海賊の血を引き、自分も4,000万ベリーの賞金首である鮮血の娘ザレシュカ。
赤と黒を基調としたゴシックドレスにサファイアの首飾りに黒い長髪。
西洋剣ブラムを携えた凛々しい顔つきの剣士でもあった。
ザレシュカは己の血統に相応しい生活をしていた。
ジャヤで自分の気分を害した海賊を狩り、金品を奪いつつ血の様に赤いワインを飲む。
ジャヤと自分に流れる高貴なる血に相応しい行動をザレシュカは規範としていた。
…偶に寂れた孤児院に余った金品を投げ込んでいるが、ザレシュカに深い意味はない。
四百年以上の犯罪者の血統として気品を保ちながら、この嘲りの町で過ごしている。
千人斬りの辻斬りイタミ少将と遭遇した際は流石に撤退したが。
…想像を絶する殺戮の権化を見て逃げた形になるが怯えてはいない。
自身に流れる血統に相応しいだけの力を持っていた。
ザレシュカは純粋な強さのみで懸賞金4,000万ベリーの若い海賊である。
ジャヤをホームとする海賊の中では強い方だった。
仲間はおらず一人だけであるが、気分を害する海賊共に後れを取ったことは一度たりとも無い。
そんなザレシュカは自分の後をつける何者かに見張られていた。
正確にはザレシュカに気が付けるよう、何者かが後をつけていた。
ザレシュカは相当な手練れの賞金稼ぎと判断した。
今まで狩ってきた海賊とは違う強者であると察していた。
故に、ここ二、三日は孤児院に行けていなかった。
…ザレシュカは賞金稼ぎと思われる存在に焦れていた。
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とある男がジャヤ珈琲の取引とある海賊を見張るように部下に頼んで一週間が経過した。
珈琲取引は男のペットであるペンギン達に引継ぎ、店の横に新しく珈琲店が建てられた。
これ以上は部下の修行の妨げになり、その海賊の人となりを把握した男はジャヤを訪れた。
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〇嘲りの町ジャヤ 廃教会跡地(ジャヤ島唯一の孤児院)
「初めまして、ザレシュカ・マーヤ」
魔海の主と呼ばれる男はせいぜい4,000万ベリーの賞金首と対面で話していた。
大物でもない中堅も良いところの若き女海賊である。総員1名の一人だけの海賊だった。
ボロボロの教会跡地にみすぼらしい子ども達は男から与えられたクッキーを貪っていた。
また、男の連れて来たペンギン達に触ったりして無邪気に遊んでいた。
なお、その内の一匹だけで5千万ベリー程度の強さなら瞬殺できるくらいには強い。
「…」
ザレシュカはここ数日(実際は1週間)、謎の女に尾行されていた。
その女の主という『魔海の主』と対面で向かい合っていた。
…孤児院を運営するシスターからザレシュカに悪い話ではないと説得されてこの場にいた。
だが、ザレシュカにとっては目の前の男の存在は地雷だった。
「…やはり『串刺し』ホールデンの娘とは思えない」
男はザレシュカを実際に見て感じた感想をそのまま言った。
串刺しホールデン、かつて男が捕らえた賞金首の大物海賊だった。
貴族の血を引き先祖代々の悪名を重ねて来た女海賊であり、億超えの大犯罪者である。
「…母の仇が!」
ザレシュカは目の前の男の言葉に激高した。魔海の主、それはザレシュカの唯一の肉親を捕らえた男であった。
そして、口ではそう言いつつ、それだけのことをした母親だという自覚もあった。
「まぁ、そういうと思っていたんですが」
男はザレシュカを殺そうとした女、ティアを制する。
ザレシュカの自分に対する憎しみは本物だが、男はその諦観も感じていた。
力量差を考えればティアどころか連れて来たペンギンに負ける程度の強さである。
潜在能力はあると男は察していたが、当の本人からすれば無理ゲ―も良いところであった。
「名を聞いた時は驚いた。あのホールデンに娘がいたとは」
