とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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195:サンドラ河架橋計画

「予定通り、資源が限られ監視が容易いアラバスタにクロを釘付けにすることが出来た」

 

 世界政府のその頂点。

 この世界を管理する――管理しなければならない存在である五人の頂点が、その象徴たる権力の間に集まり頭を悩ませていた。

 

「予定通りだと? 本来ならばアラバスタの民は例のモノを投下し壊滅、黒猫に罪を着せた上でネフェルタリ家の血を回収出来たハズだ」

「調子に乗った虫共のせいで工作船が近づけなかったのだ。仕方あるまい」

「それに、コブラに同行した海兵からの報告だと黒猫の装備は恐ろしい程に整っている。予定通りシーザーの発明を使ったとしても、場合によっては多くの生存者を出し却って厄介な事になったかもしれん」

「……統制から外れ始めた私掠艦隊への投下で、十分な成果を出したのにか?」

「クロを侮るのを止めろ! 我々の手法を読み切り、対策をしている可能性は十分にある!!」

 

 数年前にクロの天竜人入りを――同胞として迎え入れるべきだと主張した世界最高権力の一人、『法務武神』トップマン・ウォーキュリー聖が机を叩いてそう叫ぶ。

 

 他の数名が落ち着かせるように手を差し出すが、ウォーキュリー聖は息を荒げたまま、

 

「そもそも他の海域はどうなっておる!?」

「西と東が比較的落ち着いておるが、皮肉な事に徴税量は西が最も安定しておる。……とはいえ、多くの国が黒猫の第二艦隊を戦力として保有する『西海諸島連合』に降ったため、量としては微々たるものだ」

「しかし、今の我らにとって貴重なものだ」

「……連合を我らの手におけんか? モプチの新女王――本人は無理でも、たしか生まれて数年の女児がいただろう。五大ファミリーに声をかけてそれを攫えば……」

「『灰の将』タキ、並びに『海神』トロイの守りを抜けるのか? 二年前には私掠艦隊二十隻を任せた七武海が『海神』に敗れ敗走している。艦隊提督ではない、親衛隊にだぞ」

「そもそも、それをすれば『黒猫』との対立が激化してしまう! ただでさえ情勢は奴と革命軍に流れているのだ!! なんのために時間稼ぎを画策していると思っている!!?」

 

 かつては怒声など滅多に響く事のなかった『権力の間』に、この数年は毎日のように誰かが怒鳴っている。

 

「その革命軍は? せめてそちらを止めねば本当に政府が終わるぞ!」

「現在東の海(イーストブルー)の指揮官を捕らえる計画を組み立てておる。ちょうど身柄を欲しがっている者がいたしちょうどよい」

「この情勢で……っ」

 

 現在、この部屋に近づける者は多くない。

 限られた警備の者のみだ。

 そしてその理由は警備上の理由というよりは、いかに政府が追い詰められつつあるかが漏れる事を恐れたというだけの事だった。

 

「そもそも今の革命軍なら、加盟国を仮に打ち倒した所でその後の立て直しにモタつくだろう。それよりもクロだ! アラバスタに足止めした結果、あるいはネフェルタリ家がより強くなるかもしれんことは最初からあり得る未来だったではないか! その上で、それでもなんとか時間を稼ぐための苦肉の策だった!!」

 

 五老星が囲むテーブルに載せられた地図は、アラバスタ王国が存在するサンディ島とその周辺を描いた、もっとも正確な海図だ。

 

「奴は現在サンディ島西部の海岸に拠点を設置、もはや港町と言えるものを二つ、内陸も含めれば三つも築いている」

「……それだけの人員をどこから? 今回の襲撃で居住地を失ったアラバスタ難民か?」

「いや、先に占領したオブーレモで使われていた農奴共の一部だ。あそこにいた貴族らが廃棄した者共を立て直したらしい。加えて今回アラバスタを襲ったウチの一国、『青海貴族連盟』が使っていた奴隷を回収し、同じように立て直して運用しておる」

