【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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 フルフェイスのヘルメット

 

学校前の坂を惰性で下り、下りきった交差点を左折。

 

甲斐常葉(かいときわ)駅の前を通って国道300号線へ入る。

 

本栖(もとす)高校からカリブー身延店へは、バイクで30分ちょっとの距離だ。

 

この辺りの道路はよほどのことがなければ渋滞しないので、制限速度を守ってスイスイ走って行く。

 

後ろに乗る揖斐川(いびがわ)は、特に何も言わない。

 

話題が無い訳ではないだろうから、運転中は話し掛けない方が良いと思っているのか、大きな声じゃないと聞こえないから会話を諦めているのか……。 

 

 

 

 

県道9号線へ入る。俺の通学ルートとは真逆だが、(何故(なぜ)か)走り馴れた道だ。

 

富士川の左岸はJR身延線と並走しているので、電車とすれ違うこともある。本数が多くないので、見れたらラッキーといった感じだが。

 

そんなことを考えながら走って行くと、目的地が見えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたぞ」

 

そう言いながら、スタンドを下ろしてエンジンを切る。

 

「ありがとう」

 

揖斐川が降りてから、俺もバイクから降りる。

 

「それじゃあ行きますか!」

 

渡されたヘルメットをしまい、俺はこれにて……と思ったところで、怪しげな言葉が飛んできた。

 

これ、一緒に連れていかれるパターンか?

 

「滝野くん、いつまでヘルメット被ってるの? それ外したら行くよ!」

 

やっぱり。

 

「…………」

 

ここは無言の抵抗を試みる。

 

「どうしたの? 立ったまま寝てる?」

 

それは随分器用なことをしてますね……って、俺に対して言ってるんだ。この場合寝ているのは俺。

 

「……」

 

「ほら行くよ」

 

あ。強引に腕を捕まれ引っ張られる。

 

「……」

 

そろそろ無言も限界か?

 

「待って。待ってくれ!」

 

引っ張られたまま、店の入口へと引きずられて行く。もちろん、ヘルメットとか外してない。

 

「時間無いんだから!」

 

「分かった、分かったから許して。せめてヘルメット脱ぐ時間だけでも~!」

 

結局、そのまま店内へ連行されてしまった。

 

これ、歯医者を嫌がる親と子どものやり取りみたいだな……。

 

というか、揖斐川こんなに力強いんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリブー店内を、あてもなく歩く。

 

入店後すぐに揖斐川は面接を受けにバックヤードへ消えていった。もう、勝手知った店って感じだった……。

 

俺は揖斐川に強制連行された関係で、服装こそ制服だが、フルフェイスのヘルメットにグローブを着用したままだ。ここが銀行なら完全に強盗だな。場所によっては入口に『ヘルメット着用したままでの入店はお断りします』とかかれたシールが貼られているし。

 

「2点で7,370円になります」

 

「じゃあ、一万円でお願いします!」

 

「ついに手に入れたな、なでしこちゃん!」

 

「うん!」

 

「よし、なでしこ記念に一枚だ」

 

「アハハハ。いい顔!」

 

うん? レジの方から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「ガラス製品ですから、取り扱いに注意してくださいね」

 

「分かりましたー」

 

「やっぱり。各務原(かがみはら)さんだ」

 

レジの前まで歩いて行くと、野クル部のメンバーが集まっていた。

 

各務原さんの手には、ガスランタンが。今買ったものだろう。聞こえてきたのはそんなやり取りだったから。

 

「ええっ! ど、どちら様ですか!」

 

しかし、俺の顔を見上げた途端に、みるみる顔が青ざめる。

 

何で…………しまった! 俺ヘルメットを……。

 

「おお!?」

 

驚いた拍子に各務原さんは、手に持っていたものを上へと放り投げてしまう。それはつまりガラス製のランタン……。

 

この店は取り扱っている商品の関係上、倉庫のように天井は高い。

 

なので、天井への激突は避けられたが、上がったものは当然落ちてくる。

 

「お。えへへ……」

 

