朝比奈まふゆはブラコンである(荊棘の道は何処へ…執筆中) 作:エクソダス
「ふう」
休日の昼下がり、なつきはいつも通りバイトの店でスイーツを作っていた。
今日は特に人も多くなく、平和その物だ。
「やっほー、弟くん」
と、さっきまでは思っていた、その可愛らし声が店中に轟くまでは。
「……皆さんまた来たんですね。まぁ良いですけど」
なつきはため息をつきながらも、目の前の客人をみる。
いつの間にか、彼女達ニーゴの集合場所がここに確定したらしく、最近はよく店で見かける。
しかし、彼女達の方に目をやると、そこには珍しい客もいた。
「……あれ、零花姉さん?」
それは、まふゆとなつきの幼なじみでありもう一人の姉貴分……そして同じく医者を目指している少女――零花出会った。
「久しぶり、なつきくん。あ、バイトしてたんだね! 偉いなぁ」
と、相変わらず笑顔で接してくるが、まふゆ達はその零花にぎょっとした目を向けた。
「れ、零花? いつもと雰囲気ちがくない?」
「学校ではいつもこんな感じ」
恐る恐ると言った様子で訪ねてくる瑞希に、まふゆは淡々と答える。
すると、動揺している三人を見た後、零花は大きくため息をつく。
「……はぁ、なつきくんとは素で話したこと無かったのに」
まるで今まではポーカーフェイスだったかのように、零花の顔が圧倒的無になる。
「あー……、零花姉さんもそういう感じなのね」
そんな見慣れない幼馴染みの姿に、なつきはつい苦笑を浮かべた。
――元々作り笑顔っぽく、いつか本当の顔を見たいな……とは思っていたが、こんなにあっさり、しかもここまで無表情だとは。
とはいえ、姉のまふゆがいつもこんな感じなので、あまり驚きはしなかった。
「それにしても珍しいね、零花姉さんが人とつるんでるなんて」
「無理矢理、つるまされてるだけ。それに学校に友達はたくさんいる」
「どうせ嘘つきの友達ー、とか言うんでしょ?」
なつきの疑問に答える零花に、絵名は冷たい目でそうツッコんだ。
どうやら、零花と絵名の仲はあまり良くないらしい。
「け、喧嘩はやめようよ……なつきくんの前なんだから」
そして、喧嘩しかけた二人を止めるかのように奏が仲裁に入る。
(零花姉さん、友達いるのか……大変そうだな)
零花の話を聞いて、なつきはそんな事を思った。
なつきにとって友達など不要な物、互いに遊びへと誘惑して仲良しごっこの害悪だとすら思っている。
――そんなんで、医者になんてなれるのかな……。
「……とりあえず、スイーツ用意してきますね」
そんな邪推な考えを巡らせたが、すぐに『仕事中』だと隅に置き、スイーツ作りに取りかかった。
―― ―― ――
「と言うわけで、今回もお疲れ! かんぱーい」
「「「「乾杯」」」」」
瑞希のその元気な声の音頭に乗るように、五人は互いのコップを打ち鳴らした。
一口飲むと、すぐさま瑞希が質問を投げかける。
「そういえば、零花と弟君は面識ある感じ?」
「ある、まふゆと幼馴染みだから」
「あー、そういえばそうか」
素っ気なっく返す零花に、瑞希は納得したように頷いた。
(個人的には零花姉さんと貴方達がつるんでる方がいがいなんだけどなぁ)
「っていうか、アンタとなつき君が幼馴染みって大丈夫? なんか心配だわ」
なつきがそう考えているのを余所に、絵名がそんな失礼な事を言ってきた。
その瞬間、零花が眉をぴくりと動かす。
「それはどういう意味、絵名」
「言葉通りの意味よ、アンタと幼馴染みだとこの子の教育に悪そうねって思っただけ」
「ブーメラン」
「何ですって!? わたしの何処が教育に悪いって言うのよ!」
「ま、まあまあ。やめようよ」
奏が落ち着かせながらもデットヒートが止まらない二人を見て、なつきは首を傾げた。
(零花姉さん、楽しそうだな)
なんとなく、本当になんとなくだが、なつきは今の状況にそういう気持ちを持った。
元々彼女は大切な幼馴染みであったが、それと同時に危うさを持った人間であると言うことは医学を学び始めたときから思っていた。
今まで零花という幼馴染みは本当のお姉さんのように優しく、優しい笑顔を振りまく女性だった。
しかしそれと同時に彼女の行動の一つ一つにはストレスのような物が見受けられ、その笑顔が本物だと思えなくなった。
まるでまふゆと同じ、張り付いている笑顔のような。
――幼馴染みである零花の精神的回復。
彼女こそ……母親の意向とは関係なく、なつきが医者を目指す理由の根源になった人物だ。
「そーだ! 弟君、仕事の区切りがついたら後で来て! 僕達それまで待ってるからさ」
と、突如理由もなしにそんな事を言ってくる瑞希になつきは首を傾げた。
「わかりましたけど、なぜ?」
「いいからいいから! ほら店長さん呼んでるよ?」
なつきは首を傾げながらも、とりあえず店長のいる厨房へと戻っていった。
―― ―― ――
ギャーギャーわーぎゃーっ!
