〇ウォーターセブン近海 ワームウッド海賊団船内
魔海の主はその日、自分の領域に入り込んだ新米海賊を相手にしていた。
2,500万ベリーの苦ヨモギのワームウッド率いる海賊団。
自分だけでなく監視役のイタミ少将もいる以上、何も問題ないはずであった。
「運の悪さと過信を監獄で呪うといい」
魔海の主は情報を軽んじた海賊船の船長に言い捨てた。
男は海賊団船長のワームウッドを秒殺した。
念のためにと奇襲したのもあるが、話にもならない強さだった。
「…海軍です!全員、降伏しなさい!」
イタミ少将は海賊達に降伏勧告を促した。
男は海軍ではないが降伏しやすいよう、イタミ少将は自分の所属を明示した。
イタミ少将は男が捕まえた海賊には必ず後遺症があることを知っていた。
相手は海賊ではあるが止める余裕があると判断した。
だが、
「「「う、うわぁああ!!」」」
イタミ少将の勧告は逆効果であった。…突然の光景に信じられず、船員達はパニックになってしまった。
「…イタミ少将?」
男はこの動揺はイタミ少将のせいではないかと肩をすくめた。
首狩りして動揺している間に全員殴った方が早かった。
「ご、ごめんなさい…」
年若き海軍将校は男の視線に耐えきれずに謝罪した。
「いいんですが、こいつらを黙らせてから…」
男は余計なことを言ったイタミ少将に小言を漏らす。
そして、その一瞬だけ残った雑魚海賊達から目線を離してしまった。
「うわぁああ!」
船医と思われる雑魚海賊が手に持っている物を咄嗟に投げた。
自分の身を守るための防衛本能。それ故に見当違いの方向に飛んでいく。
そこに、運命の悪戯と言うべき海風が海賊船を襲った。
「ッ!!」
男はグランドライン特有の突風に驚いた。
正確に言えば、その突風の先にあるものだ。目線を逸らした一瞬がとある可能性を産んだ。
意図しない攻撃は研鑽した見聞色でも読みづらい。だが、男にはそれすらも見えてしまった。
海賊団の名の無い船医が投げたドクロマークの瓶、それは突風に流された。
そして、
「キャッ!」
イタミ少将は驚いて小さな悲鳴を上げた。…目の前に現れたその瓶を思わず斬った。
真っ二つになった瓶の中身を突風が撒き散らした。
男が遅れてイタミ少将へ向かう。一秒にも満たない素早さだった。だが、全てが遅かった。
「…あれ、何か斬りましたか?」
イタミ少将は見聞色の覇気で捉えられなかった意図せぬ攻撃に困惑していた。
「イタミ少将、今すぐこれを」
男はイタミ少将に何か煎じたものを手渡した。
「え、いや、あの」
イタミ少将は海賊船でそんな近くに来た男に動揺した。…彼女は変な妄想をしていた。
「イタミ少将が浴びたのは何らかの毒です!これは邪含草…今すぐ飲んで!」
男はイタミ少将を怒鳴りつけた。説明している暇も惜しかった。
「は、はい!」
イタミ少将は男の指示通りそれを飲むことにした。
「…秒殺だ」
男は目の前の愚か者達に向かって宣言した。
唖然とする海賊団。男は一人を除いて文字通り秒殺した。
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一人を除いて全滅(死んではいない)した海賊船にて魔海の主は船医を問いただしていた。
「何!?解毒剤がないだと!」
男は海賊船の船医を締め上げた。イタミ少将に投げつけた瓶の中身は確かに毒だった。
だが、投げつけた当人は解毒剤を持っていないという。
「ほ、本当だ!仲間を治すために解毒剤を作ろうとしていたが、死んじまったんだ!!」
船医は思わず投げつけた瓶の中身を正直に吐いた。
男が船医の記憶を読み取った。…確かに前日、その仲間は死んでいた。
「あ、あの私大丈夫ですかね?」
イタミ少将は海賊船の船医の話を聞き真っ青になっていた。
イタミ少将はその致死毒をまともにかぶってしまっていた。
