待ち人来たる。
端末が鳴ったので、俺はドアをリモートで開ける事にした。
もう暫く時間が掛かるだろうが……。
あの人にボディチェックなんて失礼な真似をしないで貰いたいのだが、龍造寺会の方々にも立場があるのだと理解をする。
応戦室にて、立ったまま俺は来客を待つ。
あの人に無礼があってはならない。
暫くすると、応戦室の外から声が聞こえて来たのだが……。
「ちょっと! それはこれから着替えさせる為に必要なの! 貴女達、鬼じゃない⁉︎ ちょっと改良した野球のユニフォームじゃないのよ! アンタ! ジャパニーズコスプレ文化を舐めてんじゃないわよ! 燕尾服とナイトドレスのどこが問題なのよ! 式の前撮りに使うし、そのまま夜明けまで使う訳! はあ? 横のスリットから見えないと意味が無いでしょうが! ちょっと! それだけは止めて! 録音端末は本当に必要なの! アンタ! 金堂に喧嘩売る訳ね。顔は覚えたから。私軍300向かわせるから。そう言う事で良いのね? ああ……ごめんなさい。野球部全私軍でアンタ潰すけど、どうする? 分かったなら、筒井様を呼んで貰えません事?」
ボディチェックを受けているであろう待ち人の怒鳴り声が響いて来た。
もう考えるのを止めたい。
明後日の試合の打ち合わせだって、ちゃんと伝えた
ちょっと改良したユニフォーム?
勿論、投げ易い仕様であって、脱ぎ易い仕様じゃないよね。
何故、燕尾服とナイトドレスなんだろうか?
見えないと意味が無い?
何が見えないといけないのだろうか。
あの人でさえコレだ。
「本番に備えて全力で休む」って、御休憩じゃあないんだよ。
やっぱり、男が女性を部屋に誘ったら、そう受け止められる訳か。
俺が考える内に、ドアをノックする音がした。
俺は極力冷静を装い、
「空いておりますので、お入り下さい」
と、声をドアに向けて放つ。
「神原様、失礼致します」
筒井七瀬さんの言葉と共に金堂楓先輩が入室して来た。
筒井七瀬さんも後に続く。
「翔ちゃ〜ん。お姉ちゃん、来ちゃた。花梨に黙って、悪い子なんだから。急いで支度したけど、3時間も掛かって、ごめんね」
笑いながら明るく話し始めた金堂楓先輩に左手に嵌めた腕時計を右人差し指で示す。
俺の仕草を一瞬で理解した金堂楓先輩は酷く落胆したようだった。
「今の翔君、『僕』じゃなくて、『俺』な訳? ごめん、ちょっと座らせて貰える?」
その仕草だけで金堂楓先輩は今の神原翔が「俺」だと理解してくれる。
「僕」ならば、左腕に端末を着けるが、俺は国産品の限定アナログ時計を嵌める事を知っているからだ。
「どうぞ。御遠慮無く、御座り下さい。アラビア連邦の王族御用達の茶葉がありますよ。お茶請けにはガァニューのショコラです」
俺が笑顔で金堂楓先輩に告げると、
「ビール大ジョッキ。摘みはあん肝とだし巻き卵。とりあえず、それをお願い。酒嫌いだけど、飲まないとやってられないわよ。『僕』じゃないって最悪よ」
あの上品な金堂楓先輩の言葉に俺は言葉を失った。
流石に想定外の答えだし、遠坂グランドホテルのルームサービスにあん肝とだし巻き卵が無い。
ロイヤルスイートの意味を今一度考えてしまう。
「翔君? 翔君の為だけに、この甲子園の間、ロイヤルスイートルームの応接室が応戦室に改良された訳。ここは話し合いをする場所じゃあ無いの。肉体言語で語り合う場所なの。それをちゃんと理解してるの? もう少し、チームメンバーとしての責任感を持って欲しいんだけど」
俺には金堂楓先輩の仰る意味が理解出来なかった……。
応接室をに応戦室に改良? 改悪じゃなくて?
