朝比奈まふゆはブラコンである(荊棘の道は何処へ…執筆中) 作:エクソダス
「それじゃあ、今日も一日お疲れ様、かんぱーいっ!」
「「「乾杯っ」」」
辺りが暗くなった夜頃。
いつものファミレスにて瑞希の音頭に合わせ、四人は持っていたガラスのコップを打ち鳴らした。
「さっ、食べ物注文しよ注文っ。メニューは……」
「どうせ頼むのはポテトでしょ?」
「むー、それはそうなんだけどさ絵名。なんかいっつもここ来るんだからちょっとは冒険したいじゃん?」
絵名のぼそっと言う言葉に、瑞希はむすっとした表情でメニューを睨んでいた。
「何なら私が決めてあげましょうか?」
「いいよぅ、どうせ絵名が決めると映えの奴頼むんだから……」
「なによ、悪い?」
「別に悪くないけど……。写真撮るの長いんだよっ」
「そんなことないわよ。というか瑞希は猫舌なんだから、冷めてから食べるでしょ? 結果オーライじゃない」
「映えを正当化しないっ! 奏とまふゆは何か食べたいのない?」
と、瑞希は先ほどから口を開いていない二人に話題を振る。
「わたしは……特にないかな」
「私も、頼んでも味わかんないし」
いつも通りの二人に、絵名と瑞希は肩を落とした。
「アンタらねぇ、もうちょっと盛り上げようって気持ちにはならないわけ?」
「よくわからない」
「出たっ、まふゆの常套句」
「わたしは、自分から盛り上げるのは苦手だから」
目をそらす奏に、絵名は大きくため息をついた。
「はぁ……、それなら。少しでも盛り上がろうと打ち上げの写真をSNSに投稿でもしてみたら? そういう気分に少しはなるかもよ?」
「あー、自分の入った沼に落とそうとしてるぅ?」
「人聞き悪いわね!」
そんな二人の会話を聞きながら、まふゆは無表情ながらも考え込んだ。
「……まぁ、写真くらいなら」
なんとなく気分が乗ったのか、まふゆはスカートのポケットからスマホを取り出そうとする。
が、
「………………?」
「……まふゆ、どうしたの?」
いつもと違うまふゆの行動に気づき、奏は静かな声で問いかける。
「スマホ、忘れたみたい」
「……珍しいね、そんな凡ミスするなんて」
奏は少し驚いた。
なぜなら、まふゆは基本的に完璧超人で、このようなミスをほとんどしない人間だからだ。
「ないならないで良いけど」
まふゆは早々にSNSの投稿を諦めようとした。
次の瞬間、
――……待ち合わせ、です。
まふゆにとっては聞き慣れた声が聞こえ、その声の主がこちらの方に近づいてくる足音がした。
そして、瑞希達の目の前で立ち止まった。
「…………」
「え、ええっと。何か」
突然来た少年に驚きながらも対応する絵名。
歳は中学生くらいだろうか。美しい紫髪のかなり小柄な少年で、人目では女の子と誤認してしまいそうなほど童顔な瞳をしていた。
すると突然、まふゆが立ち上がった。
「……なつき」
「忘れ物」
まふゆになつきと呼ばれたその男の子は、手に持っていたスマホをまふゆに差し出した。
どうやらまふゆのスマホのようだ。
「ありがとう、なつき」
「どういたしまして」
まふゆはなつきに向けて小さく、本当に小さく微笑みを浮かべる。
その光景に、絵名と瑞希は目を見開いていた。
「まふゆ、その子は?」
最初にその疑問を聞いたのは瑞希だった。
瑞希はその場から立ち上がり、じろじろとなつきを凝視する。
「……見ての通り」
「いや、わかんないから聞いてるんじゃないの」
「……弟さんだよ、まふゆの」
紹介をしようとしないまふゆに付け足すかのように紹介する奏。
「へーそっかなるほど~まふゆの弟君か~」
