【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~   作:歌うたい

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063 仕組まれた罠

「ジャガイモ貴族、どうしてアンタがっ!」

「誰がジャガイモだ!しかしどうしてとは愚鈍じゃないか。お前が此処に居る理由を考えれば察しがつかないかい?」

「じゃあ、あの手紙は⋯⋯」

「ふはは、僕は文才というものにまで恵まれてしまっているらしい。よもや本当に来るとはね。流石は平民、甘い言葉には尻尾を振ってよく(たか)る!」

 

 満を持してという心持ちだろう。

 現れたルズレーはとても饒舌だった。身振り手振りも大きく、歪んだ高揚感に酔っていた。

 

「あの村長もそうだ。僕がちょっとお前の事を教えてやれば、必死になって探し回ってさ!」

「アタシが騎士になってる事を知ってたの、ずっと妙だと思ってたけど⋯⋯アンタが教えたのね」

「そうとも。だがもっと傑作だったのは、本当に依頼を受けてくれたことだよ。あんなゴミみたいな村の為にリスクを犯すなんてさ!はははは、実におめでたい馬鹿の集まりだったよ!後はお前達が勝手に請負ったことを報告するだけだった。実に愉快だったさ」

 

 つまるところルズレーの手引きだったのだ。

 アッシュ・ヴァルキュリアの噂だけを知っていたハウチがひと目見てシュラをそうだと確信出来た理由も。帰還早々にシドウ教官に捕縛されたのも。

 

「アタシに負けたのが悔しいなら、アタシだけ狙いなさいよ!ヒイロは関係ないじゃない!」

「大有りだとも。あのデクめ、僕に散々後ろ足で砂かけやがったんだ。お前含めて身の程を知らしめてやらなくちゃな?」

「なにが身の程よ。こんな姑息なやり方でアイツの夢を奪ってまで!」

「⋯⋯騎士称の剥奪か。ああでも、流石に僕も罰則処分まで調整は出来ないさ。だから頼りになる御人に、少々お力添えを頼んだのさ」

「頼んだ、って⋯⋯」

「クフフフ。先刻ぶりであるなぁ。一日に二度も我輩を拝謁を出来るとは、平民には過ぎた褒美とは思わぬか?」

「!」

 

 類は友を呼ぶのか。つい数時間前に顔を合わせた旧貴族、パウエルまで姿を見せた。

 

「パウエル卿。此度のご助力、心より感謝致します」

「ふふふ、他でもないセネガル家の嫡男に頼まれては否と言えまい。それに、愚か者に相応しき鞭をくれてやるのも、高貴たる者の務め。審問担当官も、我輩の威光をよく理解していたまでのことよ」

「⋯⋯なにが威光よ。どうせ審問官に金を積んで、無理矢理処罰を捻じ曲げただけでしょうが!」

「ヒイロなる者についてはルズレーくんから聞いているのである。貴族を尊ばない低俗な輩などもとより本隊には不要である。ならば我輩が引導を渡してやるまでよ」

「そんなくだらない理由で⋯⋯!」

 

 シュラの中で轟轟と怒りが燃えた。低俗の塊みたいな男のせいで、アイツが窮地に立たされている。全くもって許しがたい。 

 けれども冷静さは必要だった。今、窮地に立っているのはシュラもまた同じなのだ。

 

「⋯⋯⋯⋯、──そこッ!」

「どわっ!?」

 

 激情によって鋭敏化した感覚は、物影から機を伺っていた小癪(こしゃく)な男を見逃さない。

 懐から投げたナイフがすぐ傍の壁に突き刺さって、ショーク・シャテイヤはたまらず声をあげた。

 

「チッ、このアマ。俺に気付いてやがったな!」

「ショーク、この役立たずめ。しくじったな」

「す、すいませんルズレー様。あの女、とことん可愛げのない奴でさあ」

 

 いわばこの場がシュラを粛清するための罠。ならばルズレーの取り巻きの姿が見えなければ、警戒するのは当たり前だった。

 

「誘い出した上に闇討ち。とことんまで姑息ね⋯⋯けど、やられっぱなしは性じゃないのよ。アンタ達を徹底的に叩き潰して、そこのパエリアには処分を撤回してもらおうじゃない」

 

 しかしシュラは、この窮地を好機と捉えていた。例え罠であったとしても、自分達の処分を捻じ曲げたパウエルが眼の前に居るのだ。 

 捻じ曲げたのなら、本来あるべき形に戻すことも出来るはず。

 否。させてやる。どんな手を使ってでも。

 シュラは尋常ならざる剣気を立ち昇らせながら、ルズレー達に斬りかかった。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

