リリベループ   作:恒例行事

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part.22

 

「復帰おめでと〜ございます!」

「……おはようございます」

 

 骨折が治りきるまで出勤禁止、と言い渡されてしまったので仕方なく筋トレとランニングだけして過ごした一ヶ月。

 骨もくっ付き動かして問題ないと医師に言われたから翌日から復帰すると伝えて了承をもらったのが昨日。

 そして朝早くからリコリコに出勤したのが今日。

 いきなりクラッカーを鳴らされ銃声かと身構えたのが今。

 

「……あれっ、あんまり驚いてない?」

「撃たれたかと思った」

「どういう思考回路してたら先に拳銃が出てくるのよ……」

 

 相変わらずミズキは俺に対して一歩引いているような気がする。

 千束の距離感が一般的かと思ったが、そうではないみたいだ。

 

「撃たれても死なないから大丈夫だ」

「井ノ上さんなら本当に死ななそうだよね」

「実際に撃った奴の言う事は違うな、千束」

「う゛っ…………その節は本当に申し訳なく……」

 

 千束は胸を抑えて顔を逸らした。

 俺はただ純粋に事実に感心しただけだが、どうやら間違っていたらしい。

 

「……すまない千束。恨み言じゃない」

「えっ!? いやいやいや、冗談だよね?」

「ああ、冗談だ。かなり痛かったが」

「本当にすみませんでしたーっ!!」

 

 腕も折られている立場である。

 仲間も殺されている。

 和気あいあいと許す事が彼らにとっていい事ではないのは理解しているが、俺がリコリスを殺し尽くしても得られるものは何もない。

 だからこれでいい。

 これで、いい。

 千束は不殺を誓うような少女だ。

 だからこうしても、良いと思った。

 

「もう腕は大丈夫か?」

「はい。ご迷惑おかけしました」

「なに、気にすることはない。元はと言えばDAの無茶振りが原因だからな」

 

 それはそうだ。

 ラジアータはどこまで計算していたのだろう。

 いつの日にか、俺にまた語り掛けてくる日はあるのだろうか。

 その日が来たとき、俺はどう対応すればいい。

 

「ほらほら井ノ上さんっ! 難しい顔してないで着替えて着替えて」

「む……わかった」

 

 ……切り替えていこう。

 今の俺はリリベルでありながらリコリス支部に所属する立場だ。

 

 リコリコの仕事を熟さなければ。

 

「今日もよろしく、千束」

「──……はい! よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 喫茶リコリスの仕事は至ってシンプルだ。

 

 料理、もしくはドリンクを作って、提供する。

 客は地元に住んでる一人暮らし、または老人などが多い。

 常連と分類される面子は一癖ある。

 皆、まともな一般人だ。

 

「たきと。これを12番に」

「了解」

「あー、たきとっ! それ終わったらレジ変わって!」

「了解」

「すみませーん、店員さんこれ下げてもらっていいですか?」

「了解」

「お客さんに了解って言わないでたきとさん!!」

「了か…………わかった」

「わかったも駄目だから! お伺いしますね〜って、ホラホラ笑顔で」

 

 なかなかこれが忙しい。

 これまで殺ししかしてこなかったからか、店員としての対応は不慣れであるがゆえ不手際が目立つ。

 店長やミズキは特に何も言わないが、千束の手を煩わせているのが歯痒い。

 

「お待たせしました、ブレンド珈琲とストレートティーです」

「あ、ありがとうございますっ」

 

 若い女性二人組に注文の品を渡してから、先ほど呼び止められた客の場所まで行く。

 

 やり直せないのが面倒だ。

 失敗したら自殺してやり直しちゃ駄目だろうか。

 そんなことで死んでいたら無能を証明するだけになってしまうが、誰かの迷惑は出来る限り排除しておきたい。

 

「失礼します。お下げしても?」

「お願いします!」

「す、すみません! お、おおお兄さんこっちのも!」

「りょ……わかりました、すぐお伺いします」

 

