朝比奈まふゆはブラコンである(荊棘の道は何処へ…執筆中) 作:エクソダス
「姉様――、――きて、――姉様」
「…………っ」
まふゆが目を覚ますと、そこは見慣れた自分と弟の自室だった。
まふゆは寝ぼけて頭が回らない中、目をこする。
――さっきのは、夢?
「……うぅ」
ひどい夢だった。
目の前で弟のなつきが首をつり、死んだ夢だ。
夢だと思った瞬間安心し、まふゆは布団にくるまった。
「ほら、今日は二人で一緒に出かける約束でしょ? 早く起きて、姉様」
「んぅ……あと五分」
「そんなありきたりな寝言言ってないで、起きて姉様!」
「やだぁ……」
強引に揺すって起こそうとする弟を、まふゆは抱きしめて一緒に布団の中にくるまった。
「きゅ……」
□ □ □
「おはよう、お父さん。お母さん」
「……おはよう」
まふゆは座っている父親とキッチンにいる母親に朝の挨拶をした後、弟の席を引いてあげ、自分の席に座った。
「あれ? お母さん? 朝ご飯なつきの分だけ来てないよ?」
「……ぇ? そ、そうね。ごめんなさい。すぐ作るわ」
母親は作り笑いを浮かべた後、急いで作り始めた。
「大丈夫、慌てなくて良いよ」
弟はドジな母親に苦笑を浮かべながら、ついていたテレビを見始めた。
「なつき、最近不安なことはない?」
「この間も似たような事聞いたよ姉様。そんなにホイホイ状況は変わんないって……」
「あははっ、それもそうだね」
頬をかいている弟を見て、まふゆは楽しそうに笑った。
最近まふゆは、自分が感情を隠すことなく生きていれている気がする。
多分、それは最近いつも以上に仲が良くなっている弟のおかげだ。
「ところで父さん、なんか最近元気ないよ? どうしたの?」
「…………」
「お父さん?」
弟の声には反応せず、まふゆが声をかけると。はっ、と気がついたようにまふゆを見た。
「……なんだ?」
「なつきが大丈夫? って聞いてるよ?」
「あ、ああ大丈夫だ。心配かけてすまないな」
父親はどこか遠い目で作り笑いを見せた。
「は、はい。お待たせ」
そして、母親が弟の分の朝ご飯を持ってきた。
母親はまふゆを撫でた後、キッチンに戻った。
――最近はいつもそうだ。
父親も母親も、まふゆが感情を取り戻してからは素っ気ない気がする。
それは何故か、まふゆにはわからない。
「姉様? どうしたの?」
「う、ううん。なんでもないよ」
少しぼーっとしてたようだ。
両親に触発されて、自分まで素っ気なくなる訳にはいかない。
そんなことをしたら、弟がかわいそうだ。
□ □ □
「それで、姉様。今日はどこに行くの?」
「今日行く場所はね。まずはCD売り場だよ」
「CD売り場?」
弟は首を傾げた。
そういえば、今日はどこに行くのかやんわりとは伝えたが、詳細な所までは伝えてなかった気がする。
「あのね、今ニーゴでは明るい曲を作ってて、その素材探し……みたいな物かな?」
「ふぅん、姉様のグループって結構暗い曲を作ってる印象があったから意外」
「ふふっ、なにそのイメージ」
「だって、そういう曲しか歌詞作らないじゃん姉様」
「……? そうだったかな?」
弟にそう言われ、確かに言われてみればそうな気がする。
ニーゴのオリジナル曲もカバー曲も、思い返して見ると静かな曲を作ることが大半だった気がする。
「何か心境の変化でもあったの? 姉様」
「うーん……よくわからない。なんでだろ」
まふゆは思考を巡らせるが、何故か答えは出なかった。
――なんとなく、明るい曲を作りたい。そう薄々思ってはいたが、元々は静かで心に刺さる曲を作りたかったはず。
……まふゆ自身も、何故かはよくわからなかった。
□ □ □
「それじゃあ、とりあえず特集コーナーを見てみようか」
CDショップに向かうと、まふゆは目の前にあったおすすめ曲の特集コーナーに向かった。
今週の特集は、どうやら『元気の出る音楽集』のようだった。
「あ、運が良いね姉様。ちょうどいい特集がやってるよ」
「うん、そうだね」
ぴょんぴょんと楽しそうにはしゃぐ弟を見て、まふゆは心底楽しそうに微笑んだ。
まふゆは特集コーナーにあったヘッドフォンを手に取り、特集されていた音楽を聞き始める。
「僕も聞く」
そうしていると、弟がヘッドフォンの外側に耳を当て、頬を合わせるように密着してきた。
そんな可愛らしい弟の行動に、ついまふゆはにやけてしまった。
「いいの? 人前で密着して」
「――っ、いいの。誰もこっちを見てないし」
顔を真っ赤にし、そっぽを向く弟。
幸い、周りの人は弟の事を気にしておらず、弟はほっとしている。
「あ、まふゆ?」
すると、ヘッドフォン越しに知り合いの声が聞こえてきた。
「――姉様」
「わかってる。気づいてるよ」
教えてくれた弟を撫でた後、まふゆはヘッドフォンを外した。