「……うっさ」
厨房で仕事をしていると、すぐさま騒ぎ声がこの店を響き渡らせた。
「……少し目を離したらいつもこれ、零花姉さんやりづらいだろうな」
無理に一緒にいるのだったら最悪あの四人から幼馴染みを男という力で引き剥がすか。
そんな事を考えながら、四人の元に戻ると、案の定と言うべきか……やはり騒いでいるのは彼女達だった。
「また騒いで……今度は何ですか」
「零花がねーっ! みんなで楽しむ時間なんて価値がないっていうんだよー」
「そこまではいってない」
大げさに言う瑞希に訂正をする零花。
「え、えとね。皆でデパートに行こうって事になって、それで……」
「はぁ、なるほど」
奏は瑞希のあまりに極端な説明を訂正しつつ、簡単に先ほどまでの出来事を話してくれた。
(ようするに、瑞希さんは遊びに行きたくて。零花姉さんは勉強をしたい、か)
事の顛末を知ったなつきは一瞬だけ考え込む。
本来だったら、遊んだ方が良い、とかずっと勉強だと気が滅入る、など温かい幼馴染みらしい言葉をかけるべき。
なのだが、
「零花姉さんの言うとおりですよ、他人と楽しむ時間に基本的に価値なんてありません」
「「「「「え」」」」」
残念ながら、彼は零花の言葉を全肯定した。
突然のなつきらしからぬ発言に、五人は動揺のあまり変な声を漏らした。
「ど、どうしたのよ!? なつきくんらしくないじゃない!」
「そうだよ!? 弟くんそんなキャラじゃ無いよね!?」
「いや、お二人のイメージは知りませんけど」
「やっぱり零花は教育に良くなかったのよ!」
と、妙なイメージを持っている瑞希と絵名を無視し、なつきは幼馴染みである零花に目を向けた。
「零花姉さん、僕はあなたの言うこと正しいと思います」
遊ぶのは時間の無駄、そんなことはなつきも理解している。
理由は明白、『萌奈という彼女との遊びには一切合理性が無かったから』だ。
自分の彼女になってくれた萌奈はいつも自分と遊んでくれたが、それは医者になる為には不必要な物ばかり。
明らかに時間の無駄だった。
「……けど、僕はそれでもお出かけすることをおすすめします」
「なんで」
零花は不思議そうな顔でなつきを見る。
「部屋にこもりっきりじゃ、勉強なんて上手くいきませんからね。気分転換は必要です」
「…………」
「それに、必要じゃ無いからと無駄を切り捨てたら、偏った勉強しか出来ませんよ」
そして、それと同時に理解もした、不合理も必要であると。
彼女とのデートは時間の無駄だった、何の価値も無い未来に一切繋がらない虚無の時間だった。
しかし、その無駄は人の心をほぐしてくれた。
『あたしとのデートでなつき君をとろとろにしてふぬけにしてあげる!』
彼女の口癖だったその言葉。
兄の気を引くため、なつきを陥れようとしたあの言葉。
今なら理解できる、たとえどれだけ無駄でも、
――それは必要な物だったんだ。