大海原に漂う一隻の小舟。それに乗る少年の姿は絵画を繰り抜いたようにサマになっていた。
もっとも、少年は何かうつろ気な表情でリンゴを貪っており近くで見ると色々台無しであった。
少年はここがどんな場所か、大バカ者としか言えない無謀な状況に気が付いていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
二次創作というものを俺は知っている。
原作となる漫画や小説等があり、こうなって欲しかった等の『もしも』を自分で書く創作物のことだ。
前世ではあまり縁のないジャンルであったが、暇なときに夏目漱石の『坊つちゃん』の主人公が自分の立場ならばどう動くか等妄想したものだ。
そして、異世界転生というジャンルも知っている。
最近の物語小説で流行っていた。大体が死んだ主人公が強力な力を得て活躍する物語だ。
これを組み合わせると原作転生物なるものが発生する。
ここまできて何が言いたいのか。
…私は今世の幼少期で『うそつきノーランド』を読んだことがある。
つまりここはワンピースの世界なのである。
万が一それと同じ創作物かとも思ったが、北の海の絵本だという今は亡き両親の言葉がそれを反証する。
故に、ここはワンピースの世界。先日の空気を読む力は見聞色の覇気だろう。
地面にぶつかる前のは武装色か覇王色か或いは全く違う別のものかはわからないが。
問題はそれに気が付いた時には船出してしまったことだろう。
グランドラインの現在地がどこかもわからぬ船出は自殺にほかならない。
最低限の食料と方位磁針(ログポース)等は逃げ出す最中に手に入れた。
敵軍の吹き飛ばされた拠点にあった物をこれ幸いと奪って全力で逃走した。
だが、マシな点も幾つかある。
一つ目はログポースが滅茶苦茶になっていないこと。
後半の新世界は三つのログポースでログを辿っている程滅茶苦茶だ。
しかし、自分の手持ちは一つだが安定した指針を挿している。
これは前半の海であることの証拠といえ、まだマシな不安定さ加減の海である。
二つ目は見聞色の覇気が何故か安定して常時発動している点だ。
前世では座禅等の精神を安定させる素地がほぼ完成していた。
その為なのかはわからないが自分は見聞色が得意であり、常時アンテナを張っているような状況でも大丈夫のようである。
眠りも浅く何かあれば即対応できる…とまではいかなくとも最低限は出来ている。
今の所、死ぬ思いだったが嵐の前兆を読み取り回避する芸当も出来ている。
…原作ナミのような知識はないのだが。見聞色でこういう芸当ができるのかは謎だ。
三つ目は…
「これがアレなのか…」
俺はそう呟いて、果実の樽の底にあった果実を見る。
その果実は紫色の唐草模様でできた異様な実であった。
…最初に飛び出した時、果実の樽にはリンゴしかなかったはずなのだ。
この実は漂流のような旅路の推定3日目に突如出現した果実だった。
食えと言わんばかりのこの実を俺は知っていた。
「悪魔の実」
悪魔の実、ワンピース世界で実一つ手に入れる為に数多の冒険家が命を落とすとされている超能力を身に着けられる実だ。そして、デメリットは『海』に嫌われること。
「…大海原で出てこないで」
金に換えられるというメリットはあるが、次の島すら見えない現状ではデメリットしかない。
しかも、悪魔の実は意志があると原作で読んだ覚えがある。その中でも動物系は確実に。
この現状でこの確率は何らかの意志でもないと納得できない。
「身分の怪しい子どもが本物の悪魔の実だと換金できるかも怪しい」
俺は思わず頭を掻き毟りたくなるのを我慢して吐き捨てた。
…この実は持っているだけで厄ネタなのだ。
原作のゲッコー・モリアのように西の海から島を船にするくらい荒業を使わない限り海の脅威が常に付きまとう。
「…君に意志があるのならば」
俺は悪魔の実を見て問いかける。
奇妙なことに悪魔の実に対して、何だか他人ではないような気がしてならなかった。
「私の友といえる能力なのだろうか」
孤独の中でも意志を以て自分の下に来てくれた。
そう思うと思わず言葉が漏れていた。
「ならば…」
死ぬつもりはない。ここで食べたら溺れたら即死。
理性ではわかっていた。言葉を続けてはならないと自分に言い聞かせる。
だが、
「私の『友』として受け入れよう」
俺は悪魔の実を食べた。…食べてしまった。
そして、
「…おぇえええええええええええええええ!!!!不味いぃぃぃぃぃい!!」
…その『友』を思いっきり吐いてしまった。
・主人公
漂流5日目の大馬鹿者。
見聞色が異様に発達していると気が付いて安心したところに、ワンピース恒例のヤベー実がポップしてきた。
友達がいないので意志で自分のところにきたであろう悪魔の実を友達に見立てて二日話しかけるヤベー奴。
幾ら問いかけても答えてくれないので食べて聞いてみることにした模様。
なお、現在グランドラインの大海原である。馬鹿じゃねえのとしか言えない。