「ふぅん、弟ねぇ」
「「………………」」
「「弟ぉ!?」」
瑞希と絵名の驚愕の声が見事に一致した。
その大きな声に驚き、なつきはビクッと身体を震わせた。
「……言ってなかったっけ」
「いってないわよ! 何で言わなかったの?!」
「言う必要なかったし」
「あははっ、まぁ家族のことはあんまり喋らないからねぇ」
盛り上がっている四人を見て、まふゆの弟――なつきは頭を下げた。
「姉が、お世話になってます」
「あっ、うんこちらこそ。っていうか、奏は知ってたみたいだね、まふゆの弟くんのこと」
「うん、前に会ったことがあるから」
「お久しぶりです、奏さん」
「礼儀正しい子じゃない。いつものまふゆと違って」
嫌みったらしくいう絵名に目もくれず、まふゆはなつきをじっと見た。
「……アンタ、ご飯は?」
「食べてないよ」
「じゃあ、ここで食べてったら」
「んっ、そうする」
姉の言葉に従い、ここで食事を取ろうと踵を返す。
「あーっ、ちょっと待って!」
すると、何故か瑞希に止められた。
「せっかくだったら一緒に食べない? 弟君の親睦も兼ねてさ」
「?」
予想外の言葉だったのか、なつきは首を傾げた。
「良いよね。三人とも」
「私は良いわよ。まふゆの弟ってちょっと気になるし」
「わたしも……それでいい」
瑞希の言葉に、絵名と奏は同意の言葉を出した。
しかし、姉のまふゆだけは、どこか苦い顔をしていた。
「…………」
「なによ、私達に弟は紹介したくないっての?」
「うん」
「あんたねぇ!」
まふゆは怒っている絵名には目もくれず突然立ち上がり、なつきの前に立ったかと思うと、
ぎゅ――っ
「きゅっ……」
なつきを抱きしめた。
「よくわからないけど、この子が女性と話すのは、いや」
(((……ブラコン?)))
□ □ □
「それにしても、姉様が僕以外の人と素で喋るなんて……興味深いです」
自身の姉がこの三人には素で喋っている事に、なつきは少なからず衝撃を受けた。
彼にとってまふゆという姉は、表面上では優等生を演出し、本来の姿を誰にも見せない。
それは家族も例外ではなく、素を出してくれているのは自分だけだと思っていた。
「まぁ、基本的にまふゆは優等生フェイスだからねぇ」
淡々とフライドポテトを食べるなつきを見ながら、瑞希はヘラヘラと笑った。
「っていうかまふゆ、アンタ弟に『姉様』なんて呼ばせてるの? はっきり言ってどうかと思うわよ」
「しらない、なつきが勝手に言ってるだけだし」
「本当にぃ?」
「うん」
「じゃあ突然姉貴って呼び始めても良いんだ」
「それは嫌」
そんな中、奏が優しくなつきの肩を叩く。
「そういえば、なつき君は味わかるの?」
「いいえ、自分も味はわかりません」
フライドポテトを事務的に食べながら、なつきは問いに答えた。
「そっか、辛くない?」
「辛いとは思ったことがありません、味覚というのは娯楽の一種でしかありませんから。通常不便である理由にはなりませんよ」
「な、なんか。妙に達観してる子だなぁ……」
小さな声でぼそっと呟き、瑞希は脂汗をかいた。
しかしなつきは特に気にする様子もなく、水を飲む。
「……まふゆの弟って感じの子だよね」
「……奏、それどういういみ?」
「え、えっと。特に意味はない、かな」
無表情ながらも圧をぶつけてくるまふゆに、奏は苦笑いで返した。
「随分、仲が良いんだね。姉様」
「……そう見える?」
「うん、見えるよ」
「よくわからないけど、アンタがいうならそうかもね」
なつきからしてみれば、ここまでまふゆが本心を隠さない友達は初めて見る。
