パブリク戦記   作:TFTRDH

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北朝鮮の軍歌とは多分関係無い


第三話 攻撃戦だ!

 

 2月に入る頃になると、皆新しい任務にも慣れ、哨戒部隊の雰囲気も落ち着いてきたものだ。喜ばしいニュースと言えば、ジオンに捕らわれていたレビル将軍が奇跡の帰還を果たしたことだった。あわやジオンに降伏かと囁かれてもいたのだが、レビル将軍の帰還によって政府と軍はジオンと戦い抜くために一丸となり、どん底だった士気も大いに向上したのだ。

 一方、我々を屈服させることに失敗したジオン星人共は母なる地球へと目を向けた。自らの目論見が失敗した翌日にはもう地球方面軍設立などとぶち上げたのだ。どうせ最初からそうするつもりだったのだろう。休戦が成立したらそのまま地球のどこかの大陸でも領土にするつもりだったに違いない。

 チェンバレン少佐がやって来て、「全員必ず目を通すように」と、冊子を手渡された。先日結ばれた南極条約の手引きだ。旧世紀にはハーグ条約とかジュネーブ条約と言った国家間戦争の為の約束事があったのだが、地球連邦に統一されてそういった戦時条約、というより国際条約そのものが消滅した。それで今回結ばれた南極条約がその代わりとなるわけだ。「どれどれ」と中を拝見するに、散々核兵器でコロニーを吹き飛ばした連中が核兵器は使用禁止だの、非戦闘員の保護だのと嘯いているが笑止である。核弾頭保有量でジオンを圧倒する我が連邦軍が人道を重んじていなければ、今頃サイド3などこの宇宙から消し飛んでいたはずなのだから。何れにせよパブリクで長駆サイド3を核攻撃する計画の検討は中止になった。

 

 さすがのジオン軍も、昨日の今日で地球攻撃をするには準備が整っていなかったようだった。この頃になると修理復帰したサラミスを偵察に出す余裕も出てきており、情報部の働きと相まってジオンの地球攻撃の予兆を捉えるようになってきていた。ある日のブリーフィングでついに任務の変更が言い渡された。臨時哨戒隊は解散し、突撃艇戦隊に再編される。重要ではあるが退屈な哨戒任務をサラミスに譲り、突撃艇本来の攻撃任務に立ち返るのだ。

 だが、今乗っている哨戒仕様のパブリクでの攻撃任務は自殺行為も同然だ。そこで、装備の入れ替えをすることとなった。一ヶ月以上の間乗り組んだ616号艇を工廠に引き渡し、見張り員を務めてくれたアカシとコーネフは修理復帰してくるサラミスに転属になった。正直な所、巡洋艦に戻れた彼らがうらやましかった。

 新たに受領したのは603号艇だ。ミノフスキー粒子散布下での戦闘に対応するための近代化改修が施されており、レーダーやセンサーなどが一新されている。何気にメインエンジンも強化されており、対艦ミサイルを切り離せばザクどころかセイバーフィッシュすらも振り切る事が出来るだろう。ぽっと出のジオンなどとは比較にならぬ、地球連邦宇宙軍艦政本部の叡智のなせる業だ。

 機体の受領後、出撃の時を一日千秋のごとく待ちながら、我々は訓練に励んだ。訓練標的に用いられたのは、ルナ2周辺に漂う適当な岩塊だ。標的を捉えると、全力で加速しながら攻撃コースに進入する。レーザー測距儀の有効範囲まで接近すると、ミッターマイヤー少尉が標的をレーザーロックし、未来予測位置がHMDに表示されるようになる。武器は自衛用の機関砲を別にすれば、誘導の効かない対艦ミサイルだけで、命中率を上げるにはぎりぎりまで接近するしかない。距離2000で切り離された対艦ミサイルは慣性誘導装置に従って標的に吸い込まれてゆき、綺麗なペンキの花を咲かせた。訓練での命中率は80%を超え、皆自信をつけたものだが、実戦では目標は動いているうえに対空砲火などの妨害もある。だが、訓練通りにやるだけだ。

