レビル将軍率いる連合艦隊がルウムに進発した時、私はサラミス級巡洋艦ペトロパブロフスクの中で胸を高鳴らせていた。いや、私だけで無く同僚達も皆そうだった。我らの暮らすスペースコロニーをNBC兵器で攻撃して数十億の連邦市民を虐殺し、あまつさえ地球に向けてコロニーを落とすなどという蛮行を行ったジオンに正義の鉄槌を下すのだと。この空前絶後の宇宙艦隊をもってすれば、奇襲が偶々上手くいったに過ぎないジオン艦隊、いやジオン公国そのものをこの宇宙から消滅させることなど、赤子の手を捻るよりも容易いことだと。今にして思えば、一個人としての正義感による気持ちの昂ぶりの他に、宇宙世紀始まって以来初めての戦争という物に舞い上がっていたのかもしれない。
だが、ルウムの戦場はそんな甘い期待を私から奪い去った。始めこそ優勢に戦いを進めていたものの、ジオンが本格的な反撃に転じるや戦況は一転した。我々の持っていた唯一の貧弱な宇宙戦闘機はジオンのザクに全く歯が立たず、ミノフスキー粒子で満たされた戦場は我々の艦隊の火力を奪い去った。ザクの核バズーカは、熾烈な砲火で抵抗を続けるマゼラン艦を1隻また1隻と火球に変えた。なんと言うことだ、我々の艦隊は圧倒的な戦力でありながらジオンに敗れ、ルウムを守る事も出来ず失われてしまうのか。
戦闘の最中、被弾炎上した僚艦がこちらに突っ込んでくる姿を確認した後の記憶は無い。どうやって生き延びたかは覚えていないにしても、兎にも角にも我が乗艦であるペトロパブロフスクは幸運にもルナ2に帰還する事が出来たのだが、既に船体の前半分は失われ戦闘艦としては死んだも同然だった。
ルナ2にたどり着いた我ら敗残の艦隊は実に無残な有様だった。目に映る艦艇は出撃した時の三分の一にも満たないだろう。そのどれもが大きく傷つき、健在な艦は数えるほどだったように思う。レビル将軍の座乗していた旗艦アナンケの姿もそこには無かった。 「レビル将軍もカニンガン提督も死んでしまった、もうお終いだ」とモノクルの砲雷長は涙ながらに呟いていた。ティアンム提督が健在とは言え、熟練の提督たちを失った我々の嘆きようと言ったら大変なものだった。
帰還した艦は重症なものから順にルナ2のドックに担ぎ込まれてゆき、比較的軽症な艦もルナ2外壁に係留されて大勢の作業員が取り付いて修理を急いだ。ルナ2の工廠は一刻も早く戦力を回復すべく24時間営業で動き続けていた。だが、我が艦の様に手の施しようが無い艦は放棄され、私は短い艦内生活に別れを告げることになった。
数日後、乗艦を失った私の下に辞令が届いた。臨時編成する哨戒部隊に転属せよとのことだ。正直なところ、私の様な艦を失った者は、陸戦隊としてルナ2に攻め寄せてくるジオン軍と戦うことになるのではないかと思っていた。しかし、目下多くの艦艇と将兵を失った我が宇宙軍に余分なサラミスなど残っているのだろうか?
そう疑問に思いつつも出頭した我ら敗残兵を出迎えたのは、ずらりと並ぶモスボールを解かれたばかりと思しき旧式の宇宙艇だった。だが、これこそ、残りの我が軍歴全てを捧げることになるパブリク突撃艇と私との出会いだったのだ。
無論私もパブリク突撃艇の存在は知っていた。既に退役した旧式兵器としてだ。万一の為にルナ2周辺宙域にモスボール保管されていたとのことだが、本当に再使用することになるとは当時誰も思わなかっただろう。だが、この一週間の戦いで戦力をズタズタにされた我が宇宙軍は、ルナ2周辺に新たな哨戒線を構築するだけの艦艇にも事欠いていた。
ルウムで勝利したジオン軍は、その余勢を駆ってルナ2に押し寄せるだろう、そう当時の我々は確信していた。生き残った僅かな艦艇は殆どが修理中であり、復帰したところでルナ2決戦に備えて温存するだけで精いっぱいだ。そこで白羽の矢が立ったのが、パブリクと言う事だ。
旧式小型の宇宙艇ながら航続距離に優れ、搭載量にも余裕があり、最低限の設備は備え、運用人数は少数で済む。どちらかというと戦闘機に近いのではないかと思ったが、戦闘機乗り達は配備され始めたばかりのセイバーフィッシュに機種転換中だ。ジオンのザクとも互角以上に戦えるとの触れ込みの新鋭機の戦力化は急務だ。そして何よりも重要なことだが、軍は官僚組織だと言う事だ。戦闘機と艦艇では管轄が異なるゆえ、乗艦を失った船乗りたる我々が宛がわれることになったのだ。
「なんと言うことだ、栄光ある連邦宇宙艦隊の士官がこんなにも落ちぶれるとは!」