 千束は配膳をしているからその間俺が食器を下げる。

 役割分担としては 理に適っているだろう。

 営業に慣れている彼女が自由に動けた方が楽だし便利だ。

 早くできるようにならないと。

 

 二つ程席を回って食器を片付けてから厨房に戻ると、たまたま千束も同じタイミングで中に入ってきた。

 

「いや〜、大人気ですな! たきと()()()()っ」

「……そうか?」

「うんうん、お陰様で若い女性客もたくさん来てるしね」

「それは……たまたまだろ。俺目当てとでも言いたげだな」

「若い爽やかな男の人ってだけで女の子は好印象を抱くものなの!」

 

 そういうものか。

 うんうんと腕を組んで得意げに頷いている千束を見るに、なんとなく理解した。

 しかし今の俺は爽やかだったのか? 

 無愛想という言葉の方が似合う気がするが……

 

「……ま、まあちょっとクールだよね」

「おい、適当言ってないか」

「そんなことないし!? たきとさん実際うん、結構爽やかな部分、あると思うよ……?」

 

 チラチラと顔色を伺いながら言ってきた。

 

 わからない。

 俺にとって爽やかな男ってのは、ダイチやゼンのことを言う。

 爽やか……が正しいのかわからないけど、それでも間違ってないとは思う。

 

「…………そうか。千束がそう思うなら、そういうことにする」

「……ふぅーッッ……うん、そうだね!」

「何イチャイチャ青春してんだガキどもっ! 働け!」

「は、い、イチャイチャなんてしてないし!? 大人の嫉妬は醜いぞミズキっ」

「は〜〜〜!?!??」

 

 営業中なんだが……

 ドタバタと厨房で歪みあっている二人を見ながらため息を吐いた店長がゆっくりと言った。

 

「二人とも」

「「何!?」」

「少し裏で休んでなさい」

 

 店長は優しい笑顔だ。

 だがこれは笑顔ではない。

 相手を威嚇する際に用いられる笑顔だ。

 

 元々優秀な戦士だったと聞く。

 その威圧感は今でも衰えていないため、千束はともかく戦場と離れて久しいミズキにとっては驚くことだろう。

 

「は、はひっ……」

「うっ……ご、ごめんなさい」

「……やれやれ。たきと、すまないが前をたのむ」

「了解した。好きに使ってくれ」

 

 

 

 

 

 昼のピークを終えすっかり静かになってしまった店内をあらかた片付けてしばらく。

 

「たきと」

「なんでしょうか」

「この様子だ。少し休憩してきなさい」

 

 することもないため店内の営業内容をあらためて学んでいたところ、店長が話しかけてきた。

 

 休憩。

 ああ、そういえば飲食店……というより、世の中は就業時間とそれに伴う休憩時間とやらが存在するらしい。

 初めての経験だ。

 

 仕事が終わり次第別の仕事、そしてそれがなければ拠点に戻って翌日に備える……その繰り返しだったから。

 

「リリベルとして生きることだけが人生ではない。社会は広く、我々が想像しているよりも沢山の奇跡の上で成り立っているんだ」

「……それは、確かに」

 

 俺の浅い知恵では想像も出来ないくらい社会は複雑だ。

 欲望と理性が絡み合って、社会として成り立つように国家だけではなく、働く人々と企業によって支えられている。

 

 DAの元で人殺ししかしてこなかった俺のやってきたことが、果たしてそれの一因になれているのだろうか。

 

 そうなかったとしたら、少し虚しい。

 俺たちリリベルやリコリスの存在は、一体誰が保証するのだ。

 ……いや、もしかしたら。

 最初から保証なんて、誰も何もされてないのかもしれない。

 ラジアータ。

 絶対の神であるお前の導き出す答えなら、納得できるかもな。

 

 裏の和室で一息吐く。

 着物は動きにくいが、慣れればそこまで難しくはない。

 最悪このままでも戦闘ができる程度には慣れたと思う。

 

