朝比奈まふゆはブラコンである(荊棘の道は何処へ…執筆中)   作:エクソダス

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ここからは過去です。ちょっと曇らせは少なめになるかと思います!

あ、お気に入り千人ほんとうにありがとうございます!
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※なお、傍観者のセカイで使わせていただく場合がございますご了承ください


傍観者のセカイ 壱

 ――――――

 

 ――――

 

 ――

 

 これは、朝比奈なつきがまだ中学一年生になったばかりの話だ。

 

 

「今日から中学生ね、頑張って。お母さん応援してるから!」

「もうっ、大げさだな。母さんは……」

 

 

 入学初日、なつきは母親の声援に苦笑しながらも、初めての制服を着て心なしか胸を躍らせていた。

 四月某日、今日から中学生だ。小学生の時にお世話になった校舎にさよならを告げ、新たな学び舎で勉学や部活に勤しみ、恋愛も盛んに行われる時期だ。

 

 

「いっぱい勉強して、早くお姉ちゃんと隣に立てるような良いお医者さんにならなきゃね?」

「……うん、そうだね」

「さぁ、行くよ。なつき」

「うん、まふゆ姉」

 

「「行ってきます」」

 

 

 姉である朝比奈まふゆにそう催促され、なつきは履き慣れない靴を履き、自宅の玄関から飛び出した。

 

 ―― ―― ――

 

 

「どう? 緊張する?」

 

 

 そして通学中、近くのコンビニ付近を二人で仲良く歩いていたとき、まふゆがそんなことを聞いてきた。

 

 

「うーん、わかんない。結構普通」

「ふふっ、なつきはいつも落ち着いてるもんね。自慢の弟だよ」

「――ん、ありがと」

 

 

 なつきは満面の作り笑顔を浮かべ、まふゆに言葉を返した。

 

 ――中学生、か。どうせ何も変わんないだろうけど。

 

 入学当初、彼は既に希望など見いだしていなかった。

 どうせいつもの日常が訪れ、ただ意味も無く医者という肩書きに向けて頑張るだけ、何の意味も無い人生。

 

『お母さんは貴方に期待してるのよ』

『お姉ちゃんを見習って立派になりなさい』

 

 子供の頃から洗脳のようにそう言われ、良い大学に入って良い医者になって、お姉ちゃんを見習いなさいと……耳障りなほど聞いてきた。

 頑張りたくなんてない、もう努力なんてしたくない、皆と普通に遊びたい。そんな事を何度も望んだが……叶った試しは無い。医者になんてなりたくない、本当は小説家になりたい。自分の好きなことをやりたい。

 

 ――けど、言えなかった。そんな子は『良い子じゃ無い』と今までの事を否定されそうで……言えなかった。

 

 そして、いっぱいいたはずの友達も、学力の無さだけで「関わるな」と言われ……学力のある友達も「友達を選別するな」と罵声を浴びせられて絶交された。

 そして小説は、趣味を隠していたせいでほとんど捨てられた。

 

 

『良い子になりなさい』

 

 

 あの母親の良い子という言葉は呪いだ、まるで自分の人生を支配するかのように言ってくる。まるで『私の教育は間違ってない、すべてお前が良い子じゃないから悪い』と人格すらも全否定するような言葉なのだ。

 母親が嫌いだ――大嫌いだ。その母親に便乗する父親も嫌いだし、二人とも地獄に落ちてほしいとさえ思う。

 そしてそれ以上に…………

 

 

「大丈夫、中学でどんな事があっても、私はなつきの味方だからね」

 

 

 なつきはこの……()()()()()()という人間が大嫌いだ。

 才能に恵まれてなんでもそつなくこなし、母親がいつもいつも比較しやがる元凶のコイツが。

 いつもいつも姉面するくせに、良い子を偽ってるくせに。

 

 ――心の奥底では冷たい瞳をしているこの女が、大嫌いだ。

 

 

 □ □ □

 

 

 そんななつきの思考に変化が現れたのは、中学に入学して約半年ほどたった頃。

 彼は家族を憎みながらも勉強に励み、同学年の主席になるほどには努力して。医者の勉強も、中学生ながら大学の合格率を九十%という異例の確率をたたき出した。

 そして、学校でのコミュニケーションも問題なく、友達にならない程度にそつなく行っていたそんな時。

 

 

「好きです、付き合ってくださいっ」

 

 

 ある女子に校舎裏まで呼び出され、告白されたことでなつきの人生は大きく動き出す。

 

 