「……我らよりも労働力は遥かに少ないというのに……」

「足りぬのであれば集めるしかあるまい。私掠艦隊を使い、一人でも多く奴隷を回収せねば……」

「その回収をどうする。日に日に制海権を失いつつあるのだ。運搬に日を掛け過ぎれば、回収する前に船で奴隷が死ぬぞ。荷物と手間が増えるだけだ」

「攻勢に出て前線を押し上げる。そうすれば接する国は増え、切り取れる範囲は増える」

「だが肝心の戦力が……」

 

 テーブルではなく壁に掛けられた偉大なる航路(グランドライン)の地図には、まるで二つに割くように島々を繋ぐ線が入っている。

 

 黒猫が作り出した、楽園でのクロの勢力圏。

 

 自勢力圏だけでなく、交易などを用いてその周囲の国の国力を引き上げる事で政府の干渉を防ぐ、極めて厄介なこの一線を五老星は畏怖を込めて『ブラック・ライン』と呼んでいた。

 

「やはり、楽園からは手を引くべきだ」

「馬鹿を言え、魚人島近海での激突は免れんのだ! 場合によってはイム様もお忍びで参戦される以上、用意を万全にせねばならぬ! そのためには限界まで物資と労働力をかき集めねば!」

「今もっとも回収出来るのは偉大なる航路(グランドライン)だ。今回の世界会議(レヴェリー)で不参加を表明した国には警告を出した。ここで提供要請を呼びかけ、それに応えられなかったら海軍を駐屯させて圧を掛ければ――」

「海軍は信用できるのか?」

「金と女でこちらに付いた猿共がいる。能力はともかく、そいつらなら突然裏切りはすまい」

「……私掠艦隊も、今回はシーザーの新薬の実験も兼ねて処分したが、度を過ぎた者達は強制労働刑を科すべきだろう。使い捨てるのではなく、使い潰さねばならん」

「方針はそれでよかろう。海軍に前線を押し上げさせて独立した国から搾り取る。だが問題は……」

 

 楽園半ばまでを進行している『黒い線』の最終地点となったサンディ島に、一人がトンッと指を落とす。

 

「やはり『黒猫』だ」

 

 何度目かの、同じ言葉をまたも繰り返す。

 

 現状では『黒猫』と戦うだけの戦力が足りなかった。

 戦闘そのものは可能だが博打になる可能性が高く、ましてや敵はただ暴れるだけの海賊ではない。

 いや、手段もなくはない……。あるはず()()()

 

「あの『太鼓』が鳴り響いた日から、我らは()()事が出来なくなっている」

「……()()事も出来んのか?」

「大きくズレる。おかげでプルミング聖の奪還計画も結果として単独での活動になってしまった上に計画がズレた」

「あの時クロを捕縛出来ていれば……っ」

「難しいだろう。あの場には『冥王』がいたのだ。時間をかければ『白ひげ』も動く」

 

 五老星が一番分かっていた。

 日に日に、打てる手が減りつつある。

 

 より大きく黒猫を阻害しようにも、偉大なる航路(グランドライン)に入られた以上狙うのは難しく、その間に当人を含め戦力が大きく補強されている。

 

 ようやくその動向を知れるアラバスタに釘付けにすることが出来たが、想定外の襲撃の中でアラバスタ民の心を掴んでいる。

 

「……奴が育てていた人員がいただろう。奴らを使って工作は出来んか」

「全員ゼファーが強く保護している。家族ならばとCP0を動かしたが、こちらもその前にセンゴクらによって確保されてしまった」

「……やはり、奴らも心はクロに傾いたか」

 

 もはや政府と海軍の対立はより根深くなってしまった。

 

 六年前にクロの仲介によって海軍と政府の関係は、改善とまでいかなくとも仕切り直しには成功したものの、その直後の情勢悪化にともなう世界貴族の暴走とその対応で分散した海軍によって、もはやどうしようもない所まで突き進んでいる。

 