声の主を見ると、それはまふゆのサークル仲間である、瑞希だった。
「どうしたの? 一人?」
「うん。ちょっと買いたいCDがあってさ。……まふゆは一人?」
「ううん、見ての通りなつきと二人だよ」
「……そっか、また会ったね。弟君?」
「……どうも」
いつも通りにっこりと笑顔を見せる瑞希を、弟はまふゆの後ろに隠れながら見つめた。
「ふふっ。まだ瑞希に苦手意識があるみたい」
「あははっ、そうなんだ。別に嫌われることはしてないはずなんだけどなぁ」
頭をかきながらヘラヘラと笑う瑞希を見て、まふゆは自然と笑顔を見せた。
「それじゃあ、私達はそろそろ行くね」
「ではまた。瑞希さん」
「……うん、またねっ。二人とも」
□ □ □
「いいの? 瑞希さんともうちょっと話してなくてさ」
「いいの、今日はなつきと一緒にいたい気分だから」
「なにそれ」
くすくすと、楽しそうに笑みを浮かべる弟。
釣られるようにして、まふゆは微笑みを浮かべた。
「さて、次はどこに行くの? 姉様」
「次は、喫茶店よ」
「喫茶店? 珍しいね」
予想外、というような顔をする弟。
「なんでそんなところ、二人とも食べ物の味なんてわかんないでしょ?」
「こう言うのは、気分。特に意味はないよ」
「そっか、姉様がそう言うなら、僕は一緒に行くよ」
そう言って、弟はまふゆの腕に抱きついた。
□ □ □
喫茶店に入ると、カランカランッと扉についていたドアベルが鳴り響く。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「二人です」
「空いてるお席にどうぞ」
そんなテンプレートのような台詞を聞きながら、まふゆは空いている席に座った。
「ご注文はお決まりですか?」
「ホットケーキを二つと紅茶二つ」
「かしこまりました、少々お待ちください」
店員は一礼をした後、厨房へと戻っていった。
「こういう時ってさ姉様。人数なんて見ればわかるだろって思わない? 見えない悪霊でも数えてんのかよって」
「ふふっ、そうだね」
弟のどうでも良い話に苦笑するまふゆ。
数分後、注文していた品が届き、目の前の席にホットケーキと紅茶を置いた後、自分の目の前に置いた。
「それじゃあ、食べようか」
「うん、姉様」
「「いただきます」」
そんな声が喫茶店を響いた後、まふゆは食べ始めた。
「…………」
「……ま、味わかんないよね」
しかし、結局味はわからないので、食べた後の話題が見当たらない。
なので、
「はい、あーん」
「…………」
こういう状況で話すべき会話が続かないため、まふゆは弟に向けてホットケーキを刺したフォークを突きつけた。
「え」
「…………」
「…………」
「「………………」」
長い沈黙の後、ぽとり……とフォークに刺さっていたホットケーキが無様にもテーブルに落ちた。
「……食べてよ」
「……やだよ」
「……姉が『あーん』してあげてるのに?」
「それによりもっと食べる気が無くなったよ」
と、そんな話をしていると、
「あら、まふゆ?」
また聞き慣れた声が聞こえ、声の主を確認すると、
そこには絵名が立っていた。
「…………」
絵名はホットケーキが二つあるのを確認した後、笑って見せた。
「今日はなつきくんとデート?」
「違います」
「まぁ、そんなところかな」
「そう、良かったわねなつきくん」
「僕の言葉はガン無視ですか……」
見事にスルーされ、弟は肩をがっくりと落とした。
「そういう絵名は? また太るよ?」
「失礼ね! ただの気分転換よ気分転換っ!」
「そっか、せっかくだから、一緒に食べる?」
「え、そうね……」
絵名は弟のホットケーキに視線を泳がせた後、なんともいえない笑みを浮かべた。
「……遠慮しとくわ。アンタとなつきくんの時間を取るわけにはいかないから」
「いえ、別にそんな事気にしなくても――」
「じゃあね、二人とも」
弟の止める言葉を聞くことはなく、絵名は遠くの席に行ってしまった。
「……最近、僕避けられてる?」
「多分、避けられてるのは私だと思う」
「姉様の愛想悪いから、ニーゴの皆様愛想が尽きたかな」
「おだまり」
□ □ □
「…………」
夕方頃、奏は父親との面会のため、病院に来ていた。
父親が入院してからは、一週間に一回は病院に来るようにしている。
「あとは、あの子に会って終わり」
父親との面会が終わった後、奏はもう一人のいる病室に足を運ぶ。
最近奏は、父親以外にもう一人看病している少年がいた。
「…………」
奏が病室に入ると、そこには少年が横たわっている。
その少年は中学生くらいだろうか、美しい紫髪でかなり小柄な少年だ。
人目では女性と誤認してしまいそうなその双眸には生気は宿っておらず、虚ろで力の無い目をしていた。
「また来たよ、なつきくん」