「僕と、ですか」

 

 

 告白してきた女子は、同じクラスの女の子だ。

 桃色の髪のツインテールに優しげな緑の瞳が特徴的で、いわゆるなんでも出来る優等生で成績優秀のスポーツ万能……どんな人からも好かれているいわゆるカースト上位の女子。

 

 そのスタイルはまだ中学生とは思えないほど発達し、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。どんな男子も誘惑できそうな身体をしている。

 

 ……つまり、なつきが嫌いな姉のような女子だ。

 

 

「だめ……かな?」

 

 

 心配そうに彼の答えを待つ少女――萌奈(もな)に、なつきは冷たい目でハッキリと言った。

 

 

「ごめん、萌奈さんはとっても素敵な女の子だとは思うけど……。僕は色恋沙汰には興味ないから」

「……そっか」

「ごめんね」

 

 

 俯く彼女に、なつきは一応申し訳なさそうに頭を下げる。

 中学生になったからと言って全員が色恋に興味があるわけでは無く、むしろなつきはそれどころか女性と話すのも苦手だ。

 そしてそれと同時に、なつきはこの萌奈という少女がなんとなく苦手だった。

 

 

「……そうだね、なつきくんはいつも勉強頑張ってるもんね」

 

 

 この少女は誰にでも笑顔で接し、なつきでさえも話しやすい同級生。

 だからこそ、明るすぎるからこそなつきは苦手なのだ。心の奥底では何を考えているかわからないから。

 

 

 

「一応、医者にならなきゃいけないからね」

「そうだよね、その為にがんばってるの。わたしも知ってるよ」

「ありがとう、だからごめ――」

 

 

 萌奈が共感してくれたことを聞き、なつきがもう一度頭を下げてこの場を去ろうとした…………その時、

 

 

 

 

「じゃあ、死ねよガリ勉優等生」

 

 

 

 

 そんないつもの彼女とは似つかわしくない……まるで二重人格かと疑いそうなほど冷たく鋭い言葉が、なつきを突き刺した。

 

 

「……ぇ?」

 

 

 その衝撃に、珍しくなつきも動揺した表情を見せる。

 するとその刹那――、彼女がぐいっと目と鼻の先まで近づいてきた。

 

 

「ごめんね、ガリ勉優等生、お前がなんと言おうと拒否権無いのよ」

「萌奈……さん?」

「お前がさ、正直今邪魔なんだよね。お前がいるとお兄ちゃんに褒めてもらえる回数が少なくなっちゃうわけ」

「おにい、さん?」

 

 

 その時なつきが釘付けになったのは、彼女の綺麗な肌でも視線の下にある程よく発達した胸でも無かった。

 

 

「小学校まではさ、あたしが学年一位だったんだよね全てに関して、運動も勉強も友達関係も部活もぜーんぶ一番、だからいっぱいいっぱいお兄ちゃんが褒めてくれた。そしてそれが中学でも続くと思ってた……」

 

 

 まるで死んだ魚のように濁りきり、大きく見開かれた瞳。

 変わらず笑顔であるがその笑顔は何処か不気味で狂気的、学校での萌奈とは全くの別人だ。

 

 

「けど、中学ではお前がいやがった。異常なほど勉強が出来て陰キャの匂いしかしないお前が。正直わたしの上に人がいるとか邪魔でしか無いんだよね。褒められること減るし、お兄ちゃんと勉強の話になると優等生であるお前が話題に上がるし」

「…………」

「だからさ、お前をわたしに依存させて、ふぬけにしてやろうと思ったの。そうすれば勉強しか取り柄が無いガリ勉陰キャのお前は、なにも誇れることが無くなるでしょ? んでまたわたしが主席に返り咲いてお兄ちゃんに褒められてハッピーっ! わかる?」

 

 

 なつきは珍しく女性に恐怖を覚えていた。

 笑顔が張り付いているようでどこかつかみ所の無い少女だとは思っていたが、まさかこんな理由で自分に接近してくるとは思ってもみなかった。

 

 ――年上に褒められたいなど、姉が嫌いななつきには一生理解できない話であろう。

 

 

「――っというわけで、お前に拒否権はないわけよ。お前の選択権は一応二つ、わたしと付き合ってふぬけになるか……この場で死ぬか」

「…………」

 

 

 そんな狂気とも言え、刃物とも言える彼女の言葉の数々を最後まで聞き終え、ようやくなつきは口を開いた。

 

 

