拝啓、天国があればいらっしゃるであろう今世の両親へ。
私は常日頃から海のゴミ掃除をしているのはお話していたと思います。
定期的な掃除を行っていたのですが、所要で四日程休んでいる間にゴミが増えてしまいました。
あまりのゴミの量に私の知り合いのイタミ大佐等に協力して貰い一気に片づけました。
しかし、ゴミというのは沖に流されてきたりするものです。
町の中に潜むゴミ掃除も行う必要があり、それも海軍に手伝って貰っているところです。
たった四日でこうなった以上、二度と前例を作らないよう根絶やしにする必要があると思う今日この頃です。
〇春の女王の町セント・ポプラ 深夜
魔海の主が帰って来てから四日目、海軍の補助もあり主が暴れまわった結果その日のみで約50隻の海賊船が海軍本部や支部に連行された。
イタミ大佐はプッチの町以外のゴミ掃除をすると言い出した魔海の主に同行する羽目になっていた。…町に被害が出るから手伝って欲しいと言われたら断れない。
イタミ大佐は魔海の主が行うセント・ポプラでのゴミ掃除に付き合うことになった。
なお、入れ替わりに来た移送役の予定だった新兵達も同伴である。
新兵の為か、深夜の行動にやや疲弊しつつも海兵としての訓練は受けている。
予定が大きくずれてはいたが、自己の裁量で変更可能であり、町に潜む海賊等の捕縛程度であれば問題ないとイタミ大佐は断言できた。
男はセント・ポプラに着く前に海兵達に隠れるように指示し、上陸させた。
男に初めて会う本部から派遣された新兵達は訝しんでいたが、イタミ大佐は隠れて捕縛する為に必要な行為と追認してそれを徹底させた。
…男が自分の上役のようになっているが気にしたら負けだと思い込んだ。
「この町は船の資材となる材木の卸売市場だけあって結構海賊が紛れ込んでいます」
男はイタミ大佐に軽い口調で言い切った。
勿論、そんなことを聞いてない新兵達が動揺する。イタミ大佐がそれを鎮めた。
だが、イタミ大佐はたった四日空けていた程度でそこまで紛れ込むのか、何故海賊達が暴れる様子を見せないのかと疑問に思った。
「私が不在の間に紛れ込んで無理そうなら逃げ、大丈夫そうなら暴れると考えていたのかと」
男はイタミ大佐の疑問を汲み取り回答した。
男は町全体の気配を読みつつ、自身の推理と実情を比較していた。
ウォーターセブンは海賊相手に慣れているから問題ないが、材木の市場であるこの町で内部から暴れれば面倒であると確信していた。
なお、他の町は男自身で後日確認するが、この町程は問題ではないと慈善団体の“活動家”から情報を得ている。材木を扱うこの町は逃げるも隠れるにも最適過ぎた。
「それって不味いじゃないですか!?」
イタミ大佐は想像以上の状況に声を抑えて叫んだ。
地味に高等技術である。そして、男と会話する為に必要な技術であった。
新兵達を動揺させないように男に責めるように叫ぶためだけに使用する技術だ。
平和な町に各地から移民が増えている現状で家財を持って逃げて来た人々。
その財を奪って逃げるだけで莫大な被害が出る上にその対応は難しいと断言できた。
新兵達は自分達の任務がいつの間にか超重要任務となっていることに戦慄した。
だが、
「四日というのが引き際です。…隠れ潜んでいる以上、どうしても情報が遅くなるので明日からは逃げ出す者が次々出てくるでしょう」
男はイタミ大佐達の不安を一蹴した。まだ時間はあった。
男は複数の地図に書込みをして説明を続ける。
「海賊船の修理に必要な木材が揃うこの町なら市民に紛れて買い込んでおいて逃げるのにちょうど良い」
男は淡々と推理を述べる。男は既に見聞色で紛れている海賊の場所は全て把握していた。
海賊からすれば主の居ない間に火事場泥棒するはずが、地獄に放り込まれたようなものだ。
男は地図を海兵達に配布した。イタミ大佐含めて37枚である。
「海で暴れまわっているのならばまだ町まで目が行っていないと海賊どもは確信しています」
男は確信をもってイタミ大佐達に言い切った。
海兵達が渡された地図は目標を丸で囲まれており、新兵で対応するのは捕縛までで自分とイタミ大佐の二手に分かれて奇襲を仕掛けることが書かれていた。
新兵でもわかりやすいように想定外の事態への対処法も書かれてあった。
なお、海軍本部で学んだ方法よりもわかりやすく確実だと新兵達は思った。
要領の良い者は後でこの作戦そのものを本部にも伝えて情報共有しようと脳内でメモを取っていた。
「新兵さん達にも丁度良い訓練です。イタミ大佐ならプロの暗殺者以上に気づかれずに行動できますし、私も同様です」
男は海軍でもないのに最早、完全に場の指揮を執っていた。
新兵達の中にそれに反論する者はいなくなっていた。
かなり変則的だが正義の為に男に従う方が一番理に叶っていると確信した。
イタミ大佐はその事実にイラっときたが、話が早いので無理やりそれを飲み込んだ。