男は言葉を続けた。なお、男は確かに驚いているが、娘がいたことではない。
ホールデンとザレシュカの親子関係は知っていた。男はあらゆる情報媒体に目を通していた。
だが、ジャヤの酒場で海賊らしくない海賊として名が挙がった事に驚いていた。
念のためにティアに探らせたが、確かに海賊らしくない。
海賊を狩り、日銭を稼いでその余分は孤児院に施していた。
母親ホールデンならば孤児院を襲い人攫いに売るくらいは平気でやる。
「…一体何が目的だ。政府の犬が」
ザレシュカは目の前の男を罵りつつ、何となく察しがついていた。
同時に、馴染みの存在であるシスターが自分の母の仇と知らずに男と対面させたことを悟った。
シスターはザレシュカに危険な目に遭って欲しくない等という数少ない存在であった。
「…シスターさんには悪いことをしましたね」
男はザレシュカにシスターに悪意があったわけではないと補足した。
実際、男の提案はザレシュカからすれば悪くはないものだった。
ザレシュカ自身の安全の保障、孤児院の安全の保障、シスターの安全の保障等々。
魔海の主の名の下に保護することになる。なお、シスターの安全というのはザレシュカにしか伝えていない。
勿論、完全に保証されるわけではない。何事にも想定外は存在する。
しかし、自由に動ける魔海の主が背後にいる事実は変わらない。何よりイタミ少将というジャヤのトラウマが根付いていた。
「一応、私の配下に入れば海賊狩っても合法ですし、海軍から追われることもないですよ?」
男は一応、名目上間違いなく有益な点を挙げた。
原作王下七武海のように配下になった賞金首は懸賞金が解除される特権である。
一応、目の前の女海賊は海賊しか狩っていない。世界政府的には脅威度が低かった。
先祖代々犯罪者の血筋という問題があるが、男にはそれを打ち消せるだけの力があった。
「後、世界政府の下に着いたつもりはない」
男は補足とはいえ、大事な所を否定した。政府の犬になったつもりはない。
どう見られているかはどうでも良いがあまり聞いていて面白くはない。
「くっ…!」
ザレシュカは男の漏れ出た殺気に思わず声が漏れでてしまう。
シスターが子ども達を奥に連れて行くが、男の殺気はザレシュカのみに注がれていると悟る。
子ども達はペンギン達を連れて行く程度に空気を読めていないのが証拠だった。
…普通ならその場で気絶するくらいの殺気であった。なお、ペンギン達は無抵抗に連れて行かれた。
「失礼を」
男は漏れ出た殺気に対してザレシュカに詫びる。いなくなったシスターにも内心詫びた。
一応、取引を持ちかけに来た相手である。男が望む条件を満たしてもいた。
与えられた権力は使うが厳選するし、乱用する気はない。
男としては今までと違い、隠さずとも良いので堂々と勧誘するつもりだ。
「私の配下に加わればいつか首を狩れるかもしれませんよ?」
男はザレシュカのプライドを尊重して提案した。
ザレシュカはその血統に似合わず善人である。故に母ホールデンから捨てられていた。
ホールデンの記憶を読んだ男はそれを知っていた。
…実際、こうして会うことになるとは思わなかったが。
今までだとザレシュカのような海賊は取引や交渉をしてもその矜持が邪魔をし、交渉失敗になることが多かった。
そうなってしまうとお互いの為に記憶を消去して海軍へ連れて行くパターンであった。
現在、南の海で王女をしているノベルも妥協できたが、そうなる可能性が高かった。
「…今は無理か」
ザレシュカは表向きに譲歩できる提案をしてきた男の真意を悟った。
自身のプライドを尊重して取引を持ちかけて来た。
これが今までの身分を消せとかで言うのであればここで死のうともザレシュカはその場で拒否していた。
母ホールデンに捨てられてもなお、ザレシュカは自らの血筋に誇りを持っていた。
ザレシュカの母の仇である魔海の主を殺せれば誇りを保ったままシスター達を守ることもできた。
「今はどうやっても無理ですね。私が拘束された状態でも小指で倒せる」
