〇美食の町プッチ『フォーザデッド2号店』カウンターテーブル
魔海の主と呼ばれる男はその日、プッチでパティシエとして働いていた。
だが、昼前には店での仕事は終わり、店内では店員やペンギン達が客の接客をしていた。
町への移民に紛れた賞金首は農場の子ども達で対応できているし、店主が自ら改造した対能力者用クッキー兵器グランマも待機している。
この町の防衛は大物か億越えでもない限り心配は不要と断言できた。
それ故に、店主は客、特にイタミ少将と雑談していた。
男が店の仕事をしている間は適当な海賊船を最低一隻は真っ二つにしてくる女海兵である。
男が貸した予備高速船に慣れたイタミ少将は仕事として一日一隻潰してすぐ帰って来る。
最早、『魔海』内外で休みなくどこかの犯罪者は二人の一方に捕まるのが日常になっていた。
そんな中、一週間前の毒殺未遂事件から何かギクシャクしていたイタミ少将が男の想定外の質問をしてきた。
「私が困っていること?」
店主は目の前の女海兵から尋ねられたことを反復した。
男としては大分思うところがあったが、イタミ少将も気にしていたかと反省した。
「はい。何かありませんか?」
イタミ少将は再度男に尋ねた。
イタミ少将は男からそれに関しては気にするなと言われていたが、やはり気にしていた。
一週間経過しても命の恩を何で返せば良いか悩んでいた。
そして、結論として直接本人に聞けばよいとイタミ少将は気が付いた。
イタミ少将は男に直接聞けば聞かれたくないこと以外は答えてくれると経験則で知っていた。
「強いて言えば…私が優秀過ぎて困っている」
男は正直に答えた。…前世の知識と今世での文字通り血反吐で済まない努力の数々。
その結果、男は大抵のことは自分で出来てしまっていた。
「え、あっ、はい」
イタミ少将は滅茶苦茶な、だけど男らしいと言えばらしい答えに言葉が詰まる。
「例えば一流の医者が50~60として、私は大体40はある」
男は魚人の医者であるDr.ランプから言われたことを思い出して言った。
Dr.ランプは70くらいだが、毒でも相手してられないのにこれ以上は無理と断られていた。
「それ以外にも大概の知識、技能はそれ相応には習得済みと言えます」
男はイタミ少将にそう言い切った。平均的な海賊・海兵等の専門職と遜色しない程度には収めていると断言できた。
なお、店内で商品を買っている客は男の一見傲慢にすら聞こえる発言を一切気にしていない。
町で医術、体術、他知識や技能を有するのを直接見て来た。
更には店に店主の趣味で無駄にある数々の雑誌がその知見の深さを証明していた。
「…なら、十分では?」
イタミ少将も男の万能さ加減を知っているので否定はしない。
人格的に大きな問題を抱えているが、恩を返したくて悩みを聞いているので我慢した。
「それでも超一流には程遠い。例えば医療大国ドラム王国なら平均80~90はある」
男はそう言って肩をすくめた。男の知識や技術には『魔海』という限界があった。
それ故にどんなに努力しようが超一流には届かない。
男が自信を持てるのはウォーターセブンで学んだ船大工やプッチでの調理技術、訓練と実践等の戦闘くらいである。科学は500年未来の存在がいるので負けると判断している。
ドラム王国は原作の評判に偽りなしの医療大国であった。男が常駐する魔海の範囲では有り得ない程に優れていた。
「…結構気にしていますか?私は助かったのですが」
イタミ少将は男が自分の不甲斐ない失態のせいで大分気にしているのではと察した。
男が何をしたのかはわからないが、自分の身体は軍の医療班曰く全て健康としか表せないと言われていた。
男が一か八かと評していた何かが気になって仕方がないが、命の恩として聞かずにいた。
「それは兎も角、現状私に物を教えられる人材が付近にいないことが問題なのですよ」
男はイタミ少将の反応を悟り、強引に話を切り替えた。
例えに適切なのが医療だったので引き合いに出してしまった。
「…剣術でも学びますか?今更ですが」
イタミ少将は男に確実に優っている分野を挙げた。
数回だけだが、男の剣術を見たことがあった。一応、自分以下ではあった。
「…剣術では確かに超一流。学ばせていただけるなら」
男は剣術から学べる事もあると思い、イタミ少将に頼んだ。
慣れない知識だけの武器を使うよりも直接ぶん殴った方が魔海近海では早かった。
だが、ロジャーのような超一流相手だとステゴロでは怪我をする。
男はパティシエとして手が吹き飛べば危険なのでどうにかしたいと思っていた。
二人はそう決まると店から外に出て、人気のないところで剣術指南をすることにした。
斬り合いでわかることもあるというのが二人の共通認識であった。二人とも大概脳筋であった。
そして、その日、プッチの町の人々は天が二つに割れるのを目撃することになった。
・イタミ少将
海軍から全て健康と断言された21歳。
検査で使われた注射針の跡すらすぐ回復する自身の肉体にやや違和感を感じている。
軍には猛毒を食らって無理やり回復したらこうなったと説明した。
事実間違っていない上に嘘発見器的な物にも引っかからなかったので取り敢えず保留された。
肌艶が良すぎると他の女海兵から揶揄われ、男海兵から魔海の主への怨嗟が止まらない。
・魔海の主兼プッチのパティシエ
武器で戦うよりも殴るのが早いので今まで殆ど使わなかった男。
剣術も襲って来た海賊の模倣や海兵の模倣等の経験値しかない状態。
実戦形式の剣術のみの模擬戦闘で格上の剣士に力押しで食らいつくも負けた。
というか、イタミ少将が戦いの中で覚醒して軽く引いた。
独学と見聞色の模倣と反則技しかないので医学を始めとする正当な知識を欲している。
なお、クッキー兵器グランマは慢心した自然系能力者くらいなら倒せる男の開発した戦闘兵器の33号である。
男的にはベガパンクには到底及ばない作品ではあるが、日々改良を続けている。