海軍本部第8支部。海軍が誇る鉄壁の要塞。
至る所に砲台があり、一切の侵入者を許さないことから『ハリネズミ』とも呼ばれる。
不法航海罪疑惑の容疑者Aは目隠しをされてとある一室に案内されていた。
「目隠しを外して良い」
威厳のある声が室内に入った男の目隠しを取るように指示を出す。
「ハッ!」
そう言われて、警備担当兼見張り役少尉が容疑者の目隠しを外す。
「ありがとうございます。イタミ少尉、そしてローブスター中将殿」
目隠しを外された男は目隠しを外した少尉とこの部屋の主に感謝した。
それは、心からの感謝であるような声であった。
しかし、
「…何故、我々の名前を知っているのか?」
威厳ある声の主、“老星”ローブスター中将は目の前の男に尋ねる。
この二週間と少しの間に牢屋を全自動クッキー製造機にしていた自称善良な市民である。
一応、情報を遮断していたのにも関わらずこの程度、今更驚くべきことではない。
「耳を澄ませば大抵は入って来るので」
男はもう気にしないとばかりに言い切った。
ローブスター中将はちらりと監視役のイタミ少尉に目を向けるが彼女は勢いよく顔を振って否定の意志を示している。
「どこまで聞こえる」
ローブスター中将は自ら推測した結論を元に探りを入れる。
「『みなぎる力、炭水化物』という食堂までは常時聞こえます」
男は行ったこともない海軍の厨房、千人単位の交代制で食事を行うところまでと断言した。
「…なるほど、『覇気』か」
ローブスター中将は海賊を返り討ちにしたのが目の前の男の異常に発達した見聞色の覇気だと改めて確信した。
「ええ、はい。想像通りかと」
男はローブスター中将の答えに同意する。
横に控えているイタミ少尉を除く佐官たちは思わず身構える。
なお、イタミ少尉は何のことかわからず動揺しているのが隠しきれずにいる。
「『覇気使い』か、それで善良な市民…まぁ、有り得なくはない」
ローブスター中将はウンザリした顔で自分の推測がおおよそ当たったことに嫌気がさした。
「…なんだ?」
ローブスター中将は話の内容がわかっていない一部佐官とイタミ少尉を見て、イタミ少尉に質問してよいと合図を送った。
「『覇気』とは…何でしょうか?悪魔の実ですか?」
イタミ少尉は中将の合図を見て取り質問した。
…担当の自分に肝心なことを一切吐かないクッキー製造しか考えていないと思われた容疑者を横目にしつつ。
少尉は海軍本部所属なだけはあり、悪魔の実を食した上司や海賊を見たことがあった。
それでも『覇気』というのは知らなかった。
「この小僧がどこまで使えるかわからないのではぐらかすが…人の潜在能力ともいうべき悪魔の実とは違う力だ」
ローブスター中将は海軍でも本部大佐以上になるために必須とも言える力について端的に答える。
「見えないところにいる人の気配を読めたり、鋼鉄をも凹ませる程殴れたりだな」
ローブスター中将はイタミ少尉に話つつ、目の前の善良な市民とやらを見て言う。
「…確認するが、あの食堂の標語は少尉も知らんよな?」
ローブスター中将はイタミ少尉に確認する。男からは目を離さない。
「ハッ!…炭水化物が…は知りません」
イタミ少尉は一切知らない謎標語を思い出そうとしたが思い出せなかった。
厨房に貼ってあると思われる標語等、数年勤務しているが知るはずもないと確信していた。
「私は知っている。イタミ少尉が転属されたより前の年にコンクールで表彰したからな」
ローブスター中将はそう言いつつ、自分で選んでおいてなんだが誰が使うのかわからない標語だと内心思っていた。
「…一応、週に一度選ばれた標語を言うのだったか?」
ローブスター中将は誰に話を振ってよいかわからず佐官達を見て尋ねた。
そして、あのイカれた標語を毎週金曜日の点呼の時に言うという料理長の話を思い出した。
沈黙が海軍支部G-8の一室を包みこむ。
『誰だよそんな標語作ったのは?』と佐官達の顔からにじみ出ていた。
そして、その長い様で短い沈黙は第三者に破られることになった。
「金曜日にローブスター中将推薦の標語を読み上げると言っていましたが」
件の容疑者が真面目な顔でそう言い切った。
ガビーンと効果音が出るような空気に包まれドン引きした表情で中将を佐官達は見た。
嘘だろ、あの“老星”がそんなイカレた標語を推薦したのか。そんな表情で染まっていた。
常日頃から真面目一筋のような筋骨隆々の老戦士を皆が見つめていた。
「違う!応募の中で一番まともだったのがアレだった!!」
ローブスター中将はそんな視線に耐えきれずに叫んだ。
思わず机を両手で叩き壊しそうになる程の勢いで立ち上がりそうになる。
「…ンン!!というようにこの男の使える『覇気』で海賊を捕らえること自体は可能だ」
ローブスター中将は無理やり話を戻した。
この男、自分の一存で処刑してやろうかと内心思った。
…同時に、この男は自分が処刑しないのをわかってやっていると確信した。
下手すると基地全て『聞こえる』のかもしれない。
ローブスター中将はそんな規模の見聞色の覇気等聞いたことがないが。
「大きな事故で死ぬと思った瞬間に使えるようになりました」
男は淡々と中将の説明に補足のように経緯を述べる。
イタミ少尉はそのことを黙っていたクッキー製造機を殺さんばかりに睨みつけている。
「…月1回近くの海軍駐在所に定期連絡を入れるように」
ローブスター中将は内心ため息を吐いて推定無罪の男に宣告した。
これ以上牢獄に入れても機密がドンドン漏れかねない。
ローブスター中将はイカれた男でも善良な市民ならば一旦見逃す判断を下した。
「完全に容疑が張れるまで定期連絡がない場合、貴様を海賊として手配する」
ローブスター中将はそう男に言って睨みつけた。
まだ細々とした話はあるが、先ず釘を刺すことにした。
「はい」
男はローブスター中将の凄みの圧を涼しい顔で流して肯定した。
・ローブスター中将
推定無罪で開放しようとも思ったが、実力的に怪しいので出すに出せないので困っていた。
その結果、牢屋の一部をクッキー製造機にされた。
いつの間にか全自動工程で海軍内部に浸透し始めて、監視担当に怒り散らした。
・イタミ少尉
イカレた男の看病をしろと命令された可哀想な女海兵。
甘味を食べたくないかとイカレに唆された結果、いつの間にか牢屋がクッキー製造機になっていた。
小麦粉等を入れるだけで全自動、燃料不明の超技術を本当にいつの間にか作られた。
・推定無罪の男
むしゃくしゃしてやった反省はしているが後悔はしていない。
なお、出さないともっとやるつもりだった模様。
前世の技術と海軍内にある機械を見取り完成させたクッキー製造機である。
後にナバロン名産として海軍内で有名な菓子になる。
お菓子大好き海賊に漏れないように無駄に徹底している。