(あんな奴らの罠にハマるだなんてね。なにがアッシュ・ヴァルキュリア。ここの所のアタシはてんでダメね。あの馬鹿に笑われちゃうわ)

 

 戦いとは数の差である。

 それが三対一となれば差は顕著にあらわれるものだ。

 しかしこの夜、この場において、その理屈は身を潜めていた。

 

(だからこそよ。今度こそアタシがやるの。誰かの為になんて、それこそ性に合わないけど)

 

「せいッ!!!」

「ぐへぇあ!?」

「ショーク!? お前、あっさりやられるな!」

「アンタもよそ見してんじゃないっ!」

「ぶふっ⋯⋯こ、この、僕を足蹴に⋯⋯!」

「ならば我輩の魔術で!詠唱破棄──『シルフの戯れ』!」

「ヌルいのよキモ(ひげ)!『イフリートの爪』!」

「ぬううっ!?」

 

 鮮やかとさえ言えるだろう。

 ショークをガードごと弾き飛ばし、ルズレーを蹴り払い、パウエルの緑魔術には赤魔術で相殺。一つのアクトに隙のない攻勢で、エシュラリーゼは数の不利をものともしていない。コルギ村での失態を取り戻そうかの様な、凄まじい大立ち回りであった。

 

「おのれ。平民風情が小癪なっ!」

「うるさい!存在が癪そのものよアンタは!」

 

 容赦もない。呵責も必要ない。剣気が籠もる理由はあれど、刃が鈍る理由などなかった。

 灰色の戦乙女。その異名に恥じない強さに、ルズレー達は焦りを隠せない。

 

(とはいえ中々、深くまで踏み込み切れてないわね)

 

 数の不利はもはや無いのと同じ。だが決定打にまで至らない。

 パウエルの緑の魔術が嫌なタイミングで放たれ、後一歩が踏み込めないのだ。高慢極まりない男だが、その技術は腐っても本隊入りを果たした騎士といえた。

 

(よし。まず、一人を確実に落とす⋯⋯!)

「『我纏う冷厳なる神の楯』──スヴァリン!」

 

 ならばとシュラの決断は早かった。無理をしてでも数を減らす。リスクを減らす為の白魔術を唱え、防御力を向上させ刀剣を構えた。

 

「──」

「ひっ」

 

 狙いはお前だ。そう知らしめるシュラの眼に睨まれて、ルズレーの膝がぶるりと震えた。シュラ憎しと謀略を巡らせたとはいえ、凄惨だった敗北の味は、まだ忘れられるほど昔ではないのだ。

 一歩後退ったルズレー。その隙を見逃すまいと、シュラが一気呵成に踏み込もうとした瞬間だった。

 

「『燃やせ、燃やせ、赤のはじまり』⋯⋯イフリートの爪!」

「『歌え、歌え、青き水面(みなも)よ』⋯⋯ウンディーネの詩!」

「──ッ!?」

 

 突如として響き渡った詠唱。走った悪寒に従ってシュラは反転し、咄嗟に大きく跳び退いた。

 シュラの残影を、焔の爪と青き流水が掻き消していく。

 魔術による攻撃。パウエルではない。ショークでもない。当然だがルズレーでもなかった。

 

「苦戦してるようですね、オードブル卿。加勢に参りましたよ」

「ほほう、これは美しきレディだ。しかし貴族に剣を振るうとは、よほど教育がなっていないらしいな」

「ムーク卿も物好きですわねえ。あんな品性の欠片もないブスを美しいなど。しかし道理を弁えない平民を躾けるのも貴族の務め。わたくしも手を貸しましょう」

(増援!?しかも、こんなに⋯⋯)

 

 最悪だった。

 新たに現れた貴族派らしき連中、その数は八人。

 覆った戦況を自覚したのはシュラだけではない。

 アッシュ・ヴァルキュリアを前に劣勢に追い込まれていた悪党達は、揃いも揃って喜色を浮かべていた。

 中でも彼らを手配したであろうパウエルは痛快とばかりに手を叩き、シュラを見下した。

 

「クフフフ。模擬戦とはいえ、あのシドウめに土をつけた貴様相手に、この我輩が備えぬはずもあるまい。懲罰房にて我輩に刃向かった事がいかに愚かだったか。

 思う存分、知らしめてやろうぞ⋯⋯!」

 

 

 

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