 急いで政府は代用戦力として私掠艦隊を編成したが、命を賭して捕えた海賊を外に出すという行為が一部海兵の逆鱗に触れた。

 

 当然、政府もそれは薄々予感していた。

 予感した上で、そうせざるを得なかったのだ。

 

「……幸い、奴はしばらくアラバスタを拠点に活動するようだ。目は届きやすい」

「戦力も含め、その情報を収集せねばならん」

 

「…………その間に、イム様を密かに出陣させる段取りも整えなくてはな」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「サンドラ河の架橋工事?」

「あぁ、こっちが出来上がったら手を付けて欲しいという事だ。その監督をお前に任せたい、クロコダイル」

 

 コブラ王との会談が終わり、結果として西部海岸の開拓の黙認を頂いた。

 建築に関してはアーロンが取り仕切り、瞬く間に港は形だけとはいえ完成した。

 

 そうなると本格的に自分達の手で拠点を築くという事でテゾーロとクロコダイルの仲良しコンビが大はしゃぎで作業を進めて、十日足らずで港町は更に完成度を高め、内陸の拠点までほぼほぼ完成した。

 

 砂を操って地上で『津波』を起こして資材を運ぶのは中々面白かった。

 材木とかが少し傷ついたりしたけどそれだけで、多分原作でレインベースがあった辺りに凄い町が出来上がったのだ。

 

 いや、本当にすごいな。ウチの海賊団。

 気が付いたら建築と土木作業のスキルが極まっている。

 

 船大工はそう多くないが、陣地作りや町作りは大得意だ。

 魚人のマンパワーを得てから、三日もあれば簡単な港と居住地が完成するからホントすごい。

 

 こうしてただでさえ立派な石造りの屋敷に、立派なテラスまで付けられるんだから。

 

 テラスチェアに腰を下ろして、一番こういうのが似合いそうにないクロコダイルと並んで茶をしばく日が来るとはなぁ。

 

「前にも言ったが、これから世界政府は各国への締め付けを強めるはずだ」

「やらかしがひどくて、加盟国の離脱を恐れているがそれ以上に国体の回復を待ってからの報復戦が怖い。だから反撃の余力がない今のうちに縄を付けたがる……だったか」

「……政府はどうしても加盟国に頭を下げたがらないからな」

「下げられない、だろ? お前の読みが正しければ、政府は下の人間をいずれ()()()しようとするハズだ」

「今はそれどころか人手不足だ。だからこそ、私掠艦隊なんてもんを編成したんだろうが……」

 

 自分が作ったせいでそれが一般的になったのか、眼下で走り回っている作業員は全員万が一の事故に備えて『安全第一』のヘルメットをかぶっている。

 

 さすがにクロコダイルは被ったりしないが、ミホークが普通に被っている。

 お前ツナギもそうだけどもうちょっとこう……躊躇いとかないの?

 ビビとセットで被ってヒマワリの種まいたりピッケルで崖を削ったりして……お前ホントになんなの??

 

 ついでとばかりに久々に斬り合いやることになるし。

 安全第一を被った男が本気で殺しに来るのは一体どういう状況?

 

 ……いっそ、今度はデカブツの狩り勝負にでもするか。

 足の差で勝てるかもしれん。

 

「まぁ、そんなわけでアラバスタも政府への不信がある。そこで誓約なしのなぁなぁのまま、強力な軍事力を持つウチと繋がりたいってのは本音さ」

「……橋はそのアピールか。俺達が押さえた西部と、アルバーナがある東部を繋ぐ事で」

()()()()()()()()()()()頑丈かつ大きければそれに越したことはないとさ」

「クハハハハ、となると橋の両端に都市機能を備える事になるな」

 

 だろうな。

 コブラ王も、遠からずアラバスタに経済的な混乱が起きる事を予測している。

 

 だからこそ『黒猫』と積極的に接触する事で打てる手を増やそうとしているのだろう。

 なにより万が一アラバスタが黒猫に転ぶ可能性を考えれば、政府もそうそうアラバスタ王家に無茶ぶりは出来ない。

 

