朝比奈まふゆはブラコンである(荊棘の道は何処へ…執筆中)   作:エクソダス

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 夕方の噴水付近。

 浴衣や子供たちの声、そしてなんとも言えない屋台の香りが鼻をくすぐるその場所で、ニーゴとなつきは集まっていた。

 

 

「さぁ! みんなで花火大会の屋台であそぶぞぉ!」

「おおーっ」

 

 

 大きな声でそう宣言する瑞希に連鎖するように、なつきはなにかを崇めるように両手をあげた。

 

 

「ちょっと、もうちょっと大人しく出来ないの?」

 

 

 呆れ混じりに言う絵名に向けて、瑞希はビシッと指差した。

 

 

「なにいってんの! 夏祭りは世界が認める一大イベントだよ? 高校生なら騒がなきゃ損でしょ?」

「そーだそーだ」

「いや、知らないし。ていうかなつき君キャラ違わない?」

「なつきは色んなポーカーフェイスを持ってるから、あれは【ふざけるときのポーカーフェイス】」

 

 

 なつきのキャラの違いに少し困惑している絵名に、まふゆは注釈をいれた。

 

 

「めんどくさいわね?! アンタら姉弟そろって!?」

「えへへっ」

「ほめてないわよ!」

 

 

 なぜか照れるなつきに、絵名はツッコミをいれた。

 

 

「ともかくっ! さっ、いこいこっ!」

「おまつりだー」

 

 

 妙に急かす瑞希となつきを見ながら、奏は小さくため息をついた。

 

 

 

 □ □ □

 

 

 時は、まふゆが絵名に相談をした時まで遡る。

 

 

「――つまり、あの子はそのリストカットっていう行為をしている可能性がある」

「まだ、確定じゃないけどね、でも……」

 

 

 奏が言い終わるより先に、まふゆはスマホを取り出して現実に戻ろうとする。

 しかし、曲を流す寸前で絵名に止められた。

 

 

「待ちなさい。どうする気?」

「直接話して確かめる」

「簡単に伝えれないからこんなことになってんでしょうが! 無理に詰め寄っても話してくれないだけよ!」

「わたし相手なら、なつきは話してくれる」

 

 

 どこか焦りが滲んでいるまふゆの肩に、瑞希は手を乗せた。

 

 

「まぁまぁ、まふゆのその優しさは立派だけど、それは今の弟くんには重荷になるんじゃないかな?」

「…………」

「……ひとまず、様子を見ようよ、勘違いならそれでいい。もし勘違いじゃなかったら……」

 

 

 言っている途中で、奏は暗い顔をした。

 

 

「あははっ、出来ればそういうことにはならないでほしいね。勘違いじゃなかったら――、最悪一生会えなくなるのも覚悟しなきゃいけなくなる」

 

 

 □ □ □

 

 

「ねぇ、これやってかない?」

 

 

 絵名が指を指したのは、夏祭りならどこにでもある射的だった。

 それを見て、瑞希はニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

 

「絵名もこりないねぇ、前にあんなに……」

「うるさいわね、あの時はあの時よ。やるの? やらないの?」

「やります」

 

 

 と、ポーカーフェイスをやめて元に戻ったなつきが、お金を支払い、銃を手に取る。

 

 ――そして、発砲した。

 

 ぽんっ。

 

 すかっ。

 

 しかし、弾は驚くほど明後日の方向に飛んでいった。

 

 

「「「「…………」」」」

「もう一回」

 

 ぽんっ。

 

 すかっ。

 

「もう一回」

 

 ぽんっ。

 

 すかっ。

 

「もう一か――」

「はいストップストップ!」

 

 全くめげないなつきに流石に我慢の限界を迎え、絵名が止めに入った。

 

 

「全部あらぬ方向に行ってるじゃない! 今のところただの貯金箱よ?」

「でも、難しくて……」

「ああっもうっ! 貸しなさい!」

 

 

 そう言って、なつきの持っていた引き金を奪い取り、景品を狙い撃つ。

 

 ぽんっ。

 

 すかっ。

 

 しかし、当たらない。

 

「あ、あれ? 今度こそ……」

 

 ぽんっ。

 

 すかっ。

 

「なんでよ!」

 

 ぽんっ。

 

 すかっ。

 

 

「次、僕やる」

 

 

 そんな二人の不毛すぎる争いに、瑞希はたまらず苦笑を浮かべた。

 

 

「あ、あっはは。まだかかりそうだし、ボク達は他を回っていようか」

「……いいの? なつきくんをほっといても」

 

 

 ぼそぼそと、奏がそんな事を聞いてきた。

 

 

「二人っきりの方が、話せることもあるよ」

 

 

 これは、瑞希なりの配慮であった。

 こんな大人数で、しかも姉のいる前では話せる悩みも話せない。

 ならば一旦ここは実の弟がいる絵名に任せるのが得策であろう。

 

 ――その子を任せた。

 と絵名に目配せをした後、瑞希は歩き始めた。

 

 

