友に申し訳がない。
「ふざけんな!お前から出せ!」
ロジャーは目の前の男の奥の手を出させてから、自分も全力を出すことに決めた。
普段はこんなことをしないが、イラっと来たのでこのまま続行する。
「お前から出せ!…俺の喧嘩だ!」
男はロジャーに本気を出させるに値しないのかと感じてイラっと来た。
その為、そのままの状態で続けることにした。
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〇3日後 ロングリングロングランドにて
「わはははは!そうかお前、菓子屋なのか」
ロジャーは肩をバシバシ叩いて大笑いして言った。
そして、酒を飲み男の作ったタルトを口にする。
「いてぇ!!…そこ叩くな!」
魔海の主はそう言って、ロジャーの怪我した脇腹を軽く小突いた。
オレンジジュースを飲みつつ自ら作ったリンゴパイを食べた。
「いてぇな、この野郎!」
ロジャーは先ほどまで喧嘩してた相手にまたやるかと凄んだ。
「お互い様だろ!!」
男もロジャーに返すように言った。肩に大怪我したのにバシバシ叩きやがってと顔に出ていた。
「宴会でまた喧嘩するな。二人とも」
レイリーは先ほどまでお互い全力で殺し合いをしていた二人を宥めすかせる。
個人の喧嘩で済まなくなってきたところなので、また始められると面倒だった。
「しかし、島に宴会する為の用意をしておくってどういうことだ…」
ギャバンは今更ながらわけのわからない思わず歓待に呟いた。
二日目、ロジャーと魔海の主はお互いキレて同時に全力を出して殺し合いをし始めた。
三日目にお互いキリが無いと笑い始めた。
近くに宴会できるだけの酒や食べ物があると男から切り出してきた。
毒があるかもしれない食い物をロジャーが食べ、男が飲み始めたのでなし崩し的に宴会が始まった。
「俺だって、見境なくやってないんだ。それなら海軍なりに任せればいい」
ギャバンの言葉が聞こえたのか男がそう返してきた。
場の空気で酔うタイプなのかとギャバンは思った。
「全力で戦って、一先ず荒らす訳じゃないとわかった。それならまぁいいんだ」
男は適当なことを言いつつ、義理は果たしたと開き直るように言い切った。
自らが絶死絶命の魔海の主と言われているのを知らないのかとギャバンは思った。
「俺達もウォーターセブンで船を見てもらうくらいだし、暴れる気はねえよ」
ロジャーはさらっと自身達の予定をバラした。
酒を飲み、肉を食らって平然としていた。
「ウォーターセブンは海賊での収入もあるからな」
男はそう言ってロジャーの予定を聞き流した。利用することなど考えていないようだ。
「取り敢えず、今日は飲もう。明日は帰らなきゃならないが、今日はセーフ」
男は余計な事を海賊相手に宴会を楽しむように言い切った。
魔海の主として流石に不味いが、空気を壊すのも野暮だった。
「おお、飲もう飲もう!」
ロジャーもそれに同意した。酒を一気に飲んで次の酒を用意させた。
こうして後に、語られる海賊王と魔海の主との三日三晩の死闘は誰も知らない形で幕を閉じた。
〇ロングリングの死闘
あまりの絶死絶命の戦いに海兵すら近寄れなかった後に伝説となる三日間の死闘。
二日目にお互いに焦れて全力全壊でやり始めた。
初日で交戦を把握したが、遥か遠方からでもヤバい規模で天地が割れ、海が嵐のように荒れた。
ロックス海賊団は魔海の主の想定戦力を甘く見積もっていたと上方修正した。
お互いに大怪我を負わせて引いたとされている。
ロジャーとの一対一の死闘であり、三日目に落ち着いた時は誰もが不安になった。
四日目の魔海の主の帰還とその怪我から想像を絶する死闘なのは誰もが理解した。
ロジャーの方も四日目にウォーターセブンにて大怪我を負ったのが確認されており引き分けたと解釈されている。
確かに引き分けたが、途中で面倒になり宴会でお開きにしたとはロジャー海賊団と当人しかしらない。
・ロジャー海賊団
記録指針の最終地点『水先星島』に到達し、最後の島でないことを知り引き返してきた後の海賊王。
この段階で原作全盛期並みに強い。原作39年前でゴッドバレー事件より前。
既に大物海賊として知られている。自分の知らぬ間に誕生した魔海の主に興味を持ちわざわざその領域に踏み入れた。
魔海の主とロジャー個人の死闘であるため、海賊団全員相手で被害を想定すれば勝てる。
後の伝説を経ていく中で魔海の主のヤバさを世界も認識する材料になった。
・魔海の主
最早、近海の主さんと並んだと畏れ多い異名だと思っている。
ロジャー相手には流石に能力含めて全力でないと死ぬと判断した11歳。
海賊団相手だと普通に死んでいたとのこと。
原作より遥か前なので、後の四皇海賊団を敵にまわすと厄介過ぎると認識した。
ロジャーを見定めて捕まえるかどうか判断するつもりだった。普通に大海賊時代とか嫌過ぎる。