グランドラインにある海軍本部第8支部、通称「ハリネズミ」。
頻繁に潮が満ち引きを繰り返すその立地を活かした設計から海賊からは鉄壁の要塞と恐れられている。
その中でもトップに立つローブスター中将は海軍の中でも歴戦の猛者。
50年以上前の伝説の海賊“赤鬼のブロギー”と“青鬼のドリー”が率いる巨兵海賊団と渡り合ったと言われる伝説の海兵であった。
そんな海賊が寄らない不落要塞に一隻の船の幻影が見えたと見張りからの報告があった。
「…最近、鈍っていたか」
この支部で最も偉い部屋にてそれを聞く、額の十字の傷跡を擦りながら老人は溢した。
白い顎髭を蓄えているこの老人こそ“老星”ローブスター中将。自分の勘が只の船ではないと確信していた。
「この要塞に乗り込んでくる海賊など…」
ローブスター中将の言葉に報告に来た年若き少佐は思わず言葉を漏れそうになる。
だが、
「お前、それが海賊であったらどう責任を取る?」
ローブスター中将は少佐の言葉を遮り威圧するように前のめりに言った。
「は、はっ!申し訳ありません!!」
威圧に怯んだ少佐は凄まじい勢いで謝罪をする。
予定外の船という事態が既に異常事態なのだと認識を改める。
だが、その叱責の続きが来る前にかたつむりのような生物、電伝虫が鳴り響く。
「どうした!何かあったか!」
ローブスター中将は続きを後回しにして電伝虫の受話器を取った。
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所変わり、海軍本部第8支部の停泊場に止まる異質な船が二隻あった。
一つはただ小舟。もう一つは…海賊船であった。
そこには数十人の海兵と一人の男がいた。
その男は顔立ちの整った、だがやや不健康にも見えた。
海賊から奪ったのかやや体型と合わない大柄のコートを羽織っていた。
「…」
男は最低限の言葉で用件を伝えて以降、用件が済むまで待機するつもりのようだった。
そこへ、何かが飛び降りて来た。
何かは意志を以てその男の前に軌道を変えて降り立った。
「無法の賞金稼ぎが何故この要塞に来た!」
降り立った何か、“老星”ローブスター中将自らがその男へ言葉を投げかけた。
実はこの要塞『ハリネズミ』に来る賞金稼ぎは全くいないわけではない。
だが、正面から堂々と入るのではない。
少し離れの引き渡し場か事前に連絡を入れてからがこの要塞に来るのが慣習となっていた。
しかも、この男に関してはもう一つ事情があった。
「海賊の内通等ではありません」
男はローブスター中将に恐れることなく、海賊と繋がっているわけではないと返す。
「賞金稼ぎの事情もわからないのはあるが、無法航海をしたかったわけでもない」
男は淡々と言葉を続けるが、これまで取り調べをしていた海兵より流暢に話始めていた。
「こ、この男は許可証もなく…」
取り調べをしていた大尉は目の前の男が国の許可証もなくやってきたと改めて説明した。
この海では許可証もなく、航海してはいけない。航海したら基本的に皆海賊として扱われる。
特にこのグランドラインでは海賊とほぼ同じと言えた。
だが、
「無法航海のつもりはなく、遭難していた」
男も再度訂正した。
「こんな小舟で船出したくてする奴がいるものか…」
男はややウンザリ気に言葉を溢した。
心からの言葉だとローブスター中将は確信した。だからといって気は緩めないが。
「遭難の際、海賊に襲われ迎撃したので引き取って欲しい。懸賞金は…どちらでも良いがどこかの国へ案内してくれると助かる。無理なら後で返却するのでエターナルポースでも良い」
男はそう言って自分の後ろにあるガレオン船を背中越しに指さして言った。
「…懸賞金5500万ベリーの『樽酒のウィック』と船員達、その船で間違いありません」
査定していた海兵がローブスター中将に耳打ちするように報告する。
目の前の半分犯罪者を他所の国に入れるべきかは別として海賊を全員生きたまま捕縛している事実も付け加えた。
「海賊共はやや錯乱しているかもしれないが、善良な市民が殺しをするわけにもいかない…。
煮るなり焼くなりは政府で何とかして貰いたい」
男は面倒臭げに頭を掻き毟った。非常に面倒臭いというのが滲み出ていた。
初めて人間臭さを見せたとローブスター中将は内心思った。
同時に最近台頭してきた大物海賊を捕縛してきたとかでなければこちらも普通の市民として対応できたのにと男に対して頭を掻き毟りたくなった。
・海軍本部第8支部「ハリネズミ」
ナバロンともいう。原作時空では大将"赤犬"の管轄下にあった要塞。
アニメオリジナルで登場。原作より前なので純粋に要塞している要塞。
原作前後では不要論が出ているくらいの不落要塞。
・"老星"ローブスター中将とその指揮下の海兵達
無法航海は海賊として扱うが、本当に遭難しただけの市民なら普通に安全地帯まで送り届けるはずだった。
何故か、懸賞金5500万ベリーと前半の海では大物を全員生かしたまま捕縛してきたのでどう考えても普通の市民ではないので困惑中。
ローブスター中将としては最近台頭来ている謎の海賊団との関係も捨てきれないので更に困っている。
・樽酒のウィックと船員達
西の海出身の海賊。懸賞金がインフレしていない時代の海賊なのでそこそこ大物。
襲った船に酒が無ければ皆殺しにする海賊であり、見つけたら樽ごと酒を一気飲みするのでその異名がついた。
新世界に突き進むかとある海賊団と合流するかで悩んでいたところ一隻の小舟が来て…。
ああ、窓に窓に!!
・謎の男
やられたのでやり返した漂流10日目だった男。誰かはわからないが一気に年を取り成人近くになっている模様。