肉体言語って格闘技だよな。
無駄にデカいソファーと直ぐ近くに設置された巨大なベッドが必要な理由なんて知りたくも無い。
頭が可笑しくなりそうだ。
野球部内では頼れる姉貴肌の金堂楓先輩がソファーの上でだらしなく足を組んでいる。
チームメイトとして、次の準決勝は絶対に勝ちたいから、金堂楓先輩に相談に乗って貰おうと考えたのが、どうやら甘かったみたいだ。
「翔君の言いたい事は大体分かるわよ。上月若葉にリベンジしたいんでしょう? 結論から言うけど、先ず無理ね。一香の分析からすれば、ナザリーの勝ち目は約8%程度らしいから。私達、レギュラー陣も納得済みよ。攻略する糸口が無いわね。私も遠坂の衛星映像から分析したけれど、帝大のレギュラー達、9人が相手ピッチャーになるわ。そこ迄の努力をしているのよ。私達が、緒方監督……いえ、緒方先生にピアノを習っている間に、投球、打撃、守備、走塁等の猛練習を重ねて来ているのよ。帝大のレギュラー達こそ、努力する真の天才達じゃない。一番大事な日に私達は自分達のツケを支払うだけに過ぎないわ。まあ、8%も勝率があるのならば、勝負として最高じゃない?」
金堂楓先輩が特に興味が無いように淡々と事実を俺に告げる。
俺はナザリー野球部部員達が誰一人として諦めてはいない事に安堵を覚えた。
「緒方監督が出すサインは全て無視。指示は綾女
俺の提案に金堂楓先輩が口を開けて反応する。
これはナザリーの最終兵器だ。
一癖も二癖もあるナザリーの天才高校球女達がトーナメント大会で次を考えない「背水の陣」と呼ぶべき策。
今迄が異常であり、本来はこれが当然なのにも関らずだ。
「そのカード切っちゃう訳ね。私、個人は反対よ。私達に圧倒的に足りない物が翔君にも分かるよね?」
金堂先輩が試す様に俺を見つめて来る。
「敗北の経験でしょう。当然理解しておりますよ。敗北から学ぶ経験値が圧倒的に不足している事がナザリーの致命的な弱点です。まあ、プロに進める先輩達が少ないですからね。先輩達の多くがプロ野球選手を雇用する側ですから。そんな生まれの者達が甲子園の深緑の優勝旗をほぼ独占している。本当にふざけた話ですよ。去年の春の大会、準優勝で終わった理由が『チームメイトの殆どが風邪を引いて、試合にならなかった』ですからね。あれさえ無ければ、金堂楓先輩は出場可能な甲子園を全て優勝していたかもしれませんね」
俺の軽口に金堂楓先輩はどこ吹く風と言った様子だ。
一瞬だけ、俺から目を反らすと、大枠の窓──勿論、防弾加工が施されているから風景を眺め、呟く様に語り始めた。
「馬鹿と煙は高いところがって言うけれど、私達は別に孤高じゃない。生まれ持った才能と境遇が他人と比べて、恵まれ過ぎていただけ。そんな物に傲慢な感情は持てないし、どんな者にも敗北は
金堂楓先輩の言葉に俺は口角を吊り上げる。
「約束は出来かねますね。俺は誰にも負けるつもりはありませんので、今回も深緑の優勝旗を校長室に飾らせて頂きますよ」
俺の
別に可笑しな事を言った覚えは俺には無いのだが、金堂楓先輩のツボに嵌ったらしい。
そう……。
俺は誰にも負けるつもりは無い……。
上月若葉さんの事情も知っている。
彼女はプロに進み、妹達の大学進学費用を稼ぐつもりだと言う事も。
俺はそんな高尚な目的意識を持った最強のピッチャーと本気で戦える事を誇りに思う。
誰にも邪魔はさせない。
俺と上月若葉さんの決着を阻む者は……
「僕」に任せる事にしよう。
「翔君、今日は楽しかった。明後日は最高の試合にしましょう。決勝戦の事なんか考えず、目の前に迫った最強のライバルに土を付けますか。じゃあ、お
そう言うと、笑顔の金堂楓先輩が応戦室を後にする。
彼女が立ち上がった瞬間に、俺は立ち上がり、金堂楓先輩に深々と頭を下げていた。
その後、俺の端末に61%と表示された。
差出人は小鳥遊一香先輩。
漸《ようや》く賽は投げられた。
俺は「僕」に対して、手紙を書き始める。
──拝啓──
親愛なる僕へ。
夏の猛暑は相も変わらずですが、気持ち良くお眠りでしょうか。
貴方が綾女
誠に感謝をしております。
明後日の準決勝のシミュレーションの為、明日の間は貴方に過ごして頂きたく思います。
これだけは懇願致します。
明日は休息日として下さい。
恐れ多くも、皇太女殿下より「ONLY ONE IN THE BOOK」を賜っておりますので、そちらを是非お読み下さい。
もう一人の神原翔である俺より。
──敬具──
俺は「僕」への手紙──形式的には失礼を書き終え、神原分家の印のを施し、眠りに就く事とした。
意識の共有はある程度あるので、事情は理解して貰えるだろう。
俺は「僕」を信じている。
きっと、悪い様にはならないだろう。
──俺が眠りに就いた後──
「おにゃのこのある部分を男が揉むと大きくなるって情報源どこよ!」
と、そんなスレが畜生スレの雑談スレに立てられた。
1:ぱちオスガキ
お久しぶりです!