「さぁ、好きな方選んで良い――」

「ごめん、選択肢をつけてくれたのは嬉しいけど。僕と付き合うより殺す方をおすすめするよ?」

「……は?」

 

 

 きょとんととんでもない事をいうなつきに、萌奈はつい目を丸くした。

 予想外だったのだ、この状況ならどう考えたって『生きたいから付き合う』という選択をするはず。

 しかし、なぜか彼は自身を殺すことを勧めてきた。

 

 

「……なんでそう思うわけ?」

「なんでって、僕を殺した方が楽だと思うから。ふぬけ……? っていうのはよくわからないけど、付き合ってふぬけにするより殺した方が時間はかからなくて楽じゃ無いかなぁ……って思ってさ。だってナイフで一刺しするだけでしょ?」

「……なんですって」

「って、そっか。そうすると殺人罪で捕まるのか。それじゃ本末転倒だ。でもそうすると僕が自殺するのが一番楽だね」

「…………ちょ、と」

「でも困った……、僕も自殺は避けたいんだよね。『家族の教育のせいで自殺した』とか言われるのは姉さんの進路にも響きそうだし、なによりもし自殺に失敗したら僕のお医者さんへの道が途切れちゃう……」

「…………」

「でも付き合うにしても、年頃の女の子が好きでも無い人と付き合うって言うのは個人的にも気が引けるし。君もお兄さんを差し置いて僕に時間を割くのは嫌でしょ? むずかしいね……」

 

 

 真剣に答えているようでいて、まるで他人事のような話しぶりに萌奈は絶句した。

 自分も人のことは言えないが明らかに常人の考え方じゃ無く、何処かずれている。自分が死ぬことを軽く受け止め、当事者では無く第三者の如く話してくる。まるで【自分はただのゲームの駒】とでも言わんばかり。

 

 ――その彼の姿は……とても生きているとは言えず、まるで何かに動かされているマリオネットの人形だ。

 

 

「ねえ、何も感じないわけ?」

「…………???」

「もし死んだら、お前はもう家族とも大切な人とも会えなくなるんだよ? なんでそんな簡単に命捨てられるわけ?」

「そ、そんなこと言われても……」

「わたしが言うのも変だけどさ、死んじゃったら医者になるって夢も叶えられなくなるんだよ?」

 

 

 次に口を開いたとき、萌奈は兄思いの妹では無く……彼の友達として口を開いていた。

 

 

「うーん……別に医者になるのは夢でも何でも無いからなぁ……」

「……なんですって?」

「なんというか、母親に言われてるからやってるってだけ? やりたくてやってるわけじゃ無いから……」

「じゃあなつきくんの趣味は? やりたいことは? 生きてそれをもっとやりたいとは思わないの?」

「うぅん? 趣味昔はあったけど今は母親に言われてやめてるし、それにやりたいことかぁ……。あれ、なんでかな……【一つも思いつかない】」

「――ッ」

「まぁ、勉強以外はあんまり考えたこと無かったからね。あ、ホントだ僕ガリ勉だ」

 

 

 ほわほわと言うなつきに、萌奈はまるで苦虫でも噛みつぶした酔うな表情をする。

 

 

「萌奈さん? なんでそんな表情するの?」

「…………あーあ、わかっちゃった。君がガリ勉な理由」

「?」

「すこし可笑しいと思ったんだ。なつきくんが勉強以外の事してるのを見たことが無かったの」

 

 

 萌奈は顔を手で覆い、ギリッと歯を鳴らした。

 

 少し話しただけでわかる……彼の親は【毒親】だ。

 

 恐らく休憩中ずっと勉強をやっていたのも、陰キャのようにいつも席に座り、遊んでいる姿を一度も見たことが無いのも。

 

 

 ――年頃の男子としての遊び方に話し方、ゲームや漫画などの娯楽。それら勉強以外の全てを親によって()()()()()()()生きてきたのだ。

 

 萌奈は突如、なつきの手を取った。

 

 

「……?」

「ゲーセン行くよっ! 今からふぬけにしてやるっ!」

「げ、ゲーセンって何処? っていうかまだ授業……」

「サボれば良いのっ! わたしもサボるからっ!」

 

 

 萌奈はそう叫び、彼の手を引っ張った。

 妹としての感情じゃ無い、人間として彼の危うさを第六感で感じ取った。

 

 ――このままの彼では危険だと。

 

 

 ―― ―― ――

 

 

「ゲーセンってゲームセンターの事だったんだ」

 

 