 物資や資金の援助も期待しているかもしれんが、一番の理由は政府に対する牽制だろう。

 

(……それはこっちも同じか。万が一、何かの理由で政府が下手を打った場合はそのままアラバスタの存在は武器になる)

 

「コブラからは他に?」

「穀物なんかを対象にした通商協定……資源売買の際の互いの限度とか、前言ってた通貨交換比率なんかを話し合う日々だ。まぁ、これは俺とテゾーロの仕事だな」

「あぁ、それで最近アイツの書類仕事が増えてたのか。家には帰しているのか?」

「幸い、テゾーロが鍛えていた人材の二割が物になって来たんでそっちに回してる」

「ならいい。アイツも子供に構いたい頃だろう」

「本当に……情勢が許せば長めの休みを与えたい所なんだけど」

 

 現場を取り仕切るギャルディーノがいなかったら、多分テゾーロのやつあっちいったりこっちいったりで過労でぶっ倒れてただろうなぁ。

 

 早いうちから内務官の育成にリソース割り振ってて正解だった。

 おかげで応援来てからは俺達も身体を休める余裕が出来た。

 

(……やっぱ魚人島奪還して新世界と西の海を繋がないとなぁ)

 

 俺とテゾーロで一通り教育施した姫様達の手を借りたい。

 王族というネームバリューに加えて最低限の知識を持っているから、役職必要な場所に最適なんだよなぁ。

 

 実際に王命で俺に付いてきているベルナデットは、腕が立つのもあってもはや準親衛隊だし現場の差配も書類仕事も十全にこなしている。

 

 安全は死ぬ気で確保するから手伝ってほしい。

 

(戦いもそこまで派手じゃないしなぁ。今の所)

 

 なにせ偉大なる航路(グランドライン)なんだ。

 リヴァースマウンテン越えてからは戦いの毎日になると予想していたら戦いどころか政務の毎日だ。

 

 死を覚悟して『猫の手』を構える回数はゼロなのに、書類漬けになる日数は凄まじく多かった。

 

 これなら主戦力が減った西の海の方が危険度高いかもしれん。

 一応万全の態勢を整えているんだが……。

 

「恐らく、そろそろ海軍の応援がこちらに来るはずだ」

「こちらも今の時点で戦闘艦八隻を常駐させているからなぁ。北の海の橋頭堡を完成させたイッショウとヒナも一旦こちらに戻って来るし」

 

 こちらの動きを監視するのと同時に牽制するために、かなりの人数を投入することだろう。

 

「睨み合いだけならばそこまで忙しくはならない。むしろ東部の復興に費やす正規の人員が増えるからこっちの人間を引き上げ、西部に投入できる」

「架橋とその両端の交易街が完成すれば人員を動かして、例のジャヤとかいう島の制圧も視野に入るな」

「おう」

 

 当初の計画を実行するにはもう少し情勢を落ち着かせるか、こちらの勢力圏を補強する必要があるけどかなり大きく一歩を踏み出した。

 

「ただ、送られてきた海兵が天竜人の私兵ならば思わぬ暴走をする可能性がある」

「……最近じゃ私掠艦隊も、『自由略奪許可証』なんてもんが発行された連中は滅茶苦茶だからな。子飼いの海兵でも可能性はあるか」

「架橋の話を耳にすれば、あるいはちょっかいを掛けてくるかもしれない」

「……ある意味での国境になり得るならば尚更か。分かった、警備も可能な限り万全にするよう計画を練ればいいんだな?」

「頼む」

 

 クロコダイルも慣れて来た物だ。

 このままならば『楽園』の勢力圏を任せていいかもしれない。

 

「まぁ、まともな人材が来てくれるに越した事はないんだけどな」

「クハハハハ。もっともな話だ」

 

 

 

 

 そして、数日後。

 

 

 

 

 

ここにおったか海賊ぅーーーーーーっ!!!!!

「ピンシャー卿!!? どうしてアラバスタにぶふうぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!

 

 来た。ドロップキックと共に。

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