「ほら、まふゆもいくよっ」

「……うん」

 

 

 □ □ □

 

 

「しょぼーん」

「ねえ、なつき君さ」

「?」

 

 

 全弾明後日の方向に飛んでいき、完全に意気消沈しているなつきに、最初は絵名が探りを入れた。

 

 

「最近、困ってることない?」

「困ってること……ですか」

「ええ」

「うーん……」

 

 

 なつきは少し考えを巡らせた後、口を開いた。

 

 

「絵名さんって、才能って存在、信じます」

「…………」

 

 

 才能、彼女が一番嫌いな言葉だ。

 何度も『向いていない』『才能が無い』と烙印を突きつけられたのだから――。

 だが、認めたくはないが、まふゆのような才能の塊がいるのは事実。

 

「まぁ、あるんじゃない?」

「でしたら、『才能』という言葉を。どうやったら断言出来ますか?」

「どうやったら……か」

 

 

 絵名は少し考え込んだ。

 確かにいろんな人から才能だなんだと言われてきたが、その言葉の本質を深く考えたことはなかったかもしれない。

 

 

「たまにいるじゃない、生まれて持った天性みたいな物を持ってる奴。そういう特出した物を持ってる奴が――」

「……すいません、そういうのじゃないです」

 

 

 話の途中で、なつきはバッサリと切った。

 

 

「そんなものはただの個性でしかありません、それを努力出来るかは全くの別問題です」

「じゃあ、どういうのよ」

「たとえ話をします。ある天才と呼ばれる画家がいました」

「ええ」

「その人の作品は、百点もの作品が美術館に展示され。高評価を得ました」

「ええ」

「しかし、その人の描いた作品は百億点にも登り、それらは日の目を見ることすらありませんでした」

「…………」

「さぁ、その天才は本当に天才ですか? その人の努力の結果を無視して、才能というのでしょうか」

 

 

 そのなつきの言葉を聞き、絵名はかなり考え込んだ。

 彼が話しているのは、美術作品の縮図だ。

 優れた芸術家は死んでから名を馳せるように、作品も時間が経過してから評価された作品など山ほどある。

 そして、その評価されるのは……その人物が描いていた中でもほんの数点……いや一点だ。

 

 

「僕は、才能なんて『無駄な言葉』が嫌いなんです。『才能が無いから』と見下し、『才能だから』と努力を吐き捨てる」

「…………」

 

 

 彼は痛いほど知っている、才能という猛毒を。

 姉のまふゆは才能があるからと努力していないことにされ、なつきは才能が無いからとやろうとすることを足蹴にされてきた。

 

 ――才能という言葉は、猛毒でしかない。

 

 

「才能という言葉を消したい、それが悩みです」

「……ふふっ」

「……可笑しいと思ったでしょ?」

 

 

 予想通りだよ、とふて腐れた様子のなつき。

 そんななつきを見て微笑み、絵名は彼の頭を撫でた。

 

 

「?」

「いいえ、全然可笑しくないわ」

 

 

 彼の言っていることは、正直絵名の心にかなり刺さった。

 

 

「才能という言葉を消したい、わたしも同じよ」

 

 

 なぜなら、彼女は今まで『才能』という言葉に踊らされながらも、必死に努力してきた人間だからだ。

 しかし、なつきの言葉はとても芯が通っていて『才能なんて無い』と初めて自覚させられた。

 

 

「才能って呼ばれるのは、結局努力次第なのよね。それも何千枚何万枚と」

「?」

 

 

 ふっ、と絵名の心が少し軽くなるような気がした。

 今まで『才能』と言う言葉に惑わされていたが、彼の話を聞いた瞬間。もう才能という言葉に縛られることが無くなる気がした。

 

 

「いいわね、その悩み。わたしも悩み解決に協力してあげる」

 

 

 絵名はなつきの優しい瞳を見ながら――くすりと晴れ晴れしく微笑んだ。

 

 

 □ □ □

 

 

「あきた」

 

 

 絵名は未だに射的をしているが、なつきには飽きが来てしまいお祭りをぶらぶらと回っていた。

 

 

「あ、弟くーん。こっちこっち」

「?」

 

 

 弟という言葉に反応し、声の主を見てみると、案の定というべきか。そこには瑞希が焼きそばを持って座っていた。

 なつきはとりあえず彼女の近くに座ることにした。

 

 

「姉様と奏さんは?」

「奏は体力消費で脱落、向こうで休んでるよ。まふゆは気がついたらいなかった。ふぅ、ふぅ」

「そうですか」

「ふふっ、僕と二人っきりだね」

「っ」

 

 

 あざとく笑みを浮かべる瑞希に、なつきは不覚にもドキッと心臓が跳ねた。

 

 

「あ、今ドキッとした? ドキッとしたでしょ?」

「してないです」

「そんなこと言って、顔がとっても赤いよ? ふふっ、初心だね」

「……やっぱ貴方嫌いです」

 

 

 顔を真っ赤にして顔を背けるなつきを面白がり、瑞希はケラケラと笑った。

 