 拳銃は手元にない。

 いざという時に死ぬ手段は、一応奥歯に仕込んである。

 暴発したことは一度もないから問題ない。

 即死出来ないから厄介だ。

 服毒した際の苦しみは想像を絶するものだったから正直やめたいが、いざという時に死ねない方が問題だ。

 

 だからしょうがない。

 

「えい。だーれだっ」

 

 突然視界が暗闇に包まれた。

 柔らかい手の感触、目を痛めないようにそっと覆われたその正体はおそらく……

 

「錦木千束」

「むっ」

「……錦木」

「むむっ」

「千束」

「嘘っ、バレた!?」

「わかっててやってるだろう」

「そりゃ勿論! 店長が珈琲くれたので持ってきました〜!」

 

 そう言いながら千束は一度部屋の外に出てから、置いておいたのだろう、マグカップを二つ持って入ってきた。

 

「はいどうぞっ。ブレンドでございます!」

「ありがとう」

 

 受け取ると、千束は俺の横に座って、一度肩が当たった後に少しだけ距離を取った。

 

 店長の珈琲は美味しい……んだと思う。

 正直味の良し悪しはよくわかっていない。

 飲めればなんでもいいの生き方をしてきたし、ゼンに連れられて行く店の味ももう覚えていない。

 

 ……思い出というのは、記憶というのは、こういう風に消えて行くのかと、改めて思うとゾワリとする。

 リュウの声を思い出せない。

 リュウはどんな声で語る奴だったか。

 でもリュウのことは、ダイチのことは、きっとゼンやカジも覚えて居るはずなんだ。

 

 それを考えると、まだXAー03の声も顔も覚えていられるのは、幸運だった。

 

 あいつのことを覚えているのは最早、俺とXAー01だけだろうから。

 

「…………どうした?」

「えっ!? あ、いや、なんでもないです……」

 

 ジッと顔を見られていたから千束に尋ねたが、用事は何もなかったらしい。

 

 余計なことをしたか……

 用があるなら言ってくれればいいのに。

 

「…………千束。俺は今日、普通の人間になっていたか?」

「……うん。立派だった」

「そうか。なら、よかった」

 

 リコリコにまだ馴染めたとは思ってない。

 それでも馴染みたいとは思うんだ。

 これまで通り人を殺していればいいなら、ラジアータはこんな回りくどいことをしないだろう。

 

 ただそれだけではダメだとあいつが判断したから、俺は数多の屍の上を歩いて、ここにやってきた。

 

 ここに漂着したことがきっと後世の役に立つのだろう。

 

 だから変わるべきだ。

 俺は、これまでのファーストリリベルとして人を殺すだけの装置から、一歩でも人間になるべきなんだ。

 

「井ノ上さん井ノ上さん」

「なん────」

 

 千束の声に振り向くと、人差し指が頬に突き刺さった。

 

 へぶっ、なんて情けない声が出た。

 

「うひひ、成功!」

「…………千束」

「あ、はい」

 

 スッと立ち上がって千束の後ろに立った。

 

「…………あ、あのー、井ノ上さん? 井ノ上たきとお兄さん? ちょっと待ってください」

「……………………」

「あ、あのあのっ!? その手は一体!? 無言で頭掴まないで! あ、ちょ、あ゛ーーー!!!」

 

 友人であろうとなんであろうと、ムカついた時は感情に身を任せるのは心地がいい。

 

 一歩だけ、まともな人間に足を進められたような気がする。













カクヨムコンテストでボコボコにされ、同時並行で何個も一次創作を連載しメンタルも身体もボロボロな状態で年末年始を仕事漬けで乗り切った作者参上ーー!!(実はほとんど完成した状態のものを数ヶ月放置していました)

今後の進捗に関してはTwitterで報告しておりますがゆえ、詳細知りたければそちらをどうぞ。
ざっくりいうと不定期ですが更新はしていきます、という感じです。
お待たせしましたなぁ……
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