〇春の女王の町セント・ポプラ遠海
後に『ロングリングの死闘』と呼ばれる伝説の決闘から数日後、プッチの英雄が守る海、魔海はしばらくぶりに荒れていた。
詳細を知らない海賊が魔海の主が大したことがない偽りの虚構と思い、またその脅威を知っていてもその主が大怪我を負ったと知って魔海に押し掛けていた。
だが、結果的には彼らもまた『魔海』とその主の恐ろしさを改めて世に知らしめることになるだけの存在に過ぎなかった。
「なんで…魔海とか虚構なんじゃ…」
この海で名を馳せた猛者がまた一人倒された。7500万ベリーの賞金首黒光りのバラタ。
彼の黒光りする四本足での俊敏な動きは誰しもが止められぬと謳われた南の海の大物だった。
だが、
「…こういうのが増えたな」
魔海の主は雑兵と変わらぬようにパラタを適当に投げ捨てた。
海賊が思っていた虚構ではないことを示す。意にも介していないようであった。
男からすればあのロジャーと比すれば鈍足も良いところであったと思った。
四足歩行の技術も六式で十分であり、相手はただのその辺の悪人であり経験もあまり得るものがなかった。
だが、数が多くて怪我もしていたのは事実であった。面倒だが最近は助っ人もいた。
男は善良な市民としてその助っ人達には大変感謝していた。
「イタミ大佐!この船も全滅させたので捕縛お願いします!」
男は四年の付き合いになった21歳の女海兵に声をかけた。
プッチの町では頼れそうな農場のアイドル候補生(男の妄想)に迷惑をかけたくなかった。
子ども達は強いが男的にはプッチの町に治安維持を任せたかった。実際、強い上に男が不在でもその程度はいつもより犯罪者が増えていたが、子ども達的には容易だった。
「ああ、もう!またですか!」
イタミ大佐は思わず叫んだ。
先ほど四隻を護送の準備を終え、男に追い付いたと思ったらまた三隻の海賊を再起不能にしていた。
男の怪我を心配してきた自分が馬鹿みたいになる暴れっぷりであった。
イタミ大佐は例の男がロジャーと単騎で決闘を行い大怪我で帰って来たと聞き慌てて駆けつけた。
実際、男は大怪我を負っていた。
イタミ大佐はローブスター中将からの電伝虫にて自分とその後に来る応援でしばらく男の代わりに魔海を守るはずだった。
勿論その命令を受諾したが、男は帰って来たその足で即海賊鎮圧に向かった。そして、この有様である。
魔海で稼ごうと押し掛ける海賊もものともせずに、何なら男はいつも以上に海賊達を蹂躙していた。
現在はロジャーとの決闘開始から一週間、イタミ大佐が来てから三日目であった。
魔海と呼ばれる地域に押し寄せた海賊達、イタミ大佐の応援として選抜された海兵達は死を覚悟していた。
だが、その覚悟を吹き飛ばすかのように大怪我の男がほぼ一人で壊滅させてしまった。
二日目には応援ではなく、一時的に増えた海賊を移送する任務に変わった。
海賊達も魔海の主が健在であることを大多数が悟り始めていた。
海賊達が乗り込んでくるのも今日が山場だとイタミ大佐は思っている。
「五隻の海賊船が3時の方角にいるので潰してきます」
男はそう言って自分の船の後方を爆破して船ごと地平線に突っ込んで行った。
…無茶苦茶である。イタミ大佐はこの三日で男の海賊狩りのぶっ飛び加減と船の耐久性に慣れてしまった。
「怪我人なんだからもう少し…」
イタミ大佐は思わず声を漏らした。憐れみを感じずにはいられない雰囲気を醸し出していた。
そして、イタミ大佐は見聞色の覇気で北東に海賊らしき気配を感じ取った。
「…大佐殿」
応援から移送の任務に変わってしまった少尉は思わず年若き英雄に声をかけようとした。
だが、
「至急この者達を捕縛し、3時の方向へ向かいます」
イタミ大佐は海賊の気配から即臨戦態勢に移った。
山場な証拠か数が多い。それだけ平和な海での略奪が目当てかと憤りを感じずにはいられなかった。
「…大佐殿」
少尉は同じ言葉を別の意味を含ませて呟いた。
イタミ大佐は海兵としての切り替えが早すぎて魔海の主の理不尽さと比しても別の意味で大差ない同類だと思った。
・魔海に攻め込んだ海賊
ロジャーに大怪我負わされた今が稼ぎ時と思ったら休まずに切り返してきた魔海の主に刈られまくった模様。
魔海とか嘘臭いと思ってた海賊も攻め込んだ結果、大掃除としてその主に徹底的に狩り尽くされた。
主からしたら攻め込んできたのが陰湿なため、捕まった海賊はいつも以上にその後の精神異常がヤバくなった。
応援(後に連行係)の海兵の協力もあり、低級から中級までの魔海に近づかなかった海賊が魔海で全滅した。魔海以外でも雑魚海賊による被害が減少し治安が回復した。
・イタミ大佐
ロジャー海賊団と交戦を知り、慌てて駆けつけたG-8の英雄。
実際、大怪我をしていたのだが件の男は帰って来てすぐ海賊狩りに直行した。
ローブスター中将の命令もあり、慌てて追いかけると大怪我を負っている今がチャンスと言わんばかりに来た海賊を殲滅している男の姿があった。
初日は応援が来るまで捕縛や男が刈る前の海賊船を真っ二つにしたりして手伝っていた。
三日目は男がテンション高くなって手伝う必要がない程であったが、男が来る前に見つけた海賊船は念のため真っ二つにしたりしている滅茶苦茶な戦闘力の持ち主である。
・海軍本部(とG-8)
魔海を守っていた男がロジャーと交戦し、生きて帰って来たのを驚愕した。
そして、男が怪我で動けないだろうとしばらく役目を変わるつもりで戦力をかき集めようとしていた。
だが、男が即回復して海賊狩りし始めたため、古参の増援ではなく新兵に切り替え、移送任務として経験を積ませたることに変更した。
結果的に帰って来た日以外はイタミ大佐と一部だけで済み、滅茶苦茶な戦闘力を見る経験を新兵に与えられたので地味に+効果の方が大きい。
・魔海の主
ロジャーに負傷されたのと四日間開けたので海のゴミが押し寄せると思っていたら案の定来たのでイラっと来た。
農園の子ども達に治安維持を任せて魔海で暴れまくった。
暴れている間に傷はもう回復しきっている。
なお、農園の子ども達は本部佐官クラス並みに強くなっている模様。