 中学校を強引に早退し、なつきが連れ去られた場所はデパートの中ある普通のゲームセンターだった。

 二人はある程度ゲームセンターで楽しんだ後、夕方の道を歩いていた。

 

 

「どう、楽しかった?」

「……よくわからない、けどよかったの? こんなバチなんてもらって」

「いいのいいのっ、マイバチにしようとして飽きた奴だから」

「ふぅん……っていうか今更だけど早退してゲームセンターに行く、これって良いのかな?」

「こういうのを【青春】っていうんだよ、なつきくんはわかんないと思うけど」

「うん、わかんない」

 

 

 そんな事を話ながらも、二人は共に歩く。

 彼のゲームセンターに入った時の反応はひどい物だった。まるで子供のようにそわそわして、気になった物は片っ端から指を指し、あの太鼓のゲームですらやり方を知らず、手で叩くレベル。

 

 ――仕方ないのであろうが、これでは子供と大差ない。

 

 そんな事を考えていると、なつきはあーっと口を大きく開けて見せた。

 

 

「……なに?」

「そういえばふぬけにするんでしょ? ほら」

「なんで口を開けるわけ?」

「ん」

 

 

 なつきはポケットからスマホを取り出し、萌奈に見せた。

 そこにはネットが表示されており、

 

 ふぬけとは――はらわたを抜き取られたような状態である。

 

と書かれていた。

 

 

「あ――――っ」

「それは物のたとえだから、本当に取るわけじゃ無いから」

「ふぅん、そっか」

 

 

 しかもこれである。

 勉学は一級品なのだが所々常識が欠如している。人と話さず、文字だけで理解しようとしていた証拠だ。

 

 

「さて、最後のしめといこっか」

 

 

 そう言って、萌奈はポケットから四角い箱のような物を取り出し、とんとん……とその中身を出す。

 

 

「……たばこ?」

 

 

 それは……明らかに未成年が持ってはいけない物、たばこであった。

 

「はい、一本あげる」

「え、いやだめだよ。僕ら未成年だよ? それに身体にも悪いし」

「ふうん。常人の如く百害あって一利なしとでも言う気?」

「ま、まあ……」

 

 

 当たり前のように断るなつきに、萌奈はため息をつき、差し出していたたばこを咥える。

 

 

「そういう奴いるけどさ、むしろ本当に利点がある物なんてこの世の中にはなっつうの。身体に悪いというのなら……何故そいつらは本来は呑む必要の無い、依存のリスクがある酒を飲む? 他人にも迷惑というなら……何故そいつらはそいつらの言う『他人』の気持ちを考えずたばこを吸っていると言うだけで軽蔑し、罵倒する? そういう奴らは結局偽善者ぶりたいだけ、それかたばこが嫌いな奴の過剰反応」

「そ、そんな極論な……」

「あのさ、いい加減『悪い子』になれっての」

 

 

 そう言って、萌奈はたばこをもう一本差し出した。

 

 

「遊んでるときさ、ずっとそわそわしてたよね? どうせ『こんなことしてて良いのか?』とか『勉強しなきゃ』とか色々考えてたんでしょ?」

「…………」

「今までの人生でなつきくんに何があったかは知らないし、聞く必要も無いけどさ、君いくらなんでも良い子すぎなんだよ」

 

 

 萌奈はそう言って、自分の加えているたばこに火をつけ、先端を赤くした後煙の息を吐いた。

 

 

「色々考えるのはわかるけどさ、もう学校サボってゲーセンに来るなんて『悪い子』になったんだから。今は良い子でいる必要なんてない。悪い子でも良いんだよ」

「悪い子でも、いい……?」

「そう、無理に頑張る必要なんて無い。勿論たばこは身体に悪いから、強制はしない。でも少なくともわたしは悪い子として遊んだ最後にたばこを吸って……『たばこを吸ったからもう後戻りは出来ない』って良い子の自分と決別してる」

「良い子の自分と、決別……」

「中途半端に悪い子になっちゃだめ、心を休めてるはずなのに、その心労で心が辛くなる」

「…………っ」

「わたしに悪い遊び教えられたって思っても良い、後で先生に言いつけてもいい。だって全部わたしが悪いんだから、だってたばこを勧めたのもゲーセンに連れてきたのもわたしでわたしが悪いんだから。頑張り屋さんな君はなにも悪くないでしょ? だから――」

 

 俯くなつきに、萌奈は優しく言った。

 

 

 

 

 

 

「今だけは……悪い子でも良いんだよ?」

 

 

 

 

 

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