 

 3月1日、ついにジオン軍が動いたとの情報が入った。作戦計画に従ってマゼランやサラミスが次々と出港し、我らパブリク戦隊も後に続いて地球軌道上に進出した。目の前には既にジオンの大部隊が展開していた。目前に見えるのは、順に降下していく大量のHLV、輸送艦、そして護衛艦隊だ。ジオン兵共がHLVに押し込められて満足に動けないうちに、地球の防空部隊と協働して奴らを流れ星に変えてやるのが我々の唯一の任務だ。

 命令一下、我が戦隊は部隊の先鋒として突撃を開始した。敵の護衛艦隊が立ちふさがるが、彼らの相手はサラミスとマゼランがしてくれる。気を付ける必要が有るのはザクだけだが、それとて一度突破してしまえば追っては来られない。強力なブースターのもたらす加速度と、対空砲火の恐怖に耐えながら進み続けた。こう自分に言い聞かせながら。

 「大丈夫だ、ジオンの対空砲は下手糞だ」

 視界に映るムサイがどんどん大きくなってゆき、そして一瞬で後ろに流れ去った。行く手に見えるのはずんぐりとしたHLVだけだ。手頃なHLVを照準し、肉迫、そして腹に抱えた2発の対艦ミサイルを切り離す、全て訓練通り完璧だ。2発の対艦ミサイルを叩き込まれたHLVは、その醜く太った腹の中にジオン兵や陸戦兵器を収めたまま爆発四散、私とミッターマイヤーは初戦果の喜びに沸いた。

 ミサイルを撃った後は、ルナ2に帰投するより他に無い。途中、降下していくHLVの一つが爆散するのが見えた。恐らく、フライダーツ隊の戦果だろう。しかし、どうも肝心の本隊の攻撃は上手くいっていないようにみえた。

 結果としては、ジオンの地球降下阻止には失敗した。一か八かで出撃したのは良いが、艦艇の数は不足し、動かせる母艦が無い為護衛機も居なかったからだ。パブリク戦隊の攻撃は成功したが、やはり数が少な過ぎて一度の攻撃では戦局に影響を与えることなど出来なかったのだ。数日後、あの忌々しいマ・クベが悠々と欧州に降下していくのを、我々はルナ2に籠ったまま見過ごすしかなかった。

 

 一週間後、またしてもジオンの地球降下作戦が実行された。今度の目標は北米大陸だ。先の阻止作戦で動かせる艦艇の殆どを消耗させてしまったが、パブリク隊は健在だ。「我々だけでも出撃させてくれ」と部隊の皆でチェンバレン司令に掛け合ったが、首を縦には振らなかった。

 「先の作戦で貴官らの攻撃が成功したのは、ジオン艦隊があくまで本隊との交戦を優先していたからだ。単独での攻撃を強行すれば、無為に貴重な宇宙戦力を失うことになる」

 「故に出撃は許可できない」

 正論この上ない話だ。気持ちは逸っても、我々は戦力の回復を待たなければならない。「少しの辛抱だ、辛抱するのだ」私は自分に言い聞かせた。古代の戦略家も言っていたではないか、「戦って勝つのでは無い、勝ってから戦うのだ」と。2週間後の再出撃まで、我々は日夜猛訓練に明け暮れたのだった。

 

 3月末、遂に再出撃の時が来た。ジオンは北米に降下した後、アジアとオセアニアにも降下した。次の目標はアフリカだそうだ。アジア以降のジオンの広く薄い展開ぶりは、我々にとっては疑問視されるものだった。同僚たちとジオンの意図についてよく議論しあったものだ。