気付いたら、いとやんごとなき御方が隣で寝てます!
訳が分かりましぇん!
しかも、ある部分をマッサージしないといけないみたいです!
お風呂でしないと、意味が無いらしいです!
これ、マジですか!
2:ななしの喪女
何を当たり前の事をほざいとんねん、このぱちもんは。
3:ななしの喪女
おまい、日本皇国の最高学府の准教授が唱えとるんやで。
4:ななしの喪女
イッチ、頭がおかしくね?
5:ななしの喪女
おまい、3号様はな!
1号様、2号様に比べて、とある部分に自信が無いねん。
マッサージして大きくしたいってそんなに変な望みか?
6:ぱちオスガキ
マッサージ必要無いでしょう!
あれで小さいとか!
13歳であれだけなら、期待値十分じゃない!
7:ななしの喪女
いや、そりを決めんのオメーでねえから。
8:ななしの喪女
イッチはきちんとお風呂に入る!
そこで、御自身の御身体を洗った事が無いやんごとなき御方々に洗い方を教える!
そして、洗って貰う!
お風呂に入ってリラックス!
イッチは少し緊張しとんやろ?
風呂上がりに酒を少しだけ飲んで落ち着け。
9:ななしの喪女
その後は責任を取るだけや。
気にすんな。
10:ぱちオスガキ
あっ、そうなんですね。
やってみます。
11:ななしの喪女
その意気やで。
12:ななしの喪女
大人の階段を登らせとけ。
13:ななしの喪女
1年は506日やからな。
何も心配要らんからな。
14:ショタコンネキ
畜生!
あの甘ったれに任せたワイが大馬鹿やったわ!
15:ななしの喪女
ん?
ID一緒やんけ。
16:ななしの喪女
ショタコンネキは何がしたいんや?
17:ななしの喪女
多分、ナニがしたいんやろ。
ホテル缶詰で溜まったんやな。
可哀想に。
18:ショタコンネキ
違うわ!
ボケー!
ワイは勝ちたいだけやねん!
19:ななしの喪女
いや、おまい、これから勝ち確のバトルするんやろ?
20:ショタコンネキ
ちゃうわい!
野球の話や!
ハーメルンの読者の皆様、大変お見苦しい事をしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
この作品が日刊ランキング「オリジナル部門」1位を獲得した際、私は「ふざけんな!」と憤りを感じ、とりあえず、「面白そうな作品だから『ブックマーク』をしておこう」が嫌いな私は「更新する度に『ブックマーク』と評価が下がる事を大笑いしておりました。
普通の作者様とは違う錯者なので、致し方ありません。
そこで、私は最終投稿サイトを「アルファポリス」に決めました。
挿絵をガンガン挿入し、この世界観のイメージを読者の皆様に楽しんで頂けたらと思っております。
正直に申しておきますと、私は非常に飽きっぽく、数年放置した作品を普通に更新し、エタる事を恥とも思っておりません。
頭の中で、完結までのイメージが確定すると、書く気が全くおきなくなります。
タチが悪いんですよ。
「無料投稿サイトでエタって何が悪いの? 無料なんだから、別に書く気が無くなったら、良いじゃん。俺の頭の中では完結してるし」
2014年の話ですが、「小説家になろう」で、切りの良いところで完結し、また再開するを意図せずやった結果、「マジで掲示板に晒されました(笑)」
その作品名を非表示にしておりますが、検索すれば直ぐに分かります。
御感想が沢山貰えたので、削除する気になれないんですよ。
その結果、完結作品がトップページに掲載される事が1作品につき、1回のみになりました。
なんでやねん!
あの時はマジでビビりました。
今では、良い思い出話ですね。
長々と失礼致しました。
久しぶりに完結まで書こうと言う気が起きましたので、「カクヨム」・「アルファポリス(準決勝は全力全開全ツッパ)を楽しんで頂けましたならば、幸甚にございます。
502件目の御感想にありますが、「挿絵が不適切」な物を掲載してしまい、3回目の警告を受けたのは事実でございます。
私、「烈」と「海」と「王」を連続して使用した事はただの1度もございません!(←嘘です。やりました)
しかし、あまりにもふざけ過ぎて、「3回警告」を運営様から頂いた為に、このサイトから撤退するに至った理由でございます。
自業自得とは言え、「複垢大嫌いかつ、投稿サイトが減る事は私の夢が終わる事を意味しますので、『アルファポリス』の70%完成形を読んで頂けたらと思っております。
今は多忙につき、更新速度は低下しておりますが、今迄に無いエンディングを提供出来たら良いと考えております。
宜しければ、「カクヨム」・「アルファポリス」での評価とブックマークを何卒、お願い申し上げます。
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