幾ら海軍将校で死ぬ覚悟はしていても致死毒を浴びて動揺しないわけがなかった。
「何で倒れていないのか不思議だが…」
船医は仲間が死んだ毒を被ったはずの女海兵を見て話していた。
だが、イタミ少将が何もないはずがなかった。
「あっ…」
イタミ少将は突然目の前が真っ暗になった。イタミ少将は毒が遅れて来たと直感した。
そして、そのまま…
「邪含草でも解毒しきれん猛毒か!」
男に抱きとめられた。男はイタミ少将の状況を察した。
男が渡した煎じた粉は邪含草。大抵の毒は無効化できる解毒剤だ。
男が手に入れ、農場にてトレーネ(6歳)の能力で量産化している秘薬の元だった。
「な、なぁ解毒剤があると言ったら…」
船医はその光景を見て適当なでっち上げをして助かろうとした。
目の前の男にとって目の前の女海兵は大事そうに見えた。…海賊らしく嘘も使う。
格上だろうが最後に生き残れば勝ちだとグランドラインの海賊船船医は知っていた。
しかし、
「聞くか、馬鹿野郎!!」
そんな見え見えの嘘は歴戦の、魔海の主にはすぐにバレた。
船医は顎が砕かれ、そのまま海賊船のマストに追突した。
海賊旗を掲げるマストがへし折れ、海に叩きつけられ盛大な飛沫が飛び散った。
「こうなったら…これしかない」
男は己の『友』の力を引き出した。
そしてその行為は男の脳内にある中でも机上の空論。一か八かの賭けだった。
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〇ワームウッド海賊団との戦闘から二時間後
海賊船で倒れこんだイタミ少将は目を覚ました。
何があったのか思い出す前に、良く知る男が自分を見つめていることに気が付いた。
「わっ!?」
イタミ少将はびっくりして飛び起き、何かに頭をぶつけた。
「いっ…たぁ!」
思わず頭を押さえて呻いた。
「目覚めましたか」
男は一か八かの賭けに成功したことを確信した。
取り敢えずイタミ少将は助かったが、後遺症が心配だった。
「あれ、ここは…」
イタミ少将は全てを思い出した。その上でワームウッド海賊の船ではないことを悟った。
「海賊船は船員全員縛り上げて牽引しています。…ここは私の船」
男はイタミ少将の反応を察して付け加えた。
「わ、私、生きてますよね!?」
イタミ少将は自分の生死を確認した。そのすぐ、何らかの方法で男に命を救われたことを悟った。
「生きています。…結構、賭けでしたが」
男はイタミ少将に生きていることは確かだと伝えた。
…動揺し過ぎて最低百年分はぶち込んだ自分の醜態はなかったことにした。
・ワームウッド海賊団
魔海のことを知らないで来たルーキー海賊団。
前の島で食人植物の毒にやられて仲間の一人が死んだ。
船医が解毒剤作る前に亡くなったので原因の毒だけ偶々持っていた。
船医が慌てて手に持っていた物を投げたら、突然の海風に乗ってイタミ少将に当たった。
ジャイアントキリングも真っ青な所業。普段なら見聞色で躱されてた。
・イタミ少将
魔海の主が命の恩人になった。猛毒を浴びたはずだが、普段よりも体調が良い。
気のせいか前よりも色々頑丈になった気がする21歳。恩を返そうにもどうしたら良いか悩み中。
・魔海の主
一瞬とはいえ目を離した。海風が来るのをわかっていたが毒瓶が当たるのを避けられなかった。
自分に毒耐性があっても仲間等がいた場合のことを想定していなかった。
それでも常備している解毒剤などの色々対策はしていた。
今回は未知の猛毒でかつ元となった毒も海賊団の船医がイタミ少将に投げたので最後と色々詰んでいた。
その為、一か八かにはなったが、自身の机上の空論とも言える奥の手を解放した。
イタミ少将を心配したあまり最低百年分以上のストックをぶち込んだ模様。
消費したストック自体は割と容易に回収可能だが、今まで試したことのない方法だった為に何らかの異常がないか心配している。