拝啓、天国にいるかもしれない今世の両親へ。
肌寒い季節となりましたが、いかがでしょうか。
私は現在、海軍のブタ箱に住まわせていただいています。
最近は海兵の皆様にお菓子を作っています。
皆さんの笑顔の為にブタ箱で英気を養いつつ頑張りたいと思います。
…なんて、馬鹿げたことを考えつつも海軍本部第8支部ナバロンに着いてから二週間が経過した。
大体連れて来た海賊のせいで扱いに悩んでいるらしいのはよくわかった。
無法航海に関して、上からの判断を仰ぐと言われて軟禁生活を余儀なくされた。
ここのローブスター中将は無法航海=海賊死刑としない優しいおじさんで幸いだった。
俺も自分でも海賊船捕まえて海軍拠点に来る民間人とか信じられないし。
しかし、賞金稼ぎの作法も知らないので遭難した自分は民間人としか言えないし、詳細な身分も明かせないというジレンマに陥っていた。
正直、解決できなくはなかったが、善人にこの悪魔の実の力を使うのは躊躇われたので仕方がない。
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〇海軍要塞ナバロンに馬鹿がやって来るおよそ二週間前
樽酒のウィックは西の海の大物海賊である。
グランドラインに来てからも特に問題なく航海を続けていた。
だがつい先日、とある『使者』が来たことで重大な岐路に立たされていた。
ウィックは夜中の月を見上げながら酒を飲んでいた。
「ロックス海賊団というのは…明らかに俺らより強い」
ウィックは酒瓶を一気飲みして船の甲板に放り投げる。
…海に投げてしまいたいが勿体ないとコック等が煩いので船の中で勘弁しろと思っている。
もう一本の酒瓶の蓋を開けてまた一気飲みする。
「ああ、むしゃくしゃするぜ。畜生」
ウィックは自分より強い奴が、使者として派遣されたことに苛立ちを隠せない。
手当たり次第声掛けしている有象無象の一人だとわかってしまう。
「手ごろな船でも襲って、そいつらの腸や四肢を切り裂いて鮫の餌にでもしてやりたい」
ウィックは海賊としてありふれたストレス発散方法を口にした。
だが、
「丁度良い…お前のその生命力をいただくとしよう」
そう言った影からの手がウィックの首をつかんだ。
ウィックは振りほどこうとするが見る見る内にそのやる気が喪失していく。
…その手は幼子のようであり、辛うじて見えた目は狂気と憎悪を孕んでいた。
ウィックは、何も、考えることができなくなっていった。
「まともに戦えば脅威だが、この程度なら問題ない。…さて、海のゴミ共をどうするか」
ウィックが完全に狂気に侵される前に見えたのは先ほどの幼子の手ではなく、成人した男の手であった。
「記憶、技能、知識…一人一人奪えば問題ない。それに後は有象無象だ」
ウィックはそれを最後に段々とその精神が崩壊していく。
ウィックの見たそれは人間ではなく、まるで…
・馬鹿
実は少し前にウィックの手下に襲われていた。
攻撃自体は見聞色で避けて、悪魔の実を初めて使い無力化した。
何となく悪魔の実の能力を理解した後、責任者であるウィックを奇襲した。
なお、部下との戦いで、自分の見聞色の覇気に触れた相手の記憶を読み取るサイコメトリーのような力があることが発覚した。
元々糞ヤバい悪魔の実の力を見聞色との相乗効果で数倍脅威度を引き上げている。
現在、ブタ箱(軟禁)の中だが、見張りを懐柔してクッキー焼いたり割と好き勝手している。
・ウィック
残虐で卑劣な海賊らしい海賊。酒がなければ死ね、酒がなくともイラつけば死ねという男。
部下の進言自体は聞くので身内にはそこそこまとも。
月見酒というには品の無いヤケ酒をしていた。
奇襲程度は慣れているが、影からの気配のない奇襲は想定外過ぎてもろに食らってしまった。
現在は海軍基地のブタ箱(ガチ)に放り込まれ、影に異様に怯えてまともに話ができなくなってしまっている。