(……さて、そろそろ始めようかな)

 

 

「そんな可愛い僕がさ、本当は()()()だって言ったら、君は信じる?」

 

 

 瑞希が最初に取った行動、それは『自分の秘密をばらし、相手の秘密を気楽に話してもらう』事だ。

 彼の性格は、おそらくまふゆと似て自分からは自身の悩みなどは話さないであろう。

 

 しかし、こちらから話せば、おそらく突破口が見つかる可能性がある。

 男に見られてしまうというデメリットはあるが、友達の弟が死ぬ可能性があるのと天秤をかければ、迷わずにそちらを捨てる。

 

 そして――、

 

 

「信じます」

「……え?」

 

 

 全く迷うことなく、信じるという発言に、瑞希は目を丸くした。

 正直、女の姿をしているので驚かれると思っていたからだ。

 

 

「冗談だって思ってる?」

「いえ、そんなことはありませんよ」

「だったら……」

「だったら、何です?」

「もうちょっと驚いてくれてもいいんじゃない?」

 

 

 恐る恐ると言った様子で聞く瑞希に、なつきは首を傾げた。

 

 

「何も驚く事は無くないですか?」

 

 

 きょとんとした表情でいうなつき。

 マジの顔だ、特に驚く事も無く困惑することもなく、さも当然かのような目をしている。

 

 

「……どうして、そう思うのかな?」

 

 

 そんな彼に、瑞希は個人的な興味がわいた。

 この姿、『男』という話に戸惑いもせず、困惑を顔に出すことなく、まっすぐ見つめてくる彼を。

 ――今まで何人も人と話してきたが、初めての体験だった。

 

 

「どうして……?」

「あ、そこは考えるんだね」

「少々言葉に困りまして……、ジェンダー的な観点から話した方が良いですか?」

「そんなに難しく考えなくても、君の思ったとおりの答えが聞きたいな」

「そう、ですね」

 

 

 なつきは数秒間思考した後、瑞希の持っている焼きそばを指さした。

 

「焼きそばって、食べますよね?」

「え? あーうん。そうだね」

「その時にこの麺の作り方は~~、とか別に気にしませんよね?」

「まあね」

「そんな感じです」

「??????」

 

 

 訳のわからないなつきの言葉に、瑞希は目を丸くした。

 

 

「どういうことだってばよ」

「つまりえっと、自分にとっては姉の友達と話しているだけなんですから。別に出身校とか気にならないと言いますか……」

「…………」

 

 

 一応理解した。

 つまり、ただ話しているだけなのだから、『性別は出身校のようにどうでもいい』と言いたいわけだ。

 それを焼きそばに例えた訳か……。

 

 こんな、変な理論の……自分を男としてではなく『瑞希』として接してくれる人は初めてだ。

 

 

「ぷっあっっははははははっ!」

 

 

 瑞希はつい笑ってしまった。

 悩みを聞くはずが……まさかこんなさらりと自分という存在を『瑞希』として見てくる人がいるとは思わなかったからだ。

 

 

「いいねいいねっ! きみさいっこう!」

「……そうですか」

「そうだね、僕は君のお姉さんの友達だ。性別なんてどうでも良いか! あっははははっ!」

「……あの、冷めますよ?」

 

 

 □ □ □

 

 

「はぁ……はぁ……」

「大丈夫ですか? 奏さん」

「あ……なつき君」

 

 

 祭りの屋台が並ぶ外れにあるベンチ。

 そこで休んでいる奏の近くに歩み寄り、買ってきた飲み物を差し出した。

 

 

「はい、飲み物です」

「あ、ありがとう」

 

 

 差し出された飲み物をもらい、奏はその飲み物で口を湿らせた。

 

 

「おいしい……」

「そうですか、良かったです」

「…………」

「…………」

「「………………」」

 

(な、なにか話さないと)

 なにも話さない静寂の中、奏は話題作りに躍起になっていた。

 なつきの話を聞くべきなのはわかっている、けどとっかかりがない。

 元々奏は話すのがあまり得意ではない、どう話題を振ったら良いかわからない。

 

(いきなり悩み事を聞くのは馴れ馴れしい気はするし、かといって天気とか無難すぎる話をするのも……)

 

「…………」

「焦る必要はありません」

「?」

 

 

 突然、はっしたそのなつきの言葉に、考え込んでいた奏は首を傾げた。

 

 

「話さなければと思うほど、相手といることに窮屈さを感じてしまいます、難しく考える必要なんてありません。少なくとも僕は奏さんとの静かな時間は……嫌いじゃないです」

「そっか……」

 

 

 その優しいなつきの言葉に、奏はふっと笑った。

 彼はいつも優しい、親身に話を聞いてくれるし、まるで自分のことのように寄り添ってくれる。

 それは、おそらく……ポーカーフェイスなどではない。彼の生まれ持っての性格なのだろう。

 

 

「……なつきくん」

「?」

「絶対、君も救うからね」

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