学校前の坂を惰性で下り、下りきった交差点を左折。
この辺りの道路はよほどのことがなければ渋滞しないので、制限速度を守ってスイスイ走って行く。
後ろに乗る
話題が無い訳ではないだろうから、運転中は話し掛けない方が良いと思っているのか、大きな声じゃないと聞こえないから会話を諦めているのか……。
県道9号線へ入る。俺の通学ルートとは真逆だが、(
富士川の左岸はJR身延線と並走しているので、電車とすれ違うこともある。本数が多くないので、見れたらラッキーといった感じだが。
そんなことを考えながら走って行くと、目的地が見えてきた。
「着いたぞ」
そう言いながら、スタンドを下ろしてエンジンを切る。
「ありがとう」
揖斐川が降りてから、俺もバイクから降りる。
「それじゃあ行きますか!」
渡されたヘルメットをしまい、俺はこれにて……と思ったところで、怪しげな言葉が飛んできた。
これ、一緒に連れていかれるパターンか?
「滝野くん、いつまでヘルメット被ってるの? それ外したら行くよ!」
やっぱり。
「…………」
ここは無言の抵抗を試みる。
「どうしたの? 立ったまま寝てる?」
それは随分器用なことをしてますね……って、俺に対して言ってるんだ。この場合寝ているのは俺。
「……」
「ほら行くよ」
あ。強引に腕を捕まれ引っ張られる。
「……」
そろそろ無言も限界か?
「待って。待ってくれ!」
引っ張られたまま、店の入口へと引きずられて行く。もちろん、ヘルメットとか外してない。
「時間無いんだから!」
「分かった、分かったから許して。せめてヘルメット脱ぐ時間だけでも~!」
結局、そのまま店内へ連行されてしまった。
これ、歯医者を嫌がる親と子どものやり取りみたいだな……。
というか、揖斐川こんなに力強いんだな。
カリブー店内を、あてもなく歩く。
入店後すぐに揖斐川は面接を受けにバックヤードへ消えていった。もう、勝手知った店って感じだった……。
俺は揖斐川に強制連行された関係で、服装こそ制服だが、フルフェイスのヘルメットにグローブを着用したままだ。ここが銀行なら完全に強盗だな。場所によっては入口に『ヘルメット着用したままでの入店はお断りします』とかかれたシールが貼られているし。
「2点で7,370円になります」
「じゃあ、一万円でお願いします!」
「ついに手に入れたな、なでしこちゃん!」
「うん!」
「よし、なでしこ記念に一枚だ」
「アハハハ。いい顔!」
うん? レジの方から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「ガラス製品ですから、取り扱いに注意してくださいね」
「分かりましたー」
「やっぱり。
レジの前まで歩いて行くと、野クル部のメンバーが集まっていた。
各務原さんの手には、ガスランタンが。今買ったものだろう。聞こえてきたのはそんなやり取りだったから。
「ええっ! ど、どちら様ですか!」
しかし、俺の顔を見上げた途端に、みるみる顔が青ざめる。
何で…………しまった! 俺ヘルメットを……。
「おお!?」
驚いた拍子に各務原さんは、手に持っていたものを上へと放り投げてしまう。それはつまりガラス製のランタン……。
この店は取り扱っている商品の関係上、倉庫のように天井は高い。
なので、天井への激突は避けられたが、上がったものは当然落ちてくる。
「お。えへへ……」
各務原さんがちゃんと受け止めた。
危なかった……。
「ありがとうございましたー」
三人が出て行くのを見送る。
俺はまだ店に残っている。恐らく、揖斐川妹を連れて帰ることになるだろうから。
「割れなくて良かった……」
「あれの替えグローブ、意外と高いですからね」
横には関さんと揖斐川さん。
「あはは……」
俺は苦笑い。
「って、犯人は純ちゃんだよ? フルフェイスのメット姿じゃあ、驚かれるのも仕方無いよ?」
「次は気を付けてね」
揖斐川さん、関さんに順に言われてしまう。
「はい。面目次第もございません……」
二人に頭を下げる。そう、犯人は俺だ……。
「本当だよ、気を付けてね」
うん? 顔を上げると一人増えていた。
「揖斐川! 面接受かったのか」
揖斐川妹が立っている。ここはキャンプ用品店なので、店としての制服は無い。代わりに名前が書かれた名札が下がっている。
『揖斐川 志』姉と被るからだろう。
学校の制服の上からエプロンを着用している。名札も含め、もう既に店員の格好だ。
「面接なんて無いよ。私だからね」
「なんですか、それは」
「
つまり、面接不要だというわけか。
採用の可否を決める面接は飛ばして、勤務を決める面接(この場合面接と言うのか?)だったらしい。関さん。店長がそんなんで大丈夫なんですか?
「って、俺もですか!」
「そりゃあね。家がキャンプ場って子、中々居ないよ?」
たくさんいたら怖い。
皆さん、このサイトで『ゆるキャン△』の二次創作を検索してみてください。『主人公やその周辺人物が、キャンプ場の関係者』って作品、本作以外にありますか?
「あ、そういえば純ちゃん」
「はい?」
揖斐川さんが、思い出したかのように口を開いた。
「富士吉田店の
「
うちが取引しているカリブー甲府店に勤務していて、昨年末に富士吉田店に異動になった人だ。*1
甲府の頃に物凄くお世話になっている。
「久々に顔を見たいって言ってたよ」
富士吉田店か……。
少し遠いけど、まあ、ほったらかし温泉よりは近いし、朝霧高原に行くのと距離は対して変わらない。
次の週末辺りで行ってみようか。
あ、彼女の勤務が分からない。行って居なかったら悲しいからなぁ……。
「揖斐川さん」
「「どったの?」」
「二人揃って返事しないでください。妹に用はない」
「酷いなぁ……」
「山川さん、週末に行っても会えますかね?」
「うん。休みは平日って言ってたから、週末なら大丈夫だよ」
なら、日曜日でも大丈夫だろう。
「分かりました。今度の週末、行ってきます」
「今度の週末ね。一応連絡しておくよ」
「お願いします。日曜日に行く予定です」
因みに、揖斐川妹は姉と一緒に帰るとのことで、俺の出番はなかった。
なのに、それを言わないものだから、二人の仕事が終わるまで待たされた俺は、ただ単に帰りが遅くなってしまった……。
いつもありがとうございます。
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(※2月28日15時時点)
他の作品と比べればかなり低い数字ではありますが、私にとっては凄く嬉しく、有り難い数字です。
ですので、前倒ししてこのお話をお送りしました。それに、今日は四年に一度の2月29日ですからね……。
今後とも宜しくお願い致します。