「待て! おまえたちが最近ここいらで帝国市民を
「来たか勇者。聞けばきさま、正月も盆も返上して現在455連勤だそうだな。ご苦労なことだ」
「お前たち悪がのさばるかぎり、俺に
「こいつらは奴隷だ……わが魔王軍で死ぬまでこきつかってやる」
「奴隷だと!」
「くっくっく、こいつらは1週間に3日も働かされるんだ……しかも朝から夕方までな」
「完全週休4日制!? しかも9時
「昼休みもたった2時間しかない……飯を食うのに1時間としたら、残りの1時間で昼寝をすませなくてはならないのだ」
「満腹感からの眠気による作業効率の低下まで考慮するだと。仕事をなんだと思っている!」
「ちなみに昼食代は魔王軍持ちだ……タダ飯の気まずさとともに昼休みを過ごすことになる……とくに日替りランチがおすすめです」
「人間ってのは、0円食堂だとなんか利用するのが気が引けるってんでガラガラだったのが、10円にしたらかえって行列をつくる生き物だぞ! そんな善良な人々に、タダ飯だと!」
「笑いが止まらぬぞ……タダ飯食いながら和気あいあいと談笑する奴隷どもを眺めるのはな」
「きさまァー世迷い言をォー! だいたいそんなヌルい労働環境で経営者が利益を得られるわけがないだろう! まやかしだ!」
「確かに、奴隷から徹底的に搾り取る漆黒経営に比べると短期的な利益は劣る……だがわれらが魔王軍は 目先の小銭よりも中長期的な利益をこそ重んじる……! 巨視的な観点に立ったとき、従業員の労働量をほどほどにしといたほうがかえって得をするのはわれら経営陣……!」
「などといって、実はサービス残業を強要しているのだろう! サビ残は記録に残らない残業! 奴隷が自由意志で働いているだけで強制ではないなどと称して、違法に長時間働かせているに違いないんだ! でなければ、この不景気に魔王軍が以前と変わらず成長率を維持できている説明がつかない!」
「愚かなり勇者……! 雇用者と被雇用者は本来対等な立場にある共生関係……! 被雇用者あっての雇用者……! いわば従業員は企業にとって最も身近なお得意様……! サビ残という労働力の搾取では奴隷の勤労意欲をいたずらに奪い、業務効率も落ち、結局損をするのはわれらが魔王様だと何で気がつかん。なぜ目先の小銭のために将来の金塊を捨てねばならん」
「なに! ということは、残業代が出るのか!? 俺が今まで一度も見たことがない
「まず……残業代とは怠け者への追い銭ではない……。時間内に終わらせられないほどの仕事量を労働者に割り振る無能な経営者への罰金と心得よ」
「なに!」
「そしてわが軍に残業はあんまりない……! 奴隷がみんな定時で上がってそれで会社が回るよう調整するのが我ら管理職の務め……! 月一くらいは残業してもらったりもするがな。残業代は割増で受け取っていただく」
「騙されないぞ! 俺はずっとワンオペでやってきたんだ! ほかの奴では務まらないし俺がいないと回らないから休めない! これが、これがやりがいなんだ! 仕事はお金だけじゃないんだ!」
「愚かなり帝国……! 業務の属人化は企業として最も忌むべき状態……! もし替えのきかない人材が事故や急病や冠婚葬祭で抜けたら困るのはほかならぬ経営陣……! つねに部内で情報共有し、誰かが欠けてもほかの誰かが代わりを務められるようマネジメントしておく……これができなくて何が上司か。なにが管理職か」
「やめろ……俺は勇者であることだけがアイデンティティなんだ……俺にしかできない仕事があるってことだけが俺の生きる理由なんだ……それをほかのヤツにとられてたまるか! 俺の代わりがいくらでもいるなんて耐えられん!」
「愚かなり人類……! 仕事しかない人間もいつかは定年を迎える……! そうなったとき貴様はどうする……?」
「なんだと!」
「朝起きてもとくにやることなし……! 交友関係は仕事仲間だけ……辞めたら切れるもろい関係……! おまえには仕事抜きで酒に付き合ってくれる友人が何人いる?」
「やめろ……やめろォ――!」
「仕事は人生ではない……! ただの通過点……! 人から仕事を抜いたときこそその者の本当の価値が残るのだ……おまえには何が残る?」
「やめてくれ……俺には仕事しかないんだ……455連勤してるのも休むのが怖いからなんだ……仕事のない休日ほど自分という人間のつまらなさを実感させられる時間はないんだ……だから働くしかないんだ……」
「だからこそ働き盛りであっても適度に休みをとり、趣味を見つけねばならんのだ。仕事とはあくまで趣味のための資金を稼ぐものでしかないと認識を改めよ」
「だって……俺にとっては仕事が人生そのもので……」
「目を覚ませ勇者。魔王様はいつもおっしゃっている……“生きること自体が本業であり、仕事は副業にすぎない”と」
「仕事は副業……?」
「最近の帝国は、本業のほかに副業を掛け持ちしなければ生活もままならぬとか。笑止。生きることこそが本業。たかが副業の“仕事”で人生という本業を台無しにしてしまうなど本末転倒であるぞ」
「しかし……労働基準法なんてキレイゴトだ。あんなもの遵守してたら会社潰れちゃうぞ」
「愚かなり。法律を破らなければ利益を上げられないというのなら、そんな会社は潰れてしまえばよい」
「!!」
「さすれば漆黒企業に囚われていた数多の従業員も解放され、より条件のよい職場を見つけられるであろう。だがその前に転職するのが上策。つまらぬ城を枕にするは愚か」
「俺はもう三十路過ぎだ……転職しようにももう手遅れだ……」
「人生で手遅れなどない。始めようと思ったときいつでも新しい人生が始まる。魔王様は齢60で美少女の仮想配信始めて3日で登録者100万いったぞ。“ちゃんねるまお”というチャンネルだが」
「あ、それ俺も登録してる……スパチャも投げてる……勇者の給料で……だって本当に楽しそうにゲーム実況するから見てるこっちも楽しくて……」
「仕事などどれだけ身を尽くしても辞めれば誰からも忘れられるもの。どうせ一度きりの人生、自分の生きたいように生きてみたいとは思わんか」
「やりたいこと、俺でも見つかるだろうか」
「見つければよい。そのためにはまずおまえは余暇を十分とれる仕事に転職する必要がある。どうだ。おまえもわが軍に来ぬか」
「俺は……俺は騙されないぞ……」
「まずは研修を兼ねた試用からだが、試用期間中も給料は出るから安心しろ」
「え、出るの?」
「満額支給に決まっておろう」
「よろしくお願いしまーす!」