パブリク戦記   作:TFTRDH

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第二話 哨戒任務

 

 編成された第一特設哨戒隊の司令チェンバレン少佐は、なんでも由緒ある英国貴族の末裔だそうで、どんな時にもティータイムは欠かさないと評判の男だった。ワイアット将軍の親族でもあるそうで、今回哨戒部隊の司令官に抜擢されたのもその縁だそうだ。ルウムの時はマゼラン艦の航海科にいたそうで、早速その手腕を生かして部隊を編成し、綿密な哨戒計画を立ててしまった。

 私は616号艇の艇長に任命され、最初は皆と同様古いマニュアル片手に四苦八苦しながらルナ2を発進したものだ。航海中、隣に座るのはミッターマイヤー少尉だ。サイド2出身で家族は造園業を営んでいたらしいが、宇宙情勢の緊迫化に思う所があったのか軍に志願したとのことだ。本人の乗艦はサイド2防衛戦で沈んでおり、家族もジオンに皆殺しにされ、何とも気の毒な男なのだが、残念なことに今の軍においてはありふれた悲劇となってしまった。それから、見張り員のアカシとコーネフだ。本来パブリクは二人乗りなのだが、特に索敵用の装備を積むことも出来ずに投入することになった為、艇外に臨時の見張り所を増設して眼だけでも増やそうと言う事になったのだ。見張り所と言えば聞こえがいいが、簡単な足場と柵と安全帯の取付場所を溶接しただけで、旧世紀のタンクデサントと何ら変わるところは無い。私とミッターマイヤーは曲がりなりにも艇内に座って居られるが、残る二人は無重力とは言えノーマルスーツで艇外で見張りを続けなければならないわけで実に気の毒な配置であった。

 

 さて、当時の連日の任務と言えばこうだ。ローテーションに基づいてルナ2を発進すると、パブリクは巡航速力で指定の宙域に向かっていく。時折引き揚げてくる僚艇にすれ違うこともあり、発光信号で挨拶を交わすことも度々だ。担当宙域に到着すると進路を変更し、ゆっくりと弧を描きながら、或いはジグザグに航行して、艇首に備え付けられたいささか古いレーダーと各員の持つ大型双眼鏡でもって怪しい物が近づいてこないか監視するのだ。

 最初の内はジオンのルナ2攻撃を警戒するあまり、視界に入るあらゆるデブリがザクやムサイに見えたものだから困ったものだ。ルナ2にジオン軍襲来の誤警報が響き渡ったのも一度や二度ではない。結局のところ本格的なルナ2攻撃は起きず、ルナ2を偵察するためにやってくるジオンの巡洋艦を時折出迎えるのが我々の仕事だった。

 

 だが、時にはこの哀れな旧式突撃艇を自分の撃墜スコアに加えようとする不心得者も居た。ある時、レーダースコープを覗いていたミッターマイヤーが、こう報告してきた。

 「レーダー画面が真っ白です、故障の模様」

 「馬鹿もん!そいつはミノフスキー粒子の仕業だ!」

 私はそう叫ぶと、すぐさまスラスターを吹かして艇首を回らし、メインスラスターを全開にして一目散に逃げにかかった。通信機から、艇外で突然の急加速に晒され悲鳴を上げるアカシとコーネフの声が聞こえてくるが構うものか。直後、後方からザクマシンガンの曳光弾が艇から離れた所を追いかけてくるのが見え、危ないところだったと安堵した。

 パブリク型突撃艇は、旧式とは言え戦闘機にも劣らぬ加速力が取り柄だ。本来は腹に対艦ミサイルを抱えて敵艦を襲撃するのが任務なのだから、そのエンジン推力は半端な物では無い。ザクではとても追撃出来ないのが、我々にとっての安心要素だった。

 それにジオンの連中ときたら、こちらを襲撃しようとする時には必ず律義にミノフスキー粒子を散布してレーダーを潰しにかかってくるのだ。おまけに当時積まれていたレーダーは旧式故か、僅かでもミノフスキー粒子が散布されると途端に画面が真っ白になる代物だった。これでは、今からお宅を襲いに行きますと律儀に呼び鈴を鳴らして強盗が入ってくるようなものだ。そんな間抜けにやられるパブリク乗りなど居ようはずも無い。

 

 時には失敗もある。ある時、私はとても良い考えを思いついた。いや、その時は最高に冴えたアイデアだと思ったのだ。パブリクのレーダーは戦闘機同様艇首に備え付けられているため、捜索範囲が狭い。だから、機体の向きを変えながら辺りを周回する必要が有るのだが、宇宙空間では抵抗が無いのだから、スラスターで一度艇体に回転を与えてやれば回転式のレーダーの様に全周捜索を行うことが出来るはずだ。そう思った私は、ある日哨戒宙域に到着すると、何時もとは違い艇をその場に停船させた。

 「私に良い考えがある」

 訝しむミッターマイヤー少尉にそう答えると、私は機体前後のサイドスラスターを吹かしてパブリクを磁気攪拌機の回転子の様に回転させ始めた。少しスラスターを吹かし過ぎたのが原因に違いない、安全帯だけで繋がった艇外の連中は遊園地の回転ブランコの様に振り回され、艇内の私と少尉は目を回しながらノーマルスーツのヘルメット内部を嘔吐物で満たすという地獄が、自動姿勢回復機能の存在が思い出されるまで続いたのだった。当然ながら私は部下たちによる吊し上げに遭い、彼らを宥めるために些かの出費を必要としたことは言うまでもないだろう。

 

 




補足設定:チェンバレン少佐
 ネビル・チェンバレンの子孫の英国紳士で、ワイアットと知己の為ちょっとした融通が利く。元マゼラン級戦艦の航海科員でその方面では有能。
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