男はザレシュカに事実を述べた。正直、今のザレシュカでは逆立ちしても自分には勝てない。
逆に自分を殺せれば、それはそれで悪い奴ではないので問題ないのではとも思っている。
「…」
ザレシュカは魔海の主が断言する有り様を見て、それを事実だと悟った。
現に母ホールデンに比べれば自分は未熟も良いところだった。
「取引を断っても構いませんが、どうします?」
男は目の前のザレシュカ・マーヤだけを見て言った。
何時か狩られる日が来るとしてもそれ相応に相応しい相手でないと男としても嫌だった。
母から捨てられても、善性を捨てることなく孤児に慈しみを感じているような、そんな海賊なら良いかもしれない。
男は真面目にそう思っていた。勿論、殺されない努力を辞めるわけがない。
超えられない壁は絶対に有り得なくはないと男は信じていた。
目標があり、自分自身を裏切ることなく高められれば届く可能性がある。
男はそれらにも負けるわけにはいかないが、そうなったとしたら悔いなく死ねた。
「シスターの紹介もある。力を蓄えられる。何時か仇も取れるかも…いや、取れる」
ザレシュカは魔海の主の言葉に色々考えを巡らせた。
魔海の主を殺す。それを果たしたら血族としても誇れる自分になれると思えた。
…ザレシュカは何とも言えない気分になりつつも、自分の中で区切りをつけた。
「魔海の主。いずれ殺すが、それまでは仲良くやろう」
ザレシュカは男へ笑みを浮かべて提案に乗った。
ザレシュカは何故か心がざわつくが抑え込んだ。
このまま燻って死ぬよりは目標に向かって死にたい、否、勝ちたいと思った。
「貴方が死んでも私が死んでも、悪くはない」
男はザレシュカにそう返した。
ザレシュカは自分より強くなっても最初の目的を失わない限り、問題ない逸材であった。
男としては最後まで勝つつもりであるが、ザレシュカの研鑽を心から応援した。
なお、ティアは横目で見ていてザレシュカという娘では無理であると悟った。
仮に勝てるくらい強くなれたとしてもその頃にはどうせ殺せなくなっている。
・鮮血の娘ザレシュカ
4,000万ベリーの賞金首。貴族の血を引く凛々しい剣士。
魔海の主が取引に持ち込めないタイプの代表例みたいな存在である。
自分の死よりも大切な矜持があり、魔海の主も尊重して海軍へ連行してた感じ。
母ホールデンを始め、先祖代々大悪党の家系の異端児。
生まれ持って善性があり、最後の試練として課された差し出された幼子を殺せとの母の命令を拒絶した為に捨てられた。
一応、母ホールデンも全く愛情がないわけではなかったが、自分とは違う感性の娘では大成できないと悟り捨てた。母ホールデンも一人立ちできる程度の力は授けた。
そんな憎み切れない母の仇が自分の目の前にやって来た。
自分の心の支えとなっているシスターや孤児院をキチンと守れる手配をしてくれるというのと、仇討ちはいつでも大丈夫との取引内容に応じた。
普段の業務は、珈琲の取引と郵送、これまで通りのジャヤでも腐りきっている海賊の討伐である。
今の自分より強いペンギン達が孤児院を守るようになっているため、今はペンギン達より強くなることが目標。
・魔海の主
七武海的な特権として海賊を配下に加えて良いらしいので利用してみた13歳。
なお、自分の最初の配下に加えたのが捕まえた海賊の娘という衝撃ニュースは世界に広まった。
念のため、ペンギン達に護衛させているが、ジャヤ程度では問題ない。
I.Qを摂取して進化したドウモウペンギン達はジャヤ編のベラミー程度なら瞬殺できる強さである。
そして、そのペンギン達を数百匹従えているのは知られていない。
・ティア
諜報員として仕事を男から任された。
海賊らしくないザレシュカを観察しつつ、母親の仇である魔海の主の取引に応じるか疑問に思っていた。
結果的に普通に丸め込まれたザレシュカを見て察した。
相手のプライド尊重しつつ勧誘するのは良いが相手が女性だと特攻過ぎると確信した。