「新兵さん達は最悪でも息をひそめて残った雑魚を背後から殴るだけの簡単なお仕事です」
男は唯一の懸念事項を補足した。雑魚だと取り逃す可能性があった。
一人で全部やるとただでさえ権限を利用させて貰っているイタミ大佐の立場がない。
故にもし逃しても後で自分が仕留めるつもりではあるが、新兵が不意打ちされたりしないように念のために言った。
「バレないように一気に仕留めますので素早く展開していきますよ」
男はそう言って駆け出した。
先んじて賞金首達を仕留めに行くのだとイタミ大佐は悟った。
「ああ、もう!」
イタミ大佐は思わず地団太を踏んだ。
海軍ではない男に指揮権を取られたことは始末書ものではないかと思った。
だが、同時にそれが一番町に被害がなく収められることを確信していた。
男の性質的に海軍には絶対向かないのだが、もしいたとしたら強さだけでなく歴史に残る名参謀の才能があるとイタミ大佐は惜しい気持ちになった。
「A班、B班は地図の通りに行動を。C班は私に着いてきなさい」
イタミ大佐は男が地図配布時に分別していた班に指示を出した。作戦開始を宣言した。
「「「ハッ!」」」
イタミ大佐の正式な命令に新兵達は敬礼をした。
今回はだいぶ特例だが、自分達の行為が市民を守る重要な作戦である。
それを認識しているせいか、いつも以上に気力が沸いてくるような気がした。
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〇春の女王の町セント・ポプラ 翌日早朝
太陽が昇り、朝日がまぶしいセント・ポプラの町。
その町の住民達はいつものように目を覚ます。そして、いつものように窓を開けた。
そこには、
「糞ぉ…」
ズタボロになった男達が縛り上げられて町の通りを埋め尽くしていた。
良く見ると海兵達がその男達が逃げないように囲んでいた。
「おはようございます。セント・ポプラ市民の皆様方!」
市民達が声の主を見るとプッチの英雄、もとい、魔海の主がいた。
…市民達はそれが何かを即察した。良く見れば市長とその警備たちもいた。
「町を略奪する為に潜んでいた賊を全員無事捕らえたので今から海軍に連れて行きます。
皆さんは安心して今日も良い一日をお過ごしください!」
主はそう言って笑顔で手を振ってきた。市民達は思わず手を振り返した。
しかし、百人以上はいる賊が連行されていく中でハッと気が付いた。
「「「過ごせるかバカヤロー!!」」」
市民全員が町の危険を見せつけられて思わずツッコんだ。
勿論、町を守って貰ったことに感謝もしているが普通に怖いわ。そう思った。
〇春の女王の町セント・ポプラ
船の資材となる材木の卸売市場としての一面がある町。
魔海の主のお陰で守られてはいるが、主が大怪我をした隙を狙って海賊等が潜入していた。
潜伏しているので情報が遅く、直ぐに逃げられる用意こそしていたが逃げる隙なく軒並み逮捕、連行された。
懸賞金トータルで3憶近くになった。海軍の作戦行動としての側面が強いため、懸賞金を男に出すか否か微妙なラインだった。
男が懸賞金を辞退した為、民間協力者として多少の逸脱行為も見逃された。
元々町に潜んでいた低額賞金首も逮捕された為、著しく治安が回復した。
後から市長が魔海の主に感謝状を贈った。
なお、捕まった者の内、2/3以上が何かしらの精神異常を起こしたが詳細は不明である。
・海軍本部と世界政府
ヤバい戦力がヤバい貢献を積んでいくので胃がキリキリしてきた。
功績的に色々カンストしてきているので男の自由な活動を追認している。
後のガープ中将クラスで男が好き勝手できるようになるのを認めた。
しかも、犯罪をしなければ海軍や政府に縛られないのでもう自由人過ぎる。
敵対した場合が政府にも名声的にも武力的にも致命的になった。
なお、後の海賊王の件はまだまだ先の話になるので更に胃に来ることになる。
・イタミ大佐
魔海の主に言いくるめられたものの、大規模テロを未然に防ぐことになったので始末書等はもみ消された。
何より男とある程度親しいと判断された。昇進させるにしても男の監視ができるような特別部署を設置すべきと勝手に進路が決まった21歳。
男が海賊ではなく、善良な市民で事実を隠蔽必要もない上に事実を目撃されまくっているので隠蔽できない。
更に糞強いのでお前がなんとかしろと世界政府公認で役目を押し付けられた。
・魔海の主
善良な市民のまま功績だけが詰みあがっていく男。
犯罪者を刈りまくる癖に金品も政府に丸投げしてくるので賞金稼ぎと違ってヘイトコントロールすらできない。
もし、無理やり犯罪者にすれば世界政府の大問題になるし、敵になっても糞強い上に影響力がデカすぎるようになっていた。
政府としてはもはやある程度の融通を利かせないといけない立場になった。
男の計画通りだが、何でもかんでもお願いしてしまった政府加盟国の面々が一番悪い。