制服が違うので違う高校のようだが、一体どういう関係なのだろうか。
そんな事を考えていると、絵名がなつきをじっと睨んできた。
「絵名、うちの弟を睨まないで」
「別に睨んでないわよ失礼ね。ねぇアンタ。もしかしてスイーツとか作る?」
「……? ええ。まぁ。多少なりとも」
「じゃあ、私と会ったこと、あるわよね?」
「……? 貴女と?」
そう言われ、なつきは絵名を凝視する。
「……あっ、いつも木曜あたりに買いに来ます?」
「そうそう! やっぱりあの厨房にいた子よね?」
「わぁ、うちの常連さんだったんですね。気がつきませんでした」
何故か二人で盛り上がっているのをみて、瑞希が口を挟んだ。
「な、何何どゆことなの?」
「この子、私がよく行くスイーツ店で厨房の方にいる子なのよ。近くでは初めて見たからすぐわからなかったけど」
「いつもご愛顧、ありがとうございます」
ぺこり、と頭をさげるなつき。
「へぇ、おいしいの?」
「ええ、とってもおいしい。多分世界に通用すると思うわよ」
「わぁ、絵名べた褒めだね」
「わたしも、なつき君のスイーツ食べたことあるけど、おいしかった」
重ねて同意する奏の言葉に、瑞希は「へぇ~」と言葉をこぼした。
「ねぇ、今度僕にもつくってよ。そんなにおいしいんならさ」
「姉様のお友達であれば喜んで」
そう言って、なつきはぺこりと頭を下げ、微笑みを浮かべた。
と、次の瞬間、
「なつき、そろそろ帰ろう」
「え……ひぇっ」
まふゆは無表情ながらも、明らかに怒っている圧を感じた。
まるで「逆らったら許さない」と瞳が言っているようだった。
「なんか、まふゆ怒ってる……?」
「さ、さっき弟がほかの女性と話すのは嫌だとか言ってたからね……。多分僕達と話してるのが気に食わなかったんじゃない?」
「びっくりするくらいブラコンじゃないあいつ……」
三人がこそこそと話していると、なつきは愛想笑いを浮かべた。
「わ、わかった帰ろっか」
「うん、みんな。そろそろ帰るから」
「「「お、おつかれ……」」」
□ □ □
突然だが、本来の姉弟関係の常識を確認しておこう。
普通だったら姉弟の部屋というのは別々だ。子供の頃は一緒かもしれないが、歳を重ねるごとに一人部屋がほしいと感じるようになる。
そして、仮にもし同じ部屋だったとしても、ベッドは流石に別々だ。
もしベッドが一つしかないとしたならば、姉がベッドを使い、弟はソファーやどこかで寝かせるのが姉弟という物だろう。
「…………」
――ぎゅぅううう。
しかし、だからなんだと言わんばかりに、まふゆは自身の弟、なつきを抱き枕にし、同じベッドで横たわっていた。
「ね、姉様。流石にそろそろ一緒に寝るのはやめない? 恥ずかしいよ」
「嫌なの?」
「いや……ではないけど」
「ならいい」
まふゆの胸に顔が埋もれ、なつきは恥ずかしそうにしているが、まふゆは気にせず抱きしめたまま弟の頭を撫でる。
「なんで……この年にもなって姉と一緒に寝なきゃならないの……」
「……よくわからないけど。アンタといると、どうしても胸が『きゅぅ』ってなって抱きしめたくなる。そう何度も言ってるはずだけど」
まふゆは感情には少々乏しいが、一つだけ我慢できない感情がある。 それは、弟であるなつきを抱きしめたいという欲望である。
最初は意味もなく我慢もしていたが、どこかで歯止めがきかなくなり、一日一回は抱きしめないと落ち着かなくなっていた。
「アンタは私の弟、だから大人しく抱き枕になってれば良い」
「……それ、誰のまね?」