真・恋姫†夢想 〜日付のない墓標〜   作:世良緋那太

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転職やらなんやらゴタゴタしてたら1年空いてしまった……。お待たせしました。


宮城(きゅうじょう)〈4〉

 冥琳には書庫での探索を改めてお願いした。地図や歴史書、その他諸々のデータが増えれば、これからの行動の精度を上げることができる。パンデミックが起きた時には各村々の戸籍があることで対処も早くなるため、かなり重要な任務だ。

 

「冥琳、頼んだよ」

 

「古い書庫が主だからな、期待せずに待っておけ」

 

 それでも孫呉の頭脳を司る周瑜だ。何かしら良いものを見つけてくれるだろうと期待してしまう。

 そして洛陽城に向かっている間にも、先ほどまで尾行していた者たちがいないか周囲を見回すが、そのような姿は見えない。

 

「慶、他の者からも聞いたが気配を探るのが得意なのか」

 

 何か特殊な訓練でもしていたのか、と冥琳は問うが自分は首を横に振って否定した。

 

「昔から人より勘が鋭いだけだよ」

 

「そうか……お前もいずれ会うことになるが、我が軍には幼平という者がいる。主に隠密をしているのだが、それよりも感覚が鋭い。いや、鋭すぎると感じてな」

 

「鋭すぎる、ねぇ……」

 

 一緒に歩く冥琳と美花の視線が集まる。

 

「事実、慶さまはそこらの密偵よりも遥かに手練れと言われても違和感はありませんわ」

 

 陶謙の密偵が何か言っておられるが気にしない。

 

「手練れってそんな。ただの一般人。医者だよ」

 

 そんなことを言っても、疑惑の視線は消えない。霞や呂布も同じように見てくる。

 

「ウチはまだその光景を見てないから何も言えんけど、もしそうなら隊を一つ預けたら結構イイ感じにやるんとちゃうか?」

 

 霞が調子の良いことを言うと、呂布もゆっくりと頷く。

 

「……統率は間違いなく、一番」

 

 呂布が話すと過去の記憶も相まって信憑性が高くなりそうで、ちょっと怖い。余計なことは話さないでくれよ……?

 

「俺が隊を任されたら、各所から不満が噴出しそうだから勘弁してくれ。ほらそろそろ着くぞ冥琳。何進と一緒に書庫は頼んだからな」

 

 丁度のタイミングで洛陽城の大門とその隣にいる傾が見えたため、話題を逸らすために小走りで集団から抜け出した。

 

「……私たちも急ぐか」

「そうですね、公瑾さま」

 

 

 

「待たせて申し訳ない」

 

 慶は集団で話しながら歩いていたかと思うと、突然大門まで小走りしてきた。何かあったのだろうか。

 

「置いてきてよかったのか?」

 

 私は後方にいる(ゆえ)たちを見る。こちらを見ているが、なぜ走り出したのか分かっていない様子だ。

 

「大丈夫だ。傾は公瑾を案内してあげてくれ。で、商人は?」

 

 本来であれば、太医令である慶に付いて行動したいところではあるが、城内を公瑾ひとりで移動させるわけにはいかない。

 

「医局に通してある。例のモノも準備済みだ」

 

 それを伝えると、ありがとうと一言。慶は急ぎ足で医局へと向かっていったのだった。珍しい食物の種苗(しゅびょう)を揃え、阿芙蓉の商人を呼び出し、これからは書庫の案内。これが終われば残党処理の兵站管理などなど。もはや何でも屋かと思うような仕事内容である。

 休みがほしい。深酒をすることになるだろうが。その時には慶を呼んで鬱憤を晴らしてやろう。そう思うのだった。

 

 

 

「あなたが……杏林様ですか。お噂はかねがね」

 

 傾に言われた通り、医局には例の商人がいた。インド辺りの西方出身なのだろう。肌は日に灼け、少々浅黒い。薄く筋肉が付いているほっそりとした人物だった。

 

「お手数おかけして申し訳ありません。来て頂き感謝します」

 

「不思議な方だ……一介の商人に感謝を述べるとは。依頼のものはこちらに」

 

 ただ、言葉は流暢だ。何一つ不自然な訛りもない。目の前に差し出された麻袋を一礼して受け取り、中を改めた。更にいくつかの麻袋が入っている。

 

「……本来は商売敵を増やすようなことをしたくありませんでしたが、遂高様たってのお願いということで、阿芙蓉の種と実を入れております。私の商品で助けられなかった手前、罪滅ぼしです」

 

 割と律儀な商人のようだ。

 

「貴方こそ不思議な人だ。あれだけ嫌われていたであろう大将軍に義理を立てるなんて。何か理由でもあるんですか?」

 

「美女に弱いだけですよ」

 

 二人して軽く笑い、商人は深く頭を下げた。

 

「助けて頂き、ありがとうございました。遂高様だけでなく、私も商人として救われたような気持ちでおります」

 

「……どの方にも言っておりますが、私は医者としての仕事をしたまでです。貴重な種子、本当にありがとうございます」

 

 自分はそう言って、前もって用意していた金子を商人に手渡した。

 

「杏林様、いけません。お代は既に遂高様から頂いております! こんなに……!」

 

 用意した金子は、傾が阿芙蓉を手に入れた時の十倍の金額である。

 

「これは、私からの気持ちです」 

 

 有無を言わせないため、商人の目をジッと見る。絶対に受け取らなければならないという圧力を感じ、渋々と頷いて受け取ったのだった。

 この金子を出したのには、種を自分以外に販売させにくくさせる意図があってのことだった。知識のない者が手を出せば人を蝕み、やがて国自体を蝕み続ける。確実に止めることはできないが、あの商人も聡い人間だろう。いずれ何かしらのアクションをこちらに掛けてくるかもしれない。それも旨味のある形で。

 まして傾たっての希望でようやくコンタクトがとれたほどだ。余程のことがない限り民間に出回ることはないだろう。

 

 これで、もっと多くの人を助けることができる。

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