各務原さんがちゃんと受け止めた。

 

危なかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

三人が出て行くのを見送る。

 

俺はまだ店に残っている。恐らく、揖斐川妹を連れて帰ることになるだろうから。

 

「割れなくて良かった……」

 

「あれの替えグローブ、意外と高いですからね」

 

横には関さんと揖斐川さん。

 

「あはは……」

 

俺は苦笑い。

 

「って、犯人は純ちゃんだよ? フルフェイスのメット姿じゃあ、驚かれるのも仕方無いよ?」

 

「次は気を付けてね」

 

揖斐川さん、関さんに順に言われてしまう。

 

「はい。面目次第もございません……」

 

二人に頭を下げる。そう、犯人は俺だ……。

 

「本当だよ、気を付けてね」

 

うん? 顔を上げると一人増えていた。

 

「揖斐川! 面接受かったのか」

 

揖斐川妹が立っている。ここはキャンプ用品店なので、店としての制服は無い。代わりに名前が書かれた名札が下がっている。

 

『揖斐川 志』姉と被るからだろう。

 

学校の制服の上からエプロンを着用している。名札も含め、もう既に店員の格好だ。

 

「面接なんて無いよ。私だからね」

 

「なんですか、それは」

 

純一(じゅんいち)くんにしろ、志帆(しほ)ちゃんにしろ。知らない人じゃないからね。働いてもらえるのなら、シフトの確認と名札の作成、店内とレジ操作の説明の予定だったんですよ」

 

つまり、面接不要だというわけか。

 

採用の可否を決める面接は飛ばして、勤務を決める面接(この場合面接と言うのか?)だったらしい。関さん。店長がそんなんで大丈夫なんですか?

 

「って、俺もですか!」

 

「そりゃあね。家がキャンプ場って子、中々居ないよ?」

 

たくさんいたら怖い。

 

皆さん、このサイトで『ゆるキャン△』の二次創作を検索してみてください。『主人公やその周辺人物が、キャンプ場の関係者』って作品、本作以外にありますか?

 

「あ、そういえば純ちゃん」

 

「はい?」

 

揖斐川さんが、思い出したかのように口を開いた。

 

「富士吉田店の瑞穂(みずほ)ちゃんから」

 

山川(やまかわ)さんですか?」

 

うちが取引しているカリブー甲府店に勤務していて、昨年末に富士吉田店に異動になった人だ。*1

 

甲府の頃に物凄くお世話になっている。

 

「久々に顔を見たいって言ってたよ」

 

富士吉田店か……。

 

少し遠いけど、まあ、ほったらかし温泉よりは近いし、朝霧高原に行くのと距離は対して変わらない。

 

次の週末辺りで行ってみようか。

 

あ、彼女の勤務が分からない。行って居なかったら悲しいからなぁ……。

 

「揖斐川さん」

 

「「どったの?」」

 

「二人揃って返事しないでください。妹に用はない」

 

「酷いなぁ……」

 

「山川さん、週末に行っても会えますかね?」

 

「うん。休みは平日って言ってたから、週末なら大丈夫だよ」

 

なら、日曜日でも大丈夫だろう。

 

「分かりました。今度の週末、行ってきます」

 

「今度の週末ね。一応連絡しておくよ」

 

「お願いします。日曜日に行く予定です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに、揖斐川妹は姉と一緒に帰るとのことで、俺の出番はなかった。

 

なのに、それを言わないものだから、二人の仕事が終わるまで待たされた俺は、ただ単に帰りが遅くなってしまった……。

 

 

*1
カリブーなう!(第22話)参照 ※リンクですから左のサブタイトルを押すと、飛びます





いつもありがとうございます。

皆様からの お気に入り登録・評価 により、総合評価が300ポイントを越えました!
(※2月28日15時時点)

他の作品と比べればかなり低い数字ではありますが、私にとっては凄く嬉しく、有り難い数字です。

ですので、前倒ししてこのお話をお送りしました。それに、今日は四年に一度の2月29日ですからね……。

今後とも宜しくお願い致します。
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