 「ジオンはアフリカに降りて一体何がしたいのだ?」

 「宇宙人共の考えることだ、地図に塗り残しが有るのが気に入らないんだろう」

 「キシリア・ザビのアクセサリーに使うダイヤモンドでも掘ろうとしてるんでしょう」

 連邦地上軍は目下敗退を続けているとはいえ、地球はあまりに広大だ。レビル将軍の言うように、地球全土を制圧するにはジオン軍の戦力は余りにも少なすぎる。母なる地球の大地はジオンの兵力と物資を飲み込み続け、遂には彼らの墓場となるのだ。

 さて、今回の作戦では前回とは異なる戦法が採用された。マゼランとサラミスの艦隊はあくまで囮だ。再度艦艇を消耗するような余裕は今のルナ2には無い。無理攻めはせず、長距離からビーム攻撃を行ってジオンの護衛部隊を誘引する。そこに、パブリク隊が全く違う方向から奇襲をかけ、裸のHLVを撃破するのだ。ジオンの地球降下を防ぐ必要は無い、多少なりとも奴らを消耗させられればそれでよいと言う事だ。

 作戦が開始された。出港していくサラミスやマゼランの数は前回よりもだいぶ少ない。ルウム戦役の損傷艦艇の修理は未だ終わっておらず、前回の作戦の損害と相まってなかなか戦力が回復しないのだ。我々は、彼らとは別の航路から目立たぬよう低軌道に接近した。遠くに、友軍艦隊とジオンの艦隊が交戦する光がきらめいている。友軍艦隊の動きは見るからに消極的であり、対峙しているジオン兵共は「負け癖のついた腰抜け連邦軍は、漸くルナ2から這い出してきたと思ったら何と無様で腰の引けた戦い方だ。大人しく巣穴に逃げ帰るがいい」とでも我々を嘲笑しているに違いない。だが、その慢心こそが我々の思うつぼだ。艦隊に誘い出されたジオン艦隊は降下部隊とすっかり距離が離れてしまった。 「今この時点では奴らは自分達が狩人だと思っているようだが、どちらが狩られる側なのかすぐに教えてやるぞ!」

 チェンバレン少佐の命令一下、これまで息を潜めていたパブリクは一斉にメインエンジンを全開にし、無防備な降下部隊に襲い掛かった。今回は敵の防衛線を突破しなくても良いから気持ちがだいぶ楽だ。まずはこちらに気づかずに、停船したまま呑気にコンテナを垂れ流しているパプワ級輸送艦だ。せっかくなので距離500まで接近する、ここまで接近すれば艦艇相手ならば外しようがない。対艦ミサイルを1発だけ切り離すと、切り離されたミサイルは二つ並んだ双胴船体の腹に真っすぐ吸い込まれ大爆発を起こした。「やったぞ撃沈だ!」などと叫んでいる暇は無い。速度を落とさずにそのまま敵艦の破片の雨の中を突っ切り、次の目標であるHLVに狙いを定め最後のミサイルを発射した。しかし、残念ながらこちらは失敗した。HLVのパイロットは機転の利く奴だったのだろう、ミサイル発射直前に動き始め、降下コースに入ってしまったのだ。ここで空の星になるよりも、地球のどこかに取りあえず降下できた方が余程生存率が高いというものだ。

 2発の対艦ミサイルを使い切ってしまったが、少しでも敵に打撃を与えられるに越したことはない。艇首の機関砲を居並ぶHLVに向かって掃射しながら離脱する。当たり所が良ければ、僅かにHLVに損傷を与えて大気圏突入に耐えられなく出来るかもしれない。一航過し、反転して再度の掃射を試みたが、騙されたことに気が付いたジオンのザクが戻ってきおった。追いつかれはせぬが、余計な危険は犯すべきではない。すぐさま離脱して撤退する味方と合流する。ジオンに与えた損害自体はそれほどでもなく、こちらも損害無しとはいかないが、前回の大失敗に比べたら結果は上々。ルナ2の士気の上がる事と言ったらこの上なかった。

 

 




何度も降下部隊や補給部隊に攻撃をかける度に艦隊が全滅していたら、艦隊が湧き出る魔法の壺があっても足りませんよ。
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